【完】これは圧倒的美貌で凱旋門賞馬になる俺の話 作:SunGenuin(佐藤)
前話の感想で「色仕掛け」って言われているのに笑いました。
これまで競走馬回は8割サンジェニュイン視点だったので、今回はサンジェニュインが知らない話。
ほぼテキの視点です。
「本原先生、今回のレースでは序盤から牝馬に挟まれていましたが、この奇策はどう思われましたか!」
サンクルー大賞典が終わり、ごった返す通路を急いでいると、日の丸の腕章をつけた記者にそう呼び止められた。
ちらり、時計を見ると、会見までそう時間はない。
目黒くんが止めに入ろうとしたのを制止して、俺は口を開いた。
「怖かったですね。何せサンジェニュインは── 牝馬と走るのが苦手だったので」
例えば、三冠馬・シンザンはどんなに急かしても調教ではまったく走らなかった、とか。
例えば、マルゼンスキーは返し馬で騎手が立ち止まった場所を記憶して、レース中に自発的にその場所に止まった、とか。
例えば、サイレンススズカは馬房の中で左旋回する癖がいつまでも抜けなかった、とか。
歴史にも、人の記憶にも残る名馬にはいくつか変わったエピソードがあるもので、サンジェニュインのアレやコレや、いつか面白いエピソードとして世に残るかもしれないと、俺── 本原佳己は考えていた。
そう思うほど、風変わりな
それは2005年の初夏。
東京優駿まであと数日のことだった。
「なんて?」
湯呑を机に置いて聞き返すと、眼前の目黒くんが言いづらそうに口を開いた。
「おそらくですが、サンジェニュインは牝馬が苦手です」
耳を疑うような言葉だ。
サンジェニュインが苦手なのは牡馬であって、牝馬はその限りではないはず。
今日の併せ馬の相手はラインクラフト号、牝馬だが、嫌がる素振りもなく走っていた。
何かの間違いじゃないのか、トラブルでもあったのか、と言葉を返すと、目黒くんは首を横に振った。
「併せ馬は終始穏やかに終わりました」
「なら問題ないじゃないか」
「いえ……問題は、実際に走っている時です」
目黒くん曰く、サンジェニュインは牝馬相手に競り合うことができない、と。
詳しく聞いてみると、終盤の競り合い、もっと言うと、馬体がぶつかりそうになると減速してしまうのだと言う。
その言葉を聞いて、若い馬にありがちな「怯え」によるものではないことは、俺にもすぐにわかった。
ラインクラフト号は馬体重が460キロ前後であるのに対して、サンジェニュインは510キロ近くもあるし、体格のそう変わらないヴァーミリアン号にぶつけられた時も、なにくそとすぐに跳ね返すような性格をしているのだ。
自分よりもさらに小柄なラインクラフト号が相手ならなおさら、怯むわけがない。
「……仲が良すぎて闘志が湧かない、とか」
「併せ馬ともなれば、カネヒキリ号が相手でも跳ね飛ばすような馬ですよ、サンジェニュインは」
「だよなあ……」
サンジェニュインとカネヒキリ号の仲の良さは、栗東トレーニングセンター内では知らぬ者はいないほど有名だ。
お互いの厩舎の位置を覚え、行き来するような馬などあの2頭だけだろう。
むしろあの2頭だけであってくれ、もう1頭いてたまるか……!
そのカネヒキリ号との併せ馬はもうしなくなったが、最後に併走した時は容赦なく親友を撥ねていたのを覚えている。
「苦手、には見えないんだがな」
「牝馬そのものが、というよりは、牝馬と鍔迫り合いすることが苦手、に近いでしょうか。走ることには走りますし、追えば競り合おうともするのですが……思い返せば、シーザリオ号との初併せの時から予兆はありました」
サンジェニュインとシーザリオ号が初めて併せ馬をしたのは弥生賞の前。
1年近く共に調教してきたカネヒキリ号がダート路線に進むため、調教ローテーションが組み辛くなった影響で同厩舎のシーザリオ号が相手となった。
顔合わせは滞りなく済み、さあ芝コースで走らせようと手綱を扱くも、何故か走らない。
シーザリオ号は走る素振りを見せていたものの、サンジェニュインは脚踏みするようにゆっくりとした歩様でコースを回り、鞍上から4度鞭が入ってようやく走り出した。
この時はかろうじてサンジェニュインが先着しているが、内と外で2頭はかなり離れている状態。
これがカネヒキリ号やヴァーミリアン号が相手ならば、鞭が一発入ったところで走り出し、接触ギリギリの距離で競り合い始める。
「一応、シーザリオ号だけなのかと思ってずっと様子を見たのですが」
「今回のラインクラフト号でも同じことになったか」
「はい。こちらはラインクラフト号がすんなりとコース入りしたので、それに続くように走り出してくれたのですが……ラインクラフト号がふらついた事に反応したのか、一気に鈍くなったと鞍上から報告が入っています」
「うぅむ……」
ラインクラフト号は好位追走を得意とする先行馬。
今年の桜花賞の勝ち馬でもあり、次走はオークスではなくNHKマイルという変則二冠を狙っている。
噂によれば適性距離の問題のようだが、陣営は1600メートル── マイル路線なら敵なしだと意気込んでいるようだ。
同世代の牝馬の中でも飛びぬけたスピードの持ち主とも聞いている。
ただ贔屓目なしに言って、スタートの瞬発力と2度加速するサンジェニュインの脚を持ってすれば、苦戦はしても最終的に競り負けることはないと思っていた。
「ウッドチップ6ハロン83秒、か」
ヴァーミリアン号との併せ馬では80を切って79秒を出しているコースだ。
83秒も決して悪い数字ではないが、もっと速いタイムを出しているだけに違和感は残る。
たまたま調子が出なかったというだけならかまわない。
そういう日もある。
だが、シーザリオ号との併せ馬のタイムも見ると、確かにヴァーミリアン号ら牡馬との併せ馬よりはタイムが落ちていた。
「そもそも牝馬との併せ馬の回数自体が少なかった……こういう日もあるか、と見逃すべきではなかったな」
「今年に入ってからはヴァーミリアン号との併せ馬が一番多いですね。シーザリオ号はまだ3回、ラインクラフト号は今日が初ですから」
サンジェニュインが出走を予定している東京優駿、神戸新聞杯、菊花賞に登録している馬は、今のところ牡馬のみ。
もちろん牡馬限定戦ではないため、牝馬が出走してくることもあるだろう。
ジャパンカップや有馬記念といった古馬戦に出るようになれば、当然牝馬の姿もある。
これがシーザリオ号、ラインクラフト号との併せ馬でしか発生しないのなら良いが、もし本番で牝馬と競り合って減速したらと思うと、頭を抱えずにはいられない。
サンジェニュインが抱える問題は、同性馬との関係性だけだと思っていたのに。
「矯正しないとなあ」
どうすれば直せるか。
口で言って聞かせるか、と無謀に見えて一番効果がありそうなことを口にすると、目黒くんは首を横に振った。
どうやらすでに試した後のようだ。
「まず本人に自覚がありません。減速、まあ悪く言うと“手抜き”ですね、そのつもりが一切ないので、口で言っても余計に拗れると思います」
「うぅむ……そもそも、減速してしまう原因は、何か心当たりある?」
「……そう、ですね」
目黒くんは少し悩んだあと、根拠のない考えですが、と言葉を続けた。
「ハルノメガミヨの影響が強いと思います」
ハルノメガミヨは、2005年末までうちの厩舎にいた牝馬だ。
サンジェニュインとは隣同士の馬房で、穏やかな性格だったからそれなりに上手くやれていたと思う。
この牝馬は元々繁殖に上がることが決まっていたため、退厩する時は五体満足健康で返してくれ、とオーナーサイドから何度も頼まれていた。
1度右前脚を負傷していたこともあって、厩舎内では念入りにケアされていた馬。
「競走馬としてはかなり過保護に扱った記憶があります。1度サンジェニュインとすれ違いざまに接触してしまった時、馬体検査まで行いましたから」
当時のハルノメガミヨの担当厩務員はイサノだった。
彼女がうちの厩務員になって初めて担当した馬でもある。
思い入れも深かっただろうから、最後の3か月間のケアは目黒くんが言う通りかなり過保護だった。
「……サンジェニュインは、賢い馬です。我々の他馬に対する扱いや、雰囲気なども素直に吸収してしまう。おそらく彼の中で、ハルノメガミヨに対して行われていたケアがよほど印象的に映ったのでしょう。牝馬に怪我させてはいけない、という無意識のブレーキがかかっているのではないか、と。荒唐無稽な、推測と言うには稚拙な考えですが、今のところコレが一番しっくりきます」
これまでの馬の常識に照らし合わせて考えれば、目黒くんが言った事は確かに荒唐無稽で、どこにも根拠のない不自然なものだ。
だが、サンジェニュインという馬が持つ特異性や、異様なほどの物分かりの良さを「馬の常識」などに当てはめる方が、もしかしたら不自然なのかもしれない。
「……アイツの中身が元は人でした、と言われたら信じてしまいそうだな」
もちろん、そのようなことはあり得ないだろう。
ドラマならいざ知らず、人間が馬になってあんなに素直に順応できるものか。
アイツが特別なだけなのだ。
まるで神が作り給うたと見紛うほど。
「牝馬に怪我をさせることを恐れて減速しているのなら、もう慣れしかないな」
ふぅ、と息を吐いて立ち上がった。
サンジェニュインに一切自覚がないなら、目黒くんが言う通り言って聞かせるのは悪手だ。
むしろ何も知らせず、ただ牝馬との接触を増やして存在に慣れてもらうしかない。
競り合っても相手は簡単には怪我をしないことを、牝馬も競争相手なのだと、刷り込みを上書きする。
「年内の併せ馬の相手は全頭牝馬でいく。ヴァーミリアン号もダート路線に切り替える噂があるからな、これを機に掛け合ってみるか。まずは馬体重の近い、それなりに大きい牝馬で」
「近いとなると、同世代だとエイシンテンダー号、上の世代だとヤマニンシュクル号、ベストアルバム号、マイティーカラー号、あとはオースミハルカ号でしょうか」
目黒くんがメモに牝馬たちの名前を書き連ねる。
この内、聞き覚えのある名前はオースミハルカ号とヤマニンシュクル号。
この2頭は重賞勝ちの経験がある。
特にオースミハルカ号は、3歳で挑んだ2003年のクイーンステークス、前年のエリザベス女王杯勝ち馬・ファインモーションを相手にクビ差で競り勝った馬だ。
この牝馬との併せ馬は、サンジェニュインにとって大きな実りになるはず。
「相手はフケの影響を気にするだろうけど」
「サンジェニュインなら大丈夫です。どうもフケにも気づいていないみたいなので」
「それは気づいてほしいな。……不能とかじゃないよね?」
「そうでないと願いたいです」
また不安がひとつ増えてしまったが、フケの影響を受けないならそれはそれで良い。
……一応サイレンスレーシングにも連絡しておくか。
「まったく、どこまでも手のかかる馬だなあ」
「その割には嬉しそうですね、テキ」
そりゃあ嬉しいさ。
嬉しいよ、アイツに手のかかる部分がまだまだあることが。
初めて会った時から素直で物分かりの良い仔だったから、本当なら数か月はかかる調教が3か月の間にほとんど済んでしまった。
ゲート検査もすんなりと熟して、騎乗馴致も嫌がる素振りひとつしない。
トントンと済んでしまうから、自分が手掛けた馬というよりは、サンジェニュインが勝手に出来上がるのを傍で見ていただけ、という感覚に近かった。
馬の最も近いところにいる目黒くんたち厩務員はまた違った印象を持っているだろうけど、俺にはサンジェニュインは「完成品」のように見えていたよ。
それが、併せ馬をするかと調教場に連れ出せば嫌がって、牡馬に追い掛け回されると暴れて逃げて。
厩舎内では「隠れ気性難」だなんだと言われたが、そこでようやく、俺もサンジェニュインにしてやれることがまだあったかと思えた。
「尽くせる人事はすべてやろう」
牡馬も苦手、牝馬も苦手。
そんなサンジェニュインが頼れるのは、もう俺たち人間しかいなのだから。
ゴールしたあと、サンジェニュインが笑ってこの腕の中に帰ってこれるよう、なんでもやろう。
「そのために被った苦労なんて、アイツの笑顔でチャラだ!」
俺がそういうと、目黒くんは声を上げて笑った。
「この厩舎で厩務員やっててよかったな、と思いますよ、本当に」
「お、嬉しいこと言ってくれるな。でもそれは、サンジェが牝馬とも競り合えるようになってからもう1度言ってくれ」
目黒くんが書いたメモを受け取って厩舎を出る。
もう決して若くはないが、少し駆け足で栗東内を動き回った。
オースミハルカ号との併せ馬を取り付けることができたのは、その3日後。
そしてサンジェニュインが牝馬を弾き飛ばせるようになったのは、それからちょうど1年後の初夏だった。
「ギリギリだったな、目黒くん」
最初のコーナーを回る白い馬体を見つめ、俺は口を開いた。
右横の目黒くんは小さく頷いて、間に合ってよかったです、と言葉を続けた。
「走り始めからウオッカ号がぶつかってきた時はどうなるかと思いましたが、跳ね返した後も減速するどころか加速していました。2度目の併せ馬でもかなり近い距離で競り合っていたので、もう大丈夫だと思います」
目の前の馬は── サンジェニュインは、牝馬2頭に挟まれながらも依然先頭をキープしていた。
プレッシャーを掛けるように、外側を走るヴァネッサ号が徐々に距離を詰めているようにみえるが、サンジェニュインは減速せずに走り続けている。
鞍上の芝木くんも焦った様子はなく、2頭の間から抜け出すタイミングを計っているように見えた。
むしろ焦っているのは、内ラチ沿いを走るプライドの鞍上、グラン・リュベール騎手だろう。
こんなはずではなかった、と思っているかもしれない。
「リュベール騎手の着眼点は外れていない、どころか良く気づいたよ。普通、牡馬に追い掛け回されているってところに意識がいってしまうから、牝馬としか併せない理由まで考えないだろう?」
「牡馬が苦手だから牝馬とだけ併せている、が世間の認識ですからね。それを「牝馬との競り合いが苦手」な可能性にまでたどり着くのは、並の執念じゃないですよ」
敵ながらアッパレだとしか言いようがない。
とても勤勉で情熱的な騎手でもあるのだろうと思う。
正直言って、重馬場でのサンジェニュインはほとんど無敵と言っても良い。
今回のように「牝馬に囲まれる」といったアクシデントがなければ、ガネー賞と同じく大逃げ
自分が乗る馬を勝たせるためのわずかなチャンスを求めて、それを実行に移しているのだから。
だが彼は少し遅かった。
「ガネー賞でやられていたら危なかったですね」
目黒くんの言葉にそっと頷いた。
サンジェニュインの「牝馬相手に減速する悪癖」は、古馬戦が近づくにつれて大きな不安の種だった。
だが併せ馬等、地道に牝馬に慣れるよう交流させていくうちに、その悪癖も徐々に改善の兆しを見せる。
その決定打になったのが、ガネー賞後に栗東に帰厩してすぐ行われた、ウオッカ号との併せ馬だ。
果敢にも何度もサンジェニュインに突撃する彼女と接することで、サンジェニュインの中にあった牝馬への認識が変わったのだ。
とはいえ、サンジェニュイン自体は何も変わったとは思っていないのだろうが。
「親の心、子知らず、か」
それでかまわない。
思うがまま、その力のあるまま走ってくれたらそれで良い。
サンクルー競馬場の、重い芝の上を白い馬体が往く。
その脚が2度目の加速を見せるのは、第3コーナーから。
「まもなく第3コーナー、先頭を争う3頭はここまでものすごいスピード。後続集団と6馬身差が開いているよ」
「ただヴァネッサがそろそろ限界かな?3番手のプライドにはまだ余力がありそうだ。後続を引っ張っているのはニアーオナー、そのすぐ後ろにピタリと張り付いているのがハリケーンラン。外側に半馬身向いているのがペトログラッドだけどスタミナ切れかやや失速、1馬身離れてポリシーメイカーが追走、その内を回ってラヴェロックが現在最後方」
「重馬場としては結構速いペースだね。2番手まで上がってきたプライドの体力が持つか心配だ。サンジェニュインは両側を挟まれたことで思うように前にいけないのかな?頭ひとつ分抜けてはいるけど、前走よりはスピードを感じないな」
「騎手が押さえているようにも見えるよ。ただ脚色に一切の衰えを感じないし、まだ何か隠してそうな雰囲気だ。……おっと、後続集団も忘れないでとハリケーンラン、凱旋門賞馬ハリケーンランがここでニアーオナーを抜かして集団から抜け出した!先頭集団との差をジリジリ詰めていくけど── 抜けた!ここでサンジェニュインが3頭のもみ合いから抜け出してスパートをかける!第3コーナーから最後、ゆるやかなカーブを曲がってさあゴールへ一直線だ!」
パシン、とケツに鞭が入る。
「我慢させて悪かったな、サンジェ」
まったくだぜ芝木くん!
牝馬2頭に挟まれたときは、そらあ最初はビックリしたよ?
めっちゃピタっと俺に張り付いてくるし。
それ以上に俺のスタートダッシュについてくるとか思わないじゃん。
特に俺の外側を走っていた牝馬!
すげー脚速くね?
やっぱりレースに絶対とか油断とかそういうのは無いっていうのがよく分かりますねえ!?
先頭取られるのだけは嫌だと思って頭だけは突き出したけどさあ、芝木くんったら俺がぶち抜こうとすると止めるから参ったわ。
ぶち抜くときに接触しちゃったら妨害扱いで失格になっちゃうから?
でも故意とかよっぽど危険じゃ無い限りはセーフってテキも言ってたやろがい!
まあ安全なコース取りで馬を走らせるのも騎手の仕事だっていうからな。
だからって大外回って行こうぜ、と言わんばかりに一旦下げようとするのはやめろや!
後ろにはオッスどもがいるんだぞ!
ゲート入りの時からずっと鼻息荒いやつが1頭いるところに下がれるか!俺は馬房に戻らせて貰う!って死亡フラグ立てるとこだったぜ。
「本当に悪かったよ。……さ、お待ちかねの先頭だ。3秒数えたら── ぶち抜くぞ」
あいあい、待ってましたよ、っと!
でもゴールした後はどつくからなお前!
俺が鼻を鳴らすと、芝木くんは一瞬だけ苦笑いを浮かべて、すうっと雰囲気を変えた。
「さん」
一瞬だけ空気を吸い込み、前を向く。
「にぃ」
後ろから俺を追う音が聞こえる。
「いち」
でも関係ないよな?
「ぜろ」
先頭は──……この俺!
「笑っちゃうくらいのスピードだ、こんなの隠し持ったまま2000メートル走ってたの?まるでラスト400メートルまで遊んでいたみたいじゃないか」
「ハリケーンランがプライドに並ぶもサンジェニュインとは4馬身差!ここから巻き返しを狙えるのかハリケーンランもぐんぐん上がっていくよ。プライドは序盤の激走がここで影響したかやや苦しそうだ。2番手争いが激化する2頭を尻目にサンジェニュイン、まだ伸びる伸びる!残り200メートル!」
まだまだ後ろから気配がする。
突き放しても追いすがってくる。
誰も彼もが必死だから。
眼前にあるゴール板を1番に踏み抜くのは、この8頭の内たった1頭だけ。
「サンジェニュイン、サンジェニュインがまだ行く!最後まで加速が止まらないそのスピード、すさまじい上がり方だ!なんなんだ、君は!」
ワッと上がった歓声に、芝木くんが右腕を突き出す。
よっしゃ、とか言ってるところ悪いが、すぐに検量室に行きます。
どつくからなお前。
……ん?
なんか後ろからものすごい気配が──
「最後の最後に圧倒的な力を見せてくれました、サンジェニュイン!」
「2000メートル走っても残り400メートルで2度も加速できるなんて……もしかして、規格外ってこの馬のためにあったりする?」
「ナポレオンの辞書には書いてなかったけど、たぶんそう」
「全世界の辞書メーカーへ、規格外の意味に「サンジェニュイン」を付け足してください」
「切実なお願い──……あれっ、ああ……どうやら規格外だけじゃなくて、常識外れの項目にも付け足す必要があるみたいだね……」
なんだあ、コイツ!?
「うおっ、お!ちょっ、落ち着けサンジェ……っ」
バッ、落ち着けるか芝木……!
に、逃げるぞ!
「……僕が渡されたスケジュールには、サンクルー大賞典後のレースは無いって聞いてたんだけどね」
「会場の皆さん、そしてテレビの前のみなさん。今、お送りしているレースは想定外のレースです」
聞こえる、聞こえるぞ……うーうまだっち!?
アッ、テメいま俺のケツタッチしただろ!
ケツでケツタッチしただろ!?
ああああ来るな来るな来るなァ──ッ!!!!
「レース前に元気になっている馬は見たことあるけど、レース後にご立派なモノを見せられるとはねぇ……びっくりだよ」
「たぶんだけど、いちばんビックリしてるのはサンジェニュインだろうね」
このあとメチャクチャ爆走した俺だが、この時に俺のケツを追いかけ回していた馬── ハリケーンランとこの後2度も対戦することになろうとは、まったく想像していなかったのである。
ヒィン──……!!!!
Natdekeiba.com
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| 【海外速報】サンジェニュイン、仏GⅠ・サンクルー大賞典を制覇 |
フランス現地時間6月25日(16時25分発走)に開催されたサンクルー大賞典(GⅠ、芝2400m)を、サンジェニュイン(牡4、栗東・本原佳己厩舎)が第3コーナーから圧倒的な加速力を武器に逃げると、そのまま2着馬に5馬身差をつけて勝利した。 序盤こそ地元の有力馬・プライドと、そのペースメーカー役・ヴァネッサの牝馬2頭に挟まれるアクシデントが発生したが、冷静に受け流してレースを進め、第3コーナーから勝負に打って出た。サンジェニュインを管理する本原佳己調教師は「牝馬と競り合うのが苦手だったので心配したが、杞憂に終わってホッとした。リュベール騎手の慧眼には恐れ入る。今後も油断はできない相手だが、最後は強い勝ち方を見せてくれたと思う」とコメントしている。
サンジェニュインは3月からドバイを始め海外レースへ出走しており、今レースが3戦目だった。 ガネー賞に引き続き、強い競馬を見せてくれたサンジェニュインの次走は、舞台をイギリスに移して行われる。7月29日のキングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークス(英GⅠ、芝12f=約2400m)だ。このレースにはハーツクライ(牡5、栗東・大橋弘継厩舎)も出走する。 ドバイシーマクラシック以来の対戦であり、サンジェニュイン陣営はリベンジを狙っている。
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