【完】これは圧倒的美貌で凱旋門賞馬になる俺の話   作:SunGenuin(佐藤)

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感想&ブクマ&評価&誤字脱字報告、サンクスサンクス~~!!!!

秋華賞、もちろんソダシさんに賭けたんですけどあの、沈みましたね……泣いた。


side:ウマ娘 ー Ep.14

ワールドロイヤルターフから約2ヶ月が経ち、オレはウララちゃんと久々の再会を果たしていた。

 

「サンちゃんひさしぶりだねえ!」

「だねえ!ウララちゃん元気だった?」

「うん!元気だったよ!あのねあのね、トレーナーが『JBCスプリント』に登録してくれたんだっ!」

「ほんとに!?よかったねえ、ウララちゃん!」

 

JBCスプリントは、日本国内では数少ないダートのGⅠレースだ。

同じJBCでも、去年のJBCレディスクラシックをヴァーミリアンが、JBCクラシックをカネヒキリくんが制している。

開催日は11月の第1週目。

つまりあと2週間ちょっとなのだが、ウララちゃんは8月のエルムSを制したことで出走が決定したようだ。

前から「JBCスプリントに出たい」って言ってたから、それが叶ってよかった。

 

「今年もししょーたち出るんだよね?」

「えっとね、カネヒキリくんはBCクラシックがあるから出ないんだけど、ヴァーミリアンはJBCクラシックの方に出るよ!」

「そっかあ!ししょーたちすごいねーっ!」

 

ちなみにウララちゃんがカネヒキリくんとヴァーミリアンを『師匠』と呼んでいるのは、2人がウララちゃんのダートトレーニングを手伝っていたからだ。いた、というか、今も手伝ってるのかな。

カネヒキリくんたちはオレが知らないと思っているみたいだけど、ウララちゃんの様子からすぐにわかった。

まあ正確には、オレが察するより前にウララちゃんの方から「ししょーができたんだ!」って言われたからな!

2人はどうしてか、オレにはバレたくなさそうだったので、オレは今も気づいていないフリをしているわけだが。

なんていうか、オレに言われるのはイヤだろうけど、あの2人も隠し事が上手いようで下手だからなあ。

今だってほら、オレたちの事を見てるの、バレバレなわけだし。

 

「2歳からずっとカネヒキリくんに見つめられてんだもん……視線ですぐ解るよなあ」

「ふふぇ?どーふぃふぁふぉ?」

「なんでもない!ウララちゃん口の中にもの入ったまま喋っちゃだめだよ!」

 

オレはウララちゃんにお茶を渡しつつ、カネヒキリくんがお昼に持たせてくれたおにぎりを食べた。

前にウララちゃんとお昼が一緒になったときに食べたサンドイッチも美味しかったけど、カネヒキリくんが握るおにぎりも最高なのだ。

ふっくらしたお米、ほどよい塩味、パリパリの海苔。

なによりおにぎりの中身!!

量が多すぎるわけでもなく、かといって少なすぎるわけでもなく……絶妙に調整されお米と完璧なハーモニーを奏でてる……ッ!!

んまい!!!!

 

やっぱりおにぎりはツナマヨなんだよなあ。

カネヒキリくん解ってるわ。

 

「あ~!みてサンちゃん!これハンバーグだよっ!」

「エッほんとだ!!これツナマヨだけど……アッうそ、もしかしてこれ……からあげだ~~っ!!」

「すごいねーっ!!」

 

それから1時間くらいかけて『おにぎりに合う具はなんだ選手権』を開催した。

玉子焼きが優勝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンジェニュインとハルウララがじゃれあう、その光景を見つめていた3人のウマ娘がいた。

 

「もう溶けた。あとは任せたぞカネヒキリ」

 

原型を失い溶けきったこのウマ娘、名をヴァーミリアン。

 

「溶けるのはいいが双眼鏡を渡せ」

 

液体と化した同胞を雑に扱うこのウマ娘、名をカネヒキリ。

 

「心配する素振りくらい見せろや!なあディープ……ディープ?息をしろディープ!」

 

息が止まっていた死にかけのこのウマ娘、名をディープインパクト。

 

サンジェニュインとハルウララの和やかな時間を守っているのがこの3人であることは、サンジェニュイン本人ですら知らないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいしかったねえ」

「だねえ」

 

これまたカネヒキリくんが用意してくれたお茶を飲みつつ、食後のひとやすみ。

拳くらいの大きさのおにぎり20個あったのに、2人でペロッと平らげてしまった。

カネヒキリくん、こんなに大量のおにぎり作るの大変だっただろうなあ。

おにぎりだけじゃなくて、普段からいろいろお世話になってるし、カネヒキリくんに何かお礼の気持ちを込めてやりたいなあ。

今度、カネヒキリくんを温泉旅行につれていこうかな……サプライズで!

2泊3日、同じ部屋でいいよな、枕投げとかしよ~!

 

「あ、そうだサンちゃん!サンちゃんにねえ、お願いがあるんだっ!」

「ん?おねがい?」

「うん!」

 

同じようにお茶を啜っていたウララちゃんが、思い出した!と言わんばかりの動作で立ち上がった。

ウララちゃんに見下ろされるとは新鮮だ。

いつもオレが見下ろしてるからな……身長差35センチあるから仕方ないんだけど。

フンス、と鼻を鳴らしたウララちゃんが「あのね」と話を切り出した。

 

「キングちゃんがね、サンちゃんとしゃべってみたいんだって!それでね、いっしょにおやつたべたいなって思ったんだ」

「キングちゃん……?」

「そう、キングちゃん!ウララと同じへやだよ!」

 

ウララちゃんの同室のキングちゃん、ってことは、キングヘイローか!

 

……アイエエ!?キングヘイロー!?キングヘイローナンデエエ……とはならんな、うん。

 

キングヘイローと言えば、オレ、というかメテオ内では知らないやつがいないほど、有名なウマ娘だった。

なんで有名なのかと言えば、彼女はオレが出走した全レースを見にきていたから。

メイクデビューだった阪神レース場も、クラシック全レースも、ドバイシーマクラシックをはじめとした海外レースも。

文字通り、全レースに彼女は来ていた。

シバキ、じゃなくて芝里(しばり)くんが「熱心なファンだな」と感心するほど。

 

もしかしたらオレ以外のウマ娘を応援しに来てるんじゃないか、と最初は思っていたのだが、ウイニングライブでしっかりがっちりオレの応援タオルとペンライトを握っていたので、まあオレのファンでいてくれているのだろう。

それだけじゃなくて、オレのファンクラブのTシャツまで着ていたから、たぶんその、ファンクラブにも入ってるんだろうなあ。

まさか公式ウマ娘、という表現の仕方もどうかと思うけど、少なくとも画面の向こう側にいたキングヘイローに推されるようになるとは……。

まったく想像もしていなかったので、照れ臭いやらなにやら。

 

まあ何はともあれ、応援してくれているのは純粋に嬉しいものだ。

んふふ、喜びからかついつい身体が小刻みに揺れちまうぜ。

 

「キングちゃんね、サンちゃんのキラキラしてるところが好きなんだって!いつか同じレースで走るんだって言ってたよ!」

 

ウララちゃんの言葉に、オレはピタリと動きをとめた。

 

“ いつか同じレースで走る ”

 

その、いつかが、オレにはもうない。

 

「……ゴメン、ウララちゃん。まだ未発表だから知らないのも当然なんだけど、オレ、次のURAファイナルズが終わったら引退するんだ」

「ええ──っ!?そうなの!?」

「うん……もうそろそろかなって思って。キングヘイローはURAファイナルズには出ないの?」

 

まだ立ったままのウララちゃんが、困惑したような顔で首を傾げた。

 

「うーん?えっと、どうだろう……キングちゃんはね、この前のスプリンターズステークスに出て勝ったばっかりで、今週は天皇賞に出るんだよ!」

 

今週末に開催されるのは天皇賞・秋だ。

ディープインパクトも出走するけど、これにキングヘイローも出るんだな。

秋天は中距離だけど、勝ったって言うスプリンターズステークスは短距離。

今年の高松宮記念の勝ちウマ娘も確かキングヘイローだったはずだから、仮にURAファイナルズに出走することになった場合は短距離部門の可能性の方が高いか。

仮に秋天に勝った場合でも、中距離かマイル部門を選択するかも知れない。

少なくとも、オレが出走予定の長距離部門を選ぶ可能性は低いだろうな。

 

「レースで会うのは、厳しいかもなあ」

「そっか……キングちゃん、サンちゃんのことすごい好きでね!おへやのなか、サンちゃんのグッズがいっぱいなんだよっ!タオルとか、うちわとか、マグカップとか……あとあとお人形とかっ!」

「……うん?」

 

お人形……たぶんフィギュアだ。

 

あれ、オレの公式グッズにフィギュアあったっけ?

そこらへんは芝里くんが管理してくれているわけだが、グッズは企画段階で必ずオレに見せてくれる。

オレが不快になるようなグッズは絶対作らない、っていうのが芝里くんとの約束だった。

タオルもうちわもマグカップもあるのは知っているけど、フィギュアは聞いてない。

芝里くんがオレに黙って勝手に作るなんてことは絶対ないから、公式のものではないだろう。

だとすると……ファンクラブの限定グッズか?

キングヘイローはファンクラブ会員限定Tシャツも持っていたから、たぶんファンクラブに加入してくれているはず。

ファンクラブが作成しているグッズ、まあほぼ公認の同人グッズなのだが、そっちは卑猥なものや公序良俗に反するようなものでさえなければ、基本的には好きに作っていいことになっていた。

あれの会長はヴァーミリアンだったはずなので、あとで本人に確認を取るとしよう。

 

「でもそっかあ……サンちゃん、引退するんだね。さみしくなるね……」

「ウララちゃん……」

 

しょんぼりと眉を下げ、その場に座ったウララちゃんが肩を丸めた。

オレはその肩をぽんぽんと撫でながら、大丈夫だよ、と口を開いた。

 

「ウララちゃん、オレは確かに引退するけど、もうずっと走らないわけじゃないから」

「……そうなの?」

「うん。レースには出なくなるけど、今まで通り走りたいときに走るよ。ウララちゃんが声を掛けてくれれば、また一緒に併走するし」

「ほ、ほんとにっ!?」

「もちろん!……だから悲しい顔をしないで。大丈夫、今までとなんにもかわらない。例えオレが引退したって、オレはオレのままだから」

 

そう言うと、ウララちゃんは少しだけ泣きそうな顔をして、またニッコリと笑ってくれた。

うーん、愛嬌百点満点スマイルだッ!!

 

「あーっ!」

「うわびっくりした!……どうしたの、ウララちゃん」

「ご、ごめんねサンちゃん、また話それちゃった……」

「ああ……いいっていいって。えっと……確か、キングヘイローがオレと喋りたいって話?」

 

再びお茶を啜りながら聞くと、ウララちゃんは勢いよく首を振った。

 

ウララちゃんはちょっと移り気で飽きっぽいところがある。

興味のある方へと話が脱線していってしまい、本線から逸れてしまうことを、ここ最近になって本人は気にし始めたようだ。

せいいっぱいお話してくれるウララちゃんかわいいのに……でも直したいと思って努力しているウララちゃんもかわいいです。

 

「そう、そうだよ!おやつたべながらね、おしゃべりしたいなって思ってるんだけど、サンちゃんどうかなっ?」

 

オレとしては、正直、やりたい。

キングヘイローにはこれまでずっと応援してくれていたお礼もしたいし、一緒にレースに出れないお詫び、というのも失礼だけど、その熱い思いに報いたかった。

ただ、忘れがちになってしまうのだが、キングヘイローは右耳リボンウマ娘。

ウララちゃんのトモダチだし、何よりキングヘイローというウマ娘は奇行になんて走らないだろうけど、それでも念には念を入れなければならないのだ。

相手はアニメにも出てきた善良なウマ娘だし大丈夫だろ、と気を抜いたが最後!

オレはスーパークリークに追いかけ回されて……ヒィン!!

ダメだダメだ、思い出してはいけないやつを思い出した。

アレはそもそもタキオンさんの「圧倒的美貌もコレ1瓶で解決!?フェロモンヘラース」を服用した結果、何故か幼児化するという現象の── いや、これは今回関係ねえな、特殊すぎる。

 

「うーん、カネヒキリくんの許可が貰えたら、でもいいかな?」

「うんっ!……あっ、ししょーもいっしょにおやつたべたらどうかなっ!?」

「それは……アリよりのアリだな!」

 

とはいえ、カネヒキリくんも一緒にいくとなると、問題はヴァーミリアンとディープインパクトである。

オレだけが行く、という話だと誰も何も文句は言わないんだけど……心配だとは散々言われるけど、カネヒキリくんも一緒だ、となるとこの2人、途端に自分も行きたいと言い出すのだ。

ウララちゃん、キングヘイローの2人に対して、オレがスタンドよろしく3人も張り付けていったら、うーん、萎縮しないだろうか?

そもそもの話として、カネヒキリくんもBCクラシック出走のためにそろそろ渡米しなきゃいけないからなあ。

 

「今日帰ったらカネヒキリくんに聞いてみる!一緒におやつたべるの、何日にする!?」

「キングちゃんのレースが終わってからの方がいいかも!」

「今週末がレースだろ?で、2週間後だとウララちゃんがレースだし、3週間後だとカネヒキリくんは渡米しちゃうし……12月に入ってからの方がいいのかなあ」

「わたし、12月レースないよ!」

「……ヨシッ!12月にしよっか!」

 

オレもウララちゃんもうっかりが多いタイプなので、忘れないうちにウマイン── ウマ娘に爆発的に流行っているチャットアプリを立ち上げ、ウララちゃんとのトーク画面に日時を書き込んで送信した。

12月のこの日なら、カネヒキリくんもアメリカ遠征から帰ってくる頃だろう。

カネヒキリくんは、オレが右耳リボンウマ娘とお茶会をすることには少し否定的だ。

たぶん、というか99%の確率で反対されるだろうけど、カネヒキリくんも一緒ということであれば一発逆転サヨナラホームラン、99%の確率でOKを出してくれるのだ。

確実にヴァーミリアンたちがゴネるだろうけど、後日2人の好きな衣装を着て撮影会をするということで免れる予定だ。

 

「おやつ!!オレ、めっちゃデカいパンケーキ焼けるから、それ持ってくね!」

 

オレの数少ない得意料理、炊飯器パンケーキ!

最近になってようやく満足いく炊き時間を見つけたのだ。

おいしさのあまりカネヒキリくんも泣き出すレベルなので、自信を持って作れるぞ!

 

「ほんと!?ウララもさいきん気に入ってるおかしがあってね!えんせーにいったときにいっぱい買ってきたんだ!」

「ウララちゃんの高知土産、いつも美味しいよねえ!楽しみ!!」

 

んふふ、と笑いながらお茶を啜ったらむせた。

 

 

 

 

 

 

12月某日。

オレはカネヒキリくんと共に、ウララちゃんとキングヘイローとのお茶会に赴いた。

BCクラシックを制したことでカネヒキリくんはたくさんの記者に追われていたけど、どんな手段を使ったのか、数日前から記者たちの姿は見かけなくなったな。

そうそう、お茶会に行くにあたって、予想通りヴァーミリアンとディープインパクトはゴネた。

正確にはゴネていたのはヴァーミリアンだけで、ディープインパクトからは無言の圧を浴びせられただけだけど。

お茶会が終わったら2人の好きな衣装を着て撮影会してもいいぞ、と言うと笑顔で送り出してくれた。

なんてちょろいやつらなんだ……オレのブロマイドにつられて知らないオッサンについていかないように、と念を押したら「お前が言うな」って言われた。

失礼な!オレだってアップルパイちらつかれても着いていかねえよ!

 

「サンジェニュイン、着いたぞ」

「お、ここかあ。おしゃれなカフェだなあ。おやつは持ち込みって聞いてるんだけど、大丈夫なんだろうか」

「……店は貸し切りだ。料理人も下がらせている。器具なんかは自由に使っていいそうだが」

「貸し切り!?マジで!?」

「ああ。……ディープインパクトが、黒いカードで」

「黒いカードで!?」

 

そういやディープインパクトのやつ、大財閥のご令嬢だったな。

いつも持ち歩いてるあの黒いカード自体はディープインパクトが自分で稼いだ金だけど。

ディープインパクト自身は頻繁に散財するようなウマ娘ではないが、使うときはとことん派手な使い方をする。

前は「海が見たい」というだけで豪華客船貸し切ってたし。

アイツとは1度、金の使い方について話し合う必要がありそうだな……でも今回はいいや。

今回はディープインパクトのことじゃなくて、目の前のことに集中しなくては。

 

「……オレはお嬢、お嬢、お嬢。ヨシ!行こうか、カネヒキリくん」

 

こくん、と頷いたカネヒキリくんを引き連れ、オレはカフェの中に入った。

 

白を基調にした室内は、ところどこに飾られている観葉植物の影響か、無機質というよりは自然な印象を受けた。

やわらかい柑橘類の香りが、それを引き立てている。

雰囲気のいいお店だなあ、と思いつつも、オレは中央のテーブルに座っていた2人に視線を向けた。

 

「おまたせしたかしら?」

「ううん!待ってないよ、サンちゃん、ししょー!」

「久しぶりだな、ハルウララ」

「ひさしぶりーっ!ししょーげんき!?」

「ああ」

 

ぴょん、と飛び跳ねたウララちゃんの頭をカネヒキリくんが軽く撫でる。

んふふ、ちょっと年の離れた姉妹みたいでかわいい。

心のカメラでパシャパシャ撮ったわ。

いいもの見れたなあ、と和みながらも、本題はこっちだ、とオレは視線を動かした。

テーブルには高知土産と思わしきお菓子が並んでいて、一部食べかけのようだ。

オレたちが来る前に先にちょびっと食べてたのかな?

キングヘイローは椅子に座ったまま、そして右手にお菓子を持ったまま、こちらを凝視して固まっていた。

 

「あなたとは……直接会うのははじめて、ね」

「あ……あ……」

「知っているとは思うけれど、わたくしはサンジェニュイン。隣にいるのはカネヒキリよ」

「あ……え……ッ」

 

……なんか様子がおかしいな。

オレが首を傾げると、異変を察したカネヒキリくんがさらっとオレの真横に移動した。

ウララちゃんが「キングちゃーん?」と声を掛けると、キングヘイローはウララちゃんの方に向き直り、その肩を掴んだ。

 

「ちょ……ッア……え……!?」

「キングちゃんどうしたのっ!?おなかいたいのっ!?」

「ちが……なん……ど……!?」

「ちがなんど?」

 

めちゃくちゃ混乱してるな。

 

これ、もしかしてキングヘイローはオレたちが来るって知らなかったのでは?

ウララちゃんがワザと伝えなかった、なんてことはないだろうし、たぶん伝えたつもりになっていたけど実際は伝えてなかった、っていうパターンかも。

カネヒキリくんも同じ結論に達したようで、混乱しているキングヘイローを尻目にテーブルにお菓子を並べ始めた。

うーん、カネヒキリくんのこの流れるようなモーション、そこに痺れる憧れるう!!

 

「とりあえず、2人もお座りなさい」

 

オレの言葉にピタリ、と動きをとめたキングヘイローは、まるで油も差していないロボットのようにギギギ、と硬い動きで俺の方に顔を向けた。

頭のてっぺんから爪の先までゆっくりとガン見されたが、やがて夢でも何でも無い現実だと自覚したのか、崩れるようにその場に座った。

 

座って、倒れた。

 

「き、キングちゃーん!?どうしたのっ!?」

「あばばば!?カネヒキリくん!?」

「大丈夫だ、意識を飛ばしてるだけだ」

「それ全然大丈夫じゃないやつだよ!?!?」

 

お茶会はオレたちが着いてそうそうにお開きになった。

オレが持ち込んだクソデカパンケーキは、その後カネヒキリくんの胃袋へ。

キングヘイローはしばらくカフェのソファで横になって休んでいたけど、オレたちが、というかオレがいつまでも近くにいるとまた倒れそうなので、ウララちゃんから高知土産を貰ってすぐに帰宅した。

 

この1ヶ月後の年明けすぐ。

再度開催したお茶会でキングヘイローに土下座されることになろうとは、この時のオレは知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「引退するのは何故ですか。これからが楽しみなウマ娘たちもまだいるのに……勝負から逃げるのですか」

 

浴びせられるフラッシュと言葉を真正面から受け止める。

響き渡る「笑止!」に、オレはゆっくりと目を閉じた。

 

「サンジェニュインは今期URAファイナルズを持って引退するが、それは競走能力の衰えによるものでないことは、(さき)のワールドロイヤルカップで証明されている。勝負から逃げるわけでも、放棄するわけでもない。彼女はただ、自ら選び抜いた道を征くにすぎない。故に!諸君らに求めるのは引き留める言葉ではなく、URAファイナルズを経て、新しい道へと踏み出す彼女への声援!」

 

力強く告げられた言葉を受けて、閉じていた目を開いた。

静まりかえった会場を刻むように眺め、オレは口を開く。

 

「瞬くような数年でした。勝利だけを夢想し、ひたむきに駆け抜けて来たと胸を張って言えるのも、偏にファンの皆様からいただいた声援あってのことです。残りあとわずかですが、どうか最後の一瞬まで、暖かい声援を送って頂けたらと思います」

 

下げた頭の向こう側は、まだざわりとした動揺が広がっている。

それでも。

それでもパラパラと響きだした拍手の音が、オレの背を押す。

 

もっと遠くへ。

もっともっと遠くへ。

 

果てのない、夢へ。

 

 

 

 

 

 

「よかったのか、サンジェニュイン」

「よかったのかって、なにが?」

 

オレたち以外誰もいない廊下を進む。

シバキ── 芝里(しばり)くんは少し困ったように頬を掻いた。

 

「最後の舞台がURAファイナルズで」

「……ああなんだ、そっちか」

「そっちって……これ以外なんだと思ってたんだよ」

 

てっきり「引退していいのか」の方かと思ったわ。

オレの言葉に困ったような顔をした芝里くんの、その頬を突っついて離れる。

何すんだ、と声を挙げた芝里くんはスルー。

オレはぐっと背伸びをして肩の力を抜くと、その場でくるりと一回転した。

 

脚は軽い。

身体のどこも痛くはない。

きっと来年も、満足いくような結果を出せるだろう。

 

それでも。

 

「今だと思ったから」

 

ウマ娘が「現役を引退する」というのは、様々な理由がある。

 

例えば、勝利を挙げられずに泣く泣く引退する、とか。

例えば、競走能力に繋がる重大な怪我により引退する、とか。

例えば、走ることよりもサポート側の方が性に合うから引退する、とか。

 

10人のウマ娘がいれば10通りの答えがある。

オレの場合は「今だと思ったから」だ。

本当に、ただそれだけだった。

 

「漠然とさあ、そろそろかなーとは思ってて」

 

1度目の凱旋門賞を制した時、()はこのシーズンで引退したんだよなーって、ぼんやりと思い出した。

翌年には種牡馬としての仕事が始まって、その翌年にサニーファンタスティックやサンサンドリーマーたちが生まれ、2年後にはシャイニングトップレディが産駒初のGⅠ勝ちをしてくれた。

そんなことが記憶の波になって押し寄せてきて、じゃあそろそろじゃん、なんて思ったのだ。

 

そろそろ、次の子たちの時代だな、と。

 

「凱旋門賞も2連覇した。ガネー賞も、サンクルー大賞典も、キングジョージも。あとインターナショナルSもな。惜しむべくはドバイシーマクラシックでは2年連続で負けたことと、国内のレースにあんまり出られなかったことか。……でもオレは、もう十分走ったな、と思ってるんだよ」

 

オレがそう言うと、芝里くんは苦笑いを浮かべながらも「まあ、お前がそう言うならそれでいいよ」と言った。

 

「俺としては、もう少しお前と一緒に同じ景色を見たかった、って気持ちもあるけど」

「……んふふ、芝里くん、オレのこと大好きだもんな!」

「まあな。……でもお前の直感は外れないからなあ。ここで退くんだと思ったのなら、そうなのかもしれない。何より、お前の決めたことだ。俺はただ、お前の幸せを祈るだけだよ」

 

大きな手がオレの頭を撫でる。

馬だった時のオレを撫でてくれた手よりは柔らかくて暖かい手のひらだ。

手綱は握らず、鞭も持たず。

それでもオレの手を握り続けた、暖かくて優しい手だ。

 

オレはその手に自分の手を重ねると、芝里くんの目を真っ直ぐと見た。

 

「芝里くん」

「おお……どうした?」

 

オレの目を見つめ返してくれる目は、芝木くんに似ていた。

 

「オレのこと、ずっと見ててくれてありがとう」

 

言葉のひとつひとつに思いを込める。

 

「ずっと手を握っててくれてありがとう」

 

感謝を。

 

「ずっと同じ夢を見てくれてありがとう」

 

喜びを。

 

「ずっと信じてくれてありがとう」

 

ありったけの祈りを。

 

「URAファイナルズは絶対に勝つ。だってオレは──」

 

絶えず、絶えず、言われ続けてきた言葉をつなげる。

ニッと笑って見つめ返すと、芝里くんも笑って頷いた。

 

「ああ、そうだよ、お前は最高だ。……いつまでもな!」

 

── ああやっぱり、この言葉、好きだわ

 

魂に引き継がれた歓喜が力に変わる。

いつまでも燃える闘志の在処は(ここ)だ。

 

絶えず()べられた悲鳴が歓声に変わる瞬間を、オレは、待ち続けている。

 

 

 

 

 

 

「よし、じゃあ帰るか!」

「帰るって芝里くん、まさかそれに乗るのか?」

「そりゃあこれでここまで来たからな……って、サンジェお前、ほんとコレ嫌いだよなあ」

 

芝里くんが呆れたようにため息を吐いたが、オレは身体を震わせ、毛を逆立てながら唸った。

 

「ヴヴヴ……オレの方が速い……ッ!」

「いやさすがにコイツ── バイクの方が速いよ」

 

()イクがなんじゃい!!

心臓(エンジン)の質が良いからって調子に乗るんじゃねえぞ!!

スイッチが入らないと動かないお前と違って、オレは乗った瞬間に動き出すんだからな!?

あとオレの方が絶対乗り心地いいはずだから……!!

芝里くんの愛車名乗るのは40年はえーぞ若造がッ!!

 

ヒヒーン──……!!!!




次回、競走馬回!


登場ウマ娘

サンジェニュイン
「ウララちゃん口の中にもの入ったまま喋っちゃだめだよ!」
ブーメランである
バイクをライバル視している

カネヒキリくん
サンジェニュインの生命線
いろいろ手慣れてる

ハルウララちゃん
とてもかわいい

キングヘイローさん
何も聞いてなかったので心臓にダイレクトアタックされた

ヴァーミリアンお嬢
溶けてから再生するまでが早い

ディープインパクトさん
金を使うタイミングは大体サンジェニュイン絡み

芝里くん
愛車はDuc●tiの『1299 PA●IGALE R FIN●L EDITI●N』のカラーチェンジ版
青色塗装にするために特別料金になっている(から値段はエグイことになってる)

完全素人ニキの愛馬名アンケート

  • サニードリームデイ
  • サンシカカタン
  • タイヨウノムスコ
  • タイヨウハノボル
  • ブライトサニーデイ
  • ラブディアホワイト
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