【完】これは圧倒的美貌で凱旋門賞馬になる俺の話   作:SunGenuin(佐藤)

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感想&ブクマ&評価&誤字脱字報告、サンクスサンクス~~!!!!

3話目の更新。
とんでもないミスに気付いてしまって、文章の半分をカットしました。
プロットに矛盾が生じるところだった……ということで明日も投稿あります。

BGMはPENGUIN RESEARCHさんの「決闘」で(凱旋門賞でサンジェニュインと)対戦お願いします

2021/10/10 追記:活動報告
下記再編成により、65~67話まで加筆修正を行いました。

よりによって凱旋門賞でプロットのガバが発生したので組み直しです。
70話完結予定だったのですが、このガバでどう足掻いても70話無理だったので再編成した結果74話でまとまりそうです。

体調と相談しながらですが、10月の完結を目指して更新スケジュールも立て直しました。
予定通りいかない回もあるかと思いますが、どうか最後まで温かくお見守りいただけたらと思います。
よろしくお願いします!


40.決闘 ─ 2006年10月1日凱旋門賞

フランス・ロンシャン競馬場。

欧州各国から多くの観客が集まり、場内は賑わいを見せていた。

うっすらと雲がかかった空を見て、握りしめた手をゆっくりと開いた。

 

「本原さん、いよいよですねえ」

「沼江先生……ええ、もうこの日が来たかと思うと、感慨深いですよ」

「初めて競り合った日が昨日のことのようですな。ただお互い、無事にここまでこれたことを祝いましょう」

「ええ」

 

この日が来るのを待っていた。

誰よりも待っていた自信がある。

あのこの脚が、その適性を持っていると知った日から、夢に描いていた。

決してたどり着けない夢物語ではないと確信していた。

 

凱旋門賞。

 

このロンシャン競馬場のターフに、白毛の馬が姿を見せた時、俺は誰にも見えないようにこぶしを握り直した。

 

(サンジェニュイン、いよいよだ)

 

走らないかもしれない、と言われていた馬だった。

どうにか走らせてやってよ、と言われて預かった、この白毛の馬が、俺にとっての幸福の源。

多くの馬が手元から去って行って、たった1頭残されたこのこだけは、絶対に高みへと連れて行ってやろうと思っていた。

ただ、俺が思うよりもうんと高いところに、俺が連れていくというよりは、連れて行ってもらう形になったが。

その背に芝木騎手を乗せ、ゲートへと収まる姿にうっすらと涙がにじむ。

だめだだめだ、こんな場面で泣いては。

出走できただけで御の字、なんて思っては。

 

勝つためにきたので。

ほかの馬を蹴散らして、その頂点に立つために。

これまで走り抜けてきたすべてのレースは、この時のためにあるのだから。

 

それでも。

 

「楽しめよ、サンジェ」

 

勝てよ、でもなく。

あのこが楽しく走れることを願ってしまうのは、調教師失格なのかもしれない。

だけど、不思議とそんな自分が誇らしかった。

痛みを刻む勝利よりも、楽しかったと笑って帰ってくる姿のほうが、俺にとっては大きな価値だった。

それでいいとも思う。

楽しんで、楽しみぬいて。

 

楽しかったよ、テキって、そう言って帰ってきてくれ。

怪我もなく、ただ泥んこまみれになって。

そうしたら「またこんな汚して」なんて言いながら、それでも最後は抱きしめるから。

 

「……楽しめよ、サンジェ」

 

誰もがそうであるように、その名前に、祈りを込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

向けられたマイクにため息を吐く。

これ以上どんな言葉をむしり取ろうというのだろうか。

輝き出す門の向こう側へと吸い込まれていく、馬たちの背を眺めてなお、まだ足りないか。

 

「意気込みは」

「自信は」

「調子は」

「手ごたえは」

 

言葉を変えても、本質は一緒だ。

絶対など存在しないレースに対して投げかけられた質問への回答は、ただひとつだけ。

 

「負けるつもりで走る馬などいませんよ」

 

勝利も、敗北も、すべて紙一重。

でも誰もが追いかける。

栄光を追いかける。

最初から負けを知り、あきらめ、投げ出す騎手も馬も存在しない。

 

「どうぞ好きなだけ書き立ててください。あなた方の創造の上を行くのが、ホースマンの仕事ですから」

 

書き立てるがいい。

存在しない苦みを、存在しない幸福を、妄執を、苦悩を、快楽を。

それらすべてを塗り替えて、光を与えよう。

 

無音のファンファーレが響く。

閉ざされた凱旋門をこじ開けて、その向こう側へと。

馬たちは駆け抜けた。

 

「全頭ゲートイン完了、体勢が整いまして── 第85回凱旋門賞、スタートしました!」

 

そうしてどよめく場内に、私は小さく笑った。

 

「……思う存分、走ってきてくださいよ、竹さん、ディープ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディープインパクトがすぐ後ろにいてワロタ。

いや笑ってる場合がじゃないが!?

 

アイエエ!?ディープインパクト!?ディープインパクトナンデエ!?

 

「ハナを切ったのは9番サンジェニュイン、安定のスタートダッシュ!出だしでこの馬に敵う相手は早々いないでしょう。後続に3馬身リードをつけてスイスイとロンシャンの直線を進みます。2番手につけたのは1番ハリケーンラン、そのすぐ後ろ、半馬身差の位置に── ディープインパクト!ディープインパクトがもう前にいるぞ、鞍上竹、このコース取りは正解なのか!?4番手集団は込み合いの様子、アイリッシュウェールズがやや抜けて、ベストネーム、プライドがたたき合う状態で進むが、外側1馬身の位置にシロッコ、ほぼ横並びでレイルリンク、シックスティーズアイコンはやや遅れているか現在シンガリ」

「いやあ、サンジェニュイン先頭は想定内でしたが、ディープがあんなに前に出るのは珍しいことです。馬場が稍重である以上、重い馬場を得意とするサンジェニュインのスピードは上がります、後方からのスタートでは分が悪いという判断でしょうか、竹騎手の思惑が気になります」

 

広すぎる視界の端に、確かにディープインパクトの鹿毛の馬体が見え、俺は嘶きたい気持ちを押せつけた。

 

『ええ……お前いつも後方からの競馬だったやろがい!!』

 

と思いつつも、まあ、こういうパターンもあるとは思っていましたよ、ウン。

 

は?強がりじゃないし、本当に思ってたしい!

 

実際、ディープインパクトって出遅れが多いから追込で使われてるだけで、本質は前へ行きたがるタイプっぽいんだわ。

ただヒトのいうことちゃんと聞くやつだし、ヒトのことちゃんと信頼してるから掛かるコトは早々にない。

後方に下げられたって大人しく走って、最高の瞬間を最高のタイミングで飛び出すのだ。

俺だったら「前へ行かせろオラァ!」って叫んでたところだわ。

コイツの我慢強さは本当にすげえな!

 

「クソッ、ディープインパクトがまさかこんなに早くでてくるなんて……ッ」

 

おうおう芝木くん、焦るな焦るな。

お口も悪うなってますわよッ!

 

いやまあね、確かに怖いよな、こいつ後方から追い込んでくるくせにスタミナばっちりあるしスピードもパワーもトップレベルだもん。

逆にコイツに足りないものはなに?って聞きたいくらいだわ。

 

なあ芝木くんよ、覚えてるか菊花賞の時、俺が坂で疲れて一瞬スピード落とした瞬間に、後方からすげえ勢いで切り込んできた鹿毛の馬体。

アイツあのレースを2000メートルだって勘違いして走ってたっぽいから、たぶん走るペースは崩れてたワケだろ?

それなのにグングン上がってきて並んできた時は、なんだこいつ、怖っ!?って思ったもんな。

どうしても負けたくない、コイツにだけは、このレースだけはって意地だけで加速してなんとか勝てたわけだが。

しかもレース後さあ、爆走の反動で俺は立てなくなってたのに、ディープインパクトのやつはピンピンしてたって聞いて、もう意識ぶっ飛ぶかと思った。

アイツもやべえペースで走ってたのになんで反動来てないんだよ……!

 

それと今回の遠征な!

シャンティイでの調教でアイツ、初めての洋芝のはずなのにすいすい走っちゃってまあ。

あのハーツクライさんだって「思った以上に重い」って走り方ぎこちなくなってたのに。

なんで最初の1本目から調教のタイム差無しなんですかねえ!?

俺は洋芝や重い馬場が最高にマッチする分、パンパンの和芝では脚を痛めるリスクがあるっていうのに、ディープインパクトはそんな様子もなさそうなのがこう……胸に来るモノがあるわ。

 

っていうか、ものすごく嫉妬した、アイツの才能に。

テキや芝木くんは俺贔屓だから「お前は完璧だ」って言ってくれることもあるけど、完璧っていうのはディープインパクトみたいに、和洋問わずどんな芝でもリスク無く走れる馬のことを指すんだってことを理解した。

そもそもだよ、俺はヒトの言葉が理解できるから、テキたちの調教計画をまったく崩さずに熟せる。

そのおかげで無駄な時間は一切省けて、ひたすらに成長できた。

でもディープインパクトは違う。

コイツは純粋な馬だ。

俺みたいにヒトが入っているワケでも、ヒトの言葉が理解できるワケでもない。

それなのに時々、俺を上回るのは、純然たるベースの違いだ。

 

やっぱ本質的な部分で、俺とディープインパクトは似ていないし同じじゃない。

 

秀才が天才には成り得ないように、届かない一瞬の壁が俺たちを隔てているのだ。

だから仕方ない、ディープインパクトが洋芝に適性を見せてても、ぐんぐん迫られちゃっても仕方ない。

 

 

 

……ってんなわけあるかッ!

 

「サンジェニュイン、ここでワンテンポ上げてきた、やや加速し3馬身縮まったリードを4馬身、5馬身に引き延ばそうとしています。鞍上芝木からはまだ鞭はないぞ、完全に馬ナリ、マイペースで走る重馬場の王様サンジェニュインです」

 

才能がなんぼのもんじゃい!

才能だけで生きていけるような世界じゃないのは、これまで走ってきた多くの馬たちが証明してくれただろうが。

どんなに優れた才があっても、そのためだけに走り続けたヤツには、天才とはまた違う、ソイツだけが抱え持つ強さがある。

才能という高くて頑丈な壁に、ヒビを割り入れる強さが。

それは経験であり、知識であり、情熱であり。

 

『プライドだろうが……ッ!』

 

さらにもう1回、加速する。

芝木くんが綱を引いてくるのもお構いなしに走った。

 

「サンジェ──ッ!?」

 

あーもうっ!!芝木ィ!!

 

お前の乗ってるこの白毛馬は、相手の才能や努力や奇策にビビっちまうような馬だったか!?

違うよな!!ちょっとオッスどもに追われると逃げ脚速くなるけど、誰よりも先頭を駆けてきた馬だろ!?

 

オラオラッ!!いつもの言葉を思い出せや!!

テンションぶち抜く、いつものやつを!!

 

リピートアフターミー!!

 

今日も、今日だって、いつだって俺は── !?

 

「……お前は、お前が、最高だ!」

 

以心伝心、人馬一体!

わかってるなら今回も張り切って先頭キープしましょうね~~!

 

「最初の直線600メートルを過ぎて先頭は依然サンジェニュイン!サンジェニュインがキープしています。そのすぐ後ろ、ハリケーンランを交わしてディープインパクトが前へ出てきました、先頭との差は6馬身。4番手集団から抜け出したアイリッシュウェールズ、続くのはレイルリンク、プライド。重めの馬場です、スローペースで回りたいところ、先頭がハイペースを刻むので全頭つられている様子、時計はやや早めです」

「先頭がサンジェニュインだとよく陥るパターン、決して珍しくはありません。流れを変えるには先頭を交代するか、サンジェニュインがペースを落とすか」

「上り坂抜けて、ディープインパクトが少しスピードを上げたか、ハリケーンランとの差が出てまいりました、ただしレイルリンク、レイルリンクが粘り強く前を目指しています。先頭サンジェニュインとは7馬身差、最後方シックスティーズアイコンとは15馬身差近くがついていますよ。このまま逃げ切り勝ちで新時代を切り開けるか、白毛の先駆者・サンジェニュイン」

 

直線を抜けて目指す先はカーブ。

ロンシャン競馬場のコーナーカーブは俺、だいすき!!

アスコット競馬場のコーナーカーブが無慈悲なおむすびカーブだったことを思い出すと、慈悲深くて泣いちまうわ。

いつもとは違ってやや内よりの真ん中を選んで曲がり抜く。

スピードは落とさず、されど無理せず。

首をぐっと下げ、ひたすらに前をだけを見て走り続けた。

 

1つ目のカーブを曲がったところで、芝木くんから鞭が入った。

それは2番手の馬── ディープインパクトとの差が3馬身以内になったという合図。

 

……直線のところで6馬身以上は突き放したはずなのに、本当に油断できねえ馬だな。

 

ちらりと視界の端に映った鹿毛は、久々のレースだっていうのに全然懐かしさを感じない。

むしろ「いつものやつな」と思うくらいには、最後、競り合う馬はこいつになるから。

 

ある意味、そうあるべきなのかもしれないけれど。

 

そうなってしかるべき、引かれ会うように、等というと、運命だというやつがいる。

運命に導かれるからそうなるのだと。

 

でも俺は、運命ってやつのことは信じていない。

 

そりゃあ俺は、こいつを一発ぶん殴りてえと思っていたし、っていうか今も思っている。

バリバリに思っている。

機会さえあればこの自慢の後ろ脚で蹴っ飛ばしたい気持ちに駆られることがある。

それはケツを追われているからじゃなくて、そもそも俺がこんなことになってしまった原因── クソ親父が追い続けていた馬がディープインパクトだから。

元々こいつを一発殴れなかった未練が、俺が馬になるきっかけだったわけだ。

 

だから運命なんかじゃない。

 

── ただ必然なだけ

 

俺の走り切った軌跡をなぞるように追ってくる、鹿毛の気配を感じた瞬間、俺は加速した。

 

「ここで大きく伸びるサンジェニュイン!2つめのコーナーを軽やかに回って、内側をぐんぐん進むその視線の先にあるのはゴールだけ!しかしディープインパクトの脚色は衰えない!ハリケーンランとレイルリンクの3番手争いを制してレイルリンク、ディープインパクトの半馬身差まで迫りましたがディープ、ディープインパクト抜かされないッ!内側を完璧にキープして、小柄な馬体がぐるりとめぐってサンジェニュインまであと少しだッ!」

 

あの有馬記念から10ヶ月以上が経ったな。

あの時は脚の痛みと、敗北を与える痛みとでいっぱいいっぱいだった。

ゴール後のお前は下を向いて、ただ黙っていたことを思い出す。

悔しそうにしていたかどうかはわからなかったけど。

でも帰りの馬運車で、お前はまっすぐと前を向いていたよな。

 

(したた)かに。

憂い無く。

揺るぎなく。

 

『……俺たちは似てるってお前は言ってたけど、俺たちはやっぱ似てねえよ』

 

負けたことを覚悟に変えるのに、俺がどんだけ多くの時間を使ったか、一緒に走ってきたお前も知っているだろ?

泣きわめいていた新馬戦や皐月賞、東京優駿での敗北を持ってようやく、勝てない痛みを勝つための痛みに変えることができた。

けどお前は、黙りこくっていたあの菊花賞からわずか2ヶ月で覚悟を決め、有馬記念でその覚悟を形に変えた。

 

……物語において、成長する主人公のための踏み台は、だいたい負けキャラらしい。

 

でも俺たちの場合は逆だな。

 

成長するのは負けたほうだ。

俺がお前に負ける度、悔しさが積み重なって前へと歩き続けたように。

お前は俺に負ける度、あらゆる感情を強さへと変えていった。

お互いがお互いの踏み台だった。

それでも俺がそれを踏み切って前に進むまでの時間と、お前が踏み切って歩き出した時間とではあまりにも違うから。

 

どうしたって同じではないと知る。

そして、同じになる必要がないことも。

 

俺は、この数か月のお前のことは知らない。

どんな走りで、どんな思いで走ってきたかを知らない。

 

でもそれはお前も同じだろう。

 

お互いの走りを知るのは、この背に乗せた人間どもだけ。

場内で檄を飛ばす大勢の人間どもだけ。

知りたいとも思わない、知ろうとも考えていない。

知る必要などない。

 

そんなことよりも、今、この瞬間の走りがすべてだと、解っているから。

 

『教えあう必要もないよな、勝手に解っちまうよ、早く先頭で競り合いてえなあ!?』

 

俺の叫びに呼応するように、背後の気配が一気に濃くなった。

 

『サンジェニュイン……ッ!』

 

ディープインパクトが俺の名前を呼ぶ。

喜びに満ちた声が腹立たしい。

その声に反応して、弾むようにならされる鞭の音も。

 

大地を蹴り上げる。

勢いよく頭を前に突き出して、最後のコーナーカーブを回った。

芝木くんの鞭は鳴り止んでいる。

それでいい。

それでいいよ。

 

ここから先はもう直線だけ。

ただまっすぐだけ。

声なんてない、歓声なんてない。

 

いらない、いらない。

 

俺と、お前と、俺たちの鞍上と。

たったそれだけの世界だ。

たったそれだけの世界の中で、俺は、お前に勝つ。

 

駆って、狩って、勝って。

 

『ここまで3勝3敗1引き分け── 決着をつけようぜ、ディープインパクト!』

『ッやっぱり最後に隣り合うのは君だな── サンジェニュイン!』

 

俺たちには多くの期待がある。

寄せられた祈りがある。

勝手に背負わされた宿命がある。

 

人間って勝手だよな、馬になって改めて思ったわ。

でもそれと同じくらい、俺は愛されてきたよ。

真心を込めて世話されたよ。

冷めない情熱で一緒に走り続けたよ。

 

そんな人間どもに、俺が……いや、俺たち(・・・)が贈るアンサーは、たったひとつしかないこの勝利。

 

だからこそ、お前にだけは絶対負けられない──ッ!!

 

「いよいよ最後の直線だ!サンジェニュイン!ディープインパクト!ここまで粘り強く追ってきた3歳馬レイルリンク各馬半馬身差の縺れ合い!ディープインパクト苦しいか、歩様が少し乱れたが持ち直す!その隙をついてレイルリンク!頭を突き出すがサッとディープインパクトもう1度躱す!サンジェニュインが間に挟まれて、それでもぐんぐん、まだあきらめずに前を目指す残り200メートルだ!」

 

踏み込む。

突き出す。

 

前へ、前へ、前へ!

 

「行くぞ、サンジェ──ッ!」

「止まるなディープ……ッ!」

 

俺たちの馬体に、最後の鞭が入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロンシャン競馬場のターフを、2頭の馬が競り合う。

日の丸の冠を背負った馬たちの疾走に、声を出さずにはいられなかった。

 

ただ走り続ける、その姿に光を見た。

突き出して競り合う2頭に、声の限り叫んだ。

今日、この瞬間に灯った明かりが消えないように。

やわらく燃え続ける美しさが損なわれないように。

 

力ある限り大地を蹴り続ける、その軌跡の向こう側。

 

「……征け、征け、征け──ッ!」

 

誰かが叫ぶ、その声が数珠なりにつながってひとつの言葉になる。

シルエットでしかなかった感情が形をもって、大きな波にかわってあたりを飲み込んだ。

刻まれる情熱が、願いが、祈りが、逆さに作られたてるてる坊主を伝って響き渡る、その3文字。

 

「照らせ──ッ!」

 

大合唱が、空にかかる雲を追い払う。

その、隙間から。

 

「……抜けた、抜けた、サンジェニュインが抜けた!」

 

燦燦と降り注ぐ輝きの名を、天に向かって放つ。

そうして形作られた、いつまでも消えない光があるとして。

 

「フランスロンシャンの空に咲く、これが無敵の太陽馬──ッ!!」

 

── 人はそれを、伝説と呼ぶ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

JRAヒーロー列伝ポスター第〇〇回 サンジェニュイン

 

父馬:サンデーサイレンス

母馬:ピュアレディー

誕生:2002/07/02

生産:社来ファーム・陽来

馬主:サイレンスレーシングクラブ

成績:現役(15戦10勝4敗1同着/うちGⅠ・8勝(同着含む))

 

 

 

惜敗で泣く度、お前は強くなった

瞳から零れる涙は力に変わり、お前の道を照らす

 

その眩しさは、世界の頂点へ

 

いままでも、これからも

 

 

 

『 伝説だけを照らして征け 』

 

 

 

── その光の中に、希望がある

 




明日10/4の22時に裏:凱旋門賞を更新します(今回プロット上の都合により入らなかったもの)

2021/10/04 追記
作者、39度の高熱下がらず、本日本編(裏:凱旋門賞)の更新が難しかったため、今週日曜日にズラします。申し訳ない。
かわりに、以前公開していて削除した番外編から一部、修正済のものをこちらに投稿します。

下は活動報告です。お礼と今後の予定について。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=268790&uid=53018

2021/10/10 追記:活動報告
下記再編成により、65~67話まで加筆修正を行いました。

よりによって凱旋門賞でプロットのガバが発生したので組み直しです。
70話完結予定だったのですが、このガバでどう足掻いても70話無理だったので再編成した結果74話でまとまりそうです。

体調と相談しながらですが、10月の完結を目指して更新スケジュールも立て直しました。
予定通りいかない回もあるかと思いますが、どうか最後まで温かくお見守りいただけたらと思います。
よろしくお願いします!

完全素人ニキの愛馬名アンケート

  • サニードリームデイ
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