神が讃えしその駿駆   作:松武栗尾

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第八話 『五冠バ』は世間知らず?

 トレーニングを終え、ミーティングで反省点と課題点を見直し終えたチーム『スピカ』の部室で。

 

「シンザン先輩って、結構変わった人よね」

 

 ダイワスカーレットがふとそんなことを口走り、トレーナーも含めたメンバー全員が一斉に振り返った。

 

「どうした、いきなり」

「シンザンに蹴りでも入れられたかー?」

「別に何かあったって程じゃないんだけど──ってあの人がそんなことするわけないじゃない!」

 

 ドロップを咥えたまま目を瞬かせるトレーナーに返答しようしたスカーレットだったが、両手を頭の後ろに回して嘯いたゴールドシップに突っ込みを入れてしまう。

 

「であるならば、『変わった』、などという言葉はシンザン先輩に失礼ではありませんこと? スカーレット」

「分かってるわよ。けど、今日こんなことがあったから──」

 

 メジロマックイーンの胡乱げな視線を浴びながら、スカーレットは話の軌道を戻すと、頬杖を突き何とも言えない表情を浮かべて、思い出すように目線を上へと向けて語り出した。

 

 

 

 

 

「──シンザン先輩?」

 

 常に優等生であろうと心掛けているスカーレット。走りだけでなく学力でもそれを実践するため、図書室へ参考書を求めに足を運んでいた彼女は道中、学園のエントランスの片隅でウロウロと同じ場所を旋回しているシンザンと出くわした。

 

「ん? ああ、スカーレットちゃんどうも」

 

 腕を組み、顎に手を当てて悩ましげにしていた茶褐色髪を簪で留めるウマ娘は彼女に気付くと、足を止めて挨拶を投げかけた。

 

「あの、さっきから何をされてるんですか?」

「いやぁね、ちょっと……スカーレットちゃんに頼むのもあれだけど、背に腹はかえられないか」

 

 スカーレットが首を傾げながら尋ねると、言いづらそうに言葉を濁すシンザンだったが、観念したようにパン、と両手を合わせて拝んでくる。

 

「ごめんねスカーレットちゃん、小銭貸してくれない? ちょっと電話したい用事があるんだけど、忘れちゃってさ……」

「電話を?」

 

 申し訳なさそうにする彼女の背後へ目線を送ると、確かに公衆電話が壁際に並んで設置されている。

 

「テレカでもいいから。ね?」

「テレカ? ……良く分からないですけど、もしかしてスマホも忘れちゃった感じですか?」

 

 最近はモバイル決済を使用することが多く、現金を持ち運ばない人も少なからずいる。それに、今時公衆電話を使うということは、自分のスマートフォンをどこかに置き忘れたのかもしれない。

 

「スマホ?」

「スマホ──って。スマートフォンのことですけど……」

「スマート()()?」

 

 そう思ったスカーレットは問い掛けたのだが、今度はシンザンが首を傾げる番だった。

 

 スマホを知らない? いやそんなまさか……と彼女は半信半疑になりながら自分のスマートフォンを取り出す。

 

「ああ、これが。最近の子はやたら板っ切れ持ってると思ってたけど、これがスマート()()なのねぇ、ふーん──で、これで何をするの?」

「え」

 

 要領を得ていない様子のシンザンに、思わず目を丸くしてしまう。

 

「で、電話は勿論、メールとか、インターネットで調べ物とか、便利なアプリが色々使える優れものじゃないですか? まさか知らないなんてことは……?」

「携帯電話? これが? 携帯電話って肩に掛けるやつじゃないの?」

「肩に掛ける? それってどんな──じゃなくてっ、これ、アタシのスマホ貸しますから! これで連絡を取ってください!」

 

 何を言っているのか分からないし、話が長くなりそうなのでスカーレットは彼女の手へ自分のスマートフォンを押し付けた。

 

「電話してくれ──って、言われても……わたし、これの使い方が分からない……」

「ああもうっ、代わりにアタシが電話かけて変わりますから、番号を教えてください!」

 

 受け取ったスマートフォンを困った表情を浮かべ、色々な角度から眺め(すが)めるシンザンに痺れを切らし、スカーレットは思わずそう叫んでしまった。

 

 

 

 

 

「──今時スマートフォンを使えないどころか、知らない人に会うなんて思いもしなかったわよ」

「あははは……」

 

 遠い目をしてしみじみとことの顛末を語ったスカーレットへチームのメンバーは皆一様に苦笑いを浮かべた。

 

「スカーレットちゃんの話を聞いてると、なんだかおばあちゃんみたいですね。ふふ、可愛いなぁシンザンさん」

「確かに、おばあさんっぽいところはあるかもしれないわね、先輩」

 

 微笑ましそうにするスペシャルウィークと、以前カフェテリアで目の当たりにした一幕を思い出したスズカも、苦笑しながらも頷いている。

 

「ところでさ、先輩は誰に電話したかったんだ?」

「聞いてた限りじゃ、スポーツ用品店ぽかったわよ。特注の蹄鉄を取り寄せたかったみたい」

「おお、()()か!」

 

 続けてウオッカが尋ねたのでスカーレットが答えると、彼女は嬉々として身を乗り出してくる。

 

 あれとは練習中のシンザンがトレーニングシューズに取り付けている武骨な蹄鉄。人呼んで『シンザン鉄』と呼ばれるもののことだ。

 

「あんなとんでもない蹄鉄を着けていっつも練習してんだもんなぁ……マジでカッケーよなぁ、シンザン先輩」

「……なんでボクを見るのさ」

「だってテイオー、シンザン先輩があのシューズ履いて練習してるの見てビビってたじゃん」

「うぅ……」

 

 目を反らすトウカイテイオーをウオッカが茶化すと彼女はばつが悪そうに小さく唸る。

 

 併走トレーニングの際、自分のトレーニングシューズでないと調子がでないと聞かされていたテイオー。だがその自前のシューズがあんなゴツイ上にえげつない重量のありそうな蹄鉄を常に身に付けてトレーニングに務めるシンザンの姿を見れば、誰だって驚くに決まっている。

 

「そりゃそうだわな。俺もシンザンがあんな蹄鉄でトレーニングしてたなんて初耳だったぞ」

「なあトレーナー、俺もシンザン先輩と同じ蹄鉄着けて練習して良いかな?」

「バカ、駄目に決まってるだろ」

「えー! なんでだよ!」

「あんな蹄鉄着けて練習してたら、いつか足壊しちまうぞ。平気な顔して練習してるアイツが異常なんだからな」

「ちぇー」

 

 興味津々と言った様子のウオッカだったが、腕を組むトレーナーに諌められてしまい彼女は表情をつまらなそうなものへ変えた。

 

「まあ……確かにスマートフォンを知らないというのは今時珍しいですけれど」

「シンザンらしいっちゃシンザンらしいかもな。そういや、アタシらもそれっぽい話のネタがあるぜ」

 

 スカーレットの話に否定し切れない態度を見せるマックイーン。何を知っているのかうんうんと首を振るゴールドシップが言葉を続ける。

 

「この間シンザンが練習してる時に差し入れしたんだけどよー。なんでか渋い顔されたんだよな」

「差し入れ、ってゴールドシップさんいつの間に……」

「マックイーンがこの間トレーニングに付き合ってくれたお礼にどうしてもっていうから──」

「シンザン先輩の貴重なお時間をいただいたのですから、当然のことですわ」

 

 抜け目ない彼女ヘスペシャルウィークが称賛の眼差しを送ると、何故かマックイーンが得意気に鼻を鳴らすが、直後に不満そうな表情を作った。

 

「ただ、お渡しする菓子折りがゴールドシップさんの独断であったたことは、不本意でしたが……」

「独断……一体何を差し入れたの?」

「シベリア」

「「「シベリア?」」」

 

 スズカへ的外れな言葉を返すゴールドシップ。

 

 なんで差し入れでロシアの地名が? と首を傾げる『スピカ』の面々。差し入れとシベリアとの関連性が全く分からない。

 

 呑み込みの悪い反応にゴールドシップは信じられない表情をして彼女たちを見渡した。

 

「なんだ知らねーのかよ。カステラっぽい生地で羊羮挟んだサンドイッチみてーな菓子パンのことだよ」

「お前よくシベリアなんて知ってんな……」

 

 差し入れのチョイスに呆れながらも、トレーナーは相変わらずの妙な拘りを持つ芦毛の少女へ突っ込みを入れる。

 

「それでよぉ、シンザンのトレーニング終わり──ほら、トレーナーがまだ着いてないウマ娘と良く一緒にやってるじゃんか。それ終わりにマックイーンと一緒に渡しに行ったんだよ。そしたらよぉ」

 

 一旦言葉を切り、表情を消すと遠い目をしてシンザンののんびりした口調を真似する。

 

「『シベリ()かぁ……嫌いじゃないけど、名前がねぇ……』──だってよ」

「私も、あんな複雑そうな顔を浮かべられてしまって、どうしていいのやら……」

 

 腕を組み顔をしかめるゴールドシップと無念そうに肩を落とすマックイーン。菓子折りがシベリアなる菓子パンだったことはまだ良い……良くはないが。聞いている限りだとシンザンはあまり喜んでいる様子ではなかったようだ。

 

「そりゃ、自分より年下の後輩からシベリア差し入れられたら反応に困るだろうよ」

「何おぅ! アイツの歳に合わせたゴルシちゃんのキラリと光るセンスが悪かったって言うのかよ!」

「ちょっ、バカ野郎! 首を絞めようとすんじゃねぇ!?」

 

 心ない? トレーナーの一言に歯を剥いて気勢を上げるゴールドシップを他所に、スカーレットとウオッカがマックイーンへ。

 

「ていうかマックイーンってば、本当にシンザン先輩好きよね」

「声かけてくれれば俺たちも付き合ったのにさ」

(わたくし)のわがままでお願いしたわけですから。それにシンザン先輩は菊花賞と天皇賞に勝たれていますでしょう? 素晴らしい功績を残されているのもそうですが、一ステイヤーとしても、私はシンザン先輩を尊敬しているのですわ」

「ま、それでもスマホを知らないのは相当変わってるとは思うけどね」

「確かにな」

 

 スカーレットたちは顔を見合わせると、悪戯っぽい笑みを浮かべ、憧れの色を瞳に湛えていたマックイーンは狼狽えたように視線を逸らした。

 

「そ、それはそれ。これはこれですわ……」

「──ったく、もうちょい加減しろってんだ……そういや、俺もシンザンのことで妙なことがあったな」

 

 「今日はこんぐらいで勘弁してやるよ」と芦毛の暴れウマ娘の拘束から解放されたトレーナーも、乱れたシャツを正しながら話に乗っかってくる。

 

 彼の発言に、『スピカ』の少女たちの視線が一斉に集中した。

 

「トレーナーさんもですか?」

「おう、ウチのトレーニングに付き合ってくれた礼に、この間ラーメン奢ってやったんだが──」

「ラーメン!?」

 

 ラーメンの単語に食い付くスペシャルウィーク。

 

「ずるいです! ずるいですよトレーナーさん! どうして私には声をかけてくれなかったんですか!」

「スペちゃん、どうどう……」

 

 勢いよく立ち上がって抗議する彼女の肩に手を添えながらスズカが諌めにかかる。

 

「いやお前にもしょっちゅう奢ってんじゃねえか……とにかくだ。支払いの時によ、アイツが目ぇ丸くして千円札を見てんだ。んでどうしてなのかと思って見たら、偶然それが旧札だったんだよ」

「旧札? 旧札って、昔のお金よね?」

「前の千円の人って誰だっけ?」

「ソウセキだよソウセキ」

「そう、ソウセキ。で旧札をあんまり見かけたことがないのかと思って、渡して見せてやったら──」

 

 咥えていたドロップを口から離し、目線を上げながらなんとも言えない表情で彼は言い放った。

 

 

 

「『()()()()じゃないんだ』、だとさ」

「「「…………」」」

 

 

 

 斜め上の台詞に謎の間が発生する。

 

「……ハクブン? 何それ?」

「誰ですの?」

「ヒロフミだよヒロフミ、初代総理大臣。ソウセキの前の千円札の顔になってた。じーちゃんばーちゃんの世代だと、下の名前をハクブン読みする人も多いんだ」

「何でそんなことまで知ってんのよ……」

 

 頭にクエスチョンマークを乗っけるテイオーとマックイーンへ解説するゴールドシップ。彼女の物知り具合に軽く引き気味にスカーレットは呟いた。

 

「俺もそう言われて、昔の千円札にヒロフミの肖像が使われてるのを知ったんだが……相当昔の紙幣だったみたいだぞ」

「……なんでシンザンはそんなこと知ってたのさ」

「……俺が聞きてえよ」

 

 テイオーの疑問に、トレーナーは答える術を持っていなかった。

 

「……んなことよりトレーナー、ラーメン食べ行こうぜ」

「は?」

 

 部室内に漂っていた妙な静寂を、ゴールドシップの唐突な発言が突き破った。

 

「なんだよ唐突に……」

「ラーメンの話聞いてたら、何だか腹減ってきちまった」

「言われてみれば、いい時間だもんね……行こうよトレーナー!」

「そうよ! 行きましょう!」

「おい、お前らちょっと落ち着けって──!」

「ラーメン! ラーメン!」

 

 わーわーギャーギャーと騒ぎ立てる担当ウマ娘たちを前に、トレーナーは大きなため息を付き、そして──

 

「──しゃあねーな。門限までまだ時間もある、今月の給料も入ったことだしラーメン食い行くか!」

「「「イエーイ!」」」

「うおおおおおおおおっっ!!」

 

 仕方ないと行った風に頭を掻き、男らしいスマイルと共にグッと親指を立てたトレーナーの男気に盛り上がるチーム『スピカ』と、一人熱く燃えている道産子ウマ娘。

 

 そんな中で、スズカだけはどうにも引っ掛かる点があった。 

 

 スマートフォンを知らず、古い菓子パンを知っていて不思議なことに名前の響きに拒否反応を示す。加えて二代前の旧千円札の肖像になっている人物を把握し、なおかつ年配者の呼び方をしているシンザン……。

 

「……シンザン先輩って、幾つなのかしら?」

 

 ズレた知識と認識を持った彼女に対する、そんな疑問がスズカの脳裏をずっとさ迷っていたのだった。

 

 

 

 

 

「────イッキシ!」

 

 空の色が茜色から薄闇へと徐々に変わりゆく夕刻、トレセン学園に務めるトレーナー・職員陣の関係者用駐車場でシンザンは盛大なくしゃみをかました。

 

「あらやだ、風邪?」

「……すんっ。誰か私の噂してるな、こりゃ」

 

 鼻の下を擦りながら彼女は声のした方へと向き直り、嘯いてみせる。

 

「もうっ、センパイったら冗談が上手いんだから」

「あら、こういう時は普通言うもんじゃない?」

 

 真っ赤に塗られた、シャープなシルエットのスポーツカーにもたれ掛かって笑う声の主──マルゼンスキーへシンザンは肩を竦めた。

 

「それで、どこに行くんだったっけ?」

「ザギンの方に洒落たサテンがあるの、そこへドライブがてら足を伸ばそうってワケ! 寮住みじゃないオンナ同士、差し要らずで楽しみましょう!」

「喫茶店かぁ、わたしも後輩に誘われて不良の真似事する日がくるなんてねぇ……親分とトレーナーが知ったらきっと大目玉だろうな」

 

 シンザンはため息をつき、後半の言葉が聞こえないよう小さく呟く。

 

 一方のマルゼンスキーは最近理事長秘書や同チームの怪物二世といったカノジョが中々ドライブに付き合ってくれず、悲しい夜を過ごしていたのだが、久方ぶりに隣に人を乗せてドライブへ繰り出すのが嬉しく、ウキウキしながら愛車のキーを指で弄んでいたので先輩の声が届いていなかった。

 

「やっだぁ、センパイったら! 考え方が古いわよ! 今時の子にそんなこと言ったら笑われちゃうゾ☆」

「ねえマルちゃん、喫茶店なのにこんな時間までやってるものなの?」

「今話題のカフェバーってやつよ、カフェバー」

「へー、そんなお店があるの。なおさらお冠だね……しかしまぁ、こんなすごい車に乗るの、わたし初めてだから緊張しちゃうな……」

「あ、ドアは持ち上げるように開けてちょうだいね♪」

「……おぉ」

 

 言われた通り、慎重にドアハンドルへ手をかけ、持上げるようにするとスポーツカーのドアが垂直方向に縦へと開く。見たことのない構造にシンザンは静かに感動しつつ、助手席に恐る恐る身を潜り込ませた。

 

「こ、これがスーパーカー……すごいなぁ」

「驚くのはまだ早いわ、タッちゃんがすごいのは、コレからよ!」

 

 彼女の反応に気を良くしたマルゼンスキーも運転席へと乗り込み、キーを差し込んで捻ればV型十二気筒のエンジンを搭載した猛獣が唸りを上げる。体験したことのない振動にシンザンは思わず肩を小さく跳ね上げてしまう。

 

「わっ、すっごい音。トヨペットの車とはわけが違う」

「ふふっ、余裕の音でしょう? バ力が違うわ!」

「SFの世界の乗り物みたいだ……ところでマルちゃん? この車ってカーステレオついてる? わたし一応カセットテープ持ってるんだけど」

「カセッ──」

 

 興味津々に内装をキョロキョロと見渡した後、自身のスクールバッグの中を漁って何やら取り出そうとするシンザン。

 

 その言葉にマルゼンスキーは驚いたように目を瞬かせ、シンザンをまじまじと見つめて、直後に大笑いした。

 

「──あははっ、もうやだぁ!」

「……何よ、わたしだって、音楽くらいは聞くさ」

「違う、違うわ。今の時代、カセットテープなんて言葉を使ったら、皆ズッコケちゃうわよ」

 

 目に浮かんだ涙を指ですくいながら、噛んで含むように優しく大先輩へと教示するマルゼンスキー。

 

「へ? カセットで聞かないの?」

「今の時代はね──MDなのよ、MD!」

 

 彼女はそう言って、自慢げに掌に収まるくらいの四角い平面体を取り出す。ダウンロード、ストリーミング方式が全盛のこの時代、見かけることが久しくなくなった光ディスクであった。

 

「ふぅん。MD(エムデー)ねぇ……」

「MDのすごいところはね、巻き戻さなくていいの!」

「へー、巻き戻さなくていいん──え、巻き戻さなくていいの? 本当に? 冗談じゃなくて?」

「モチのロン☆」

「……マルちゃん、時代は変わるね」

「そーよっ。もっとアンテナを張って流行に乗り遅れないようにしなきゃダメよ~、パーイセン♡」

 

 あまり感心がなかったシンザンもマルゼンスキーの話に耳を傾けるにつれて、ことの重大さを理解し、感動に打ちひしがれる。

 

 ……とは言え第三者が居合わせたら突っ込みどころ満載な会話ではあったものの、それでも彼女たち顔を無垢に綻ばせ、賑やかに言葉を弾ませていた。

 

 車内で愉快な会話を交わしつつ少しして、シンザンを乗せた真っ赤なスポーツカーが爆音を轟かせながら、夜の東京へと繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえマルちゃん。この車、三角窓ないの?」

「……三角窓?」




追記

シンザン(1961~1996)
1963年…ケネディ大統領暗殺事件・力道山死去
1964年…東京オリンピック開催・東海道新幹線開業
1965年…元英首相チャーチル死去・米による北爆開始

マルゼンスキー(1974~1997)
1976年…ロッキード事件発覚・ベレンコ中尉亡命事件
1977年…読売巨人軍王貞治選手756号ホームラン

いずれも現役時代の出来事になります。

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