【完】これは圧倒的美貌で凱旋門賞馬になる俺の話 作:SunGenuin(佐藤)
スズカさんとスペちゃんとカネヒキリくん(一瞬)
カネヒキリキッチンまではたどり着けなかったよ……パーティー料理を作るカネヒキリくん書きたかった……!
今回のほんへ
あれ……スペちゃんが主人公だった……?(そうだよ)
私たちの世界はコンマ。
鼻先、頭、首、身体、指の先、すべて。
作られた差を詰めて、離して、前だけを目指している。
走る時はいつも希望で胸がいっぱいになる。
勝てる気しかしない。
レースに絶対なんてないけれど。
あの日の私には、輝かしい未来しか見えなかった。
「スペちゃんは、負けた瞬間のこと、今でも覚えてる?」
瞼を閉じると思い出す、白い髪が風に揺れる。
「私はいつまでも覚えてる」
目の前に背中があるの。
一瞬抜き去って、ようやくひとりっきりの先頭。
でもナイフを突き刺すように鋭い一差し。
私の目の前に白い翼が広がって、永遠に抜けないような深い感覚。
手を伸ばすけど、届きそうになくて藻掻く。
負けたくないって思いで頭がいっぱいになる。
必死に脚を動かして、飛び込んだゴールで思い知る。
たった一歩でも、彼女の方が先を走っていた。
「誰、誰に私は、
せめてその顔を見て、刻みたかった。
このウマ娘に負けた。
でも、次は負けない。
そのために、覚える必要があったの。
だから気力を振り絞って彼女の前を走って、振り返った。
「“美しかった”」
思わず言葉を失うほど。
私から先頭を奪って、私より早くゴールに飛び込んだ彼女。
「白い髪が風に揺れていたの。ふわふわと、ふわふわと。その隙間から青い瞳が見えて── 私は、初めて」
見蕩れる、という言葉の意味を知った。
風に包まれた彼女が空を見上げる。
雲ひとつない空は吸い込まれそうなくらい青く澄み切って、彼女の瞳を映しているみたいだった。
彼女が片手を挙げる。
人差し指で空を指さす。
“おれのかち”
そう言って目を細めて、笑った彼女。
声のない声が、やけに大きく、耳に焼き付いた。
「……公式レースでもない、ただの模擬レースだったわ。その負けをいつまでも引きずっているなんて、らしくないと思う?」
「い、いいえっ!そんなことは……!」
忘れなさい、って多くのトレーナーに言われた。
彼女をイメージするのはやめなさい、って。
「でも私にとって、彼女に負けたことは単なる「敗北」ではないの」
現役でいるうち、いくつか舐める辛酸とは違う。
もはや甘さすら感じるくらい、酩酊。
「やっと出会えたなって思った」
「……出会えた?」
あの日の白さとまぶしさが脳裏によみがえる。
彼女を真正面から見たときの、見蕩れる気持ちとは別の部分。
「無性に、“いい逃げだった”って、言いたくなる相手に、出会えた」
そう言ったとき、目を丸くして、でも嬉しそうに笑った彼女。
“あんたもな”
そう言って、楽しそうに笑って駆け抜けていった。
「スペちゃん」
「はいっ」
スペちゃんが── 電話越しのスペシャルウィークが、緊張したように返事をする。
「みんな、彼女の美しさにばかり“目を奪われる”けれど……彼女は、とても強いわ」
1000年にひとりの美貌のウマ娘。
後になってから、彼女がそう呼ばれていると知った。
知的で、冷徹で、他者を寄せ付けない、圧倒的なカリスマ性をもったウマ娘だと。
私が一緒に走ったときに感じた印象とはだいぶ違うけれど、誰の目から見ても美しい
その美しさにばかりとらわれて、みんな、彼女の獰猛さに気づいていない。
「誰よりも勝利に
スペちゃんが油断するような
レースに対してまっすぐで、私の背中をひたむきに追いかけているのも知っている。
勝利への貪欲さも、努力を厭わない姿勢も。
だからこそ、私はスペちゃんに強く言い聞かせなければならない。
「彼女は── “サンジェニュイン”は最も警戒し、最も油断してはいけないウマ娘よ」
美しさに潜む、圧倒的な強さ。
彼女が『太陽』と呼ばれていることの意味を、海外レースを重ねる意味を、理解しなければならないわ。
そうでなければ、彼女の後続はただ、文字通り後を追うだけの存在に成り下がる。
「“背を追うだけ”なのは止めなさい」
追って、追って、届かないと、重ねた努力が潰されて無くなるだけ。
「最初から、差し潰すつもりで走るの」
そうでなければ、広げられた翼の前に、絶望するだけ。
寒さが少しだけ収まった時期。
トレーナーさんに集められた私たちチーム・スピカは、新設されたばかりのレース「ワールドロイヤルカップ」についての説明を受けていた。
メインとなる「ロイヤルターフ」の開催国はイギリス。
そこに出走するための優先出走権を得られる、いわゆる
そのうちの一つである、日本開催の「ジャパンロイヤルターフ」の出走条件は、過去1年以内に海外レースを3勝すること。
その厳しい出走条件に、マックイーンさんは「ではわたくしたちは無関係では?」なんて言っていたけど、ちょっと耳が垂れていたから内心ではがっかりしていたのかもしれない。
私たちって国内戦が中心で海外とか出たことないですもんね……と私も思わず耳を垂らしていたら、トレーナーさんがパンパンと手を叩いた。
トレーナーさん曰く、開催国に限り国内GⅠを3勝したウマ娘が1人まで、開催国枠で出走できる、らしい。
スピカ内で国内GⅠを3勝以上しているのは、私とマックイーンさん、テイオーさん、それから今はいないけど、アメリカにいるスズカさんの3人だけ。
スズカさんからは昨日、アメリカで開催される「アメリカロイヤルターフ」に出走するって連絡があったばかり。
去年、優勝した香港ヴァーズの戦績が加算されたことで、外国ウマ娘の出走枠を満たせたみたい。
もし、私がジャパンロイヤルターフに出走して、勝てたら。
そうじゃなくても3位以内に入れたら、ワールドロイヤルターフへの優先出走権を得られる。
そしたら、スズカさんとおんなじレースで走れるんだ!
そう思ったら、どうしても出たくなってしまった。
難しいレースなのは解っているけど、スズカさんと同じレースに出れる機会は少ないから、少しでもチャンスがあるならそれをものにしたい。
私がそう思っていることが他のメンバーにも伝わってしまったようで、テイオーさんとマックイーンさんはちょっと苦笑いを浮かべていた。
マックイーンさんは「国内戦に集中するから」と言って、テイオーさんも、そこまで興味はなさそうに見えた。
……あの情報を聞くまでは。
「ちなみに、うちのトレセンからはチーム・メテオのメンバーも出走する」
「── チーム・メテオだって……!?そ、それって……それって、“サンジェニュイン”が出るってこと、トレーナー……!?」
サンジェニュインさん。
凱旋門賞を2連覇した、このトレセン学園だけじゃない、世界に誇れる日本の至宝。
去年、偶然会ったときにテイオーさん宛てのサイン色紙を書いて貰ってから、私も彼女について調べるようになった。
曰く、
曰く、歩くだけで失神するウマ娘が続出。
曰く、彼女と目が合うのは宝くじを当てるのに匹敵するほどの幸運。
最後の出所はフクキタルさんだけど。
テイオーさんやスカーレットちゃん、ウオッカちゃんも似たようなことを言っていたから、ひょっとしたら本当かもしれない。
思い返してみれば、サンジェニュインさんと対面したのは一度きりだけど、たまたま遠くから彼女を見つけたときも、まるで視線が合う気配がなかった。
美しさだけじゃなくて、その強さも、戦績を見れば明らかだ。
国内は皐月賞と菊花賞の二冠、有馬記念。
国外は凱旋門賞二連覇を始めとして世界各国の大きなレースを制している。
文句の付けようもない、その字の通り、日本を代表するウマ娘だ。
そんなウマ娘が、ジャパンロイヤルターフに出走する。
もちろん、開催国枠じゃなくて、基本の出走条件である海外GⅠレース3勝を達成した上で。
私は思わず唾を飲み込んだ。
とんでもない人もレースに出るんだなあ、私、勝てるかな、なんて。
この時点で出走する気は満々だったけど、サンジェニュインさんのファンだと言って憚らないテイオーさんが、ここで出走を表明した。
サンジェニュインさんが国内のレースを走るのは非常に珍しいらしく、ここを逃したら次いつ一緒に走れるかわからないから、らしい。
気持ちはわかる。
今、チャンスがあるから掴みたいっていうのは、私も一緒だから。
可能なら私もテイオーさんも一緒に出走、がいいけど、無情なことに開催国枠で出走できるのは1人まで。
私か、テイオーさんかのどちらかか。
「あ、言い忘れていたが、リギルからも出走希望者がいる。ので、選抜レースを開くぞ!」
そうした開かれた選抜レースに、テイオーさんと挑んだ。
リギルからはエルちゃんとエアグルーヴ先輩が出走して、選抜レースは苛烈を極めた。
正直、無理かも知れない、と思ったけれど、なんとか終盤のテイオーさんとの競り合いを制して出走権をもぎ取った。
私とテイオーさんの差は、1センチだけだった。
「ボクの分まで、悔いなく走ること!」
そう言って笑ったテイオーさんだけど、控え室に戻るとき、ちょっと泣きそうに見えた。
レース当日まではあっという間だった。
翌日にはけろっとした様子で、びっしり練習するぞ、とはりきったテイオーさんとトレーニングを重ねること数週間。
いよいよ、ジャパンロイヤルターフに出走する日がやってきた。
開催国枠の私以外の17人が、海外GⅠレースを制したウマ娘。
緊張がまったくなかった、と言ったら嘘になる。
不安だってしっかりばっちりある。
けどそれ以上に、ここで勝てたら胸を張って、スズカさんと同じレースに出れるんだと思ったら、やる気の方が不安を上回っていた。
「他の国だと多くて8人なのに、日本のレースにこんなに集まるなんてな」
「見なさいウオッカ、あれ、BCターフに勝ったウマ娘じゃない?」
「あ?……ああ!そういや、なんか特集で見たような」
「きっとサンジェニュインさん目当てね。他のウマ娘も」
それを聞いた私が不思議そうに首を傾げていたからか、スカーレットちゃんが説明してくれた。
サンジェニュインさんは海外レースを中心に走っていて、その戦績はキラキラと輝いている。
彼女に憧れて芝路線に進むウマ娘もいるくらいなんだって。
とにかくファンが多いみたい。
世界中を飛び回っているけど、彼女が滞在するトレーニング施設は常に貸し切り状態で、レース後もすぐに帰ってしまうから、ファンたちはなかなか接触する機会がない。
でも今回みたいに、ホームグラウンドかつ、大きなレースならば。
サンジェニュインさんと話せる機会が他のレースよりも多くなるハズ、だと思ってファンのウマ娘たちが押し寄せているんじゃないか、ってことらしい。
スズカさんが出走したアメリカロイヤルターフは6人、フランスロイヤルターフは8人で競われたみたいだから、日本の18枠フルゲートは異様なんだとか。
「そうなんだあ」
「……なんだかアタシ、スペ先輩のこと心配になってきたわ」
「奇遇だなスカーレット、オレもだ」
「だ、大丈夫大丈夫!レースは……うん!」
「本当ですか!?」
── ゲート入りが始まります。未出走のウマ娘は速やかに退場し、移動を開始してください。出走するウマ娘はゲート入りの準備をしてください
「あ、アナウンス」
「スペ先輩!スペ先輩なら大丈夫です、他のウマ娘もぶっちぎれますよ!」
「大丈夫、なんて無責任なことはアタシは言えませんけど、スペ先輩なら勝てると思ってます!」
そう言ってスカーレットちゃんとウオッカちゃんが私の手を握る。
それを強く握り返して、私は、ゲートへと駆けていった。
このときの私には、希望しかなかった。
溢れ出る、未来への期待だけで満ちていた。
憧れのスズカさんと走れる、世界の舞台を目指して。
なにひとつ、油断も、慢心もない。
格上ばかりだってわかっていたけど、それでも、他の17人に勝つつもりでここにきた。
それなのに。
「出だし良く回って第3コーナー、先頭はサンジェニュイン。ぐんっと後続を突き放して前へ前へと進んでいきます」
「いつも通りのハイスピードですね。大きなストライドでまだまだ差を作れそうです」
「後続のウマ娘はこれについていけるでしょうか。2番手集団を見てみましょう。サンジェニュインから7バ身差、欧州年度代表ウマ娘ウィジャボード。3番人気です。スタート出遅れの響いた残り16人を尻目に、まずまずのスタートでサンジェニュインを追います。その3バ身後ろに2番人気レッドロックスが付けています。出遅れの影響でやや掛かり気味か。さらに2バ身離れてスペシャルウィーク、これはいい位置と言えるのでしょうか」
「やや外側に寄っていますね。もう少し内につけてスタミナ消費を抑えたいところです」
「スペシャルウィークから1バ身差の位置にモブトクロス、ウィニーウィニー、ウォーサンが横並び。その少し後ろにアルカセット、外側をバゴが走っています。それに続くようにパンジャンマックス、ランナーズライク、おっと少しふらついたか内によれたのはシャトーネリアン、シンガリにぽつんとハイライトミー」
「これまでダート戦主流だったハイライトミー、芝レースはやはり苦しい展開のようです」
「先頭のサンジェニュインは上り坂を一気に駆け上がって向正面を抜け、第2コーナーを目指しています」
「サンジェニュインが完全にペースを掴んでいますね。ただここから第1コーナーに向けて緩くも長い上り坂、息が続くといいですが」
「ここで2番手ウィジャボードがさらにスピードを上げて来たっ!サンジェニュインに並ぼうという気概が見えます、それに負けじとレッドロックスも上がるがこれは息が苦しそうだ、外側からバゴがぐんっと背を伸ばしてそれを差し切ろうかというところ、スペシャルウィークはどうした抜け出せないか内側からなかなか前に出れないようです」
「前半飛ばしすぎたのでしょうか、縦長の展開となっていますね」
息が上がる。
苦しい。
どこかでスピードを落として、息を整えなくちゃ。
頭では解っているのに、どうしてもそれができない。
今、スピードを落としたら、絶対に競り負ける。
隣を走るアメリカからきたレッドロックスさんにも、前を走るウィジャボードさんにも。
なにより── 先頭を走るサンジェニュインさんに!
── サンジェニュインばかり見てちゃだめよ
ジャパンロイヤルターフへの出走が決まったその日。
電話口で、そう私に言い聞かせるスズカさんの言葉が浮かぶ。
見過ぎて集中力が途切れちゃう、って意味だと思っていた。
だからレースが始まる前から、なるべく見ないようにしていた。
見蕩れてしまうくらい綺麗なひとだっていうのは知っていたから、身にしみていたから。
走り出したらともかく、ゲート前でだって直視しないように気をつけているつもりだった。
でも、でもどうしても見てしまう。
その、白さ。
「中団で脚をためていたアルカセットが真ん中から飛び出してここで一気に抜け出したっ!ウィジャボードと競り合って先頭のサンジェニュインに迫るがこれは距離が離れすぎているかっ?」
「先頭と2番手集団の差は5バ身、2バ身縮まっていますがここからもうひとつ上り坂が待っている状態、うぅん、追いつけるでしょうか」
「サンジェニュイン悠々ひとり旅だ!ひさびさの東京レース場もなんのその!」
白さが遠のく。
どうしようもなく、全身から焦りが出る。
どうして私はまだここにいるの。
もっと前へ行かなきゃ。
もう集中力が途切れているとか、そういう次元じゃなかった。
身体の全部、魂の奥底から、引きずり出される。
渇望が。
「── ここで3番手集団からスペシャルウィークが飛び出すがもう間に合わないか!しかし驚異の末脚が爆発だ!ウィジャボードとアルカセットに届くか割り込むがどうか!?」
「これは見事です!日本ウマ娘でワンツーフィニッシュ決まるでしょうか」
待って。
「きつい上り坂もなんのその!どんな時でも先頭は譲りませんわサンジェニュイン!」
待ってください。
「もう決まったかこれが世界を制したウマ娘の実力!」
お願い。
「── サンジェニュイン、ゴールイン!見事な逃げ切り勝ち!」
「先頭至上主義、ここに極まれりと言っていいでしょう」
まだ、届いていないのに。
霞んだ視界の中で手を伸ばす。
白さがまだ遠くにある。
私は届くこともままならないまま、ゴール板を抜ける。
上がりきった息が、苦しさを内側から叩いて、それが涙に変わっていくのがわかった。
響いているだろう歓声も耳に入らない。
負けたんだ、追いつけなかったんだって絶望だけが、胸いっぱいに広がる。
なんでこんなにも苦しいのかわからない。
わからないけど、信じられないくらい、傷ついていた。
「──……スペ、スペ!」
「っあ、とれ、とれーなーさ……」
「喋るな、ちょっと息を整えて……そう、吸って、ゆっくり吐いて、いいぞ、その調子だ」
トレーナーさんの声に導かれるまま、息を整える。
いくらか鮮明になった視界のあちらこちらに、私のように、息を荒げているウマ娘たちの姿が見えた。
走る前はあんなにも意気込んでいたレッドロックスさんも、唇を噛んで涙を流していた。
アルカセットさんも、バゴさんも、他の
顔をゆがめて、でも、視線だけはみんな、ひとつを向いていた。
「スペ」
ゆっくりと顔を動かした私の、その視線を塞ぐようにトレーナーさんが前に立つ。
もう一度、顔を動かそうとすると、今度は両手で頭を固定される。
目の前に立つトレーナーさんは、真剣な目で私を見ていた。
「
そのアイツがサンジェニュインさんのことだと、すぐに解った。
「こうなるかもしれないって解ってたのに、俺は……くそっ」
トレーナーさんが唇を噛む姿を見ても、私の頭の中は白さで満たされていく。
あの、白さ。
そう、白さ。
ひらひらと広がった翼の向こう側で、白い髪が風に揺れていた。
顔を覆い隠すように、けれど、悪戯のようにその隙間から青い瞳が見える。
レース中ずっと、今、彼女はどんな顔で走っているんだろう、って。
笑っているだろうか、力んでいるだろうか、それとも。
それが見たくて脚が進み、間違ったタイミングでスタミナが消費されていく。
気づいた時には、上り坂を駆け抜けて、追い抜く力は残っていなかった。
「いいか、スペ。今回の敗北はお前の努力不足なんかじゃあない」
トレーナーさんの言葉が通り抜ける。
「アイツは少し特殊で……」
ダメだ、どうしてもトレーナーさんの言葉が耳に入らない。
頭の中で繰り返されるのは、ゲート前、振り返った彼女の声。
“いいレースにしましょう”
そう言って目を細めた、彼女の、顔が。
「スペ!」
「スペ先輩!」
とめどなく涙があふれる私の両側に、温かいぬくもりが満ちる。
揺れる視界の真ん中にいるトレーナーさんの目に、ひどい顔をした私が映って。
── ああ、私
サンジェニュインさんの目に映ってみたかったんだ、と。
ゴールした後、ただの一度も振り返らない彼女の世界に。
けれど私は、負けた。
彼女の後ろを追うだけの存在になって、決して振り返らない彼女の世界には絶対に入らない。
その事実がただ、ただ痛かった。
観客の誰もがたったひとりのウマ娘に歓声を上げていた。
その素晴らしさを、強さを、美しさを称えて。
彼女はまだ走る。
己の後ろに積み上がった絶望を知らないまま、先頭を走りきった誇りだけを持って。
そこに年相応の喜びはない、そこに年相応の傲慢は滲まない、そこに年相応の高揚感はない。
ただ、誰もが“知的で冷静”と称えるままの、落ち着き払った表情でターフを後にする。
そうして控え室に続く通路に私を見つけた、彼女は。
「── カネヒキリくん!!見てた!?」
大輪の花のように笑って、手を伸ばす。
「どうだったオレ、格好良かったでしょ!」
きらきらと光が満ちる。
「んふふ、久しぶりの東京競ば、じゃなくて東京レース場だったけど、思った以上にしっかり走れたぞ!途中からやべえ上がってくる海外の
くるくると表情が変わる。
「スペちゃんも最後にドアーッ!て追い上げて来たときはビビってめちゃくちゃ加速しちゃったぜ……脚ちょっとジンジンするけどヘーキヘーキ!」
ふんす、と鼻を鳴らして。
「サンジェ、はしゃぐのもいいけどウイニングライブの準備!」
「わあーってるよシバキくん!」
「
一度、パッと離れた手がもう一度、私の手を掴んで引き寄せられる。
「カネヒキリくん」
こつん、と額同士がふれあう。
そうして視界いっぱいに広がった、白さが。
「最後までオレを見ててくれよ、カネヒキリくん!」
もうずっと、お前しか見えないよ。
そうして、太陽のステージが幕を上げた。
すべてを焼き尽くす、光が。
次回、掲示板回!失恋ニキもあるよ!(ポロリ扱い)
明日更新するよ!!
今回の登場ウマ娘
スズカさん 現在アメリカ
さらっと香港ヴァーズ制したことになっているウマ娘
なんか……ウッマ魂を……やべえな(確信)
スペちゃん 現在絶望
ひと一倍頑張り屋さんなので、主人公の白さが眩しすぎた
太陽を直視したらあかんて!!!!
テイオーさん 現在スペちゃんのケア中
貰ったサイン色紙は宝物になった
フクキタルさん 現在宗教
なんか……白い……新興宗教……!!
カネヒキリくん 現在ハッピー
ウイニングライブ?最前列だよ
サンジェニュイン 現在またしても何も知らないウッマ
周囲が思っているような高潔なウッマ娘ではない(本当)
完全素人ニキの愛馬名アンケート
-
サニードリームデイ
-
サンシカカタン
-
タイヨウノムスコ
-
タイヨウハノボル
-
ブライトサニーデイ
-
ラブディアホワイト