【完】これは圧倒的美貌で凱旋門賞馬になる俺の話   作:SunGenuin(佐藤)

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ドバイに着きました!!!!(やっと!?!?)

ほんへ
・ポロリ(美貌)
・セキュリティガバ
・ぽんこつ
の3本立て!


29.はえ~、そうだったのか

3月18日の深夜、長旅を終えてドバイに着いた。

 

『んもお、カネヒキリくんダメだって先輩にまた襲いかかっちゃあ……!』

『後悔はない』

『して!?』

 

栗東トレセンを出発して、空港に着くやいなやカネヒキリくんがハーツクライさんに一目散に突撃したときは、そりゃあ『死人が出るぞ!』と思ったけど、華麗なバックステップをキメたハーツクライさんの冷静さにより事なきを得た。

すごかった、国民的アイドルグループで活躍できそうなステップだったぞ。

対するカネヒキリくんも、その道のウマ?と言うレベルの気迫だったけど、ハーツクライさんが避けたあとになんとか俺もカネヒキリくんに追いつき、手綱を食んで止めることができた。

ハーツクライさんの帯同馬のユートピアさんが、カネヒキリくんに対してかなり怒ってたけど、まあそれはそう。

トモダチ襲われたら誰でもそうならあ……俺もカネヒキリくんが急に襲われたら怒るもん。

でもカネヒキリくんは理由もなくヒト、じゃなくてウマを襲うような理性無き獣ではないので、これにはきっと理由があるのだ。

怒りはごもっともだが、どうかカネヒキリくんの理由だけでも聞いてくれ、と俺がユートピアさんとカネヒキリくんの間に入った途端── ユートピアさんが固まってしまった。

この瞬間の俺はすっかり忘れていたのだが、馬運車でカネヒキリくんと2頭だけだったからメンコ外してたんだよな。

つまり神様お手製ピカピカ美貌を至近距離で浴びせることになってしまい……その、ユートピアさんの理想郷な部分が花開いてしまった。

彼の後ろに下がってたハーツクライさんも、俺の顔をばっちり視界に収めたみたいで、目をまんまるにした後に元気にうまだっちしてしまい……カネヒキリくんの謎スイッチがオン。

(いか)れるカネヒキリくんによるうまぴょい伝説~狂乱の宴~が始まる寸前で、豪腕厩務員たちによって素早く引き離され、そのまま飛行機に詰め込まれた。

華麗なる手綱捌きと押し込みによりカネヒキリくんがホースストール、馬用の輸送コンテナに入った時は思わず心の中で拍手した。

でも俺のケツを押した厩務員、テメーだけは許さねえ!後で厩舎裏に来いよな!

 

ハーツクライさんたちが視界からいなくなったからか、飛行機に乗った後のカネヒキリくんはすっかり冷静さを取り戻し、空の旅は静かに始まった。

俺が恐る恐る『なんで襲ったの?』って聞くと、カネヒキリくんは『牡馬(おとこ)のプライドで言えない』と言って、それきり黙って何も教えてくれなかった。

牡馬の、こう、なんか触れちゃいけないものに触ってしまっての怒りみたいだ。

よくわからないけど、カネヒキリくんは嘘をつかないので、カネヒキリくんがそう言うのならそうなんだろう。

また刺激しちゃうのもなんなので、俺は納得したことにしてカネヒキリくんの横で眠りについた。

牡馬(おとこ)には時として語れない大事なナニカがあるのだ……たぶん。

飛行機での輸送はかなりの時間が掛かったはずだけど、カネヒキリくんと喋って寝て食べてとやっているうちに、あっという間にドバイについたってわけだ。

降りる時にまたカネヒキリくんがハーツクライさんを襲いに行こうとした時はどうしようかと思ったけど、事前に察知した厩務員によって手早く厩舎に連れていかれた。

すげえ!その手腕、他の牡馬どもの厩務員も発揮してくんねえかな……!

 

『おお、ここが俺たちの厩舎』

 

連れていかれた厩舎には、俺とカネヒキリくん以外にもハーツクライさんやユートピアさん、他にも日本からの馬が6頭いて、合わせると10頭。1棟まるまる埋まっていた。

スタッフも日本の関係者ばっかりで、海外に来たって気はあんまりしない。

というか栗東からの遠征で中山競馬場の厩舎とか美浦の厩舎に入ったのと近い感覚だった。

マジで国内だったりしないか?飛行機に乗ったのはフェイクでは?と俺は真横の目黒さんを覗き込んだのだが、林檎は持ってないぞと前を向かされた。

林檎じゃねえわ!!

 

「サンジェニュインが角でカネヒキリ号がその隣……助かったな」

「ですね。これで中寄り、両隣が初対面の牡馬だったらと思うと……」

「よしてくれ近藤さん、胃が痛くなってくる」

「あはは……」

 

マジで両隣が知らん牡馬だったら俺の胃もキリキリだったよ!

右が壁!左がカネヒキリくん!

サイコーの配置だよありがとうセッティングしてくれたヒト!

 

「寝藁の準備は大丈夫か?」

「はい!飼い葉と水もセットできました」

「よし。……それじゃあおやすみ、サンジェニュイン。また明日な」

 

あーい、おやすみ!

 

長旅なのは俺とカネヒキリくんを始めとした馬だけではない。

俺たちと一緒に来た厩務員たちもクタクタなのだ。

くたびれた様子の目黒さんとイサノちゃんを見送って、俺はごろん、と寝藁に転がった。

明日は調教を行わず、わりとのんびり過ごせると聞いている。

旅疲れを癒やすためだと思うけど、ヒト側の準備期間も兼ねているんじゃないか、とも思っている。

2日目、いや到着した日を1日目とすると3日目か?それくらいには本格的な調教が始まるだろう。

そうしたら俺とカネヒキリくんはダートコースでの軽い併せ馬以外、調教が一緒になることはないし、馬房以外ではほとんど顔を合わせなくなるかもしれない。

でもまた併せ馬ができるのは楽しみだし、馬房は隣同士なんだからそれで会えるなら十分だ。

 

『早く併せ馬やりたいな、カネヒキリくん!』

 

起き上がって、馬房の窓からにゅっと顔を突き出してカネヒキリくんに話しかける。

すると、カネヒキリくんも馬房の窓から顔を出して頷いた。

それからしばらくカネヒキリくんとお喋りをして、お互い眠くなったところでまた寝藁に転がる。

眠くなるまで喋るとか、なんか噂に聞く修学旅行みたいで楽しい。

ヒトだったころはそれどころじゃなかったから、本当の旅行ってわけじゃないけど、それっぽい体験ができることが嬉しいや。

にこにこうとうとしながら上を見ると、馬房の窓のさらに外側、厩舎のガラス窓から夜空が見えた。

ちょっと黄み掛かってるけどたぶん夜空。

この色覚で星の見分けも、どこに星があるかもよくわからないけど、見ていると不思議と『ああ外国に来たんだなあ』という気分になって、ちょっと寂しくなってしまった。

カネヒキリくんまだ起きてるかな、とまた窓から顔を出して耳を澄ませる。

小さな寝息が聞こえるから、どうやらカネヒキリくんは寝ているようだけど、それが本当にカネヒキリくんの寝息なのか、だんだん不安になってきた俺は、ちょいっと鼻先で扉を押した。

開いた。

 

『セキュリティガバぁ……!?』

 

よく見ると馬房の簡易鍵の部分が歪んでいて、たぶん上手くハマっていなかったのだろう。

明日、目黒さんが見つけてパパっと直してしまいそうだなあ、と思いながら、俺はそのまま静かに馬房の外に出た。

誘導なしで、1頭で馬房の外に出るなんて初めてだ。

ここから厩舎の外にまで出るつもりはないけど、ちょっとした冒険みたいでワクワクしてきた。

このタイミングで急にヒトが来たらどうしよ、とドキドキしながら、キョロキョロと辺りを見渡す。

馬の目っていうのは夜でも意外とハッキリとモノが見えるので、ガラス窓の向こう側の景色とか、並ぶ馬房もしっかり見えた。

俺が入っていた馬房の隣まで歩いて、その窓に顔を突っ込む。

寝転がって、小さく上下する馬体をじっくり眺め、うんうんと頷く。

うん、確かにカネヒキリくんだ、ぐっすりおやすみのようである。

ちゃんと隣にいるのがわかって安心できたからか、急に眠気がやってきた。

このまま大人しく馬房に戻って横になればいいだけなのだが、また寂しくなりそうだと思うと、脚が動かない。

けどとても眠くて、眠くて、俺は── カネヒキリくんの馬房についてる取っ手を食んで、引っ張った。

開いた。

 

『せきゅいてぃがばぁ……?』

 

カネヒキリくんの左隣の馬房にはユートピアさんが入っている。

隣からごそごそ音がするのが気になったんだろう、窓から顔を出した彼がぎょっとしたような顔を見せたけど、俺はただただ眠くてしかたがなかった。

ちょ、待って!?と俺を制止する声が聞こえたような気がしたけど、頭がふわふわしてうまく聞き取れない。

とにかく眠いのだ。

寝かせてくれ。

のそのそとカネヒキリくんの馬房に入って、その隣に寝転ぶと、俺は深い眠りに落ちた。

 

起きたら目黒さんにめちゃめちゃ叱られたしカネヒキリくんは意識飛んでた。

あと2頭そろって馬体の検査を受けた。

怒られるのは解るけどこれはなんでえ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうっ、サンちゃんダメだからね、勝手に馬房から出ちゃ……!」

 

いやほんと、それはすまんって。

もうしないから許してよイサノちゃん~~!

反省してるから、もうやらんから。たぶん。

 

「……サンちゃん本当に反省してる?今回のは、そりゃあちゃんと閉まってたか確認できてなかったのも悪いんだけどね、こういうのみんな心配しちゃうんだから」

 

わかってるわかってる。

ちょっとした好奇心と寂しさと眠気に勝てなかったからやっちゃったけど次はしないよ。

寝起きのカネヒキリくんがびっくりして失神しちゃったし。

俺たち馬は眠りから目覚めまでのスパンが短いけど、それを何回か繰り返す生き物。

1度目の目覚めで俺を見て失神してしまったカネヒキリくんだけど、2度目からは夢だと思っているのか寝ぼけているのか、案外普通だった。

6度目、今度は完全に目が覚めたカネヒキリくんは、夢でもなんでもなく俺が隣にいることにびっくりしてしまいまた意識が……。

俺はなにもカネヒキリくんを驚かせようと、ましてや意識を飛ばそうとしたわけじゃないので、これには大いに反省しているのだ。

次やるとしたらカネヒキリくんが目覚める前に馬房から抜けるぞ!!あ、いや、もうやらないけど、ウン。

 

「なんか怪しいなあ」

 

怪しくない、サンジェニュイン、学習するウマ!

 

「まあ馬房の鍵はいま修理してるから、もうできないと思うけど」

 

そんなあ……いや、大丈夫です。もうやらないし。うん。

 

「近藤さん、コースに移動するぞ」

「あ、はーい!……よし、行こっかサンちゃん」

 

おうよ!

朝からバタバタしてしまったけど、今日はナドアルシバ競馬場のコースを下見に来た。

実際の調教は3日目からで、今日のはあくまでもどういったコースで走るのか、試し歩きをするだけ。これが終わったら馬房でゆっくりできることになっている。

目黒さんたちは、俺が無駄に体力有り余ってるのを知っているから、息抜きも兼ねて連れてきてくれたのだろう。

今回はハーツクライさんも一緒。

おんなじレースに出るから、どうせなら一緒にってことらしい。

 

「そういえばテキは今日の夜には着くんでしたっけ?」

「予定ではそうだな。もう今頃は栗東を出ているんじゃ無いか?」

 

モロモロの手続きの都合上、テキは後から来る予定になっていた。

今日の夜に着く予定ってことだけど、芝木くんもだろうか。

海外のレースも芝木くんが乗る予定になっているのだが、芝木くんは俺以外にも乗っている馬がいるので、予定しているレースが終わってからこっちに来ることになっている。

前にテキと同じタイミングで来るって言ってたから、たぶん一緒かな。

芝木くんはよ来い、海外の馬場は日本より重いらしいから俺は確実に走りやすくなるし、そうするとスピードがガンガン上がるから、芝木くんにはそのスピードになれて貰わないと。

 

『それにしても馬場たのしみ~~!日本のは固かったし、重いバッバ!重いバッバ!んふふ~ん』

『ご機嫌だな、サンジェニュイン』

『いやあ、外の馬場は地元より重いって聞いて!俺、重たい方が走りやすいんですよねえ』

『そうなのか。私は固い方が走りやすいな。重くても負けないが』

『んふふ、俺も負けないんで!……っていうかさっきから(かみ)噛むの、なに!?怒ってます!?』

 

実はずっと俺の真横にいたハーツクライさんに、今朝からずっと鬣を噛まれている。

ごく自然な動作で噛み始めたのと、痛みはないからと突っ込むタイミングを失い、結局移動してる最中も隙を見てはハムハムされている。

俺の鬣、いまベッチョベチョでは??

あ、ちなみに俺とハーツクライさんだけじゃなくて、ユートピアさんも一緒だ。

彼もナドアルシバ競馬場のダートコースを見に行くらしい。

彼には、カネヒキリくんが失神してヒンヒン泣いてた時に、隣から顔を出して叱られた。

年頃のメッスがオッスの部屋にいくな、的な内容だったけど、いや俺はオッスだよって言ったら黙り込んでしまったのだけは解せぬ。

でもまあ、なんというか……すんません俺の顔が美しいせいで……。

朝、馬房を出て対面した時は宇宙猫みたいな顔で俺のこと見つめてきたけど、今は隣のハーツクライさんを虚無の表情で見てる。それどういう感情?

コースの下見には、本当ならカネヒキリくんも一緒に行く予定だったのだが、カネヒキリくんは意識飛ばしてたのもあって今日は安静。本当にすまんかった。

 

『怒っているわけではないが』

『エッ!じゃあなんですかこれ……』

『ナニ、とは』

『この(かみ)噛んでくるのはなんなんすか……!』

『グルーミングだが』

 

グルーミング。

 

『え、なんすか、それ』

『……経験がないのか。これは……そうだな、簡単に言うと── トモダチ同士なら誰でもやる挨拶だ』

『は?』

『ん?』

 

はえ~、そうだったのか、と納得しかけたところで、ユートピアさんからめちゃめちゃ低い『は?』が出た。

クソびっくりした、ヒック!思わずしゃっくりだわ。

 

『いやいやハーツ、ちょっと』

『間違ってはいない』

『なん、ちょ、は?』

『……トモダチ同士でやる挨拶じゃないんすか?』

『トモダチ同士でやる挨拶だ。ユートピアは疲れている』

 

いや、ユートピアさんめっちゃ『こいつマジ?』って顔でハーツクライさんのこと見てますけど。

疲れてるだけなのか?ほんとに?

疑いの目でハーツクライさんを見ると、ハーツクライさんは透き通った目で俺を見つめ返した。

 

『トモダチ同士でやる挨拶だ』

『……そうなのかあ』

『そうだ。私たちはトモダチ同士なのでやる』

『年上のトモダチかあ』

『年下のトモダチだ』

 

……ならいっか!

トモダチ同士の鬣ハムハムは挨拶らしい。

俺は馬として産まれてからもほとんどの時間をヒトと過ごしているからそういったコミュニケーションには不慣れだ。

もっと早く教えて貰えてたらなあ。

トモダチ……コミュニケーション……鬣ハムハム……ッ閃いた!

 

『えっもしかしてこの仔、いやもう仔じゃないけどこの馬ってぽんこつ……まずいよ!いちばんまずいのはハーツだけどこんなぽんこつじゃあ……ボク1頭の脚に負えないよ!── ハーツ!ちゃんと冗談だって言いなよ!』

『なにも冗談ではないが』

『エッ正気?……ボクらってトモダチだよね? 』

『当然トモダチだ』

『ボクにあれやろうと思ったことある?』

『ない』

『エッ答え出てるじゃん!?ボクのトモダチがおかしくなっちゃったよ……!?』

 

トモダチコミュニケーションで頭がいっぱいになっていた俺には、そんなユートピアさんとハーツクライさんのやりとりは聞こえていなかった。

 

「賑やかですね」

「3頭も揃ってればな。それより……サンジェニュインが牡馬に囲まれても動ぜず、とは。精神的に成長したか、あるいはこの2頭に慣れたのか」

「何はともあれ、ストレスになっていないならいいですね」

「そうだな。まあ、馬場を踏んだ後がちょっと、怖いが」

 

ん?目黒さんなに?

横顔を撫でられて、思考の海をウフフしてた意識が戻る。

お、なんだもうコースに着いてたのか。

後ろを振り返ったらいつの間にかユートピアさんもいなくなっている。

どこだろう、と頭を動かしたら、少し離れたところに向かっていた。たぶんダートコースがある方だろうか。

俺の側にはハーツクライさん1頭だけが残っている。

 

「俺は向こうにいる日本の責任者と話をしてくるよ。近藤さん、後は頼む」

「はい、任せてください!……ようしサンちゃん、コース歩きに行こっか!」

 

おうよ!

ハーツクライさんの方を向くと、そちらはすでに厩務員に誘導されてコースの中に入っていた。

俺もそれに続くように、イサノちゃんのスピードに合わせて進む。

それにしても、この競馬場、なんか派手だなあ。

今はまだ昼だから光ってないけど、たくさんの照明が見える。

なんでこんなに照明があるんだ?夜の競馬が多いんだろうか。

そう不思議に思っていると、イサノちゃんに緩く綱を引かれた。

 

「……どう?サンちゃん」

 

どうって、はやくコース入ろ?

まだ固いからコンクリ……あれ?

……ちょ、ちょっとイサノちゃん、さっきの位置まで戻ろう!なっ!

もしかしたら俺の感覚の問題かもしれないから、ねっ!

ぐいぐいとイサノちゃんを引っ張って、さっきまで立っていた位置まで戻る。

うん、コンクリ、固い、この感触覚えた、よし。

 

「……サンちゃーん」

 

落ち着けイサノちゃん!

なんかの間違いの可能性がある!

 

「ここはもうコースだよサンちゃん」

 

……嘘だあ!!

固いじゃん!?

日本の馬場と変わらないもん!!

テキも目黒さんも海外の馬場は重いって言ったのに……!!

固いじゃん~~!?

あっ、目黒さん!!目黒さんだ!!ちょっとこっち来て早く!!

 

「近藤さん」

「目黒さぁん……」

「どうだったって、その様子だと、気づいたみたいだなサンジェニュイン」

 

気づいたってことは、目黒さん最初から知ってたのお!?

 

「サンちゃーん……」

 

テキも目黒さんも言ってたじゃん~~!

海外の馬場は日本よりは重いぞって~~!

いや確かに日本の馬場よりは重い方だったけど、俺の想定してた重さと違うっていうか……これは重いの部類に入らないのでは?

俺は訝しんだ。

 

「なかなか言い出すタイミングがなかった。すまないなサンジェニュイン」

 

んもお、謝らないでくれよ目黒さん。

俺が浮かれたフルーツポンチだったから言うに言えなかったんだろ?

たぶん日本にいた頃に言われたらちょっとやる気落ちたかも知れないし。

でも重い馬場への期待が高すぎて反動が……この傷を癒やすのに3年は掛かる……!

俺たちの戦いはそれからだ……!

 

~完~

 

とはならないけども。

ぽんぽんとその場で跳ねる。

……うん、やっぱり固いわ。

有馬の時よりもちょびっとだけ沈むかな?という程度。

稍重だったら『勝ったな!飼い葉食うわ』くらいの余裕感は持てたかもしれないけど。

でも、実は思ったほど絶望はしていない。

俺には良馬場の菊花賞と、それから同じく良馬場の有馬記念を制したことによる、確かな自信があった。

稍重だけが、俺のステージではないのだ。

むしろ公式レースの稍重は神戸新聞杯だけ。

あの時の時計がエグかったのと、走りやすさが他の馬場と比較にならないくらい良かったから、重い馬場で走りたかっただけで、俺の現時点の戦績だけを見れば良馬場で悲観する必要はないのだから。

 

……っし、はい!気持ちの入れ替え完了!

まあ、がっかりしてないと言えば嘘になるけど、別にちょっと走り終わった後に脚がジンジンするだけだからな。

欧州の馬場は本当に重いんだろ?

ならここを踏ん張れば、次のレースは楽になるってことだ。

なら頑張る、頑張るぞお!!

 

「お前はどこでだって走れる、最高の馬だよ」

 

そう言ってくれるから。

その言葉を嘘にしたくなくて、俺は走るんだよ。

 

でも欧州の馬場も重くなかったら張っ倒すからな……!!

これ以上は詐欺だからあ……!とブンブンと頭を振る。

うわあ、と声を上げたイサノちゃんから手綱を取った目黒さんは俺と目を合わせると、どこかおかしそうに息を吐いた。

 

「まったく締まらない馬だよお前は」

 

尻尾で顔にぱふんっ!てしてやった。

怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2006年3月25日 ドバイ ナドアルシバ競馬場 ドバイミーティング

 

2021年時点で、ドバイワールドカップデー、あるいはドバイワールドカップナイトと呼ばれるようになった、ドバイの夜を彩る競馬の祭典。

当時、日本からは10頭もの競走馬が、そのたった1日に詰め込まれた激闘に身を投じた。

国内のみならず国外からも注目を集め、やがて世界的なブームにまで発展する「世界初の白毛のGⅠ勝ち馬」の存在もあり、その当時では珍しく、地上波でドバイミーティングの全レースが放送された。

日本調教馬で一番にレースに出走したユートピアが、後続に4馬身差を付ける形でゴドルフィンマイル(GⅡ)を圧勝すると、日本時間では26日に変わろうという遅い時間にも関わらず、駅では号外が配られ、速報としてニュースにも流れた。

合間にUAEダービー等のレースを挟んで1時間後。

夜も深まった中で、その白毛の馬体が姿を見せると、ナドアルシバ競馬場のあちらこちらから感嘆の息が漏れ聞こえた。

欧州年度代表馬にも選出されたことがある名牝・ウィジャボードら名馬が揃う中にあって、その白さは一点の曇りもなく、現地の実況者すら「美しい馬がやってまいりました」とアナウンスした。

第9回ドバイシーマクラシックの出走馬は15頭。

ファンファーレも響かない異国の大地で、一口馬主の夢を乗せたその白い馬体は、ゲートが開いた瞬間、先頭に立った。

 




次回、ドバイシーマクラシック本戦!

登場馬

ハーツクライさん 牡5
知らないことを教えてくれるやさしいおにいさん(白目)
結局牡馬だった……ってコト!?

ユートピアさん 牡6
今回の被害馬
この顔でオッス!?マ!?(うまだっちはした)
ハーツクライがおかしくなっちゃったよ(虚無)
おそらく作中いちばんの常識馬

カネヒキリくん 牡4
カネヒキリは激怒した。必ず、かの無知シチュフェチの先輩を除かねばならぬと決意した。カネヒキリには無知シチュがわからぬ。カネヒキリは、ダート馬である。砂上を走り、親友と遊んで暮らして来た。けれども親友に関しては、馬一倍に敏感であった。

サンジェニュイン 牡4
無知シチュ……?
おそらく最優先で鍛えるべきなのはスピードでもパワーでもなく賢さ(サポカ積まなきゃ……)

完全素人ニキの愛馬名アンケート

  • サニードリームデイ
  • サンシカカタン
  • タイヨウノムスコ
  • タイヨウハノボル
  • ブライトサニーデイ
  • ラブディアホワイト
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