TSケモミミコミュ障が振りまわされる話。 作:ケモノ好き
年齢を出していなかった…
ミナセ&トーリ 21歳
チシャ 20歳
です。作内で出すタイミングもなく…あれ、少女、とは…?
「日焼け止めちゃんと塗った? ほら、そんな雑に塗らない! ちゃんと全体的に……」
「ちょ、ハヅキさん。そんな塗らなくても……」
「何言ってるの、ちゃんと対策しないと、日焼けして困るのはミナちゃんなんだから」
あれから数日経って、俺は今、ハヅキさんに日焼け止めを塗りたくられている。
結局、トーリさんを止めることもできず……なぜか俺も誘われ、トーリさん相手に断れるはずもなく、海に行くことになってしまった。
「でも、よかったんですか? 今日、検査とかあったんじゃないんですか?」
「いいのよいいのよ! アニマリアの検査は普通、一ヶ月に一回くらいなんだから」
……とまあ、そんなわけで。なぜかノリノリなハヅキさんに、日焼け止めを塗れと言われて今に至るわけで。まさか、玄関先で塗られるとは思っていなかったけど。
「よし、これで大丈夫ね。それで、ここからどうやっていくの?」
「それが……トーリさんが、ここで待っててって言われて……よく、わからないんですよね」
「なら、もうすぐ来るわね。ふふっ、楽しみねぇ」
「は、はぁ」
「あ、尻尾に日焼け止め塗っとく?」
「どうやって塗るんですか! ちょ、尻尾掴もうとしないでください!」
日焼け止めを片手に尻尾に手を伸ばすハヅキさんの手を叩き落としながら、トーリさんを待つ。
そういえば、トーリさんは海にどうやって行くつもりなのだろうか。人がいると嫌なんだけど……まあ平日だし、帽子もあるからある程度は我慢しようか。
……その、時だった。ミミがピクリと跳ねて、
──ブルルルルッ!
と、そんなエンジンを全開まで蒸したような、異音が聞こえてきた。それは、着実にこちらに近づいていて──え、ちょっと待って、何が起こってるの?
そう混乱する頭をよそに、身構える暇もなく、それは姿を表した。
──それは、車だった。
ギャルルルッ! という日常生活ではおよそ聞くことはないだろう摩擦音を立てて止まったそれは、絶妙な角度で俺の目の前に停まった。
まるでどこぞのアクション映画のような停め方に、顔が引き攣るのが止められなかった。そしてその中から、こんな運転をした下手人が姿を表した──
「ミナセちゃん、おはよ〜!」
「ああ……おはようございます……」
トーリさんだった。いや、こんな登場の仕方するなんて、トーリさん以外いないとは思ってたけどさぁ。思わず生返事を返してしまった。
「トーリさん、免許持ってたんですね……」
「うん! 海に行くから乗ってきたんだ〜」
「車持ってるなら、いつも車で来ればよかったのでは……」
「なんで? 歩いて来れるのに」
ごもっとも。
いやそんな納得してる場合じゃなくて。ええと、どこから突っ込めば……
「じゃあ、海に行くから早く乗って!」
「そうね! トーリちゃん、ミナちゃんお願いね!」
「任せてくださいっ」
「え、ちょっ!」
考えてしまったのが運の尽き。ハヅキさんの手によって、俺は乗る方向で決まってしまったらしい。ハヅキさんに背を押され、トーリさんに手を引かれる。もう引くも戻るもできず……
「えぇっと、お邪魔しまーす……」
「どーぞー!」
そんな元気なハヅキさんの声一つ。俺は後部座席に乗り込んだ。なんとなく、前は危ない気がして。
スライド式のドアが開いて、足をかけた瞬間だった。その奥にあった
「──チシャさん!?」
それは、チシャさんだった。だけどその姿は、いつもの様子とは違っていた。シートベルトで辛うじて座っていられているものの、意識があるのかないのか、窓に頭を預けてピクリとも動かない。ミミもへたれて、尻尾も心なしか元気がない。そんな今までに見たことがない姿に、思わず声を上げてしまった。
「ちょ、大丈夫ですか!?」
「じゃあ、行ってきまーす!」
そうしている間にも、トーリさんの元気そうな声と、「いってらっしゃ〜い」と軽い声が聞こえてきた。かくいう俺はそんな余裕もなく、見るからにグロッキーなチシャさんに戦慄していた。
「…………ミナセ」
ピーっと、ドアが閉まる音が聞こえた。それと同時、チシャさんが口を開いた。その言葉は、疲れ切っていて──
「シートベルト、しときなさい」
────、
俺は、どんな顔をしていたのだろう。
ただその時、ガチンッというドアが閉まる音が、まるでなにかやばいものが始まった音に聞こえて──
「じゃあ、行っくよー!」
そうして聞こえる、異様なエンジン音。
ああ、やばい。
無意識のうちに、締めていたシートベルトを握り込んだ。なんというか、本能的な恐怖を感じて。
その後のことは、語るべくもなく。数秒後に、地獄を見たとだけ……言っておくことにする。
「ついたよ〜!」
トーリさんの声が、いやに遠くに聞こえる。どうやら、目的地に着いたらしいと霞んだ意識で理解した。
「どうしたの〜、本格的に暑くなる前に行こう!」
「無茶、言わないで」
「いや、トーリさん……ちょっと、待って……」
元気なトーリさんが眩しい。というか恨めしい。なんだあの運転。急加速に急ブレーキにドリフトを決めて、おかげで中にいた俺は、チシャさん共々シェイクされてしまった。なんであんな運転で事故ひとつしないんだ。と、心の中で恨み言を吐いた。
「ほら、すごいよ!」
そう、トーリさんに急かされ、なんとか時間をかけて回復した身体を起こし、車を降りた。それと同時、差し込む陽光に思わず目を伏せてしまう。
それも少しの間。すぐさた光に慣れた目をゆっくりと、外へ向けたそこには──
「ね、すごいでしょ、ここ」
そこには、光り輝く地平線があった。
どこまで遠くきたのだろう。遠くに山や木々が見え、人もいない。まだ昇りかけの太陽がいやに眩しくて、思わず目を瞬いた。
さっきまでの車に揺り揺られた騒々しさとはかけ離れたその場所に、思わず観入ってしまった。
「どう、ここ?」
「え、あ、すごい……と思いますけど」
ふふん、とドヤ顔で話しかけてくるトーリさんに、見たままの感想を一つ。語彙力が少なくて申し訳ない気がする。
なんだか、海に来るなんてのも久しぶりな気がする。それも、こんな誰もいない秘境みたいなところで。こんな場所、一体どこで見つけたんだろう。
「それにしても、よく見つけたわね。こんなところ」
「でしょ? ちょっと遠いんだけど、人も少なくて撮影もしやすいなぁって思って。それに
「ちょうどよかった……?」
一体、何に?
そう口からこぼすと、トーリさんには苦笑気味に誤魔化されてしまった。何でそんな反応をするんだ、と聞こうとするも、トーリさんの言葉に嫌な予感がして、咄嗟にその場を離れた。
「それより、早く行こ! ちゃんと、水着も持ってきてるし! ねえ、ミナセちゃ……いない!?」
……やっぱり。
と、そこらにあった海の家らしき場所に身を隠しながら思った。いや、水着なんて着ないから。だから俺は元男だと何度言えばっ……本当に収拾付かなくなるから!
そんな警戒を自然に込めて、壁に隠れながらトーリさんを見やる。「一瞬でそんなところに!?」なんて聞こえるけど、そうさせたのはトーリさんだ。
そう警戒しながら睨んでいたものの、チシャさんに引き摺り出されトーリさんの前に戻される。……なんか、若干不満そうな目で見てくるトーリさん。いや、絶対着ないから。
「ほら、トーリもミナセをいじめるのはやめてあげなさい。そもそも、私も泳がないからね。尻尾濡れたら面倒だもの」
「えぇ〜!」
「えぇ〜じゃない。砂とか落とすの大変なんだから」
見かねたらしいチシャさんが、なんとかトーリさんを宥めてくれたらしい。ミミをぺたんとしながらも理解はしてくれたらしい。ぐるぐると唸りながら、諦めてくれたみたいだった。
「う〜ん、じゃあ何しよっか。せっかく海に来たし……」
そう言って、トーリさんはくるりと周囲を見渡して……途端に、ミミを立てた。顔はまさに閃いたという顔で、口元は最高の笑顔で。
「じゃあ、アレしよっか!」
「で、結局こういうのに落ち着くのか……」
あれから少しだけ移動して、ぽつんと一人海に釣り糸を垂らしながらそう呟いた。結局、いいのが思い浮かばず……まあ、海釣りの場所に行くことになった。のはいいものの……当のトーリさんは、
「みんな、こんにちは〜! 今日は──」
早速、動画撮り始めてるし。チシャさんはスマホで撮影に付き合ってるし……なんだか、取り残された感がすごい。
だから、俺はなんとなく海釣りするしかやることがなくなってしまったわけだ。
少しばかり暑くなってきて、釣り竿を足で挟んで持ってきた水を飲み一息。アニマリアになってからというもの、汗をかきにくくなったのは幸か不幸か、ヒトだった頃よりも熱さに敏感になった気がする。
「……ふぅ」
そんなことを考えながら、トーリさんたちを見た。網を片手にスマホを構えるチシャさんと、何かに引っかかったらしく慌てるトーリさん。撮影だというのに、なんだか楽しそうだった。
「……」
これは、なんだろうか。
海に連れてこられて、車でミキサーにかけられて、挙げ句の果てに放置って。まあ、自分は動画に出ないって言ってるからしょうがないところではあるのだけれど。
もう一度、トーリさんたちを見てみる。まるで自分を忘れたようにはしゃぐトーリさんに、もやっとしたものが胸に溜まる。動画に出ないとは言ったし、撮るためにも大変なんだろうし、連れてきてまらっておいて何だけど、少しくらい
「──え」
──今、何を思った?
その時、水を差すように、釣り竿が跳ねあがった。
「う、わっ……!」
魚がかかった──と理解したのは、一拍遅れてからだった。慌てて釣り竿を握り、持ち上げた。
あ、やばい。と察するのは早かった。こちとら釣りなんてしたことがない素人だ。せっかく始めたんだし、釣り上げたいところだけど……いかんせん、初めての体験すぎて混乱してるのもあったからか、うまくひけなさすぎた。
ちょっと待って、本当に無理っ……!
そう思って、諦めかけた時だった。
「引いてるじゃんっ、手伝うよ!」
後ろから抱きつくように、トーリさんの手が俺の手ごと釣り竿を掴んでいた。
「ト、トーリさん!?」
撮影どうしたんですか!?
なんて、聞く暇もなく。トーリさんは楽しげに釣り糸の先を見つめ、握る力をさらに強めていく。当然、そうなればトーリさんの身体が俺に当たるわけで。
ち、近っ……!
トーリさんが追えば追うほど、身体が押し付けられていく。手に伝わる体温と、体勢のせいでミミにかかる吐息が、どこかむず痒い。それに加えて──その、当たってる。前傾姿勢で俺に体重がかけられていって、その度にトーリさんの身体が押し付けられていく。
柔らかい感触と、漂ってくる香りと、海の匂い。それに照りつける熱のせいで、頭がぐちゃぐちゃになってしまう。
そのせいだろうか、身体から力が抜けた。
「わわっ!?」
それがいけなかったんだと思う。身体が前屈みたいになって、トーリさんが俺の背を滑ってしまった。カランと音がして、トーリさんが横に転がった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫〜」
横に寝転がったまま、トーリさんは楽しそうに笑っていた。無事だったのはいいけれど……結局、逃げられてしまったらしい。だけどトーリさんは、
「あはは、逃げられちゃったね〜」
そう、楽しそうに笑っていて。釣りをすること自体が楽しかったらしいその笑顔に、俺は何故か、目が離せなかった。
これは、何だろうか。
顔が熱い気がする。なぜか、胸が跳ねるような感じがして。口元がちょっとだけ、緩む感じがして──思わず手を伸ばして、水を飲んだ。
今日は、暑い日だ。さっきから太陽が照りつけてるし、ここは光を遮る場所もない。だからきっと、そのせいだ。いやに顔が熱いのも、きっとそのせいだ。
「じゃあ、次も──」
「ねえ、トーリ」
「え、どうしたの? ちぃちゃん」
そう思っていた頃、チシャさんは釣り竿を片手にスマホを構えていた。どうやら、トーリさんに渡されたままだったらしい。なんか、申し訳ない感じがする。
「引いてるわよ、多分これ」
「え、ほんと!?」
そう言うチシャさんの視線の先には、まるでリズムを取るように規則正しく小さく動く釣り竿があって。
あれ、釣りってそんな動きしたっけ。
あまりにも奇妙な動きをするそれに、トーリさんは気にした様子もない。躊躇いなく釣り竿を持ち上げていく。なんだろう、特に根拠もないけれど、なんかいやな予感がする。
「ト、トーリさん。それ……」
「よいしょーっ!」
俺の言葉は届かず、そんな掛け声ひとつ。トーリさんの腕は天高く振り上げられた。普通に釣れたとは言い難いほどに上げられた腕の先に、大きな影が一つ宙を舞う。
──ドサっ
そんな音を立てて、
それは、尾ひれがあった。水に濡れたひれは、力なく地面に打ち捨てられ、時折地面に叩きつけられていた。ここまでなら、別に驚くことでもない。驚くべきは……その、
それには、
人間に、尾ひれがついてる。
そんな、普通にはありえない光景に。思わず口にする。
「に、人魚……?」
絵本で見た伝説の生物。その実在を目の当たりにして思わずそう、呟いてしまった。
☆裏話
トーリは運転荒め。でもなぜか事故らない。不思議。
乗った人はグロッキーになるけど。
誤字報告等、毎度ありがとうございます……!
更新速度上げられるといいなぁと。