神が讃えしその駿駆   作:松武栗尾

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シンザンのヒミツ④

実は、自動車旅よりも電車旅の方が好き。


第二十三話 ゲート開いて

 ────スタートダッシュはな、ハナ一つだけでも他の子より前に出るようにせえよ。何て言っても、スタートの五〇メートルはゴール前の二〇〇メートルと同じくらい大事だなんて言われるくらいやからな。

 

 

 

 ────自分からここやーって位置で走るのと、なんとなくで着いた位置で走るのは走り易さに雲泥の差があるもんなんやで? そうやな、スタートダッシュは相撲でいうところの立合いに似とるかもな。

 

 

 

 ────はは、まだ本番走ってへん内に言われてもよう分からんか。けどこれからできるようにならんとあかんで? で、話を戻すけど、問題はどうすれば上手くスタートを切るかっちゅうことや……これが中々難しくてな。

 

 

 

 ────ただ、これはスタートだけやなくてレースを走るにあたって肝心な──まあ俺の個人的な指導経験の中でやけどな──ことやからよく覚えとけよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ええか、シンザン。レースで一番大切なことは…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おおっと!? セイウンスカイとラブモートが出遅れ! ややバラついたスタートとなりました!』

 

 四番と六番のウマ娘がスタートミスに観客席から大きなどよめきが起きる。

 

『これは少し苦しいレース運びになるぞセイウンスカイ!』

「くそ……っ!?」

 

 六番──逃げ戦法を得意とするセイウンスカイは想定していたレースプランが初手から狂ってしまい焦りも露にする。

 

 内隣──マチカネフクキタルの代走として五番に収まったシンザン。

 

 経緯はどうあれ、数々の伝説を打ち立てた不世出のウマ娘と同じレースを走れるのだ。彼女がゲート内でどのような振る舞いをするのか競走ウマ娘と非常に興味があり、今後の参考にと横目で盗み見たのだが……。

 

(いやいやいやなんですかあの()!?)

 

 飛び込んできた瞳の色に一瞬我を忘れてしまい、このざまである。

 

 とにかく遅れを取り戻すためにもセイウンスカイは脚の回転を速めた。

 

(先輩、スタートが上手過ぎやしないかい……っ!?)

 

 大外の十番を引いたヒシアマゾンも出遅れた少女たちを尻目に見事なまでの好スタートを切り先頭に立った赤い羽織の背へ視線を飛ばす。

 

 その様はまるでシンザンがゲートの解放に合わせたのではなく、ゲートがシンザンの踏み切りに合わせて開いた……そう錯覚する程の抜群の切れがあった。

 

(スカイのヤツ、完全に出鼻を挫かれたね!)

 

 追い込みを得意とする自分は直ぐ様控えるからまだ良いものの、逃げや先行タイプのウマ娘からすればおなじポジション取りをするライバルがああまで上手いスタートを切られてはやり辛いことこの上ない。

 

 そして逃げウマ娘であるセイウンスカイの出遅れにより、出走者たちが描いていたレース展開に修正を余儀なくされる。

 

 加えて、このままシンザンに先頭で逃げを許してしまえば彼女のペースでレースが展開されてしまう。

 

 その事態だけは防がねばならないが、誰があのシンザンと競りに行く……?

 

 

 

「────いざ!! バクシーーーーーーン!!!!」

 

 

 

 動揺と牽制で少女たちが動けずにいる中。ただ一人そんなことは知ったことではないと言うように大外から桜色の勝負服が驀進する。

 

『サクラバクシンオーだ、サクラバクシンオーが果敢にハナを奪いにいきました!』

 

 ポニーテールと尻尾を(なび)かせ、九番のサクラバクシンオーがシンザンの赤い勝負服を追い越し先頭に躍り出た。

 

 まさかの人物が先頭をかっさらい一瞬呆気に取られる一同。が、行ってくれるのならそれで良いと直ぐ様意識を切り替え、少女たちは各々のポジションに着いて一斉に控える。

 

 稀代の短距離王(サクラバクシンオー)が先頭にいられるのは一四〇〇メートルまで。

 

 何故ならこのレースは中距離部門。二四〇〇メートル左回り。距離を日本ダービーと同じくするのだから。

 

 先頭をひた走る学級委員長の適正距離を知る少女たちは気持ちを落ち着かせ、一四〇〇メートル以降の展開に備えて脚を溜めることを選択した。

 

 

 

 

 

『サクラバクシンオー後続に三バ身のリードを着けて第一コーナーへ向かいます! 続いてシンザン、ウエスタンジャック、ナイスネイチャ、ヤシロコハク──!』

 

 伝説のウマ娘の出走というサプライズの余波がなお尾を引く観客席。頭上で響く実況に観客の声援といった周囲の喧騒をウイニングチケットの叫びが貫いた。

 

「ハヤヒデ! ハヤヒデっ! なんで先輩が走ってるのさー!?」

「わ、私が知るはずがないだろう! 第一、ミホさんもシンザン先輩が走ることを知っている風にはまるで見えなかった──!」

 

 パニックになるチケットに両肩を掴まれガシガシと揺さぶられて頭をガクガクするビワハヤヒデも整理が追い付かぬまま叫び返す。

 

 当たり前だ。エキシビションレースに出走するのはミホシンザンで、シンザンも出走するなど誰も聞いていないし想像さえしていなかった。

 

 まさに寝耳に水の状態でトレセン学園の生徒や職員などの関係者が我を失う中、最初にシンザンの存在に気付いたナリタタイシンだけは比較的──本当に比較的に──現状を受け入れることができた。

 

「は、はは……そう言えば先輩、あんなこと言ってたっけ」

 

 口元をひきつらせ、一ヶ月程前に屋上でシンザンが発した言葉を思い起こす。

 

 

 

『ウマ娘には口以外で語る方法があるってことをよ』

 

 

 

 あの時の思わせ振りな発言に少し引っ掛かってはいたが、今にして思えばどうして気付くことができなかったのかと天を仰ぐ。

 

「語る方法って、そういう意味かよ……!?」

 

 要するにシンザンの考える語り方は至ってシンプルだった。

 

 レースに出走し、走り様で想いを語る。

 

 確かにこの方法は相手がウマ娘であるなら、時に言葉を用いるよりも雄弁に語ることもできる納得の方法である。

 

 しかし、シンザンが励ましたい相手はマイシンザンで、それはミホシンザンと同じ想いのはず。

 

「だったらなんで走るレースをミホさんと被せる真似なんか……」

「タイシンもしかして何か知ってるの!?」

「え──ちょ!?」

 

 呻きを耳聡く聞き付けたチケットに突然掴み掛かられ、油断していたタイシンはあっさり捕まってしまった。

 

「バ、バカ! そんな揺さぶんなって──!」

「と……とにかくだ」

 

 されるがままに目を回すタイシンだったが、ハヤヒデの声にチケットの手が止まり息を整える余裕ができた。

 

「彼女の出走の目的が何であれ、まずはレースの推移を見守ろう」

「そんなこと言っても──」

「チケット。今、我々はかのシンザンがレースに復帰したという歴史的な瞬間に立ち会っているんだぞ? それに、古い映像でしか目にすることができなかった時代を築いた末脚を、自らの目に焼き付ける貴重な機会だとは思わないか」

 

 よたよたと制服と髪の毛の乱れを整えて眼鏡を上げたハヤヒデの顔は、緊張と微かな興奮で朱に染まっている。

 

「かつて繰り広げた名勝負と同じような走りを、シンザン先輩は今日披露してくれるに違いない」

「けど、それじゃミホ先輩が……っ!」

 

 ハヤヒデの言わんとしていることは即ち、シンザンの勝利を予想していることと同義である。

 

 それは親しい後輩を元気付けるためエキシビションレースへの出走を決めたミホシンザンの想いを踏みにじる行為に他ならないのではないか。

 

「その通りだ……流石のミホさんでも、シンザン先輩が相手に回ってしまっては苦しい勝負に──」

「──ません」

 

 複雑な面持ちでチケットの心配を肯定しようとしたハヤヒデの声を、絞り出すような別の声が遮った。

 

「マイ君?」

「ミホせんぱいは、絶対に負けません」

 

 声の主はシンザンの出走を知ってから一言も発していなかったマイシンザンだった。

 

「ミホせんぱいは、約束して下さいました。わたくしが再びターフへ戻ること。その勇気を抱き続けられる走りを必ずやしてくださると」

「確かに言ってたけどさ……」

「それに、ビワハヤヒデせんぱいもおっしゃっていたではありませんか。わたくしたちにできることは、応援することだけだと」

「しかしだね、相手はあのシンザン先輩──」

「だからこそ!!」

 

 突如語気を荒らげられ、BNWの三人は思わずたじろいだ。

 

「……わたくしは、ミホせんぱいがご自身の()()()()()()たるシンザンせんぱいに勝利して下さると、信じておりますわ」

「ご、ごめん」

「すまない……」

 

 少女が見せた態度の急変振りに驚きつつも、チケットとハヤヒデは顔を見合わせてからマイシンザンへと頭を下げる。

 

「マイ、アンタ……」

 

 しかし、マイシンザンの尊敬する先輩への想いを知るタイシンだけは、柵に乗せられる少女の両手が震える程強く握られていることに気付いていた。

 

 

 

 

 

 レースが開始され、スタンド前から離れていったウマ娘たちの細やかな位置取りを淀みなく伝える実況の声がスピーカーを通して響き渡る。

 

『さあ第ニコーナーに差し掛かり先頭は以前サクラバクシンオー! そして──』

 

 レースの経過を伝える実況の声に微かな緊張が走る。

 

『誰もが出走を想定していなかった伝説の三冠ウマ娘シンザンは二番手に位置しています! 彼女の出走に誰もが驚きを露にする中、二四〇〇メートルに集った優駿たちをどう相手取るか。一つの見所になりそうです!』

 

 シンザンのレースを実況するとは露程も想定していなかった様子を覗かせた。そうしている間にも十バ身程に収まるコンパクトなバ群は向こう正面へと差し掛かっていく。

 

『一〇〇〇メートルのタイムは……六二.三! これは遅いペースになっています! まさかもうバテてしまったかサクラバクシンオー!?』

 

 最初の一〇〇〇メートル地点の通過ラップを確認した実況が驚きの声を上げた。

 

 『はたまたこれは作戦通りか!?』と続けて叫ぶ実況の声に、ペースメーカーとなりそのタイムをバクシンオーは胸の内で自信たっぷりに答えた。

 

 

 

(もちろん計算通りです!)

 

 

 

 本当ならいつも通りバクシンしたいところではあったのだが、この中距離レースに勝つためにトレーナーと相談してこのスローペース作戦を立案、決行したのだ。

 

(当然! 先頭に立つことも作戦の内ですよ!)

 

 しかし己のペースに持ち込むためには逃げの本職であるセイウンスカイよりも先に先頭に立たねばならず、バクシンオーとしては何としてでも彼女の出鼻を挫く必要があったのだが……何故か出遅れてしまったようなので大変好都合だった。

 

(幸運も私に味方してくれています! もうこれは勝利の女神が二四〇〇を逃げ切れと言ってくれているのでは!)

 

 それに、今の自分には二四〇〇メートルを走り切れる絶対の自信がある。何故なら──

 

(今日の今日まで坂路トレーニングを徹底的にこなしてきましたからね!!)

 

 『サイボーグ』の異名を取るウマ娘のトレーナーから勧められたスタミナ強化トレーニング──坂路ダッシュを何十本もこなしてきたのだ。

 

(これも全ては春の天皇賞に勝つための布石なのです!)

 

 学園グラウンドのコースはトレーニングで使用されるのが主眼に置かれているため勾配がない。そのため実戦に比べてペース配分や駆け引きが単調にはなるが、本番に向けての試金石としては悪くはない。

 

 本音を言えばより実戦を想定し、長距離部門へ出場・圧勝した後に来年の春天への弾みを着けたかったのだが……。

 

 

 

『いきなり長距離に出て勝ったらファンがびっくりして心臓発作起こすかもしれないから、あえて中距離に出走してクッションにしよう』

 

 

 

 という苦悶の表情を浮かべていたトレーナーの提案もあり中距離部門への出走を選択したのだが、結果として正解であったといえる。

 

(流石トレーナーさん! ファンへの配慮も完璧! だったら私はこの二四〇〇の距離すらもバクシンせしめ、見事勝利を飾ってみせましょう──そして!!)

 

 そう、バクシンオーにとってはこのレースはあくまで通過点。目指す先はシニア級最高の栄誉(距離三二〇〇メートル)に他ならない。

 

(この手に天皇楯を抱くその時まで! このサクラバクシンオー、どこまでも走り続けますよー!)

 

 闘志と勝利を疑わぬ自信に桜の瞳を輝かせ、バクシンオーは後続の存在など忘れて進撃していく。

 

『っ! おおっと!』

 

 しかしそこは大レースを舞台に戦ってきた精鋭たち。

 

『ヤシロコハクが順位を上げてきた! ウエスタンジャックとシンザンを交わしサクラバクシンオーに並びかけていく!!』

 

 その中でも歴戦の猛者──主に高等部の上級生たちがペースが遅いと判断し続々と位置を押し上げてくる。

 

『後方からもコクドウチタンとラブモートがジリジリと中段へ上がってきた!』

 

 前半のペースが遅いということは先行するウマ娘の脚が残りやすく、前方でレースをするウマ娘たちに有利な展開になることが多い。

 

 そのため逃げ切りや先行押し切りをさせないよう後方のウマ娘などは早めに先行集団に位置取れるかが重要になってくる。

 

(バクシンオーは放っておいても潰れるから置いといていいけど──ッ)

 

 だが彼女たちが動いた理由はバクシンオーの逃げ切りを警戒してではない。

 

(バクちゃんのスタミナが切れたらあの人が先頭でペースを握ることになる……)

 

 現在、二番手に位置しているのは赤い羽織の和装勝負服……。

 

(あの()()()()()と同じくらいハナでもやれるなんて噂もあったし!)

 

 彼女たちがトゥインクル・シリーズを目指す切っ掛けの一つにして、彼女たちが超えようと魂を燃やし、叶わなかった偉大な先達。

 

 そう、シンザンが先頭に立てば確実にこのペースを維持したままレースを進めるのは明白で、それはつまり彼女に直線での末脚勝負を挑む意味する。

 

((((それだけは絶対に阻止する……ッ!))))

 

 『鉈の切れ味』と言われた末脚を持つ大先輩の土俵で勝負するなどもっての外。彼女たちは少しでも自分が有利な状態でレースを進めるため、早めに動いたのだ。

 

 そして、何よりも彼女たちを想いはただ一つ──

 

 

 

 ────シンザンに勝ちたい……!

 

 

 

 彼女たちにとっての絶対だった、トゥインクル・シリーズの頂点に座していた伝説のウマ娘。

 

 突如降って湧いた『五冠ウマ娘』シンザンとの勝負。

 

 戸惑いはある。だがそれ以上に先輩に挑むという絶好の機会に心震わせ、そして彼女に勝利するという最高の栄誉を目指し、彼女たちは極限の緊張と興奮で身を戦かせながら機を窺っていた。

 

『これは面白い展開になってきました! 各ウマ娘たちが激しい動きを見せながら向こう正面を駆けていきます!』

 

 上級生たちの胸に燃える激情と興奮を感じ取ったのか、実況の声にも熱が乗り、白熱していく。

 

『エキシビションレースとは思えない熱戦を繰り広げています中距離部門! 果たしてこれはシンザンの出走が影響しているのか────!!』

 

 

 

 

 

「会長!」

 

 理由も分からぬまま置いていかれた後、生徒や一般客へ尋ねながらどうにか学園グラウンドへ到着したエアグルーヴはついにシンボリルドルフの元へと辿り着くことができた。

 

「エアグルーヴ、君か」

「やっと見つけました……!」

「先程は置き去りしてしまい、すまなかったね」

「い、いえ。こちらへくる途中で私にもアナウンスが聞こえてきましたが……まさかシンザン先輩がレースに出走するとは」

 

 頭を下げながら周囲の観客を掻き分け、ルドルフの隣に陣取ると信じられないといった面持ちで早速切り出す。

 

 シンザンがエキシビションレースを走る。その情報が耳に入った瞬間自分の耳を疑ったが、同時にSNS上の写真に写り込んでいた大先輩が勝負服を纏っていた理由にも合点がいった。

 

「しかし、何故あの方はこのようなことを──」

 

 ルドルフならその原因にも心当たりがあるかもしれないとエアグルーヴは考え、隣に立つ会長の顔を覗き込んだと同時に言葉を詰まらせた。

 

「残念だが私も仔細は知らない。だがシンザン先輩のことだ、代走などとという思い付きでレースへの出走を決めたわけではないと私は考えているよ」

 

 今のルドルフは端正な顔立ちを上気させ、今にも燃え出すのではないかと錯覚するほどに瞳を輝かせている。

 

「でなければあの人が意味もなく勝負服を用意するはずがないしね」

 

 こちらに一瞥もくれずにそう断言する。

 

 エアグルーヴには信じられなかった。あの冷静沈着で常に己を律する会長が、皇帝シンボリルドルフがこうまで感情を曝け出していることが。

 

(こんな姿は今まで──)

 

 ……いや、あったではないか。

 

 ダービートライアル当日。あの日、一瞬だけ覗かせていたではないか。

 

(あの時は今と違って感情が窺えなかった。だが状況はまるで同じ──)

 

 ルドルフの情緒を乱しているのは? そのトリガーと化しているのは? そうだ、シンザンに他ならない。

 

「しかし、勝負服に走り方、姿勢、レース運び……千個不抜。本当に昔のままだ、何一つ変わらない」

「……会長、一つお聞きしても?」

「ん? ああ、シンザン先輩の走りについてかな。彼女はね、いつ如何なる時も全体の流れを意識しながら──」

「い、いえ。そういうことではなく……」

 

 話が噛み合わないことに空寒いものを感じたが努めて無視して、エアグルーヴは己の違和感。ルドルフのシンザンに抱く感情について尋ねかけた。

 

「あの方は……シンザン先輩はあなたにとって一体──」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ルドルフの発したその言葉に、エアグルーヴは今度こそ本当に言葉を失ってしまった。

 

「か、会長……?」

「今、目の前を()()シンザン先輩が走っているんだよ? その事実がどれだけの意味を持つのかよく考えて欲しい。今は私のことではなく目の前のレースを、彼女の動向に集中するんだ」

 

 有無を言わさぬ口調に唖然とするしかできない。

 

 何故そこまでシンザンにこだわるのか? シンザンに対する執着とも呼べる関心を寄せる今のルドルフに微かな恐怖心さえ芽生えてしまう。

 

「君もその目でしかと見届けて欲しい。彼女の──その末脚を『鉈の切れ味』と謡われた『五冠ウマ娘』シンザンの強さ、その走り様をね」

 

 そう続けてルドルフは顔を仮設スクリーンに向けたまま告げる。画面に映し出される深紅の勝負服を見つめる皇帝の横顔は、やはりエアグルーヴの理解の及ばない感情を迸らせたままだった。

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