あべこべ世界に女として生まれる必要はありましたか?   作:カサゴかけご飯

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第七話

 調べてみたところ、この世界でも中学生にできるバイトは殆ど無かった。前世と同じように認可が有れば働けるらしいが、夏休み中には間に合いそうに無いので意味がない。

 もはや私にはどうしようもないので、母さんに相談してみることにした。

 

「母さん、なんか手伝いするからお小遣い頂戴」

 

「いいわよ。そう言えば、私の職場で試作品のテスターを募集してたから、今から行きましょうか」

 

 私としては、風呂掃除や洗濯、料理の手伝いをしてお小遣いを貰うつもりだったのだが⋯⋯。

 てか私、母さんの仕事のことよく知らないのだが。製造系の会社なのだろうか。

 

「行ってみれば分かるわ。準備ができたら教えてね」

 

 思っていたのとは少し違うが、結果オーライだ。特に準備も必要ないので、早速母さんの職場に向かうことにした。

 やっぱり、持つべきものは親のコネだな。

 

 

 

  ◆◆◆

 

 

「母さん、試作品のテスターって言ってたよね?」

 

「ええ。そう言ったわ」

 

「それなら、この明らかに男用の服は何?」

 

 まさか私にコレのテストをしろと言うのか?

 

 母さんの車で向かったのは、製品開発やテストを行なっている場所であった。駐車場に書かれていた会社名を検索すると、どうやら男性用護身具や護衛官用装備を開発販売する会社らしい。

 元護衛官、それも優秀だった母さんには合っているのだろう。しかしそれと、男用の服が用意されている繋がりが分からない。

 

 この世界で男用の、それも割と子供向けの服を女が着るのは割と犯罪的だ。服を着せられたマネキンを眺めていると、白衣を着た女性がこちらに近づいてきた。

 

「どうも、私が今回のテストを行う佐藤です。よろしくお願いします」

 

「睦月スミレです。よろしくお願いします」

 

 いかにも開発者という見た目の女性だ。少し気怠げな雰囲気もイメージ通りである。

 

「早速テストに入らせてもらいます。まずはこの男性用護身具から。これは上着とズボンにスピーカーが付いていて、危険が迫ると知らせる仕組みになっています」

 

「なるほど。私はその機能が働くかテストすればいいわけですね」

 

「そうです。具体的には、乱暴に脱がせる感じでお願いします」

 

 そこまでしないといけないの?マネキンの服を無理矢理脱がせるなんてやりたくないんですけど⋯⋯。まあお金の為なのでやるしかないか。

 

 マネキンの前に立って服を眺める。よく見ると、服と同じ色のスピーカーが肩と腰の辺りに2つずつ付いている。

 とりあえず4つのスピーカーを素早く連続で握り潰してみた。

 

「あんた何やってんの⁉︎」

 

「いや、テストって言うから乱暴にした方がいいかと思って⋯⋯」

 

 もしかしなくても、私何かやっちゃいましたね。しゃーない、切り替えていこう。

 

「いや、コレはコレで成功です。スピーカーの位置が分かっていれば壊される可能性がある事が分かりました」

 

 そう言ってもらえるとありがたい。なら今後もこんな感じでやらせてもらおう。

 

「壊されるのが問題なら、壊されづらい靴や袖にスピーカーを仕込んでもいいかもしれないですね」

 

「まあ、普通は壊れる前に音が鳴るんですがね。この調子で次のテストもお願いします」

 

 アイアイサー。あと母さん、育て方を間違えたかもとか言わないで。最近は真面目になってきてるよ。

 

 次に用意されたのは、衝撃を受けるととてつもなく臭くなる下着だった。スカンクから着想を得たらしい。

 でもこれって、普通の生活の中でも臭くなる可能性があるのでは?

 

「そこが問題なんですよ。なのでこの試作品はその問題を解決するために、ちょっとやそっとでは臭くならない様に改良しました」

 

 ならば早速試してみよう。まずは軽く下着を握ってみる。その後手の匂いを嗅いでみたが、特に変化はなかった。

 

「なんか、パンツを握った手の匂いを嗅ぐのって犯罪的よね」

 

 余計なこと言わないでくれ。私も少し気にしてるんだから。

 次は少し力を入れて擦ってみたが、相変わらず匂いはしなかった。もしかしてコレは成功では?

 

「大丈夫そうですね。なら次は地面に叩きつけてみましょう」

 

 言われた通りに思いっきり叩きつける。今度はどうだ?

 しばらく待って顔を近づけると、異臭というか刺激臭というか⋯⋯。いやちょっと待って、クッサ!

 ナニコレ⁉︎こんなに臭くする必要あった⁉︎普通に吐きそうなんだけど⋯⋯。これじゃあ臭すぎて、襲われた男性が逃げられない可能性もある。

 

「なるほどなるほど。本家スカンクの様に、液体を発射するタイプの方が効果的そうですね。次はそうしてみましょう」

 

 それはそれで相手に当たるのかという問題はあるが、少なくとも今よりは便利だろう。

 

「次がラストのテストですね。今回は自信作ですよ。その名も、自衛用パワードスーツです」

 

 紹介された先を見ると、2.5メートル程の高さの、正にパワードスーツなメカが立っていた。

 

「スーツとフルフェイスヘルメットで男性を完全防御。逃げるも戦うも自由自在です。問題は、動きが激しすぎて1分以上使うと酔ってしまうことですが」

 

 それは失敗作と言うのでは?

 

「お母さんから、あなたは体が丈夫なので大丈夫と聞いています。データ取りの為にも、潔く犠牲になってください」

 

 気乗りはしないが、これもお金の為である。佐藤さんと母さんのサポートの下、スーツを装着する。

 ヘルメットを装着すると、カメラの映像とデータなどが映し出された。メカ好きとしてはテンションが上がる演出だ。

 

「それでは、その辺を動きまわってみてください。気分が悪くなったら教えてくださいね」

 

 とりあえず、軽く走ったりジャンプをしてみる。メーターにはなかなかの数値が表示されており、このスーツの性能の高さが分かる。

 そのまましばらく動いていると、車酔いの様な感覚になってきた。

 

「なんか酔ってきたんですけど」

 

「流石のスミレでも3分が限界か。やっぱりコレは使えないかなー」

 

 気持ち悪くなったのでヘルメットを外して深呼吸をする。よし、少し気分が良くなった。

 

 そのまま元の位置に歩いて向かうと、先程よりも気分が悪くならないことに気がついた。あれ?もしかして酔いやすいのって、ヘルメットが原因か?

 

 もう一度ヘルメットを装着して歩いてみると、カメラの映像と体が感じる振動に違いがあることが分かった。車に乗ってゲームや本を読んでいると車酔いしやすいのと同じだ。

 

 他の理由としては、動きが自然過ぎるのもあるかもしれない。そのおかげでいつも通りの感覚で動くことができるが、体への負担は普段よりも大きいので、そのズレにより酔いやすいのかも。

 

 それらを報告してスーツを着たまま休憩をすることにした。酔うこと自体が問題だが、それが直ったとしても一般人の使用は無理そうだな。

 着るのにも脱ぐのにも時間がかかるので、身を守るためにはずっと装着していないといけない。それならば護衛官を雇った方が手っ取り早い。

 

「まあスーツに関しては、半分ロマンみたいな物なので」

 

 会社としてはそれでいいのか。

 

「男性護衛の為の開発と言えば、補助金が出るんですよ」

 

 おい、税金泥棒。税金を払ってない私が言うことでもないが、補助金はもう少し真っ当に使おうよ。よく審査に通ったな。

 

「改良の目処も立ちましたし、コレは護衛官用の開発に変更しましょうか。ありがとうございました。もうスーツを脱いでいいですよ」

 

「ありがとうございました」

 

 臭かったり酔ったりと大変だったが、終わってみれば楽しかった。パワードスーツを着れる機会なんてそうそうないしね。

 あ、そうだ。いい機会だから写真を撮ってもらおう。

 

 私の携帯はポケットの中で、スーツを脱がないと取り出せないので、母さんに撮ってもらう。スーパーヒーロー着地と武装を構えたポーズ、膝立ちの待機ポーズを撮影したが、何歳になってもメカとは良いものだ。

 

「お疲れ様。これ、今回の謝礼金ね」

 

 撮影が終わってスーツを脱ぐと、母さんから給料の入った封筒を渡された。中を確認すると、1万円札が10枚も入っている。こんなに貰っていいの?

 

「いくつか改良案も出してもらいましたし、試作品の口止め料も含まれているので」

 

 それなら遠慮なくもらっておこう。これだけあれば今年の夏は困らない。テストは思ったより簡単だったし、なんなら次のテストも参加したいくらいだ。

 

「そうですか?それは良かった。次は新型防弾チョッキのテストだったんですが、人手が足りなくて。」

 

 やっぱりやめておこうかな!学生の本分は勉強なので、バイトにうつつを抜かさずそちらに集中します!

 


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