【完】これは圧倒的美貌で凱旋門賞馬になる俺の話 作:SunGenuin(佐藤)
妙に長くなっちゃったので、今日は2話構成ではなく3話構成でいきます。
記事のところだけ抜き出して先に投稿するので今回は3千文字でめっちゃ短い。
次の投稿は本日18時で、その次が22時です。
2021/10/10 追記
下記再編成により、65~67話まで加筆修正を行いました。
よりによって凱旋門賞でプロットのガバが発生したので組み直しです。
70話完結予定だったのですが、このガバでどう足掻いても70話無理だったので再編成した結果74話でまとまりそうです。
体調と相談しながらですが、10月の完結を目指して更新スケジュールも立て直しました。
予定通りいかない回もあるかと思いますが、どうか最後まで温かくお見守りいただけたらと思います。
よろしくお願いします!
《史上初を目指して── 待ち望んだ大舞台へ、サンジェニュイン号》
ガネー賞26馬身差。
サンクルー大賞典5馬身差。
キングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークス6馬身差。
そしてインターナショナルステークス12馬身差。
圧倒的な逃げ脚を武器に、ここまで4戦4勝で駆け抜けてきたサンジェニュイン号の次走は、凱旋門賞。
スピードシンボリが日本調教馬として初めて参戦し、近年はエルコンドルパサー、マンハッタンカフェ、そして昨年のタップダンスシチーが挑んでは、その固く閉ざされた門の前に立ち尽くした。
その門を打ち壊すために、日出ずる国の太陽馬として、サンジェニュイン号が挑む。
凱旋門賞への出走は、ガネー賞での大勝利を受けてすぐに発表された。
距離こそ違えども、ガネー賞と凱旋門賞は共にロンシャン競馬場で開催される。
そのターフで軽やかに走り抜けて叩きつけた26馬身差は、記録にも記憶にも深く残る印象深いレースだ。
凱旋門賞へ向けて、大きなアピールになったことも確かだろう。
続くサンクルー大賞典では、ターフの技巧者ことグラン・リュベール騎手の奇策で、その愛馬・プライド号に序盤は包まれたものの、そこから鮮やかに抜け出して逃げ切り勝ち。
重い馬場でスタミナを削られてもなお、終盤で加速できる地力の高さを見せつけた。
遠征場所をイギリスに移して参戦したキングジョージでは、右後ろ脚を負傷するアクシデントに見舞われるも、その影響を見せることもなく先頭のままゴールイン。
同レースには、ドバイシーマクラシックで敗れたハーツクライ号も出走していたため、約4ヶ月ぶりにリベンジが叶った形だ。
また、相手は世界一級クラスの馬が多く、ハリケーンラン(前年・2005年の凱旋門賞勝ち馬)やエレクトロキューショニスト(前年・インターナショナルステークス勝ち馬)も脚を揃えていた。
ここではサンジェニュイン号という馬が持つ、諦めを許さず、どこまでも先頭を狙い続ける意識の高さが垣間見えるレースだったと言えるだろう。
私が特に素晴らしいと思ったのは、インターナショナルステークスでの12馬身差圧勝だが、
この決め手はレースの中で調子を回復できた点。
走りながら自らの調子を整え、身体をつくり、持ち直して走り続ける。
このような馬は希有と言えるだろう。
レース前から調子が悪ければ、走らないのが定説だが、サンジェニュイン号はいつも通りの見事なスタートダッシュを見せると、最後のコーナーから一気に立ち上がって加速。
終始、他馬に影すら踏ませずに走り続け、勝ち時計はレコードタイムをマークした。
その白い馬体にきらめく赤い手綱は、亡き僚馬・ラインクラフト号の形見だが、天国へ駆け抜けて行った彼女へ手向ける、世界で最も美しい勝利の花束になったのではないだろうか。
この勢いのまま、凱旋門賞の舞台でも、赤い手綱がキラリと光るシーンを見せて欲しい。
ところで、2006年になってから1度も日本で走っていないサンジェニュイン号を指して、海外かぶれと断ずる妙な風潮がここ数ヶ月で広がっていたが、彼が積み上げる勝利の前に、それらは囁きにすらならないのである。
凱旋門賞という大舞台での日本調教馬の勝利を願いながら、海外遠征を重ねる馬を軽視するのはいかがだろうか。
長期遠征へと繰り出し、歴代の日本調教馬として最高順位となる2着まで戦いきったエルコンドルパサーの例を取っても、この軽んじるような風潮は今回限りで払拭すべきだろう。
彼等は勝利を得るために必要なあらゆる手段を選んでいるにすぎず、そのような挑戦もせずに勝てるような楽なレースでないことは、この40年近い挑戦の歴史の中で痛いほど味わっているはずなのだから。
そもそも私がサンジェニュイン号を強気に推すのは、もちろん彼への期待に拠るところが大きいが、それと同じくらい、サンジェニュイン号の勝利のために邁進する陣営の姿に好感を抱いているからだ。
その脚の適性が洋芝にあると判断し、掛かる遠征費に苦慮しながらも海外レース1本に絞って走らせた成果は、4戦4勝という華やかな戦績はもちろん、
ヨーロッパのタフな馬場に適応した脚、漲るパワー、疲れ知らずのスタミナ、他馬の追走を許さないスピード。
それらはディープインパクト号とたたき合ってきたクラシックレースから、海外遠征を経てさらに凄味を増し、世界中のホースマンの目を奪うだろう。
ロンシャン競馬場に刻まれた数多の名馬たちの勝利への渇望を踏み切って、その力のある限り前だけを目指す白毛の名が、未来永劫そのターフに残る日を、楽しみにしている。
《世界に走る衝撃の風── 日本のレースから世界へ羽ばたく、ディープインパクト号》
2006年度、国内無敗の4歳牡馬・ディープインパクトにとって、立ちはだかる壁の名はひとつだ。
“ サンジェニュイン号 ”
クラシックレースの激戦からまもなく1年が過ぎようとしている。
私にとって、やはりディープインパクトのライバルと言えば、この馬だ。
ただ残念ながら、サンジェニュイン号は海外遠征を繰り返し、日本の競馬場では走らなくなった。
ライバル不在の古馬戦線を、ディープインパクトは調子を落とすことなく、どのレースも強い走りを見せて3戦3勝。
阪神大賞典では向かい風を撥ね除けて6馬身差。
天皇賞・春では後続に5馬身差、勝ち時計3分13秒ジャストのレコードタイムを出した。
続く宝塚記念でも第4コーナーから強襲して一気に先頭に躍り出ると、そのまま6馬身差で勝利した。
鞍上の竹騎手がほとんど持ったままのゴールだったため、実力の半分も出していない状態だろう。
どんな場面であっても、後方から見事な末脚を爆発させて登ってくる鹿毛の馬体は、ターフで力強く輝いている。
管理する沼江調教師も満足気で、次走となる凱旋門賞への期待を滲ませる。
海外レース初参戦などの不安感もあるようだが、距離適性は間違いなくあっていること、また稍重でのレースとなった神戸新聞杯での上がり3ハロンのタイムを見ても、決して苦になる馬場ではないと発言している。
また、北海道にあるノータンファームの洋芝のコースを利用して調教を重ねているようで、不安感はないとのことだ。
その沼江調教師が警戒している馬が2頭。
うち1頭が、国内にいた時から最たるライバルであったサンジェニュイン号。
そしてもう1頭が、昨年の凱旋門賞の勝ち馬・ハリケーンラン号だ。
「サンジェニュインもハリケーンランも楽な相手じゃないよ。逃げ馬と先行馬は、終盤バテるところが狙い目だけど、この2頭はどっちもスタミナがあるタイプだからね、ディープとはちょっと相性が悪いかな。かといって、勝てない相手じゃないよ」
何やら秘策があるようだ。
教えて貰えないかと粘ってみたが、当日の楽しみと言うことなので、フランスで見られることを待つこととしよう。
国内では「日本馬を2頭も出す必要があるのか」と度々議論になる。
海外レースでの成績も良いサンジェニュイン号1頭だけで良いとする動きもあるが、私からすればそれは危険な思考だと思う。
サンジェニュイン号の成績は確かに優れているが、馬群に包まれたときの負担や、戦術の少なさなど、決して完璧な馬というわけではない。
さらに他馬が苦手で落ち着きがなくなる等、レース前後での気性の悪さが目立つ。
これまでの海外レースは少数立てだったためカバーできたかも知れないが、凱旋門賞ではより多くの馬が出走するため、陣営の不安感は増しているのではないだろうか。
ましてや競馬に絶対がない以上、多くの戦術を用いることが出来、また隙の少ないディープインパクトの方が勝機はあるのではないかと思う。
何にせよ、我が国から2頭もの馬が出走するのはこれが初。
どちらが勝っても喜ぶべきではあるのだろうが、この記事を執筆するほどには私はディープインパクトの大ファンである。
日本で生まれ、日本で育まれ、日本の馬場だけを走り抜いたディープインパクト号の最初の軌跡が、凱旋門賞の勝利になったとしたら。
応援するいちファンとして、これ以上の喜びはないだろう。
ターフを揺るがす衝撃の風が、ロンシャンに吹き荒れる瞬間を待っている。
『ってえな!俺の鬣かむなよディープインパクト!!……ちょっと聞いてる?ヴァーミリアンも止めろよ、って、ちょっ、やめ、や……ッやめろって言ったんだろがこのあんぽんたん!おたんこなす!おひたし!』
『ふぁふぁい』
『お前の鬣ながすぎじゃね?』
『うわああ目黒さああああん!!!!!!!』
── フランス入国まで、後12時間。
「本原調教師、凱旋門賞への意気込みは……!?」
「サンジェニュインの調子は大丈夫なのですか!?」
「ここで勝てば日本馬として初の凱旋門賞ですが──」
「鞍上が若手の騎手で本当に大丈夫なんですか!?」
「ライバルはやはりディープインパクトか、それとも前年の覇者・ハリケーンラン……」
サンジェニュインとディープインパクトを乗せた輸送機が日本を発って間もなく。
俺も現地入りするため、芝木くんと共に空港で案内を待っていた。
「とんでもない数ですね、テキ」
「あ、ああ……こんなに記者に囲まれるとは思ってもみなかったよ……ど、どうしたものか」
調教師になって10年近いが、サンジェニュインを管理するようになるまではGⅠレースに勝ったこともなかった。
当然、大勢の記者に囲まれたりマイクを向けられた経験もない。
それは騎手歴3年目の芝木くんにも言えることだった。
押し寄せてきた記者に2人そろって戸惑っていると、背後から声が響いた。
「本原さん、芝木騎手、こちらですよ!」
「── 沼江さん!」
「そろそろ出るみたいで……さあ早くこちらに、吉里さんたちもいますよ」
さすが凄腕の調教師。
マスコミの対応には手慣れているのか、追いすがる取材陣を軽やかに退け、俺たちは沼江さん、ディープインパクトの調教師に案内されて関係者が待つラウンジへと向かった。
「た、助かりました!ああいいったのはどうも上手くできなくて……」
「いえいえ。あちらもアレが仕事とはいえ、もう少し考えてもらいたものですな」
「ははは……そうですね……」
沼江さんはにこやかに微笑んだが、うんざりした雰囲気から彼自身もこういった騒がしさは好んでいないのだろう。
記者たちも沼江さんに相手にしてもらえないのが解っているから、俺たちの方に群がったのかもしれない。
「前にもお世話になったのに……すみません、まだ慣れず」
「いいと言ったじゃないですか。こいうのはね、まあ、お互い様でしょう。我々も本原さん方には遠征準備で助けて頂きましたから。たった2頭の日本馬なんです、できる範囲で助け合っていきましょう」
これがベテランの風格というべきか。
成人すれば10や20の年の差など些細なものと言われることもあるが、沼江さんの姿を見るとやはり経験した年数が違うな、とハッキリわかった。
出発前の記者会見の時でも、返答に困る質問は沼江さんがトントンと捌いてくれたおかげで、焦らず回答できたように思う。
もし俺が沼江さんの立場だったら、あんなにスムーズに助けられたかは断言できない。
ただいつか俺も、沼江さんのように後輩調教師をサポートできるくらいデキた男になりたいものだ。
「やあ沼江先生、本原先生、調子はどうですか」
ラウンジの奥から、コーヒーを手にした金城さん── ディープインパクトの馬主が現れると、沼江さんは快活な話しぶりで大きく頷いた。
「金城くん。ああ、ディープインパクトは良い感じだよ。やっぱりサンジェニュインが一緒だからか、機嫌がよくてね。本原さんには申し訳ないんだけれど」
「あはは……でもサンジェニュインも調子は良いですよ。検疫厩舎にいた間に、精神的に折り合いがついたのか……前ほど他馬を気にすることもなくなりましたから」
俺がそう言うと、
「2頭とも元気でよかったです。……ディープインパクトにとってはこれが初の海外遠征なので不安も強かったのですが、本原さん、本当にありがとうございます。クラブの方にもなんとお礼を申し上げたらいいのか」
「い、いえいえいえっ!どうか頭をあげてくださいっ!帯同馬の件はこちらもどうしようかと考えていたところですので……」
元々、今回の遠征でもサンジェニュインは帯同馬をつけずに単独で行動させるかどうか、クラブ内では意見が分かれて決着が付かない状態だった。
ただ移動が続いたため、サンジェニュインのメンタルケアも兼ねて、検疫厩舎ではヴァーミリアン号が帯同することだけが先に決まっていた。
欲を言えば牝馬か、もしくはカネヒキリ号に帯同してもらいたかったが、サンジェニュインと交流のある同世代の牝馬はほとんど引退しており、またカネヒキリ号も療養中のためそれが叶わなかった。
ヴァーミリアン号は、比較的早い段階からサンジェニュインと併せ馬をしていた牡馬だ。
2頭で併せている時、たまにサンジェニュインが大きく嘶く時もあるが、牡馬を嫌がってと言うよりは、軽くじゃれている時の方が多いので問題ないだろう。
俺が気にしていたのはディープインパクト号。
当初は滞在する厩舎も同じではなかったが、金城さんからの帯同依頼をクラブ側が承諾したことによって、ドバイでのカネヒキリ号と同じく、互いを帯同馬として凱旋門賞に出走することが決まったのだ。
主戦騎手である芝木くんは難色を示していたが、厩務員の目黒くんが問題ないと判断したため、ひとまず検疫厩舎で状態を見ることになったのだが、牡馬2頭と過ごしているにしては、調子は一定を保ち崩れる様子はなかったため、正式に決定した。
サンジェニュインがディープインパクト号とまみえるのは、前年の有馬記念以来のことだ。
栗東での厩舎の位置が離れているため、調教場所で会う機会がそもそもす少ないことに加え、今年はほぼ海外にいたためまったく会っていなかった。
もしかしたら、サンジェニュインの中でディープインパクト号に関する記憶がすっかり無くなり、初対面の馬だと思っているかもしれない……いや、アイツはやたら賢いから忘れるなんてことはなさそうだな。
普通の馬には決して抱かない謎の信頼感を持ちつつ、俺は響いたアナウンスに「いよいよか」と小さく呟いた。
「行きますか」
沼江さんの言葉に頷くと、金城さんが「ダービー以上のドキドキですよ」と口にしたので、俺はつい笑ってしまった。
「そのドキドキを、今年もう5戦くらい味わいました。今回で6戦目です」
海外遠征でドキドキしなかったことはない。
重馬場でこそ真価を発揮する、スピードが増すなど、普通の馬とは異なるサンジェニュインの特別な脚ならば、欧州のレースで輝けると確信はしていた。
でもそれと、緊張しないのとでは話が違うのだ。
管理調教師の贔屓目など抜きに、誰の目から見てもサンジェニュインは本当に普通の馬ではない。
だからこそ、我々が今まで常識としていたような考えに基づく安心感など、得られない。
俺が「ヨシ」とホッと息を吐けるのは、その白毛の馬体が元気よく帰ってきた時だけだ。
「本原さんが言うと、なんだか重みが増しますね」
「キングジョージはヒヤヒヤしたでしょう」
「いやもう、あの時は叫びましたから」
「あんなとこを見ればねえ……私もつい「ああっ」と口から」
「よく走れたものですよ」
本当に、よく走れたものだ。
初めての欧州レースでも、牝馬に囲まれた時も、怪我をした時も、精神的に苦しんだ時も。
最後まで歩みを止めずに走り続けた、その勝負根性に、東京優駿のあの瞬間を思い出す。
“ 努力を裏切るのは諦めだ ”
“ 諦めないことが名馬の条件だと、俺に信じさせてくれ ”
そうして
乗り込んだ飛行機の、その浮遊感に身を任せて目を閉じ、10月1日のフランスロンシャンの空を思う。
晴れて欲しい。
とびきりの晴天になってほしい。
その空から降り注ぐ光を道にして、サンジェニュインの軌跡は世界に刻まれるだろう。
それは史上初の、もっとも美しき白毛の凱旋門賞馬として。
2021/10/10 追記
下記再編成により、65~67話まで加筆修正を行いました。
よりによって凱旋門賞でプロットのガバが発生したので組み直しです。
70話完結予定だったのですが、このガバでどう足掻いても70話無理だったので再編成した結果74話でまとまりそうです。
体調と相談しながらですが、10月の完結を目指して更新スケジュールも立て直しました。
予定通りいかない回もあるかと思いますが、どうか最後まで温かくお見守りいただけたらと思います。
よろしくお願いします!
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