【完】これは圧倒的美貌で凱旋門賞馬になる俺の話   作:SunGenuin(佐藤)

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感想&ブクマ&評価&誤字脱字報告、サンクスサンクス~~!!!!

3万文字になったので分割しました(白目)
あともう1話ウマ娘回が続きます

それと明日の更新ですが2話分やります

今回もありがたいことにイラストを頂いたのであとがきで紹介させていただいてます!


side:ウマ娘 ー Ep.11【挿絵有】

「もしもし、デジタル?……ああ、起きているな、おはよう。……ん?ああ、こちらは今し方イベントが終わったところだ。本はすべて売り、失礼、頒布し終えた。買い物リストもすべて……1点だけ、リストには無かったがお前の推し?てる作家が無配ペーパーとシークレット本というのを出していたから── うん、買った。差し入れもすべてした」

 

時刻は16時。

2日間に及ぶウマ娘ちゃんオールジャンル同人イベントを無事に終え、買った作品、いわゆる戦利品をトレーナー寮宛てに送り、俺は会場を後にした。

時差8時間のイギリスでは、今が朝の8時ごろ。

予め決めていた通り、デジタルにモーニングコールをすべく電話した。

まだ微睡みの中に脚を突っ込んでいるような声も、徐々に覚醒して今は元気いっぱい。

向こうで1人きりのため少し心配したが、日本各地を聖地巡礼の為に1人で駆け回っていたデジタルなので、余計な心配だったようだ。

 

「身体は大事ないか?……うん、うん、そうか、それは親切なウマ娘に助けて貰えたな。念のため後で病院の名前を教えてくれ、うん。……そうか、ロイヤルダートがすごかったか、うん、わかった、その話は帰国してから聞こう、うん」

 

興奮したようにロイヤルダートの話を始めようとしたデジタルを遮り、今日の予定を聞く。

 

「ロイヤルターフは15時だったな。それまで暇だろう、近くにウマ娘の歴史資料館があるから、ホテルのスタッフに声を掛ければ案内して貰えるぞ?……至れり尽くせりで怖い?何を言っているんだデジタル、それが高級ホテルの長所……1人きりが良いのはわかるが、せめて会場まではタクシーで行くように。手配しておくから。うん、わかったわかった、帰国したらいくらでも話を聞こう。ああ、道中も観戦中も帰宅中も気をつけて」

 

イギリスに1人だけで送り出すのは迷いもしたが、これも良い経験になると思って決めた。

だが、当然不安はある。

これぞと決めた担当ウマ娘のことだ、多少過保護なくらいが丁度良いものだと先輩トレーナーからも助言されたため、宿泊先には殊更、念を入れて選定した。

それに新人トレーナーの身とはいえ、そんじょそこらの安宿にウマ娘を1人で放り込むほど、俺は甲斐性無しのトレーナーではない。

持ちうるコネクションをフルに活用し、デジタルの安全なイギリスでの宿を手に入れた。

 

「……丁度よく電話が来たな」

 

デジタルとの通話を終え、仕舞っていた携帯がブルブルと震える。

画面を開くと、着信者には今、ちょうど頭に思い浮かべていた相手の名前があった。

 

「はい、もしもし」

『もしもし。休暇中に電話して悪いな』

「いえ、大丈夫ですよ……芝里(しばり)先輩」

 

芝里先輩は、トレセン学園では知る者がいないほど有名なチーム・メテオのサブトレだ。

ウマ娘専門の医者一家の三男として、幼いころから医者になることを切望されていながら、あらゆる期待を振り切ってトレーナーを志した。

ご実家はあのメジロ家の主治医も輩出しているほどの名門だと言うから、そこから飛び出すのは簡単にできることではない。

ほぼ独学で知識を蓄え、そして最も優秀な成績でトレーナー資格を得たにも係わらず、先輩は担当ウマ娘を持つこともなくサブトレのままだった。

 

多くのトレーナーはその理由を知りたがっていたが、先輩がそれに答えたことはない。

ただ、思うに先輩は、あのチームに支えるべきウマ娘を見つけたのではないか、と思う。

であればハーツクライのトレーナーのように共に独立すれば良いのに、先輩1人でだって問題ないはず、と考えたこともあるが、そうしないのには何か深い事情があるのかもしれない。

野暮なことには首を突っ込まないのが賢いトレーナーの在り方だ、と俺に説いた先輩に倣い、今までソレに突っ込んだことはないのだが、そのおかげなのか先輩には可愛がられている方だと思う。

今回デジタルが滞在しているホテルを押さえることができたのも、芝里先輩あってこそだ。

 

『今日は早朝から悪かったな』

「早朝……ああ、サンジェニュインからの電話ですか。いえ、大丈夫です。むしろ俺の担当ウマ娘がすみません」

『いやいや、サンジェニュインが気絶させたようなものだから……』

 

実は今日の朝6時くらいに、見知らぬ番号から電話が掛かった。

はじめは悪戯電話かと考えたが、番号を調べるとデジタルが滞在しているホテルのナンバーだったためすぐに出たのだ。

デジタルに何かあったのかと思ったが、電話口の相手はサンジェニュイン── 日本トレセン学園が世界に誇る、最上のウマ娘だった。

冷静沈着、誇り高く知的、の前評判を踏襲するように、その声はハキハキと、そして冷ややかに聞こえた。

少し棘のようなものも感じつつ話を聞けば、ホテルの外で気絶しているデジタルを拾ってくれたのだと言う。

まずはお礼を述べ、デジタルがロイヤルカップを見に渡英しているのだと伝えると、言葉尻はずいぶんと柔らかくなった。

 

……もしかしなくとも、ウマ娘をロクに管理せずに放置するクズのようなトレーナーだと思われていたのだろうか。

心外だが、夜遅くにウマ娘が外で気絶しているのを見てしまえば、疑いたくなる気持ちもわからなくはない。

俺も気絶しているのがデジタルでなければ、管理しているトレーナーの無能ぶりを疑っただろう。

サンジェニュインは、デジタルを無事にホテルに届けたこと、届けきる前に意識が回復したデジタルと目があってしまい再び気絶したこと、などを教えてくれたが、最後に関してはデジタルの持病のようなものだ。

デジタルは全ウマ娘を推しと言って憚らないウマ娘だが、その中でも特にサンジェニュインを推していた。

推し活の一環として、あらゆるウマ娘の同人誌を書いているデジタルが、サンジェニュインは恐れ多くて手が出せないと言うほど。

常々、あの顔の、あの走りのここが美しいのだ、と語って止まないデジタルが、至近距離でその美しさを目の当たりにすれば気絶するのも当然。

だがそれを知らないサンジェニュインは、自分のせいで気絶させてしまったと思っているのか、最後は何度か謝られた。

 

「デジタルはサンジェニュインが見れた興奮で気絶したに過ぎません。サンジェニュインの所為ではないので、気にしないようお伝えください」

『……興奮で気絶?』

「ハイ。デジタルはウマ娘が好きで……なのでよくあるんです」

『……他にもいたのかそういうタイプ』

「え?」

『いや、こっちの話。……サンジェニュインにもそう伝えるが、アグネスデジタルにはサンジェニュインが運んだことを言わないでほしい。アイツ、目立つのはそんなに好きじゃ無いんだ』

「わかりました」

 

まあ、サンジェニュインに運ばれたなんていう事実を知ったら、デジタルはその瞬間からロイヤルターフを観戦するどころではなくなるだろうことは予想がつく。

サンジェニュインから連絡があった時点で、ホテル側にも「ホテルスタッフの手を借りて戻ってきた」という事にするよう頼んでいた。

 

それにしても、目立つことがそんなに好きじゃない、というのは意外だったな。

見た目もレースもド派手だから、てっきり注目されるのが好きなのだと思っていたが。

思わず口に出していたのか、芝里先輩は苦笑いを零しながらも言葉を続けた。

 

『みんなが思うより、本当はすごく繊細なやつでなあ、これがまた、すげえ手が掛かるんだよ』

 

紡ぎ出す言葉に反して、その声色が少し嬉しそうなのは聞かなかったフリをする。

手が掛かる子ほど可愛いと思える気持ちは、俺にもよくわかったからだ。

 

「それではこれで」

『おう、休み中に悪かったな、──』

 

呼ばれた名に、軽く唇を噛む。

 

(たける)と呼んでください。ソレ(・・)で呼ばれるべきは、彼女だけなので」

『……お前も難儀なやつだよなあ』

「先輩だって似たようなものでしょう」

 

俺の言葉に、先輩は小さく笑った。

 

『だからだよ』

 

その声は懐かしさを帯びているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── ある哲学者は言った

 

“ 友情は幸福を向上させ、悲惨さを和らげ、喜びを2倍にし、悲しみを半分にする ”

 

つまり──

 

「イギリスという異国の地に戦場を移したウマ娘ちゃんに寄り添い、励まし、時には痛みを分け合い、時には喜びを重ね合う── 帯同ウマ娘ちゃんは尊いッ!!!!」

 

あたしはアグネスデジタル。

ホテルの外で気絶したと思ったら、ベッドで寝こけていたどこにでもいる平凡なウマ娘。

昨日はあの後、運良くホテルスタッフさんに拾って貰えたらしい。

ありがとうホテルスタッフさん、ありがとう……!

おかげで今日も元気良く、ウマ娘ちゃんたちのキラキラとした姿を見ることができる。

 

「くぅ~~……!同郷のウマ娘ちゃんが挑む大舞台のために自分の練習を横に置いて献身的にサポートするウマ娘ちゃんの姿はそうまるで聖母ッ!!!!今日の観戦はさながら受胎告知を(えが)く気分で挑むべきでは????つまりレオナルド・ダ・デジタル!!!!」

 

ワールドロイヤルカップの2日目、アスコットレース場で開催されるロイヤルターフは、出走するウマ娘ちゃんたちがメイントラックに現れる、レース開始10分前からその他のウマ娘の立ち入りが禁止される。

でもそれより前であれば、観客席に限って立ち入りが許可されていた。

あたしはカメラを片手に観客席に入り、これからウマ娘ちゃんたちが駆け抜けるコースを必死に撮影する。

おっとうっかり他のウマ娘ちゃんもフレームインしたけど仕方ない、ねッ!!ウマ娘ちゃんいっぱいだから、ねッ!!

 

「ふぅ、撮った撮った。帰国したらトレーナーさんと一緒に見よお、っと……?」

 

一通りの撮影を終えて退散しようとしたところで、ウマ娘ちゃんの声は聞き逃さないデジたんイヤーがピン、と立つ。

 

「ヒョ……ッ!?オイオイオイ、死んだわあたし」

 

雑踏に紛れて聞こえる涼やかなお声、健やかな言葉遣い、張り合うような脚音、間違いない……ッ!

これは──

 

「うおー!すっげー!」

「ちょっとウオッカ!子供みたいにはしゃがないでよ、側にいるアタシまで同類だと思われるじゃない」

「ああ!?だったら離れりゃいーだろ!?」

「あんたが迷子にならないように一緒にいてあ・げ・て・る、のよ!」

「誰も一緒にいろとは頼んでねーだろッ!」

 

ウオッカさんとスカーレットさんだ~~~~!!!!

 

えっ、いやいや、えっウソ……ここでも2人……?えっ理解が……現実なのコレ現実ですか??

ヒッ、鼻先がピタッとくっついた状態で言い合ってる~~~~!?!?

どういう心境?どういう距離感?

その間に生じるわずか数センチの差は柔らかい心の隙間、埋め切れない距離に込められた複雑な気持ちから垣間見えるお互いへの……つまり、えへへ、そういう、そういうことですかぁ……!?

 

「よきみがすぎるぅ……!」

「はぁ?」

「……デジタルじゃない!アンタもこっちへ来ていたの?」

「ほえ……?」

 

し、しまった……!

お2人の声が聞こえてとっさに伏せたものの、場所はお2人からさほど離れていない。

 

「なんでそんなとこで蹲ってんだよ、ほら」

「あばばば……ッ!」

 

ウオッカさんに手を引かれて立ち上がる。

── Oh……!手に触れてしまったYO!

自然とお2人の間に挟まれる立ち位置になってしまい、あたしは脳内で頭を抱えた。

 

だ、ダメダメ!

あたしが間に挟まるなんてずぇーったいダメ!

こんなのフルーツサンドのクリームの間にわさびをいれるようなモノ!

しかし逃げ場はなく、あたしはウオッカさんとスカーレットさんというキラキラなお2人に挟まれてしまった。

 

「デジタルも見に来てたんだな」

「ひゃい……」

「ちょっと、アンタが急に腕掴むからびっくりしてるじゃない」

「エッちが……」

「お前がでかい声だすからだろ!」

「エッちが……」

「なんですって!?」

「なんだよ!?」

 

ヒエエエ~~~~~ッ!!!!

かんっぜんに2人の世界ッ!!もうお互いしか眼中にないという気迫ッ!!

誰が間に入ろうとも、気になるのは相手のことだけ、ってコト……!?

 

ええ~~!!

ソレって、ソレってえ!!

 

た・ま・ら・ん……ッ!

 

「デジタル……?デジタル、鼻血出てるぞ!?」

「はぇ……?」

「ちょ、アンタこれ使いなさい!」

「しゅ、しゅびばぜぇん……!」

 

可憐なウマ娘ちゃんの前で鼻血を出してしまうなんて、アグネスデジタル、一生の不覚……ッ!

……あ、このハンカチ良い匂いがする~~!!

 

「もう大丈夫?デジタル」

「は、はい……すみませんでした……!」

「いいのよ。……もしかして最初から具合悪かった?」

「蹲ってたのってそのせいか!?だったら急に腕引っ張っちまって……悪かったな、デジタル」

「い、いえいえ!!全然、本当にぜんっぜん具合悪くなくて……むしろ元気いっぱいだったと言いますか、あれは興奮のあまりといいますか……!」

「興奮?」

 

何いっちゃってんのあたし~~!

怪訝そうな顔をする2人だったけど、ウオッカさんがピンときた顔で頷いた。

 

「アスコットレース場、でかくて豪華で興奮するよな!オレはわかるぜ!」

「そ、そうなんです……!こんなきれいなターフをウマ娘ちゃんたちがあらゆる覚悟の中で走り競り合い叩き合い一瞬のきらめきを残すなんて想像しただけで胸がいっぱいになって叶うなら最前列で見たいレベルでッヒャハ!」

「デジタル!?」

「なんでもないです……本当に興奮してるだけです……!」

「そ、そう。伝統と格式あるレース場、いつかアタシも走ってみたいと、ッ!?なに!?」

 

ワッと響きあがった歓声に、あたしたちは思わず耳を押さえた。

まだレースが始まるまで十分に時間はある。

出走するウマ娘ちゃんはまだ来ないはずなのに、なにかスペシャルイベントでもあるのだろうか。

 

「歓声……?向こうの入り口になんか集まってんな」

「……ねえ、アレ、白い髪って、サンジェニュインさんじゃない?」

「サンジェニュイン先輩!?……確かに、白い髪に、アッ」

 

人垣が少しだけ割れて、その中央にいるウマ娘ちゃんの姿が見えた。

白い髪の毛はまるで真珠のごとく光り輝き、そのつやつやと光り輝く肌は乳白色、実に優雅な脚取りで前に進むウマ娘ちゃんの頭上には天使の輪が光っているのでは……?と思ってしまうほど。

全体的に白いワンピースを風に揺らしているその姿は、スカーレットさんが言う通りサンジェニュイン様に似ていた。

 

でも──

 

「サンジェニュイン様じゃない」

「えっ?」

「サンジェニュイン様の最新の髪型は顎の下ギリギリの長さのふわふわ真珠色で、パチリとしたおめめは確かに似ていますが光の輝きが違う、それにサンジェニュイン様は白い勝負服を着こなせど耳カバーは栗色に金刺繍なので」

「く、詳しいのねデジタル」

「でもよお、顔もそっくりだぜ……?サンジェニュイン先輩じゃなかったら誰なんだ?」

 

少しだけ頬を赤く染めたウオッカさんの言葉に、スカーレットさんも確かに、という顔をする。

口にしないあたりが「ウオッカに同意するなんて」という若干のくやしさがにじんでいるように見えて、うふふ、ちょっとご飯3杯いけそうです!

じゅるりら、と流れそうになったよだれを拭って、あたしは頭の中に浮かんだある1人のウマ娘の名前を口にだした。

 

「サニーファンタスティックさん」

「さ、さにー……?」

「サニーファンタスティックって、前にトレーナーが言ってた「英国三冠ウマ娘にもっとも近いウマ娘」じゃない!?」

「……ああ!!」

 

そう、スカーレットさんがおっしゃる通り、サニーファンタスティックさんは英国三冠ウマ娘に最も近いお方。

そして、我が国の太陽とまで称されたサンジェニュイン様の──

 

「妹様」

 

眼前に見えるお姿にうっとりしながら、あたしは胸の前で手を合わせた。

 

「妹ォ!?サンジェニュイン先輩の!?」

「……シルバータイムさんもサンジェニュインさんの妹だったはず。ってことは、ウオッカ!シルバータイムさんが前に言っていた海外の親戚!」

「……そう言うことか!」

 

スカーレットさんやウオッカさんが所属するチーム・スピカに、シルバータイムさんが接触している情報って本当だったんだ~~!?という驚きを感じつつ、あたしは努めて冷静にふるまった。

 

「シルバータイムさんと言えばサンジェニュイン様の妹分の中でも特に期待値の高いウマ娘としてあまりに有名。しかしサニーファンタスティックさんはそれらを上回るのです。ウマ娘としての知名度はもちろん、その走りも姉であるサンジェニュイン様が「英国三冠を取るとしたらサニーファンタスティックが一番近い」と豪語なさるほどッ!サンジェニュイン様の慧眼は確かなものとしてファンやトレーナー陣の間では有名ですし実際に二冠ですからねそれとアメリカにいるシャイニングトップレディさんもサンジェニュイン様の妹ですが既に米国三冠を達成しておりこちらもデビュー前からサンジェニュイン様が「米国三冠を取るとしたら」として名前をあげて──」

「デジタル長い長い長い」

 

ハッ、しまった……!

ついついオタク特有の「早口長文」になってしまった~~!!

両手で口を押さえ、お2人の反応を伺った。

 

「サンジェニュイン先輩ってご姉妹が多いのね。たしか、ハッピーミーク先輩やサニーメロンソーダ先輩も妹だったはず……合ってる?デジタル」

「ご名答です!現在日本のトレセンには4名ほど妹様がご在籍中なんですねえ!」

「そうだったのか。……でも、そのサニー……ええっと」

「サニーファンタスティックよ。その人がここにいるのは、お姉さまであるサンジェニュインさんの応援のためでしょうけれど、どうしてわざわざ観覧席まで来たのかしら」

 

それはおそらくファンの下見でしょうけれど、と言ってもどういう意味か聞かれたら答えに詰まる~~!!

 

サニーファンタスティックさんは、ある界隈では非常に有名なお方。

その界隈とは何か、と言えば── シスコン界隈です。

姉であるサンジェニュイン様を猛烈に慕っているサニーファンタスティックさんは、お姉様に仇なす存在がお好きではない。

というか嫌い!

そのため、国外でお姉様がご出走される時は観覧席の下見に訪れ、害になるものを排除、げふん、退けていらっしゃるのです。

 

ああ、なんて美し姉妹愛……!!

 

「あ、戻っていった」

「なんだったのかしらね」

「さあ……アッ、やべえ、おいスカーレット、もう少しでライブビューイングの会場入りが始まるぞ!?」

 

慌てたように会場の大時計を指さすウオッカさん、なんてかわいらしい動き!

常にエネルギッシュで少しワイルドな動きをなさるお方ですが、ふとしたときにちいちゃく動くときがあり── 今まさに、震える手で指さすという非常にかわゆい……かわゆい!

ライブビューイング会場には何時から入場しなければならない、という決まりはないけれど、一般席は座ったもの勝ちなので早めに入るに越したことはない。

あたしは指定のS席をトレーナーさんが取ってくれたので、レースが始まるギリギリに入場すればセーフ。

ありがとうトレーナーさん!!!!

 

アッていうか。

……待って、待って待って待ってください。

今からお2人でライブビューイング会場に赴くということは、ライブビューイング会場の一般席が座ったもの勝ちということは、それってつまり、つまり……!

顔が向き合えばかるぅく喧嘩になってしまうお2人が、並んだだけでムスッとしてしまうお2人が、気に入らないっていがみ合うお2人が──

 

ウオッカさんとスカーレットさんが隣同士で座る可能性が……!?

 

オ゜……ア゛……ッ!!!!

 

「うそ、もうそんな時間!?デジタル、アンタもライブビューイング会場に行くわよね?せっかくだから一緒に行きましょう」

「ミ゜」

「行くぞデジタル!」

 

次に意識が戻った時にはライブビューイング会場の入り口でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サンジェニュイン」

 

引き留める声に、サンジェニュインちゃんが振り返る。

栗色の髪の毛を揺らしたウマ娘は、サイレンススズカ。

サンジェニュインちゃんと双璧をなすという、逃げウマ娘の姿に自分はついつい視線を向けてしまった。

 

均整の取れたボディライン、のびやかな四肢はなるほど、自分らのトレーナーさんが要注意と言うだけのことはある。

こちらも昨年から海外レースが中心だと言うし、マスコミ各社が「逃げのライバル対決」と呼んで煽るのも無理はない。

でも、自分としてはそんなことよりも、大事なことがある。

 

「私、今日はあなたに勝ちに来たわ」

「……そう。よろしくってよ」

 

扇で口元を隠すサンジェニュインちゃんの、その口角がゆるりと上がっている。

反対側に控えていたシーザリオちゃんにもそれが見えたのか、表情は動かさずでもギュっと拳を握りしめているのが見えた。

 

── わかるよ、珍しいっスもんね、サンジェニュインちゃんがメテオや生徒会のウマ娘以外に反応を見せるなんて

 

それが好意的であるにせよ、悪意的であるにせよ、関係ない。

大事なのは、サンジェニュインちゃんが反応しているということ。

 

「用はそれだけかしら」

 

自らを守るための鎧が、サンジェニュインちゃんの口から漏れる。

その口調と見た目とが相まって「冷酷無慈悲、誇り高き女王」などと呼ばれるサンジェニュインちゃんが、実は虫取りと標本作りが趣味で、森で駆けまわるほうが好きな野生児だと言っても、誰も信じないだろう。

 

最も、サンジェニュインちゃんがそんな姿を見せるのは自分らの前だけっスけど。

 

反応をしないサイレンススズカを見て踵を返すサンジェニュインちゃんに道を譲り、その後を付いて歩き出す。

2メートルほど歩いたところで、大きな声がサンジェニュインちゃんを引き留めた。

 

「あのッ!サンジェニュインさん……!」

「……なにかしら」

 

半分だけ振り返ったサンジェニュインちゃんに、大きな流星を持つウマ娘が口を開いた。

 

「私、今回は、今回は、負けません……ッ!」

 

よく見れば、ジャパンロイヤルターフでサンジェニュインちゃんに負けたウマ娘だ。

名前は確か、スペシャルウィーク。

その友人だというハルウララとは親交があるので、彼女の話は何度か聞いたことがある。

日本ダービーとジャパンカップを制した実力は間違いないだろう。

 

でも相手は、サンジェニュインちゃんだ。

 

「……よろしくってよ」

 

扇が少しだけズレる。

その合間から見えただろう微笑みに、サイレンススズカとスペシャルウィークが固まるのを見て、サンジェニュインちゃんは今度こそ脚を進めた。

通路の角を曲がり、自分らしかいなくなったところで、サンジェニュインちゃんが扇を下す。

その時に浮かべていた表情の、獰猛さ。

 

「── まもなく、ワールドロイヤルターフが始まります。出走するウマ娘は、ゲート前に集合してください。また、未出走のウマ娘は、順次会場から移動してください」

 

響いたアナウンスに、自分は手を差し出した。

広げた手のひらに、サンジェニュインちゃんの扇が乗る。

今度はシーザリオちゃんが手を差し出すと、羽織っていた白いコートが手渡された。

 

「今日もオレは最高だ。……そうだよな?」

 

もちろん、いつだってサンジェニュインちゃんは最高っスよ、と。

異口同音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよいよ始まりました。ワールドロイヤルカップ、ターフ部門。出走する16人のウマ娘をご紹介します」

 

イヤホンから流れ込んでくる音声は日本語。

アスコットレース場のウマ娘専用ライブビューイング会場では、観戦するウマ娘1人につき1個イヤホンが渡されている。

スイッチひとつで言語を変えられる優れものだ。

 

「いよいよ始まりましたねえ」

「……サンジェニュイン先輩、大丈夫ですかね」

「問題ないっスよ、いつも通り」

 

そう、いつも通り(・・・・・)

 

── そもそもあの()に、大舞台への緊張感なんて、今更な話なんスよねえ。

 

物怖じしない、緊張しない。

たったそれだけのことが、どれほど強いか。

 

「肉体は、完璧な精神によって錬成される」

「え?」

「……どんなに素質があろうとも、心で負けては話にならない、ってことっスよオルフェーヴルちゃん。さ、前を見て。……君が目指すすべてが、そこにある」

 

太陽よりも眩いと評された、サンジェニュインちゃんの白い勝負服が緑に映える。

彼女が歩んだ覇道を、今度はこの栗毛の後輩が引き継ぐのだ。

その精神を、走りを、在り方を、輝きを。

見れるうちにすべて、生で感じて貰わなくてはならない。

 

 

 

「── 1番、サイレンススズカ。アメリカロイヤルターフの優勝者です。現在4番人気。この評価には少し不満か。距離適性への不安視と、アメリカとの芝質の違いで人気がやや伸び悩みました。しかし安定感のあるボディメイク、仕上がりは上々です」

「得意の軽やかな走りで魅せてほしいですね」

 

 

「── 12番人気、7番、スペシャルウィーク。海外レースはこれが初参加。パワフルな脚質を武器に、後方からの差し込みイッキを狙います。日本ダービーやジャパンカップを制している実力の持ち主、チャンスは十分にありますよ」

「焦らず、自身のペースでレースを進めて貰いたいですね」

 

 

「1番人気はこの()、16番、サンジェニュイン。昨年、アスコットで開かれたキングジョージの覇者です。ウマ娘のワールドレーティング現在1位の看板を引っ提げて、その期待に応えんと悠々とした脚取りでゲートイン」

「これ以上無い仕上がりでしょう、レースに期待大」

 

 

 

ファンファーレもないアスコットレース場のゲート入りは静か。

全員が黙してその時を待っているのが、ライブビューイング会場からでも解った。

自分は無意識に唾を飲み込み、その時が来るのを今か今かと待つ。

 

心配かって?

まさか、なにも心配していない。

あるとしたら──

 

「ゲート入り完了。体制整いました。──ゲートが開いて今、スタートしました!」

 

彼女に押しつぶされるウマ娘たちが泣きださないか、っていう心配だけ。

 

「ハナを奪い合うのは1番サイレンススズカ、大外からグンッと伸びてコレに並ぶのは16番サンジェニュイン。双方見事なスタートダッシュをキメました!」

「勝利の鍵は「ハナ」にあると語ったのはサイレンススズカ。宣言通り、大逃げに打って出ましたね。ただしサンジェニュインのスピードも負けていませんよ」

「互いに逃げウマ娘。スピードの頂点を競い合います。続く3番手集団を率いるのはウィジャボード、内に入ってエルメスロード、外から外からビーショットウィリー、2バ身差の位置にマッチポインター、差がなくキングリリーフ、ナイトナハトマジーク少し蛇行しているか、それを追走するのはロイヤルラスキー、半バ身差で外に持ち出しているのはスペシャルウィークこの位置です。そこから4バ身空けてペルシャビナーズが上がってくるか、最内を縫い進むマスターズランとその背後にピタリとついて上がってくるのはリッカパッカ、リッカパッカがマスターズランを抜かしてベルシャビナーズに並んできたが苦しそうだ」

「掛かっているのでしょうか、一息つけると良いですね」

「後方もつれ合う3人はバイロン、オールドパスが競り合う状態で進み、シンガリにぽつんとアイランドリリー」

 

サンジェニュイン先輩が並ばれてる、と声を漏らしたのはオルフェーヴルちゃん。

シーザリオちゃんも一瞬だけ心配そうな顔をしたけれど、それはすぐに消えた。

 

サイレンススズカとサンジェニュインちゃん。

お互いに逃げウマ娘。

序盤から競り合いになるのは日を見るよりも明らかだったから、サンジェニュインちゃんはあえて並ばれることを選んだ。

 

「真横にウマ娘がいるの、すっごい嫌なのにね」

 

しかし仕方ない。

相手はほぼ同じスピードの持ち主だから。

 

「スタミナ勝負ってワケですねえ」

「サンジェニュインちゃんはスタミナもパワーも並じゃないっスから」

 

サイレンススズカはマイルから中距離を得意とするウマ娘。

彼女には2000メートルが最適であると判断したトレーナー── 日野トレーナーの判断はおそらく間違ってはいない。

ただし、サイレンススズカは芝2400メートルのアメリカロイヤルターフで優勝している。

決して走れないわけではない。

 

「だからこその、スタミナとパワーの勝負」

 

アスコットレース場は洋芝。

日本やアメリカの芝よりも多くの力を必要とする馬場。

力がありすぎるサンジェニュインちゃんにとっては最適だが、果して、その他のウマ娘にとってはどうだろうか?

 

「先頭2人は悠々とアスコットの最初のコーナーを抜け、上り坂を駆けあがって── おおっとここでサンジェニュイン、サンジェニュイン前に出たッ!サイレンススズカちょっと苦しいか、上り坂でスピードが落ち気味ですがこれは大丈夫でしょうか」

「日本やアメリカよりも深い馬場ですから、通常より多く体力を消費している可能性があります。どこかのタイミングで力を溜められると良いのですが」

「3番手集団からはウィジャボード、スペシャルウィークが共に上がってくるぞ、エルメスロードは疲れが出たか、集団の後方へと下がっていきます。代わりにキングリリーフがグッと伸びてきて、それに倣うようにペルシャビナーズ、ビーショットウィリーが追走しますが先頭2人に引っ張られて、レースはかなりのハイペースを刻んでいます。後方集団はここから巻き返せるのでしょうか、気になる開きです」

「やや縦長ですね。3番手集団がいい位置にいるので、前の2人に隙ができた場合は展開が大きく変わりそうな気がします」

「もう1度先頭から見てみましょう。現在ハナを征くのはサンジェニュイン、堂々とした走りで2番手サイレンススズカに1バ身リード、さらに3バ身差の位置にウィジャボード、大外からスペシャルウィークが虎視眈々と── いやここで一気に仕掛けたスペシャルウィーク!その走りはまさに全身全霊だ!いつもより早いタイミングで前の方に来ていますが、スペシャルウィークこれは正解でしょうか」

「彼女の脚質には合っていますね。あとはここからどのくらい差を縮められるか、どれくらい力を残せるかで展開が変わります」

 

サンジェニュインちゃんが先頭をひた走る。

どんなに追いかけようとも遠ざかる背中に、多くのウマ娘が手を伸ばす。

 

その背中に、大きな翼が、きらきらと光り続けていた。

 




次回もウマ娘回!!!!

なので(?)明日の更新は2話あります



今回も嬉しいことにイラストを頂きました!!!!

イラストを描いてくださった方:ヨモモ様

キラキラしてるサンジェニュインかわいい~~!!若干得意げなのがいいっスねえ!!
https://img.syosetu.org/img/user/212460/85982.jpeg

イラストを描いてくださった方:ぴょー様
なんと2枚目……!前回に引き続きありがとうございます!

メッセージ頂いたときのタイトルが「カネヒキリハッピーラブラブライフ」だったのでその世界戦に紛れ込んだかと思いましたありがとうございます!!
https://img.syosetu.org/img/user/272009/85955.jpeg

完全素人ニキの愛馬名アンケート

  • サニードリームデイ
  • サンシカカタン
  • タイヨウノムスコ
  • タイヨウハノボル
  • ブライトサニーデイ
  • ラブディアホワイト
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