転スラ小説読み直してて、更新していませんでした。本当に申し訳ないです。
「……なあ、アイツ今日も来ないのか」
上気する胸を押さえ込みながら地面に伏している若が弱々しく呟く。傍には痛々しい幾数の傷を負った木刀が転がっていた。それに対して同じく地面に伏していた青髪の少年は「……さあな」とだけ返しただけだった。こちらもボロボロの木刀が傍に転がっている。
その場に静寂が流れる。
「……なあ」
「さあな」
若の台詞に被せるように少年が遮る。若はどこかソワソワした雰囲気で又も口を開く。
「……n―――――――――――
「さあな」
―――――まだ何も言っていないんだが!?」
若が寝転がったまま叫び、耳元で叫ばれて耳が痛いのか少年は両耳を手の平で押さえた。
だが、それにも気づかぬように若は口早に少年を捲し立てる。
「いいか?アイツが最後に鍛錬に来たのは二週間前だ」
「おう」
「それまでの来ていない日数最高記録がたったの四日なのにこれはおかし過ぎると言わざるを得ない!」
「そうだな」
珍しくも賛同する少年に若はガバリと起き上がる。
「そうだろ!?だから、ここは修行仲間である俺達二人で様子を見に行くのが筋なんじゃないだろうか」
「却下だ」
「どうしてだ!?」
驚く若を横目に少年は寝転びながら指を見せつけるように三本立てる。
「いいか、俺が行かない理由は三つある」
一つ、と言いながら少年は薬指を折る。
「俺が行く必要を感じない」
表情を一切変えずに言い放った少年に若は不満気な顔をする。
「だーかーら!心配だからに決まってんだろ!」
「……確かに、俺もアイツのことは心配でもある。だがな、これは感情で動いていい話ではないんだ」
「はあ!?」
激昂しつつある若をどうどうと鎮めながら言葉を繋げる。
「アイツが鍛錬に来なくなったどころか、家から一歩も出ることがなくなった理由は分かるだろ?」
その言葉には若も反論出来ない。ただただ少年の言葉に黙り込むだけだ。渋々といった表情でもう一度地面に寝転ぶ。
「………親父さんが死んだんだろ」
「ああ、機織りの爺さんが帰ってきてから、つまり父親の死を聞いてからアイツは姿を見せなくなった。これに関係がないとは思えない」
淡々と丁寧に若に説明していく少年だったが、実の所彼の父親も少女の父親同様死亡している。正確には行方不明だが。
それを聞いたとき少年はというと周りの目も気にせず大泣き………なんてことはなく、ただ「親父、死んだのか」と思っただけだった。
戦闘種族というのもあるだろうが、彼の一族は影に生きる者達であり『死』についてはよく理解していたのだ。その芯は家族の死をもってしてもゆるぎはしなかった。
「無理に他人である俺達が押しかける必要はないだろ、というわけだ」
「……ちっ」
「んで、二つ目の理由だが、単純にお前が面倒臭いから」
「は、はあ!?」
少年の言葉に舌打ちしていた若だったが、すぐにブチッという血管が破裂した音と共に飛び跳ねる。
「どこが面倒臭いんだ!?どこからどう見ても紳士的だろーが!」
「どこからどう見ても面倒臭いんだよ。ていうか、このやりとり自体が優に百は超えていることに気づいてないのか」
「ぐぬぬ……」
顔を怒ったように赤くした若を見て少年は年季の入った重い溜息を吐く。「本当にコイツが次期里長でいいのだろうか……」と思いながら。
「大体、お前一人で行けば済む話だろう」
「そ、それは」
少年の言葉に若は言い淀む。
苦虫を潰したような、痛いところを突かれたような様子の若だったが、少年が寝転ぶ反対の方を向いてごにょごにょと言い訳を始める。口を鴉のように尖らせて、
「アイツと対面するとなんつーか、緊張するっつーか。調子が狂うっつーか」
「もっとハッキリ喋ろ。聞き取れない」
「……アイツと二人っきりだと、緊張すんだよ」
「こっちを向いて喋れ」
「あ、アイツと二人っきりになると緊張すんだよ!」
首を思い切り回転させ、少年の方を向く。そこにあったのは普段通りの無表情の少年―――ではなくニヤニヤした表情の少年がいた。
「ほう、そうか。それは大変だな」
「絶対お前聞こえてただろ!?」
ククク、と笑いながら返す少年に若は頬を若干引き攣らせながら叫ぶ。どうやら手の平の上で遊ばれていたらしい。ていうか遊ばれるのは日常茶飯事なので珍しくもないが。
少年が笑いを抑えながら口を開く。
「若、お前はきっとアイツのことが好きなんだろうな」
「は、はあ!?んなわけないだろ、俺は別にアイツの事なんて―――――――――――」
「毎晩窓からアイツの寝顔を覗き見していたくせに?」
「―――――――――――好きではなくもなくもなくもないかもな」
結局のところどっちなんだよ。と心の中で突っ込む少年だったが「若には早すぎるか……」と納得した。が、そんな少年の考いとは裏腹に若は耳まで真っ赤にさせながら話しはじめる。
「……ああもう、誰にも言うんじゃねぇぞ」
若の雰囲気が変わったことに少年は気づく。顔は背けられてるので見えないが林檎のように真っ赤なんだろう。別にそこを追求する気はないが、ここは空気を呼んで口を挟まないようにしておく。
「実は俺は、アイツのことが好きみたいだ」
「そうか」
「……いやもうちょっとリアクションあるだろ。え、本当かよとかそういうのが欲しかったんだが」
面食らったように、若が眉をぴくぴくさせながら悪態を吐く。
これでもかなり勇気を出した方なのだ。驚かれたりした方が無視よりは断然楽だろうし。
ふぅ、と小さく息をして少年は一文字に結ばれた口を開く。
「リアクションもなにも、元々お前の意中の相手がアイツだってことには随分前から気付いてたんだが」
「……マジか」
「マジだ」
なんてことだ、と若は顔を手で覆う。同年代である少年にバレてしまっているのであれば当然観察眼がイカれてる師匠や親父にも…………。若の未来は前途多難のようだ。
その隣でまさかコイツ隠せてるつもりだったんだろうか、と少年はそんな若を眺めていた。
鍛錬の際も例の少女がいるときはカッコよく見せようとして凡ミスを連発したり、人参を家に届けられて嫌なはずなのに少し嬉しそうだったり。お前はどこの青春漫画の主人公だ、そんなツッコミが次元を超えて若の胸に突き刺さっていた。
若はぐしゃぐしゃと髪を乱暴に掻き乱し、
「だあああああああああああああああ!もう、クヨクヨしてても何にも変わりゃしねぇ!俺は行くぜ、行ってやるよチクショォォ!」
突然起き上がって里の方に走り出した。若の叫びは何処となくヤケクソ気味だった。
「おう、逝ってこい」
それを少年は後ろから見送るだけ。
昔からこの二人の関係はこんな感じだったのだ。若が問題を起こして、少年は巻き込まれる。いわゆるトラブルメーカーと仕事人が絶妙にマッチしてしまったのだ。まさにこれこそが神の悪戯ならぬ鬼の悪戯。里の者達は二人の関係をそう表していた。
既に豆粒のように小さくなっていく若の背中を見つめながら、少年はほんの少しだけ口角を上げる。
「そうそう、言い忘れたが、三つ目の理由は―――――――――――」
赤髪の単純な少年に、聞こえるわけがないのに、青髪の大人びた少年は独り言のように呟く。
「――――――――――こういうのはお前の方が適任だろ、バカ若」
少年の言葉は、舞い上がる風と共に何処かに吹かれていってしまった。