ライス曇らせは許されない。よって作者はギルティ()
___夢を、見ている。
そこは正しく''悪夢''だった。
目を背けたくなるほどの血の海。 間際まで足掻いて、ついぞ救われなかった死者で創られた塵山。 気が狂いそうになるほど、鮮明に、容赦なく突き刺さる血と汚物の匂い。
その中で、同然のごとく向かい合う。大小異なる影があった。
彼は、
その生涯は、苦悩と嘲り、失意に満ち満ちていた。
その''名''は、淡い月明かりに見え、それすらも見失ってしまった、堕ちた英雄......その成れの果てだ。 怨嗟と絶望に呑まれながら、なお僅かばかり残った獣性をもって、秘匿を破る者の前に立ちはだかった。
"死闘''は熾烈を極めた。 文字通り互いの血を互いの血で洗い 、抉り、引き裂き、潰し、壊し合う。
しかし、やがて瀬戸際で保たれていた拮抗は崩れる。
月の香りを纏いし影が、その醜い獣の臓腑を千切り裂き、遂に地にねじ伏せて見せた。
獣は、力なく地に伏せる。それが運命だと言わんばかりに、神父服を着た''狩人''の目には最早''
その眼に、
果ての見えぬ宇宙の如き神秘の光が、''彼''を取り戻した。
互いの間に言葉はない。片や、聖剣を手にしヒトへ還った英雄は、これから先、未だ見えぬ悪夢を乗り越えるに相応しいかを見定めようとする。片や蘇った英雄の姿に静かに狂喜し、理性と獣性と狂気の間で蠢くその瞳を獰猛に''彼''へと突き刺す。
狩りは終わった。だが、死闘は未だ決してはいない。
かくしてノコギリと聖剣は、新たなる英雄譚を謳った。
一体、どれほどの時間がたっただろうか。1分しか経っていないのかもしれないし、1年以上経っているのかもしれない。 それほどまでにその戦いは刹那的に見えて、それでいて悠久の如き時間だった。 ''彼が''聖剣を振るう度に大気が揺れ地響きが鳴り、''狩人''を捉える。
"狩人''が炎を纏ったノコギリを振るう度に''彼''の肉体は焼かれ、引き裂かれ、血が迸る。
そんな極限の攻防が何度続いただろうか...遂にその時は訪れた。
互いに満身創痍の中、決着をつける為"彼''が放った全てを飲み込むが如き光の奔流を''狩人''は完全に避けきる。そしてできた隙を見逃すはずもなく、どこからともなく一つの巨大なナニカを取り出す。 それは銃と言うにはあまりにも大きく、大雑把で力強かった。 それは、俗に大砲と称される獲物だ
「終わりだ。在りし日の英雄よ___」
どこか物憂げな声色と共に彼は大砲をうち放ち、遂に''彼''は首と聖剣だけを残して完全に砕け散った。
「...あぁ...教会の狩人よ、教えてくれ」
最早首だけとなり、なおも縋るように語りかける''彼''に、''狩人''は...ただ、静かに歩み寄る。
「...君たちは、光を見ているかね? 私がかつて願ったように......君たちこそ、教会の名誉ある剣なのかね?」
「...そうだ。そうだとも」
僅かなの逡巡の後、''狩人''は応えた。
「貴公の目指した物は、その在り方は...間違ってなどいなかったのだろうさ。ヒトの''遺志''は、確かに光を見出したとも」
確固たる意志を持ってそれでいてどこか自嘲するかのように言葉を紡ぐ。
「だからただ、憩えばいいのだ。貴公の遺志は、確かに巡り巡って...私が手にしたのだから」
"狩人''の答えを聞いた''彼は''...ただ、同じように逡巡した。
「............おお、そうか……それは、よかった……。嘲りと罵倒、それでも私は成し得たのだな」
きっと彼は、気づいていたのだろう。''狩人''が紡いだ言葉の中の嘘に。
「ありがとう。これでゆっくりと眠れる。暗い夜に、しかし確かに、月光を見たのだと…………」
きっと彼は、知っていたのだろう。己の理想は破綻していたのだという事を。
.....それでも彼は、自らを肯定してほしかったのだ。 たとえ偽りの言葉だったとしても、理想に手を伸ばしたことを、淡く細い光の糸を掴んだことを、''間違いでは無い''と。
最早縋ることすら叶わなくなった''彼''は、確かに安らいだ。
──────────視界がぼやける。 頭が水で満たされる音がする。 どうやら夢はここで終わりのようだ...あぁ...''私は''ようやく終われる...
...身体が、微かに揺れている感覚がある。
「......ちゃん...!!」
あぁ...誰かの声が聞こえる。
「...ぇ...ーンちゃん...!!」
なんだろう...心做しか周りが騒がしい...様な気がする。 ざわめき以外も聞こえる...この音は...サイレン...?
「やだよぉ...ねぇ、起きてよぉ...!」
起きなければ、起きなければならない筈。なのに瞼が開かない。身体が言うことを聞かない。 私は、ケガをしているのだろうか...
「...スの.....ライスのせいで...こんな」
ああ、泣かないでおくれ...君の涙は、どうしてか、見たくないんだ...
「......ごめん...なさい...ごめんなさい...!!...ムーンちゃん...っ」
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「......っ!!」
勢いよく上体を起こす。
それと同時に心臓は早鐘をうち、呼吸は乱れ、全身に言いようもない痛みが駆け巡る。
「!?...っぅ!!」
「ハァ...ハァ...ここ.......は?」
周囲を見渡すと、いっそ眩しいくらいに清潔感のある、毒々しいほど白一色の世界が映る...他には、大きなベッドに輸血袋の様なものや、様々な機械がうつる...病室だろうか。
とすると...どうやら私は病院に居るらしい。
なぜこうなったか考えようと首を下に向ける。すると、なぜ気づかなかったのだろうか、ふと視界の端に黒いなにかが映る。 気になってそこに目を向けてみれば、
「スー...スー...」
艶のある黒い
私は訳もわからず再びベッドに仰向けで倒れ込む。
......とりあえず一旦状況を思い出しながら整理しよう。
私の名前は《
確か私はトレセン学園への入学試験2人揃って合格できた帰りだったな。それで......
...ああ、そうだ。確か、居眠り運転していた車が
そうだった、私は交通事故に遭ったのか。
......ん? なんだろう。なんというか、今の私の喋り方に違和感があるような...そもそも、私はこんな性分だったか...??
「んぅ...」
言いようもない違和感に疑問を抱いていると眠っていたライスが起きたようで眠たげに目を擦っている。
「おき...た の か?ライ、ス」
軋む体に鞭を打って、捻り出す様に声をかけてみるも、未だ夢見心地なのか曖昧な返事ばかりが返ってくる。
「...ぁえ...?ムー...ンちゃん...?」
何とか再び上体を起こし、ライスに向き直る。見れば彼女は目の下に深い隈があり、どこかやつれている印象がある。
.......どうやら相当に心配させてしまったようだ。むぅ...友人失格だな。私は...
「む、ムーンちゃん...ムーンライトちゃん...だよね...?本当の本当に、起きたんだよね...??」
「ぁぁ...そう、だとも」
そしてやがて眠気が取れてきたのか、次第に硬直が解けていき酷く辛そうに彼女は顔を歪める。その目には、いつの間にか涙が溜まっていた。
「ぅ...ヒグッ...ぅうっ...うあぁぁぁぁぁぁんっ!!!!!!」
「あぐっ!?」
途端にライスが大声で泣きながら勢いよく抱きついて来て全身に痛みが走る。 ちょっと...いやかなり痛いが、我慢しよう。
彼女は、もっと痛かった筈だから。
「ごめんなさ゛いっ! ごめ゛んなさ゛いっ! あの時、うぅ...ラ、ライスが...いなか゛ったら...!! こんな事に...!!」
外が騒がしくなってきた。どうやらライスが大声を突然出したことで、近くにいた看護婦が反応したらしい。
私は、震えるライスを、片腕で優しく抱き返す。
「ふぇ...?」
「泣かないでおくれよ...
「......んで、なん、で、ムーンちゃんが謝るの...?おかしいよ、だって...だってっ!!」
「どうかされましたかライスシャワーさん!?」
いい切ろうとしたところで、看護婦が切羽詰まった様子で勢いよく扉を開く。そして、私の方をみて酷く驚いた様に目を見開き、
「どっ、ドクターを!! ムーンライトさんが目を覚ましました!!」
急ぎ足で医者を呼びに行った。その間にも、私は自己嫌悪に陥っているライスを懸命になだめて、ようやく落ち着いた頃だろうか...複数の看護婦と、1人の医者が目の前に現れた。
「...正直に言いましょう。貴方が目を覚ましたのは奇跡に等しい。ムーンライトさんが事故にあって1ヶ月、 私はこのまま目覚めないものだと思っていました」
何と......重症だとは思っていたが、そこまで深刻なものだったとは...
「不幸中の幸いにも、身体の方は一部が複雑骨折を起こしてはいましたが、治療不可能なレベルで深刻なものはありませんでした。 ただ...何分頭部や、内臓へのダメージが大きく...脳挫傷も起こしていました」
「そうですか...命を救ってくれたこと、貴公に心より感謝したい...」
「...?ムーンちゃん??」
私がそう返答した時、ライスがこちらを不思議そうな顔で覗く。 なにかに違和感を感じているようだ。
「いえ、医者として当然のことをした迄です。 ...取り敢えず念の為、意識や記憶能力に変異がないかテストさせて貰います。
自分の名前を言ってみてください 」
......医者が促す。まあ、当然か。脳挫傷は記憶や人格面などに後遺症で、影響を及ぼすと聞く。 素直に従おう。
「ああ...私の、名は......
不意に出た私のその名前に、一瞬、静寂が訪れる。
「るど...ういーく...???」
その瞬間、頭に酷い鈍痛が走った。
「っつ...!?あぁ...っ!!」
「ムーンちゃん!?」 「大丈夫ですかっ!?」
それは、悲しき英雄譚だった。それは、悪夢の訪れだった...それは、失意と絶望の物語だった...けれども確かに、救われたのだ...
あぁ...そうだ。私の名は、《ルドウイーク》。そして、''この''私は、《ムーンライトソード》......嘘から出た真か...狩人よ、確かに...獣狩りの夜は明け、私は...間違ってなど、いなかったのだな。
周囲のざわめきが私を包む中、意識はそこで途絶えた。
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※感想でご指摘があったのでルド娘の名前を変更いしました