アンタとはもう戦闘ってられんわ!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第13話(4)怒涛の決着

「FtoV! 来てくれはったんですね!」

 

「沖縄への任務のついでだけどね」

 

 隼子の言葉に殿水が答える。火東が四頭竜を見て呟く。

 

「それにしても大きいわね……こっちの倍はあるんじゃないの?」

 

「大きさ=強さという訳ではない。俺たちは何度もそれを証明してきたはずだ……」

 

「土友は良いこというね。その通……ZZZ……」

 

「会話の途中で寝るな! 木片!」

 

 小金谷が木片を怒鳴る。幸村が笑いながら叫ぶ。

 

「かの有名なFtoVと轡を並べられるとは! 光栄でごわす!」

 

「あ~盛り上がっている所悪いんやが……」

 

 ナーが呟く。美馬が問う。

 

「どうした?」

 

「自分、ちょっとバルカン撃ってみ」

 

 美馬はテネブライのヘッドバルカンを四頭竜に向けて発射する。巨体を覆い尽くすような大きなバリアが発生し、バルカンの銃撃を防ぐ。女が叫ぶ。

 

「ムダダ! ケッカイハヤブレヌ!」

 

「成程、極めて強力な結界……バリアがあるということか」

 

 土友が眼鏡を直しながら呟く。火東が叫ぶ。

 

「攻撃、来るわよ!」

 

 四頭の竜がそれぞれ炎を吐き出した。放射線状に広がる炎、直線に飛ぶ炎、球状に飛ぶ炎、曲線を描く炎、四種の炎が、戦艦桜島とその周囲のロボットたちに襲い掛かる。

 

「全機、緊急回避だ!」

 

 小金谷が叫ぶ。電光石火などは間一髪で躱したが、数体は炎を喰らってしまう。

 

「ダメージを受けた機体は一旦下がって下さい! 船首付近の消火活動を急いで!」

 

 伊織が的確に指示を飛ばす。殿水がぼやく。

 

「強力&広範囲なバリア持ちに四種の火炎……近づくのも厄介ね」

 

「お任せ下さい! 活路はこの戦艦桜島が開きます!」

 

 伊織が力強く叫ぶ。小金谷が問う。

 

「威勢は結構! しかし、どうやってだ!」

 

「この桜島の主砲ならば、あのバリアも破れるはずです! データを送ります!」

 

 伊織からFtoVにデータが送られる。

 

「どうだ、土友?」

 

「……この威力ならあのバリアも壊せるでしょう」

 

「よし! 任せるぞ!」

 

「任されました! 各員、主砲発射準備!」

 

「お言葉ですが艦長! 主砲発射は反対です!」

 

 ブリッジクルーの青年が伊織に叫ぶ。伊織がずっこけそうになる。

 

「ど、どうしたの⁉」

 

「主砲については試射もまだです。加えて照準修正と威力調整が非常にデリケートです! 現状のクルーの練度では完璧な状態での発射は困難を極めます!」

 

「何を弱気なことを! って、一理あるわね……」

 

 伊織がうなだれる。

 

「今日はあくまで試運転のつもりだったからね。まさかガチンコの戦闘になるとは……」

 

「お困りのようですね?」

 

「貴女たち⁉ ブリッジは関係者以外立ち入り禁止ですよ!」

 

 ズカズカとブリッジに入ってくる海江田たちに伊織が驚く。

 

「緊急事態にそんなことも言ってられないでしょ? ……悪いけどどいてくれる?」

 

 海江田たちがクルーを退けてシートに座る。

 

「な、何をするつもりですか⁉」

 

「代わりに発射をオペレートする……」

 

 水狩田が静かに呟く。

 

「ご経験があるんですか⁉」

 

「……ある寄りの……ない!」

 

「ないんじゃないですか⁉ 一瞬、頼もしいわって思った気持ちを返して下さい!」

 

「まあまあ、新兵よりはいくらかマシだよ。行こうか、水狩田」

 

 海江田がコントロールパネルを巧みに操作する。水狩田も同様に手元のパネルを操作しながら淡々と呟く。

 

「トリオ・デ・イカガワシイも宜しく頼む……」

 

「イナウディトだ!」

 

 松下がモニターを確認しながら叫ぶ。竹中や梅上も話しながら、忙しく手を動かす。

 

「初対面なのに人使いの荒い連中だ!」

 

「全く! はい! 角度調整完了よ!」

 

 海江田がモニターを見て満足そうに頷く。

 

「流石は歴戦のパイロットたち……ぶっつけでもなんとかなるもんだね。さて、艦長?」

 

「は、はい⁉」

 

「主砲発射準備完了しました」

 

「そ、そうですか……コ、コホン、主砲、撃てえ――‼」

 

 伊織の掛け声とともに桜島から主砲が発射される。凄まじいエネルギーの奔流が四頭竜に向かって、勢いよく飛んでいく。

 

「⁉」

 

 主砲の直撃により、四頭竜を覆っていた巨大なバリアは破壊され、砲撃は竜の体を直接貫き、竜はその衝撃で大きく呻き声を上げてのけ反る。

 

「よし、今だ! 畳みかけるぞ!」

 

 小金谷が檄を飛ばす。美馬がテネブライを空中に浮かせる。

 

「俺が先陣を切る! ……『エレメンタルフルバースト』!」

 

 テネブライが両手でサーベルを思い切り振り下ろすと、その剣先から斬撃が飛び、四頭竜の頭を一つ切り裂いた。その様子を見ていたナーが呼びかける。

 

「思うた通りや! さっきより大きなものやないけど、四つの頭もそれぞれバリアを張ることが出来るようやで! つまり……」

 

 木片が突如割って入ってくる。

 

「各々、バリアごと吹き飛ばす強力な攻撃が求められる!」

 

「お、おう! そうや! なかなかどうして鋭い……」

 

「ZZZ……」

 

「え⁉ 寝るの? この流れで⁉」

 

「お次はうちの番でごわす! 姉上! カタパルトを!」

 

「⁉ 分かったわ! 射出カタパルト作動させて!」

 

 鬼・極をカタパルトに移動させていた幸村が姉の伊織に呼び掛ける。姉もその狙いに気付き、カタパルト作動を指示する。鬼・極が勢いよく空中に射出される。

 

「勢いも高さも十分! 喰らえ! 『砕岩』!」

 

 再びモード『鬼神』を発動させた鬼・極の振り下ろした金棒は凄まじい破壊力で、竜の頭を一つ粉砕する。幸村は満足気に微笑み、静かに呟く。

 

「上手くいったが、困った。今の鬼・極では飛行出来ん。さて……ん⁉」

 

 海面に落ちそうになった鬼・極の首ねっこをテネブライが掴んで引っ張り上げる。

 

「あ、あいがと……」

 

「気にするな……」

 

 幸村の礼に美馬がそっけなく答える。ナーがぼやく。

 

「けど少し重いの~! もうちょっとなんとかならんか?」

 

「き、機体差によるものじゃ! そればかりはどうにもならんと!」

 

「敵頭部は残り二か所!」

 

 土友の報告に小金谷が頷く。

 

「よし、俺たちで終わらせるぞ!」

 

 FtoVが両手にキャノン砲を構える。エネルギーの粒子が大量にキャノン砲の砲口へと充填されていく。小金谷が叫ぶ。

 

「『ツインメガビームバスターキャノン』、発射‼」

 

 放たれた二筋の大きなビームが竜の頭部と胴体に命中し、大爆発を起こす。手応えを感じた小金谷はガッツポーズを取り、いつもの決め台詞を叫ぼうとする。

 

「悪は俺たちFtoVと愉快な仲間たちが倒した……平和へむけたビクトリーロード、またも一歩前進! 次回もまた……」

 

「待て、和さん! まだ頭が一つ残っている!」

 

 土友の言葉通り、頭部が一つだけ、更に胴体も半分になりながら、竜はしぶとく空中に浮かんでいた。小金谷が怒号を飛ばす。

 

「おい! 下半身コンビ! 姿勢制御ミスったんじゃねーのか⁉」

 

「多少の誤差はあるものでしょ! 相手が上手く避けたのよ!」

 

 殿水が負けじと叫び返す。ナーが周りに呼び掛ける。

 

「アカンで! 奴ら自己修復・再生が出来んねん! 早くトドメ刺さんと!」

 

「ツインメガビームバスターキャノンは連射することは出来ない……」

 

「モード『鬼神』発動後は、しばらく満足に動けんのじゃ……」

 

「知っての通り、テネブライもエナジー切れに近い……」

 

「嘘やろ! 打つ手なしかいな!」

 

「! 電光石火はどうなの⁉」

 

 殿水の言葉に隼子が申し訳なさそうに答える。

 

「情けない話ですが、現状の当機では皆さんのような威力ある攻撃を放つことは……」

 

「いや、待って!」

 

 閃が叫び、コントロールパネルを操作する。大洋が尋ねる。

 

「どうした、閃⁉」

 

「! やっぱりだ……さっきのアルカヌムが送ってきたメッセージ……これは電光石火の武装解除コードだ!」

 

「な、なんでそんなもん、あいつが知ってるんや⁉」

 

「分からないけど、コードは適用出来る! しかもご丁寧に日本語で……ってこれは⁉」

 

「どないしたんや⁉」

 

「新たな武装に関するキーワード……い、いや、キーセンテンスなのかな?」

 

「キーセンテンスだと⁉」

 

「何て書いてあるんや⁉」

 

 閃は戸惑い気味に読み上げる。

 

「えっと……『褌を引き締めろ』……だって」

 

「⁉」

 

「何を素っ頓狂なこと言うてんねん! 冗談言うてる場合ちゃうねんぞ!」

 

「わ、分かっているよ! でもほら見てよ!」

 

 閃は二人のモニターにもその文面を映す。

 

「ホ、ホンマや……ど、どういうこっちゃこれは?」

 

「分かんないよ!」

 

「分かった……」

 

「「大洋⁉」」

 

 閃と隼子は静かに頷く大洋を驚きの目で見つめる。

 

「分かったって本当⁉」

 

「ああ、もう完璧すぎる程理解した。120パーセントな」

 

「それ分かってない奴の台詞やん!」

 

「隼子、相手に向かって飛べ! 出来る限り接近しろ!」

 

「り、了解!」

 

 電光石火は空中に飛び上がり、竜に接近する。大洋が叫ぶ。

 

「閃、モードチェンジだ! 近接戦闘モードに切り替える!」

 

「わ、分かった!」

 

 電光石火は金色主体のカラーリングである近接戦闘モードに変形する。

 

「で、どうするんや!」

 

「『褌を引き締めろ』……つまり尻に力を込めろということ!」

 

「「はあっ⁉」」

 

「まずは両脚を閉じる! 若干胴体を反らす! そして、両手を頭上で合わせる!」

 

「こ、これは刀⁉」

 

「そうだ! 電光石火それ自体が刃と化す……〝コロンブスの卵“的発想だ‼」

 

「よう分からんけど、コロンブスに謝れ!」

 

「行くぞ! 『必殺! 電光石火‼』」

 

 大洋は電光石火を機体ごと竜に突っ込ませる。まるで巨大な刃となった電光石火の攻撃を喰らい、残っていた竜も爆発し、消滅した。

 

「どうだ! この高度な技は防ぎきれまい!」

 

「ただの体当たりやないか!」

 

「ツォ、ツォンナバカゲタコウゲキニ……⁉」

 

 女が突然気を失い、空中から落下する。大洋が叫ぶ。

 

「真賀さん!」

 

「!」

 

 鬼・極を桜島へと運んだテネブライがすぐさま降下して、真賀の身体を掌で受け止める。

 

「大丈夫だ、まだ息はある」

 

 美馬の言葉に大洋たちは安堵する。火東が殿水に声を掛ける。

 

「これも期待通りってこと?」

 

「いや、期待以上よ」

 

「美味しいところ持っていかれちゃったわね」

 

「ま、たまには良いんじゃないの? リーダー!」

 

「……ゴホン! 帰投だよ! 戦闘終了!」

 

 小金谷が号令をかける。既に鹿児島の空は夕焼けに染まっていた。


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