彼はなにゆえ“銀河にねがいを”事件を起こし、なにゆえソウルとなるに至ったのか。 
才媛糸奇華の奏でる調べにのせて送る、マルクのひとつの形。

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この身にかかる霊感と幻視を与えてくれた才媛、わが友糸奇華(いときはな)と、
彼女と出会わせてくれたコウタ、そしてユキに感謝を。


マルクの帰還(MARX's Return to Dreamland)

 

  過去に未来に 知らぬ顔をして

  壊れた時計の針を ぐるぐるまわす

  夜は明けない、朝は来ない、

  僕は すべてが欲しい

 

  とおい銀河に 願いをかけるの

  幸せな道化師の 夢を見たいの

  わからない、何が足りない?

  僕は すべてが欲しい

 

 

――――

 

 

 エーテルの波に揺られているボクの存在にボクが気付いたのは、もう地上を遠く離れて星の海に投げ出されたあとのことだった。

 頭上に迫る大彗星の影にボクはすっぽりと覆われて、自分の体さえも定かには見えない。遥かな彼方の星くずたちがきらめくのを、ただぼんやり視界に映しているだけだ。

 ボクは、どうしてここにいるのだろう。ボクは、どうしてこうなってしまったんだろう。ああ――ボクは、いったい、何が欲しかったの?

 

 

――――

 

 

著:Robert Elmer-Niven

訳:福井実継

 

 

Fun Fiction of Kirby's Super (星のカービィウルトラスーパーデラックス)Star() Ultra(二次創作)

MARX's Return to Dreamland(マルクの帰還:或はマルクの復讐)

 

 

――――

 

 

 最初は、単なる好奇心だったんだと思う。遠くの土地に面白いやつがいると春風の噂に聞いて、玉乗りしながら旅に出かけたのが、きっと全ての始まりだったんだ。

 日が沈んでまた昇るのを何度か繰り返して、水路を越えて山に登って、空のブロックを飛び継いだりなんかもして、ボクの見たことのない土地に入ってしばらくたったころ、あいつと出会ったんだ。

 

 はじめはバタモンかと思った。だけど、すぐに違うってわかったよ。

 あんな目をしたバタモンがいるもんか。

 キラキラ光っているくせに、全然底が見えなかった。不思議そうにボクの顔を覗き込んできた時には、正直に言うよ、怖かった。

 でもそれ以上に、強烈に惹かれた。いろんな連中を見てきたけれど、あいつみたいなやつは一人もいなかった。

 その時はそれ以上何もなく別れたけれど、その日から、ボクの心にあいつが棲みついたんだ。

 あいつを騙して弄んでやったら、どんな顔をしてくれるんだろう。あいつをあざ笑ってやったら、どんな感情をボクにぶつけてくれるんだろう。気がつけばそんなことばかり考えていて、これじゃあまるで熱病だと、一人で笑ったよ。

 

 でも、どうしてやればいいんだろう。あいつにふさわしい舞台なんて、そう簡単に見つかりはしないよ。

 王も、怪鳥も、魔神も、騎士も、あいつを本当の意味で陥れることはできなかった。

 王には奪う権利があると唆した。親は子のためならば罪を犯しすらもすると説いた。荒ぶる旧き神の潜む地底への陥穽を開きもした。騎士は堕落を正すため正義を行わねばならないと嘯きさえしたサ。

 でもあいつは、その尽くをこともなげに鎮めてみせた。

 

 こんなことは初めてだったよ。ボクの仕掛けが何一つ通じないなんて、想像したことすら無かった。もうこれ以上の演出なんか思い浮かばなくて、どん底の気分ってやつだった。世界はボクのおもちゃ箱のはずなのに、どうしてなんだ、って。

 打ちのめされて、失意の中に夜空を見上げ、――そして、見つけてしまった。ありとあらゆる夢の終着点を。満天の星空の中、ひときわ強く光り輝く客星を。

 知っている。知っていた。ボクは知っているぞ。あれこそは願い星叶い星、宇宙に満ちる謎の一つ、大彗星ギャラクティック・ノヴァ。

 運命とは地獄の機械なんだと遠い星(ハルカンドラ)の誰かが言っていたけれど、きっとそれは真実(ほんとう)だったに違いない。そうでないなら、どうしてその時ボクの目の前にノヴァが現れたのか説明がつかないもの。

 

 ノヴァについて、ボクが知っていることは少ない。ということはつまり、誰もあれについて詳しく知っているやつはいない、っていうことだけど、それはいい。重要なことは、ノヴァに願いをかける方法は知られているのに、それを試した、いや、やりおおせたやつは誰もいないっていうことの方。

 この星系の七の星にある謎めいた祭壇、夢の泉。それらをスターロッドで目覚めさせ、星々の間を神秘的な縁でつなぐ。そうしたなら、遊星が不可思議な魔法陣を形作ってノヴァを呼び寄せるのだって話さ。そしてもちろん、現れたノヴァは願いを叶えてくれるってわけだ。なんだ簡単じゃないか。

 じゃあどうして誰もそれに成功してないのか、それもボクは知ってる。

 夢の泉があるせいかは知らないけれど、それら七つの星々は天然の迷宮と化して、迷宮の雄牛(ミノタウロス)よりもなお危険な生物(いきもの)が群れなして徘徊する、この銀河でももっとも危険な惑星たちになってしまっているのサ。

 下らないなりに本人たちにとっては切実な願いを抱えた連中がノヴァを求めて絶望的な冒険に挑むのも何度も見てきたけれど、みんなせいぜい一つめか二つめぐらいの星でぶざまに倒れていった。――うん、もちろんそいつらの何人かはボクが煽り立てて向かわせたのサ。

 それはそれで面白かったんだけど、あの時思いついたことはもっと楽しい、たぶんボクの仕掛けてきたなかでも最高の遊びだったと思う。

 つまり――あいつを焚きつけて、ノヴァを呼び求める冒険に挑戦してもらおうっていうことを考えたんだ。

 

 とてもとても大変な旅路になることは間違いなかったけど、きっとあいつならボクの期待通りにやりとげてくれるに違いない。そう確信してたし、実際その通りになったのだけれど、ともかくあいつにノヴァを必要とさせる理由がボクには必要だった。

 ボクの今までの、言ってみれば集大成というやつになるんだから、どうせならうんと派手な花火を打ち上げてやりたいと思ったボクは、そうだ、あの空に輝 く(ブライト/)(シャイン)を、太陽と月をその前哨戦に弄んでやったんだ。

 といっても別に特別なことをしたわけじゃあない。いつもの通り、ちょっとばかり彼らを煽ってみせただけサ。

 たとえば月なんてしょせん太陽の添え物にすぎないって吹き込んでやるとか、それとも逆に月こそが真に住民の尊敬を集めるべき神秘の源泉だと騙ってやるとか、そんなつまらないお馴染みのやり口。取り立てて語るようなことでもないよ。

 重要なのはそれで昼夜の不和を作りだして、あいつが動きたがるような舞台を作ってやったってことの方だ。それに比べたら、太陽と月が大ゲンカしただの昼と夜がメチャクチャでみんなが大混乱だのなんて、くだらない瑣末事にすぎない。

 

 そして、そうだ、覚えているとも、途方に暮れて空を見上げる連中のなかで、あいつの目だけがやたらに強い光を放っていたのを。ぎらぎらと降りそそぐ陽光に、しんしんと輝く月光に、そのどちらにも負けない宇宙空間のあまたの星くずのきらめきが、あいつの底知れない目に映っていたのを。

 もしかしたらあれは、あいつの体内にあるもうひとつの宇宙が透けて見えているんじゃないかって、真剣に思ったことを覚えている。いや今も、あの直感は真実(ほんとう)だったんじゃないかって恐れているぐらいだ。

 違う。それはボクの想い出したいことじゃあないんだ。過去の霞の中から拾い出したいのは、ボクがどうやってあいつをボク最大の演目に招待したのか、まさにそこだ。

 ああ、銀河の風に吹かれて記憶のカケラが飛び去っていくよ。ボクを構成するすべても、ぞっとするような暗く冷たい空のかなたへ散らばっていくみたいだ。

 でもそうだ、忘れるものか、ボクとあいつが、最初に交わした言葉なんだから。

 

『ヘイ、ヘイ、ヘーイ。』

 そうだ、こんな無意味な掛け声だって、一文字も欠けることなく思いだせる。

 

『お月さんとおてんとさんを、なかなおりさせたいんだろ?』

 次のセリフはこうサ。あいつがそう考えてることは、ボクには当然わかってたよ。

 

『なら、ぎんがのはてのだいすいせい、ノヴァにおねがいするのサ。』

 だから、あいつのいちばん知りたいことを教えてやった。

 

『おっと、タダでなんとかなるほどアマくはないぜ?』

 これは掛け値なしに本当のこと。でも、あいつならやりおおせるって確信があった。

 

『ノヴァをよぶには、ちかくの星をむすんで、パワーをあつめるのサ。』

 こう言ってやれば、たとえ遊星そのものが立ちはだかったとしてもあいつは止まりはしないで走りぬけると知っていたんだ。

 

『はてしないたびになるけど、せいぜいガンバるのサ。』

 ボクがそう言い終わらないうちに、あいつは一条の流れ星になって彼方の星々へと飛び去っていった。

 その姿さえ、今も鮮明にまぶたに浮かぶよ。

 

『みんながまっているんだからな。たのんだのサ!』

 まばゆく輝く炎をまとって、陽炎にきらめく星を駆って、まっすぐにボクに向かって飛びくるあいつのシルエット……

 透明な薄緑の波動がその全身から放射され、宙域全体を予感に帯電させて……

 

 いや、違う。ボクはあいつを見送ったんだ。立ち向かわれたんじゃない。

 じゃあ、いまボクの見ているこの幻影は何だ? とても本当とは思えないほどの苦くてリアルな重さを持った記憶は?

 

 もうなにもかもわからなくなって、途方に暮れて現実を見回すと、頭上には大彗星のぼやけた輪郭。きっとボクはあの消えゆく星へと墜ちていっているんだと、ぼんやりとどこか遠くで考える。

 崩れてゆくノヴァは宇宙の速度ではとてつもない早さで分解していっているのだろうけれど、ボクたちの時間ではゆっくりと拡散していくようにしか思えない。ボクが崩壊していくほうがよほど早く思えてしまうよ。ホラ、いまこの瞬間にも翼の宝石が煌めく塵芥と化して拡散していく。構うもんか、あんなものしょせんはノヴァに与えられた空っぽな力にすぎない――

 そこまで思い至って、ぞっとするぐらい突然に頭が冷えた。ボクはいますべての守りを失って宇宙の虚空にただひとり投げ出されているんだと、理解してしまったから。

 どうしてボクがノヴァから力なんてものを与えられたのか、どうしてそのノヴァが崩れていくのか。そして、どうしてボクがこうしてうちゅうにいるのか。

 つまり、ボクは、負けたんだ。あいつに。

 

 ほんのすこし前の時間、ボクは今とおなじこの空間にいた。でもあのときはまだ敗北なんてものを知りはしなかったし、こんなグロテスクでおぞましい翼も生えてなどいなかった。ただ笑いだしたくなるのを必死にこらえながら、空を埋めつくすほど視界に広がった大彗星に最後の仕上げのために向かっていただけだった。

 そう、あいつは見事にボクの思惑どおりに動いてくれた。七つの惑星の七つの迷路と七つの怪物を乗りこえて、ついに大彗星ギャラクティック・ノヴァを起動させることに成功したんだ。あの時はきっとボクでさえも感動というやつに打ち震えていたにちがいない。もちろん、この最大の計画が完成しようとしていたことに。

 虹色に輝く星々のかけらがノヴァの行く手を導いて、星系の外れで待ちうけるあいつの眼前でゆっくりと静止していくのを見ながら、ボクはもう一つの彗星となって駆けていった。最高のタイミングでそこに現れられるよう細心の注意を払いながら。急げや急げと速度を上げ、これでは早く着きすぎるとブレーキをかけて、星のかけらを蹴りつけたりなんかもして、ついにすべてが決定的に変質するその瞬間へと――

 

 あいつはいったい、何を願おうとしていたんだろう? ボクはそれを知っていたはずなのに、どこかに置き忘れてしまった。あの輝く太陽のあたりだろうか。それともあの煌めく月のそばか。きっとボクがあの惑星から宇宙の虚空へ弾きとばされた時にでも失くしてしまったにちがいない。

 まあいいさ。そんなことはたいして重要じゃない。どうせボクには理解できないような願いに決まっているサ。たとえば他の誰かのために何かをしようとかそんなやつだ。大事なことは、ボクの目論みがまさに思い描いていたとおりに成功した、っていうこと。それだけだ。

 あのとき、大彗星の圧倒される巨大さそのものが震えるように、音なき声が響いていた。それこそ屑星の影に隠れていたボクまでも叫びだしたくなるのを必死にこらえなければならなかったほどなのに、あいつはそれを間近で受けながら平然とたたずんでいた。でもそれも大したことじゃない。ボクはもうその程度のことでは止まれないところまで来ていたんだから。

 あいつがノヴァに負けないくらい大きく息を吸いこんで(それともノヴァの力すらも吸収しようとしていたのか)、今となってはもう思い出せない願いを銀河に叫ぼうとしたまさにその瞬間、ボクという凶弾が空間の神聖さを砕き割りながら飛びこみ――願いごとを横取りしてやったのサ。

 

 そういえば、ボクのほうはいったい何を願ったんだろう。憶えているのはあいつの相貌(かお)、ボクがここにいることがどうにも理解できないって表情(かお)だけだ。

 けど、あの形相(かお)を想い出すだけでもボクが満たされていくのが感じられる。空っぽになっていくボクの中で、あいつだけが異常に輝いているんだ。まるでブラックホールが重力のかわりに光をはなっているように――ああ、ノヴァとボクが、ばらばらに混ざりあいながら砕け散っていくよ。そうだ、あいつもノヴァの中から、彗星を打ち破りながらボクの前に現れたんだっけ。この引きちぎられて混乱した心のなかで、あいつだけが異様に鮮明に輝いている。

 透徹な闘いの意思を翠の霊気(オーラ)に変えて、流星(ほし)を駆りボクへと落ちてくる影を視界にとらえたとき、彗星の光にかき乱されたボクの心は思ったんだ。

 あの輝きはあまりにもまぶしくて、目をそらすこともできないほどに美しくて、きっと、絶対に、ボクのものにはならないってわかってしまって、それだから、それならば、いっそキミを、壊してやりたいって。

 

 もしかしたら、もうそのときにボクの精神(こころ)は失われていたのかもしれない。あのノヴァから、冷たい機械から、この惑星(ほし)を手に入れるための力を与えられてしまった瞬間に。

 ――そうだ、それがボクの願いごとだったんだっけ。この惑星をボクのものにしたい、って。

 いったいどうして、そんなことを思ったんだろう。ずっと世界はボクのためにあるって知っていたはずのボクが、なぜ銀河の果てにねがいを掛けるようなマネをしてしまったんだろう。

 どうしても思いだせない。もう記憶のかけらも、彗星のかけらといっしょに宇宙の虚空へ消えていってしまったのかな。

 でもそんな記憶は、もういい。もういらない。だって、ボクはボクの時間の最後に、最高の想い出を手に入れられたんだから。

 

 いまこうして思いかえしてみるだけでも、身体じゅうを電光が走るよ。

 もうボクの目は光を映さないけれど、幾重もの鏡像が虚無の宇宙に輝いてあらゆるベクトルを反射させて輝く、美しくも慄然たる光景を幻視できる。

 もうボクの耳は音を拾わないけれど、緑の電光が悪夢の虚空を切り裂いて炸裂する、恐ろしくけれどそれ以上に心震わせる天上の楽が今も聞こえる。

 だからボクは、満足したんだ。もしかしたら、この世に現れて初めて。

 ずっと、ずっと、ずっと身体(からだ)精神(こころ)の奥の奥で吹き続けていた銀河の風の音が、ようやく止んだ。どうしても埋められなかった暗黒の空隙に、まるで最初から決められていたかのようにあいつがぴたりとはまり込んだんだ。

 それだから、ボクにはもう思い残すことはない。このまま消えていくことにも、恐れなんてない。あの忌まわしいノヴァにすら、この交感を成り立たせてくれたことに感謝しているのだと気がついて、ひとりでに笑みが浮かんでいた。ああ、砕け散った彗星といっしょに、ボクも銀河系宇宙の忘れものになろう。それでも、ボクは満足だ――――

 

――本当にそうか? と問う声がする。

 

 どこから聞こえるのだろう。大彗星の小さなかけらからだろうか。こっちの懐中時計の声なのか、それともあっちの六分儀から? この目にはもう何も映らないけれど、さっきまでボクの中にあったノヴァの存在を感じる。

 違う。大事なことはそこじゃあない。そのあまりにも恐ろしく、そして甘い問いかけだ。安らかな眠り(レスト・イン・ピース)に沈もうとするボクを引きずりあげる、危険な問い。

 ――『こんな終わりかたで、本当に満ち足りたのか? 敗北して消えゆく、それだけでお前は本当に満足なのか?』

 もちろんだ、と即答することができなかった。放散していく彗星の残骸たちが、ふいにその動きを緩めた気がした。

 この声に耳を傾けたらいけない。今はもう『めでたしめでたし』の後の世界だ。ボクの出番はもう終わり、完結した物語に蛇足を付け足したらいけないんだ。

 そう思っていたはずなのに。無の空間から響いてきた謎めいた声の確信に満ちた言葉に、ボクの心は殴りつけられてしまったんだ。

 ――『このまま消えたら、お前はあいつの中に残らないままサ。』

 

 時が止まったような静寂の中で、その言葉だけがぐるぐると反響していた。 この耳にはもう何も聞こえないけれど、魂の深い部分に直接思考が発生するのがわかるよ。

 けれど、なんて恐ろしい考えだろうか。ボクが、ボクの存在したことの記憶が、あいつに忘れ去られてしまうなんて。夜明けの空に残る最後の星みたいに、ボクの名残のすべてが消えていくなんて。

 そんなこと、認められるはずがないに決まっているじゃあないか。

 ボクはあいつのためにこれほどの時間と空間を費やして、ボク自身の生命と存在まで支払って、ボクを侵したあの彗星の冷たい力すら受けいれて、ボクの計略と、ボクの意志と、それ以外もすべて、ボクの全てをあいつに、あいつ一人のために捧げたんだ。

 ――なら、キミもボクを忘れちゃいけないはずだ。

 

『そうサ。あいつに教えてやらないといけない。ボクはこんなにキミのことを想っているんだ、って。』

 その通りだとも。ボクの記憶を忘却の彼方に追いやって眠りこけているなんて許せるものか。

 あの穏やかな相貌(かお)に、ボクの容貌(かたち)を刻みこんでやる。あの底知れない精神(こころ)に、ボクの情念(おもい)を叩きこんでやる。

 そんなボクの『願い』に呼応して、砕け散ったはずの大彗星、ギャラクティック・ノヴァのかけら達が動きだすのを、何か穏やかならない感覚で感じられる。白熱電球のガラス片がはるか遠い光に輝き、鉛筆の折れた芯がめちゃくちゃな図形を描きだすのが、とても(くら)い視覚で視える。そして――今度こそ、ボクがボクじゃないものへと、決定的な変質を遂げてしまうのだと、わかってしまった。

 懐中時計のぜんまいが無情に時を刻む音に、もう戻れはしないと思うその心さえも、なにか暗示的な毒々しい絵具に塗りつぶされ、仮定された巨大で有機的なペンに書き換えられていくのが、崩れていく――いいや、いまや作り変えられていくボクの存在と、ボクの呑みこんだノヴァの精髄(エッセンス)で感じられた。

 その恐ろしくも吐き気がするほどに惹きつけられる感覚の中、ようやくボクは理解できてきた。星々のあいだに消えていくはずだったボクを繋ぎとめてしまったあの謎めいた声が、真実(ほんとう)は誰のものだったのかを。

――ボク自身の声、自分でも気づいていなかった心の奥底から発っせられた本心だったんだ。

 

『それじゃあ、ポップスターをボクのものにしたいのサ!』

 ノヴァに歪んで叶えられたのも当然だ。始めから、願いそのものが歪んでいたんだから。

 ボク自身、この惑星を手に入れるなんてことに興味はなかった。ただ、その言葉はいかにも悪役めいていて、あの場にふさわしそうだと思ってしまったんだ。解体されていく意識の中にその理由を見つけることはできなかったけれど、この瞬間にはぼんやりと理解できる気がする。きっとポップスターにはあいつがいたからだ。ボクは、キミと――ああ、ボクはキミと、どうしたかったんだろう?

 

 そうだ、そもそも考えてみるならこの銀河にねがいを(Milky Way Wishes)掛けさせる行為そのものが、ボクのやりかたじゃあなかった。 それまでの四つの企み(ゲーム)みたいに、絶対にボクのしわざだとわからないように、姿すらブラックホールか暗黒星雲のかなたに隠して神さまの視座からながめるのがボクだ。――そういえば、ボクの名前はなんていったんだっけ? 象徴の時計が一つ時を刻むたびに、一つボクの断片が消えていく。

 なのにあの時は、まるでそうするのが自然なことだったみたいにあいつの前に出ていって、いかにも仲間とか友達とかいうらしい関係性でもあったように、言葉と、もしかしたら感情さえも交わして恥じもしなかった。ああ、あれはほんとうに楽しかった。ボクがボクでさえなかったなら、あの瞬間を永遠に繰り返すためにほかの全てをなげうっても悔やまなかっただろうに。

 でも、それはできなかったことなんだ。もし過ぎ去った時間のどこかで何か違う行動をとれるなら、その暖かく穏やかな世界を甘受できるのかもしれないとしても、いまやこの瞬間にボクを乗せて廻る回転木馬は砕け散ったはるかな夢の残骸たち、ほうき星の名残りがゆがんで散らばった擬似銀河、願い星叶い星の滑稽な残像にすぎない。

 けれど、その冷たく凍りつく暗黒物質(ダークマター)の彼方からキミのもとに墜ちてくる兇星は、実存を持った新たな本質(ソウル)。宇宙からの色彩に彩られた道を回転木馬に乗ってやってくるのは、何かなんかじゃない、このボクだ。

 

 いよいよ意識が希薄になっていく。ボクがボクである最後の時だと、蒸発していく精神(こころ)に染み込んでくる。

 でも、それでもいい。ボクを構成するすべての粒子を、あいつと、あの桜色の流星とふたたび対峙するための威力(ちから)に変えよう。それ以外はもう、何もいらない。

 もし思考(おもい)を一つだけ残しておくなら――

 

 ――カービィ、キミにもういちど会いたい。

 

 それだけ。それだけが残ってさえいれば、それ以外の全部を失くしても、ボクは、ボクになる。

 キミの果しない旅路の果に、ふたたびボクは現れよう。そのときは、その時こそ、かがやく桜色の流れ星よ、微笑みを与えてほしい。

 それがボクの、最後の、願いだ――

 

――――

 

  いくつ星を数えたら、さめない夢は迎えに来るの

  いつまで騙せるのだろう? 君も僕も

 

  いくつ星を繋いだら 銀河に願いは届くんだ

  桜色の流れ星よ こたえてよ

 




このSSは、糸奇華氏による星のカービィSDXの二次創作音楽『vsマルク◆アレンジ』を基にした三次創作です。
とはいえあくまで着想程度であり、元の内容を再現したものでないことはご容赦ください。
本文中に登場する歌詞は、糸奇氏本人の許可を得たうえで引用させていただいております。

【参考】
https://soundcloud.com/it0ki/vocal-arrange-remix-vs-marx
(Youtubeに歌詞・画像付きの動画あり)

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