【完】これは圧倒的美貌で凱旋門賞馬になる俺の話 作:SunGenuin(佐藤)
「年度予算を1回で使い切るとは何事だ!?昨年の「次は気をつける」とはなんだった……おい、話を聞いているのか!?── ハーツクライ!」
「聞いている。しかし、奉仕活動には時々痛みが伴うもの……致し方なし」
「何が「致し方なし」だ貴様ァ!」
さっきの出来事── 2階の植木鉢が落ちてきた件について生徒会に報告をしに来たのだが、もう開ける前からUターンしてえわ。
扉越しからでも聞こえる怒声の主はエアグルーヴ先輩で、怒られているのはハーツクライ先輩。
予算がどうの、奉仕がどうのって聞こえたから、またハーツクライ先輩が支給された年度予算をスッカラカンにしたのだろう。
ハーツクライ先輩はトレセン内で「奉仕部」という部活動に取り組んでいる。
活動内容は「地域への恩返し、奉仕活動」で、その一環としてゴミ拾いをしたり、地域のイベントに積極的に参加したりしているのだ。
なんでまた奉仕部なんて、って思ったけど、たぶん競走馬の時の「ヒト好き」っていうのがこういう形で出てきたんだろうなあ。
俺以外のウマ娘には前世の記憶、つまり競走馬だったときの記憶は引き継がれていないみたいだけど、カネヒキリくんのガン見とか、ヴァーミリアンの性癖ヤクザとかを見るに、あの頃のクセが魂に刻まれているやつらも多い。
いや、ここはシャイゲが生み出した世界のようなものだから、シャイゲがそういう解釈をしてキャラ付けしただけだと思うんだが……それだと「オレの性格が前世まんま」の理由とか、そもそも記憶持ったままなのがわからないし、ウマ娘は「異世界の競走馬の魂」を宿してるしまあ細かいことはいいかあ!
むずかしいこと考えると頭痛くなるしな!
それよりハーツクライ先輩のことだよ。
トレセンでは部活動の予算は1年に1度、1月に配られる。
つい2ヶ月前に配られたばっかりなのに、ハーツクライ先輩ってば今度は何をしたんだ。
去年も1回で予算を使い切ってたけど、その時は『街の皆さんにお礼パーティー』の会場代と料理代に消えたんだっけな。
あの時は会長も「それは奉仕活動というかただのパーティーだな」って苦笑い。
そういやあの頃はハーツクライ先輩もまだメテオにいたから、日野トレーナーと当時のサブトレたちが謝罪に行ったんだった。
先輩が疾病を頻繁に発症するようになってからは、療養と立て直しを兼ねてメテオから独立。
サブトレの1人だったロナルドさんを専属トレーナーにしてからは徐々に体調も良くなって、今は国内のレースを中心に活動している。
奉仕部の方でもロナルドさんを振り回しながら元気にやっているようだ。
今更だけど奉仕部ってライトノベルみたいだよなあ。
この場合の主人公ポジションはロナルドさんな!ヒロインはもちろんハーツクライ先輩だ。
出会い方からしてラノベみたいだったしな……なんだよ曲がり角でぶつかったのが初対面って。
パン食ってたら少女漫画だったぞ!
「……扉の前でどうした、サンジェニュイン」
「アッヒョ!……オ!?ブライアン先輩か~!いやあ、エアグルーヴ先輩がお怒りマックスでなかなか入れなくて……へへ……」
「そうか。サングラスつけるから振り返るな。眩しい」
「オレは蛍光灯だった……?」
「直射日光」
「酷くなってる……!」
眩しい、と言いながらサングラスを掛けるナリタブライアン先輩だが、ここは室内だ。
オレの美貌は、オレの名前に「サン」が入ってることもあってよく「太陽みたい」だと言われるけど、だからって物理的に眩しくはないはずなんだよなあ。
あ、そのサングラス見たことある!
カネヒキリくんとヴァーミリアンが持ってるやつと同じだ。
オーストラリアで人気の紫外線カットのやつ……オレ、ほんとになんだと思われてんだ?
っていうかいつ来たんだよブライアン先輩、一言くらいかけて!思わずアッヒョ!とか言っちまったわ。
「あっなに普通に開けようとしてんすか、まずいですって今あけたらオレたちもゲンコツですよお!」
「知るか。やつらのいざこざは私には関係ない。……行くぞ」
「う~ん最高にクールな態度そこに痺れる憧れるう!でも今はほんとにヤバイ!怒り狂うエアグルーヴ先輩は野生の熊より怖いんすよ!?」
野生の熊は野生の熊というだけで怖いので、生息域に行かなければ避けることもできるけど、エアグルーヴ先輩は避けられないのだ。
そういう意味ではエアグルーヴ先輩の方が怖いまである!
筆記テストで赤点ギリギリを取る度に隠しても即バレ、地の果てまで追いかけ回された末にケツ蹴られてるオレが言うんだ、間違いない!
「── ほう、それで。野生の熊より怖い私に、貴様は何の用があって来たんだ?」
「そらもう……あっ」
「何を青ざめているサンジェニュイン。野生の熊にでも出くわしたような顔をして」
「あっあっ、違うんですう!誤解なんですう!」
「何が誤解か!サンジェニュイン、そこに直れ……ッ!」
「ヒィン……!ほんとスミマセンスミマセンでもあの先に報告させてえ……!」
ヒィンヒィン言いながら正座しつつ、オレは植木鉢の話をした。
校舎に続く扉は東西南北に1つずつあって、本当にただの扉なのだが、それぞれ北門とか南門って呼ばれている。
今回、植木鉢が落ちてきたのは北門だ。
2階から何個か小さな植木鉢が吊るされていて、春になると花が咲いてとても華やかになる。
1つ1つが小さいとは言え、それなりに重い素材の植木鉢が上から落ちてくるのだ。
直撃したら軽傷じゃ済まない。
エアグルーヴ先輩や、奥の席に座っていたルドルフ会長も同じ事を考えたのか、厳しい顔で頷いた。
「植木鉢を吊るしていた紐が劣化している可能性があるな。エアグルーヴ、たづなさんに連絡をして確認をしてくれ。ハーツクライ、ユートピア、落ちた植木鉢の回収を頼む。北門は高等部生が多く利用しているからな、ブライアンはタイシンたちにも連絡してくれ。あとは向こう側で他の高等部生に広めてくれるだろう」
エアグルーヴ先輩たちが頷いて動き出す。
テキパキと指示を飛ばすルドルフ会長はやっぱりすごいウマ娘だ。
オレは脚の痺れに耐えながら、スムーズに動いていく先輩たちを眺めていた。
オレがトレセンに来たばかりの頃の生徒会長はミスターシービー先輩だったが、ルドルフ会長が三冠ウマ娘になると代替わりが行われた。
副会長はエアグルーヴ先輩とブライアン先輩の2人。
会計ポジションにディープインパクト、書記ポジションにオレ。
オレがいたポジションには前までハーツクライ先輩がいたのだが、奉仕部に専念したいってことで代替わりをした。
それでも生徒会の業務は結構な頻度で手伝いに来るので、ルドルフ会長は「書類上は庶務ということにしている」って言ってたな。
今回も当然のように生徒会の一員として指示を受けて動いてる。
あっちょっとハーツクライ先輩やめ、やめて!去り際に脚突っつくなあ!
なに?脚を突っつくのは親しいウマ娘がやることだって?
隣のユートピアさんがマジかコイツって顔してるから嘘だなそれ……!
オレはもうだまされねえからな……!
耳も引っ張るのやめてえ!?
「ハーツ、どうしてサンが絡むとおかしくなるんだ……!?もう行くよ!」
……あ、ユートピア先輩に引きずられていったわ。
ブライアン先輩も連絡が済んだそうで早々に生徒会室を後にした。
ぬるっとオレの背後にいたかと思ったらサラッと消えたな。
オレも自然な動作で立ち去りたかったわ。
脚ぷるっぷるだからできねえけどな!
内心で唸りつつ、周りをちらっと見た。
今、生徒会室に残っているのはオレと会長、それからたづなさんに電話してるエアグルーヴ先輩だけ。
ミスターシービー先輩はいない。
あの人の場合はいるときの方が珍しいけど!
それにしても、ヴッ、脚が痺れて死にそう……!
「サンジェニュイン」
「あい……」
「もう正座しなくていい。……それより、助けたウマ娘の名前はわかるか?解らなければ特徴だけ教えてくれ。本人も気づいていないだけでどこか怪我をしている可能性もあるからな」
苦笑いを浮かべながらもオレの前に立つルドルフ会長。
その手を借りてなんとか立ち上がる。
今のオレ、マジで生まれたての仔馬だわ。
「あい……名前はわかります。ウオッカです。スピカの」
「スピカのウオッカか。……珍しいな」
珍しいって、ほとんど高等部生しか使わない北門を中等部のウオッカが使ったことが、かな?
中等部の生徒はほとんど南門を使うもんな。
あっちの教室からだと北門は遠いから、珍しいと言えば珍しいけど。
でも北門からは調教場、もとい練習コースが近いから、南門から出て外を回るよりは早いんだよなあ。
「会長、たづなさんと連絡が取れました。業者に頼んで各門の点検をしてくれるそうです」
「わかった。立て続けですまないが、このままウオッカの様子を見に行ってくれないか」
「わかりました。……サンジェニュイン、戻ったら昨日の小テストの点数を確認する。逃げられると思うなよ」
「ヒエ……」
昨日の小テストは数学、点数は15点!
もちろん100点満点中だ!……死んだな。
後でカネヒキリくんに遺言のメール送らないと。
「……ウオッカとは前からの知り合いなのか?」
入れて貰った紅茶に口をつけながら、オレはルドルフ会長の言葉に頭を振った。
「いや?直接話したのは今回が初めてですね」
実は競走馬だった頃もそこまで長い時間一緒にいたことはなかった。
ウオッカは「俺」より2つ下だったし、「俺」は海外にいた時間の方が長かったからなあ。
ただすごい素直なやつで、たった2回しか併せ馬はしたことがなかったけど、ヒネくれた事は言わずに納得できるアドバイスは取り入れてくれた。
馬格は「俺」やカネヒキリくんよりはやや小さめだけど、それでも500キロ近い体重にしっかりついた筋肉質な身体つきをしていたのを覚えている。
牡馬の俺よりも牝馬にモテてたのは意味が分からなかったけど、まあ、たぶんアッチも牡馬にモテまくった「俺」のこと意味分からなかっただろうな!
引退後はいろいろあって血を繋ぐことになったりとそこら辺でも縁はあった。
ウオッカは海外で繋養されていたから、その仔とは会ったことはない。
でも日本や欧州でしっかり結果を残してくれたみたいで、引退後は無事に種牡馬入りできたと聞いた。
ただあの当時の日本は「俺」やディープインパクトの産駒が多すぎたから、その仔は欧州のでかい牧場で繋養されたと聞いている。
オレが昔に思いを馳せていると、ルドルフ会長は少し険しそうな顔をしていた。
「そうか……」
うん?なんだ?
なんか妙な雰囲気が……。
「そうだ、サンジェニュイン。アップルパイが好きだったな?」
「大好物です!!!!」
思わず食い気味に叫んでしまった。
さっきまで妙な雰囲気を漂わせていたのは錯覚だったのか、ニコニコとしたルドルフ会長を見つめる。
「ふふっ、なら丁度よかったな。私のトレーナー君がアップルパイをホールで差し入れてくれてな。一人で食べるのも味気ないと思っていたんだ。エアグルーヴたちにも後で出すが、先に一切れ頂いてしまおうか。もちろん後でカネヒキリにも成分表を渡しておく」
「ひゃっほーうッ!食べます食べます!いーともっ!」
「……今のは「eat」と「いいとも」を掛けたのか!ふふっ、いいな!」
「ふへへ……」
お茶の間ドッカンドッカンですわ!
ルドルフ会長の痺れるようなダジャレで盛り上がりつつ、アップルパイを楽しんだ。
「う……な、なんだこの悪寒は……!?」
> シンボリルドルフ の 調子が上がった!
> サンジェニュイン の 調子が上がった!
> エアグルーヴ の 調子が下がった!
「遅かったじゃないウオッカ。もうとっくに始まってるわよ。朝から張り切ってた割に遅刻なんて……」
「へーへー、悪かったよ。っていうか、どんな状況だよ、コレ」
熱くなった顔を冷ましてたらすっかり遅れちまった。
待たせてるよな、と顔を見せると、スペ先輩は謎の青ジャージと走っている。
それだけなら誰か別のやつと併走してんのか、ってなるんだが、どうも様子がおかしい。
併走っていうか、スペ先輩が青ジャージのヤツを追いかけ回してた。
「あの青ジャージは?」
「シルバータイム先輩。サンジェニュインさんの親戚だって」
「サンジェニュイン先輩の!?」
スカーレットにそう言われて、走る2人をもう一度見た。
青ジャージの髪色は確かに白だった。
でもまさか、あのサンジェニュイン先輩の親戚がこのトレセンにいたなんて。
「親戚がいるってのは聞いたことあったけど、海外のトレセンだと思ってたぜ」
「海外のトレセンにもいるみたいよ。今年からクラシックに参戦する親戚が海外にもいるって言ってたし」
「ふーん……で、なんでその親戚ってやつがスペ先輩と走ってんだ?いや、この場合は、スペ先輩に追いかけ回されてるっていうのが正解か」
猛スピードで走る2人の表情は解らない。
けどいつもよりも前傾姿勢で走っているスペ先輩は、まるで狩人だった。
「アタシが連れてきた」
「うおっ!?ご、ゴールドシップ先輩……!」
俺とスカーレットの間に出てきたゴールドシップ先輩は、お馴染みのルービックキューブをいじりながら笑う。
相変わらず読めない人だ。
でも変人じみた行動の裏で、結構仲間思いな一面もあるから嫌いになれないんだよな。
「シルバーは走り方がサンジェニュインに似てっからな、練習相手には丁度いいんだよ。スペがお前のお姉様にボコられたから協力してくれ、って言ったら快く力を貸してくれたぜ」
そう言ってゴールドシップ先輩がウインクすると、グラウンドの方からすげえ勢いで1人のウマ娘が走ってきた。
白い髪の毛、肌、緑味の強い青い目はなるほど、確かにサンジェニュイン先輩の親戚だ。
顔つきも先輩に似ているけど、先輩よりは鋭い目つきに、髪の毛は胸辺りまで伸びていた。
サンジェニュイン先輩が「絶対的な美しさ」だとしたら、この人は「隙のある美しさ」ってとこか。
そのシルバータイム先輩はハァハァと息を荒げながら、目の前のゴールドシップ先輩を睨み付けていた。
「ッなにが……っはぁ、なにが快くだぁ……!?拉致ったの……げほっ……はぁ……はぁ……拉致ったの間違いでしょおがあ……ッ!」
「お、逃げ切ったのか~!さすがシルバー!ヨッ、ネクストサンジェニュインポジション!」
「煽ってるな?そうなんだよな?どーせあたしはサニファに勝てないですよ!後継者カッコ笑いだわ!殴っていい?殴って良いよね!」
「短気は損気!」
「やかましい!」
バシン、とゴールドシップ先輩の肩を叩くシルバータイム先輩は、言葉の割には怒ってはいなさそうだった。
少しの間じゃれ合っていた2人だが、シルバータイム先輩は俺に気づくと汗を拭いながら落ち着いた表情を見せた。
「言っとくけど、協力するのは今回限りだから」
「そんなこと言わずに……スピカ入っちまえよ、ほれ、紙!もう判も押してあるぜ!へへっ、気が利くだろ?」
「なに勝手に人のハンコ使ってんの!?っていうか筆跡も似てる!?」
「超頑張った。ドーナツの真ん中開けるバイトよりも気をつかったぜ!」
「そこに使うなよ……はぁ……」
短い時間だが、シルバータイム先輩が苦労人なのはよく解った。
スカーレットの耳打ちによると、2人は同期らしい。
トレセン入った頃からゴールドシップ先輩の奇行に付き合わされてるってことか。
想像しただけで頭が痛くなってきたのか、スカーレットは額に手を当てていた。
「あたしは「太陽一族」の者として、2度と協力することはできないわ」
冷たさすら感じる声でシルバータイム先輩が言い切る。
“太陽一族”
サンジェニュイン先輩と血の繋がりがある白毛のウマ娘はそう呼ばれている。
色以外の特徴として、その名前に太陽を連想させるキーワードが入っているらしい。
この一族のウマ娘は、一族内はもちろん、世間からも「サンジェニュインの栄光を継ぐこと」を期待されているんだとスカーレットは言った。
目の前のシルバータイム先輩の名前には、太陽を連想させるようなキーワードが入っているようには見えねえけど、この人も例に漏れず、ソレを期待されているウマ娘なんだろう。
重い使命だな、と押し黙った俺とスカーレットを気にもとめず、ゴールドシップ先輩が笑う。
その笑顔は、シルバータイム先輩の空気すら変えた。
どうやらシルバータイム先輩にとって、ゴールドシップ先輩は大きな存在のようだ。
一方的な関係じゃ無かったことが嬉しい反面、謎のむずがゆさを感じる。
な、なんだこれ……3ハロンの恋人たちを見たとき以上の恥ずかしさ……!
「こんなことを言ってっけど、こいつ頼み込んだら絶対に協力するからお前らも土下座するぞ!」
「テキトーなこと言わないで!?」
3回土下座したら協力してくれた。
> ゴールドシップ の 調子が上がった
> シルバータイム の 調子が下がった
> シルバータイム は コンディション「一族の異端者」になった
次回、競走馬回!ヒィンヒィン!
ネクスト更新日:9/12
登場ウマ娘(非公式のみ)
ハーツクライさん
奉仕部とかいうラノベみたいな部活動してる
年度予算を1回で使い切る天才
ユートピアさん
ハーツクライさんとそのトレーナーのツッコミ役をしながら元気に暮らしてる
サンジェニュイン
レース成績はイイが座学の成績はヒィン
シルバータイム
前世はサンジェニュインの産駒、ウマ娘では親戚
ゴルシ&ジャスタ世代で厩舎も一緒だった
母と母父は次の掲示板回の時にでるよ!
完全素人ニキの愛馬名アンケート
-
サニードリームデイ
-
サンシカカタン
-
タイヨウノムスコ
-
タイヨウハノボル
-
ブライトサニーデイ
-
ラブディアホワイト