転生したらオーガだった件   作:腐った林檎

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剣鬼

 ――――末恐ろしい子だ。

 

 

 眼下でひたすら木刀を振り続ける少女を見て妙齢の男は思う。

 

 その男は三百年生きる剣鬼であり、英雄王と呼ばれることになる者に剣術を授けたこともある凄腕の剣士であったが、この少女には久しぶりに度肝を抜かれた。

 

 剣術だけでいうならば未だ英雄王の成長速度に及ばないが、単純な魔力量と覇気に関しては彼の王に届きかけている。まさか生まれて十年も経っていない少女に気圧されるとは剣鬼は思っておらず、彼女の家に出向いた際、裏庭で必死に剣を振り回している彼女を見かけた衝撃は今でも覚えていた。

 

 現に、木刀を持つ彼女の藍色の眼は何処か生き急いでいるように感じられる。今でも時折少女が幼い風貌には似合わない鬼気迫る雰囲気になるときは思わず背筋に汗が伝るのは剣鬼だけの内緒だ。

 

 剣鬼は何が彼女をそこまでさせるのかと声をかけてみようとしたがすぐにその意は消え去った。自分は剣の師であり心の師ではないのだと、そう自分に言い聞かせたのである。……まあ孫のように可愛がっている少女の成長を見守っていたいだけなのかもしれないが。

 

「………確かに、これ程鍛錬に真摯に励んでおるのならあの案もいいのかもしれんの」

 

 独り言のように呟き、瞬歩法と呼ばれる技術で一瞬にして木の枝から降り立つ。少女の背後に着地し、振り返り際に少女の背中に強烈な蹴りを叩き込むと木刀を振り終えた後で油断していたせいもあるのか、少女は思いのほか転がっていった。

 

 そのことに冷や汗がしたが剣鬼はすぐお得意のすまし顔で明後日の方を向く。彼女の母親は剣鬼ほどの男でも尻尾を巻いて逃げるぐらい恐ろしいのだ。この前など嫁入り前の女の顔に傷つけてんじゃないよとこっぴどく叱られてしまったのが苦い思い出である。

 

 だがそんな心配は杞憂であったようで、上手く受身がとれたのか少し咳き込みながらも少女はすぐに立ち上がった。

 

「……師匠、やるならやると」

 

「馬鹿者、戦場でもそれを言うのか」

 

「う……申し訳ありません」

 

 師匠と呼ばれた男は「修行が足りんの……」と呟きながら、流し目で少女の容姿を眺める。

 

 短く切られた白髪、未だ幼さを残しているもののいずれ美人になるであろう中性的な顔。その大人びた言動には女性の色気を感じさせる。

 

 もちろん既婚者であり三百年以上生きている剣鬼こそ欲情はしないが、彼女と同年代の子供(女子含む)など明らかに目がいっていた。

 

 ………そう、その子供達の中に皆から若と呼ばれる赤髪の男の子も含まれていた。それが問題なのである。

 

 本来戦闘種族であるオーガは強者に従う習性を持つ、すなわち惚れた相手を射止めるためにはその相手よりも強くならなけらばならないのだ。

 

 将来この里の長を引き継ぐ役目にある若が伴侶を持つことは喜ばしいものなのではあるが、剣鬼との剣の修行もサボっているようでは少女に勝つことなど夢のまた夢である(本人は認めていないが、見てない風を装って視界の端に映る彼女をガン見する様子はなんとも見るに堪えない光景だった)。

 

 どうにかして若のやる気を修行に向かわせられないかと幾度も会議を重ね、問題が解決することなく終わっていたのだが、先日の会議でとある提案が出された。「あの白髪の子と若で一騎打ちをさせて、若が勝てば将来の伴侶に、負けても若はきっと再戦を望むでしょうから剣鬼の下で修行するならばと口約束を結ばせればいいのではないか」と。

 

 その言葉に会議に集まった者達は豆鉄砲をくらったような顔をしたが、次の瞬間「それだ!」と全会一致。かくしてオーガの里の悩みは解決への道を見つけることが出来たのだ。

 

 無論、少女が一騎打ちを受理しなければいけないのだがそのことについては心配の必要はなかった。なぜなら師である剣鬼が修行と称して一騎打ちをさせればいいだけなのだから。卑怯だとは言ってはいけない。大人は無駄に知恵が回るのである。

 

「お主よ、今日の稽古はここまでにしないかの」

 

「…………?」

 

 疑問の目で少女は剣鬼を見る。彼女は基本的に剣鬼の指示に従順だが今までで休めという命令はされてこなかったからだ。当然、何か企んでいるのはないかと思うのも無理はないだろう。

 

「いやなに。明日は対人訓練をしようかと思っての、念のために今日は身体を休めることに専念した方がいいのではないか?」

 

「……対人訓練ですか。それなら私も願ったり叶ったりです。いい加減素振りにも飽きてきましたし、気分転換にも丁度いいですから」 

 

 ふむ、と剣鬼は考えるように髭を触る。彼女は真面目だが遊び心がないというわけではない、興味がなくなれば剣の道から外れてしまうことだってあるだろう。

 

 今までは基礎を固めるために素振りや走り込みしかしていなかったが、今度からは少々風の変わった稽古をさせてみよう、と三百年生きる男は心の中でそう思ったのだった。

 




 オリ主 

 師匠のことをバケモノと心の中で呼んでいる。ぶっちゃけ何でこんな爺がいたのにラムとレムしか生き残れなかったのか疑問に思っている。


 剣鬼

 最近オリ主の母に「何故ベッドに貴様の刀があるのだ?」と詰め寄られた。無論、瞬歩法で逃亡した。
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