転生したらオーガだった件   作:腐った林檎

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若

 酒のつまみの定番として若について話されることが多いのだが、その数ある話の中でダントツで人気なのは若の恋についてだ。

 

 やれ俺の娘に見惚れていた、やれ僕の娘と仲がいい、なんて不確かな情報が飛び交うが誰もが「ああ、どうせこれも嘘なんだろうな」と心の中で思っていた。それでも嘘に付き合うのは里内にて話題が少ないからである。近所の老人が腰をやっただけで大騒ぎになるほど平和な里では話題がなかった。

 

 幼い頃から分かる将来美男子になるであろう端正な顔を持つ若は同年代の女子からも好意を寄せられることは多い。だというのにも関わらず、若個人の恋事情については誰もが知ることが出来なかった。

 

 

 一時期は男色なんじゃないかと噂されることもあった。だがその噂はすぐに消え去ることになる。

 

 

 それは何故か?理由は単純である。

 

 

 

 あの若が本当に女子に恋をしたのである――――――――――!

 

 

 

 

 

 

 

 ☆  ☆  ☆

 

 

 とある広場にて。

 

「おい、あの子とは上手くいったのかよ若」

 

「るっせぇ!俺はアイツのことなんて好きじゃねぇよ!」

 

「と、言いつつも?」

 

 反論してもまったく退こうとしない白髪の男に若は思わずギリギリと歯軋りをたてる。

 

 この男、先程から後ろについてきて追っ払おうとしても付いてくるのだ。それだけでも迷惑この上ないのに、例によってあの噂について話しかけてくる。

 

 自分は別にアイツに対して何とも思っていないし、それをいうなら妹の方が何百倍カワイイとさえ思っているがこのような根も草もない噂でからかわれるのは我慢が出来なかった。

 

 最近こそ自重というものを知った若だが元々短気な性格だ。もう我慢ならぬと勢いよく後ろを振り向いて怒鳴る。

 

「さっきからうるさいんだよお前っ!」

 

「はっはっは、そんなこと言わないでくれよ。将来のお義父さんに対して失礼だとは思わないのかい?」

 

「誰がお前の息子になるものか!」

 

「いいやなるね。僕の鍛え上げられた直感がそう決めつけている、間違えるはずがない」

 

「どんだけ自信持ってんだお前!?」

 

 自信満々に胸を叩く男に若干引き気味になる若だが、こういう奴には近づかない方がいいという白髪の少女の言葉を思い出す。そして彼女はこうも言っていた、「後ろを向いて全力で逃げるべし」と。その言葉どおり若は持ち前の瞬発力を活かし一瞬にてその場から離れる。

 

 決して惨めな逃亡ではない、どこまでも洗練された正に“逃げ”の動き。その美しさに男もほうと感嘆する。まだ幼いのにどれだけの修行を積めばあそこまで辿り着いたのだろう、今度爺さんに聞いてみよう、と心の巻物に書いた。

 

 そして、何か思い出したかのように手をぽんと叩く。

 

「若ぁー!僕の娘なら今里長の家にいるよー!行ってみたら良い事あるかもよー!」

 

「誰が行くか!ていうかお前の娘って誰だよ!?」

 

「世界一の美少女さ!」

 

「どんだけ自信持ってんだお前!?」

 

「とにかく、キミの家にいるからねー!」

 

「だから行くわけないだろーが!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当にいた」

 

 木に張り付いて家の中を覗き込む者が一人。紅の炎のように真っ赤な髪は太陽に照らされて一層輝いて見えた。決して泥棒ではない。というか、若である。この男あれほど行かないと叫んでいたのに行っていることに気付いているのだろうか。剣よりも心を磨くべきである。

 

 若の視線の先には先程話にも出た白髪の少女があった。その隣には自慢の妹と修行仲間である紫髪の女の子もいる。どうやら昼食をつくっているようで鍋に何かを入れ込んでいた。今日の昼は牛鍋か……なんて思いつつも彼女達の作業を眺めつづける。

 

 若の妹が丁度いいサイズに切った茄子を鍋に入れる。……そういやアイツがこの前持って来てたっけか。食べきったと思っていたがまだ残っていたんだな。

 

 次に、白髪の少女が千切りにした人参を入れた。……果たして大嫌いな人参を食べるか、それとも鍛錬をサボって怒り心頭であろう師匠の下に行くか。

 後者の場合想像を絶する修行を受けることになるだろうが気絶さえしてしまえばこちらのものだ。

 

 やはりここは心の余裕的に後者を選ぶべき……と熟考している若の視界の端で紫髪の女の子が新たな食材を鍋に入れるのが見えた。

 

「ふむ……そして渋柿か……ってはあ!?」

 

 驚きのあまり木から落ちそうになるも、決死の思いでしがみつく。無理もない、まさか人参に茄子ときて渋柿なのだから。例えるならアンパンマンにドラえもん、クレヨンしんちゃんときてTOLOVEるが来るほどの衝撃だ。見間違いかと目をこすり、再度紫髪の女の子に目を見張る。

 

「嘘だろ……薬草まで入れやがった……!」

 

 え?とした顔の二人を置いて勝手に食材を投入し続ける。決して見間違いではなかった、逆に見間違いであって欲しかったと若は目を瞑る。このとき、若は師匠の下に駆けだしたい一心だったが続きも気になるのでまだ観戦することにする。

 

 果物に味噌、酒に唐辛子まで……この女は何をつくっているのだ、と若の中での紫髪の女の子への株は急落下した。俺、将来は絶対に美味しい料理がつくれる女の子を娶るんだ、とも心の巻物に書き記す。どうでもいいがこの“心の巻物”というのは最近里で流行っている表現である。もちろんネタ元は白髪の少女だ。

 

「……師匠の下に行くか」

 

 師匠にしごかれるのも怖いが、まだソレは経験済みなので命に関わりはないと断定できる。だが、アレを食べたらどうなるか分からない。ほんの一握りの確率で美味いという希望はあるかもしれないがそれは博打である。より安全で確実な方を取るのは人として当然のことだろう。

 

「あ」

 

 どうやら料理が出来上がったようで紫髪の女の子が笑顔を浮かべ鍋を食卓に運んでいるのが運悪く見えてしまった。白髪の少女の顔はいつもどおり無表情だが妹は明らかに動揺して脂汗を掻いている。

 

 どうするべきだろうか、あそこには白髪の少女だっているし妹だっているのだ。このままでは二人の身が危ない。だからといって俺がアレを食べるのも身がひける。

 

 どうにかして誰一人として被害者がいないようにしなければ……と悩んでいると白髪の少女が箸を器用に使い大根らしき物を摘まみ上げるのが若の視界に映った。そして、彼女はそのままソレを口にへと近づけて

 

「ッ!」

 

 

 気づいたら、身体が勝手に動いていた。

 

 人生史上稀にみるスピードで木から降り勢いよく家の戸を引く。

 

「あー!腹減ったな!お、丁度出来上がってるじゃねぇか!」

 

 いかにもさっきまで師匠と鍛錬してましたよ風を醸し出し家に入る。これから自分の身に起きるであろう悲劇にどっと汗が出ているのもこの状況ではナイスとしか言いようがない。演技こそ大根役者だが非常事態にそんなものは関係ない。ずかずかと彼女達がいる食卓(戦場)に足を運ぶ。

 

「俺にも食わせろ!」

 

「あ、ちょ」

 

 そして目標のブツを見つけると白髪の少女の腕を掴み自分の口へと近づけた。

 

 鼻腔に入る異臭に首筋に冷や汗が流れるも男ならこんくらい我慢してみせろと気合いを込めて口に入れる。まさにその姿は勇者の如く、何も恐れない勇敢な男である。彼の妹は久しぶりに目を輝かせて兄を見ていた。もう、引くことは出来ない。

 

 せめて、料理の味でも伝えて状況のヤバさを少女達に伝えようとする。

 

「ふむ、ゴリゴリしててネチョネチョしててなんとも味わい深い……」

 

 ドサッ

 

 口から泡を吹き床に若が倒れる。彼は身を挺して少女達の命を守ったのだ、正に次期里長に相応しい姿である。

 

 ここに、勇敢な一人の男の命が儚く消え去った。

 

 

 

 

 

「お兄様!?」

 

「心配ありません姫様、よくあることです、どうせ師匠との鍛錬に疲れて眠ってしまっただけでしょう」

 

「ええ……?」

 

「それでは、気を取り直して、いただきます(ぱくり)」

 

「………ごくり」

 

「味はどうですか?」

 

「……食感は少し違和感はありますが味は美味しいのではないでしょうか、よく出来ているのでは?」

 

「そ、そうですか。それなら私も(ぱくり)」

 

「どうですか姫様、味の方は」

 

「はい、ドロドロしててネットリしていてなんとも新鮮な味わい……くっ」

 

 バタッ

 

「「姫様!?」」

 

 

 若が必死に守ろうとした一輪の華も、凶弾に倒れた。

 

 

 

 





オリ主

 状態異常無効スキルによって無事だった。

若

 師匠にコレを食わさせたら俺でも勝てるのではないかと模索している。

姫

 紫髪の少女の料理がトラウマになった。
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