【完】これは圧倒的美貌で凱旋門賞馬になる俺の話 作:SunGenuin(佐藤)
ギリギリの投稿です
ウオッカちゃん視点の短い話
※ウオッカの一人称は公式サイトの「俺」を採用
※メジロマックイーン、ゴールドシップの呼び方はBD版採用
ジャパンロイヤルターフから2週間が経った。
最初こそ酷く落ち込んでいたスペ先輩も、1週間が過ぎたあたりからやけ食いに走り、過去イチで太っちまっていた。
さすがにコレはダメだとトレーナーにどつかれ、今日からトレーニングが再開される。
俺は前にもやったようにスペ先輩のトレーニングに付き合うことになっていた。
腹筋100回、背筋100回、腕立て伏せ100回、それから腿上げ100回と、タイヤ引きを50往復する予定になっている。
大丈夫、これは前にスペ先輩がやったトレーニングだから楽勝だろ。
今回も俺は最後まで付き合うつもりだ。
俺にはマックイーンみたいな実家のツテや、テイオーみたいな生徒会とのコネってのもないからな。
スペ先輩のためにできることって言ったら、これくらいだ。
俺はスペ先輩が待つグラウンドに向かいながら、あのレースの事を思い出していた。
ワールドロイヤルカップのひとつ、ワールドロイヤルターフの予選として、世界各地で前哨戦となるローカル版のロイヤルターフが開催されている。
日本で開催されたジャパンロイヤルターフは、他国にはない特別なルールが設けられていた。
それが「本レースに未出走のウマ娘は、ゲート入りのアナウンス以降、会場に立ち入り禁止」ってルール。
学園内に設けられたライブビューイング会場からでしか、俺たち未出走のウマ娘はレースを見ることが許されていない。
会場入りが許されたのはレース終了後。
先頭で駆け抜けるサンジェニュイン先輩がゴール板を踏んだ瞬間から、俺たちチーム・スピカは会場を目指して走った。
飛び込んだ会場で目にしたものを、俺はしばらく忘れられないだろう。
トレーナーに抱えられながら、大粒の涙を流すスペ先輩の姿は、今も目を閉じる度に浮かんでしかたがなかった。
泣きじゃくるウマ娘なんて見ない日はほとんどない。
それがレースともなれば、必ず1人は会場の隅で力なく俯いているもんだ。
優勝劣敗の世界。
勝者の誕生に敗者は不可欠だから当然だと、頭のどっかでは解っているのに。
負けたこと、届かなかったこと、それ以上のナニカを抱いて涙を流すスペ先輩は、あまりにも痛々しかった。
後から知ったことだが、世間では、あのレースで負けたウマ娘に対して「相手が悪すぎた」と同情する声が多いらしい。
世界一のウマ娘が出走してたんだから仕方が無い、と。
『世界一のウマ娘』
それは、サンジェニュイン先輩というただひとりを指したもの。
長く日本のウマ娘の前に閉ざされていた凱旋門賞を2度も制し、欧州の数々のレースで成功した。
影を踏むことさえ許さない激走に、人は夢を見て、ウマ娘は絶望する。
開かれた優駿の門は、だけどたったひとりが大きな壁になったと、そう答えるトレーナーも多い。
実際にうちのトレーナーがそうだった。
“サンジェニュインは素晴らしいウマ娘だが、あの眩しさが他のウマ娘からチャンスを奪う”
実際に走る俺たちウマ娘と、トレーナーとでは目線が違うのは当然だ。
だけど、それはあんまりだろ。
サンジェニュイン先輩は、周りのウマ娘のチャンスを奪うために走っているわけじゃない。
むしろ、チャンスを与えるために走っているんじゃねーのか?
日本のウマ娘は長く海外レースでは負けっぱなしだった。
それを、あの人の走りが“日本のウマ娘も強い”と証明してくれたんだろ。
その光を浴びるだけ浴びて、あの人がチャンスを奪ってるって言うのは、俺は違うと思うぜ。
俺がそう言うと、トレーナーも、スカーレットもぽかんと口を開けた。
アンタもそういうの考えてるのね、とスカーレットは言ってやがったが、おいそれどういう意味だよ。
考えなしって言いてーのかこいつは!
俺が噴火寸前ってとこで、スカーレットが重ねるように口を開いた。
“癪だけどアタシもウオッカと同じ意見。……トレーナーが言ったやつは、あの人に追いつこうと走ってるウマ娘をバカにしてるのと一緒よ”
一言余計だが、スカーレットも良いことを言うじゃねーか。
サンジェニュイン先輩が2度、天に掲げたトロフィーは確かに世界一の証だ。
世間が「世界一のウマ娘が相手じゃ」と言うのも理解はできる。
けど、だから勝てないのは仕方がない、は理解できない。
その壁を越えようと練習する。
その壁の向こう側が見たくて走る。
俺も、スカーレットも、あのレースのスペ先輩や他のウマ娘も。
壁は大きく、高く。
それでも誰一人負けるために走ってるヤツなんかいない。
勝つためだけに脚を回してんだ。
それでも追いつけなかったなら、それは仕方が無いんじゃなくて、ただサンジェニュイン先輩の執念が上回ったからだ。
俺たちの言葉に何か思うことがあったのか、トレーナーはしばらく考え込むような仕草を見せると、そうかもしれないな、と小さく呟いた。
このトレーナーの良いところは、自分の意思はしっかり持ってるけど、その基準になってる知識とかを更新できるってとこだな。
頭ごなしに否定せず、俺やスカーレットの意見を受け止めて、意味を一緒に考えてくれる。
そういうヤツだから、俺はコイツのことを── いや、今はコイツのことはいいんだよ。
ブンブンと頭を振って、妙に熱くなった頬を叩く。
こんなとこでもたついてる場合じゃ無かった、早くスペ先輩のとこにいかねーと!
俺は軽く伸びをしてから、再び前を向いて、固まった。
── 白い。
トレセンの制服はいろんなところに紫色が入っているし、その人も同じ服を着ているはずなのに、真っ先に浮かんだ言葉は白色だった。
だって、そうなるくらい、白い。
顎のすこし下まで伸びたふわふわとした髪の毛も、瞬きする度に光って見える白いまつげとか。
さっきまで考えていた人が急に目の前に現れた、っていう衝撃もあって、俺はしばらく呆けちまった。
淀みない脚捌きで歩いていたその人── サンジェニュイン先輩も、入り口の真ん中で立ち止まる俺に気づいて止まった。
少し剣呑そうな表情をしてんのは、初対面でジロジロ見られているからか?
テイオーがよく「真珠みたいな指先」だと言う、人差し指が天を指した。
空?どういうことだ?
よくもわたくしの道を邪魔したわね、星になりなさい、ってことなのか?
俺はテイオーやスペ先輩みたいに、サンジェニュイン先輩をみたって動揺しないぞ、と思っていたのに。
頭の中がいっぱいいっぱいになってしまって、上手く身体が動かなかった。
いつもサンジェニュイン先輩の右手に握られている扇はない。
あったらスパンッとその扇で首を切られていたかもしれねーな、と思って冷や汗がでる。
サンジェニュイン先輩じゃねーけど、前にヴァーミリアン先輩が学園に不法侵入したヤローを扇でぶちのめしてたし。
普段は口元に添えられてる、あの太陽マークの扇の役目はソレだと思ってるからな!
いつまでも動かない俺に何を思ったのか、もう1回サンジェニュイン先輩が空を指さす。
軽く見上げると、そこには曇りのない青空だけがあった。
なんだ?何が言いたいんだ?と首を傾げたら、先輩は瞬時にレースの姿勢を取って俺に向かって走り出す。
マジでなんだ!?タックル!?壁にたたきつけられるのか俺は!?
思わず1歩、後ろに下がろうと脚を動かしたところで、あっという間に俺の目の前まで駆けてきたサンジェニュイン先輩に腕を掴まれ、抱き寄せられた。
その直後、ガシャン、と大きな音が響いて、俺は思わずその音の方を振り返る。
俺の立っていた場所に、ただの破片と化した植木鉢が落ちていた。
サンジェニュイン先輩が上を指さしていたのは空じゃなくて、上にある植木鉢に気をつけろ、ってことだったんだ。
「ッぶねえな……」
頭上から、低い声が聞こえた。
今の、誰の声だ?
自分が今どんな状態にあるのかも忘れて、俺は正面を向いた。
キラキラとした白さが目の前いっぱいに広がって、頭に浮かんだ「眩しい」という言葉を慌てて飲み込む。
間違いない、サンジェニュイン先輩だ。
テレビでは何度も見たキレイな顔だが、こんな近くで見たことはない。
さっきまでの俺と同じように落ちた先を見ていたサンジェニュイン先輩の視線とかち合って、俺は、自分の顔が赤くなっているだろうな、と解っちまってさらに赤くなる。
「怪我はないか、ウオッカ……じゃねえや、ぅおほんっ!……あなた、怪我はなくって?」
「うへぇ……!?あっ!あっハイ!あっていうかスミマセン助けて貰っちまって……!」
なんか今、声が変わったような……ッいやそれよりも早く離れねーと!
「ほんと、スミマセン!」
「よくってよ……身の回りのものには気をつけることね。レースも近いのだから」
「う……ちょっと考え事してて……っていうかアレ、なんで俺の名前、レースも……」
俺の言葉に対して、サンジェニュイン先輩は一瞬言葉を止めると、何事も無かったかのように頷いた。
スカートのポケットから栗色の扇を取り出し、キレイな動作で開いて口元を隠す。
学園でよく見かけるサンジェニュイン先輩の姿はコレだ。
先輩は扇をパタパタと仰ぎながら、再び口を開いた。
「有望なウマ娘はある程度頭にいれているわそれじゃあわたくしはこれでその破片は生徒会に言っておくから気にしなくて良いわおほほほ!次からは周りをちゃんと見るのよおほほほ!」
パシン、と扇を閉じたサンジェニュイン先輩は、俺に駆け寄ってきたときのように風の速さで校舎へと入っていった。
その姿には、テレビや、遠くで見るときのような近寄りづらいオーラや、儚げな雰囲気はない。
逆に、俺に向かって走り出した真剣な顔や、俺の腕を引いたあの力強さなんて── ふと、じんわりと熱い左腕の存在を思い出して、ぼぼぼ、と顔が熱くなった。
腕を引かれた。
やわらかくて、俺よりもか弱そうな見た目で、細くて、華奢なのに。
「先輩って、俺よりデカかったんだなあ……」
カッケェなあ、と初めて。
そう初めて、サンジェニュイン先輩はキレイじゃなくてカッケェなと、思った。
一方その頃。
「あぶねえ!!思わず素が出るとこだった……ごまかせてよかったなあ」
扇を扇ぐ白いウマ娘がひとり、のんきに歩いていた。
次回もウマ娘回!うまぴょいうまぴょい!
ところで次回は9/12に更新すると言ったが明日も更新がある。
早漏ですまん。
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