よろしくお願いします!
「あれ〜? どこにやっちゃったのかしら……」
それは二年生に進級した始業式の日のこと。
あたし、木下優子は放課後、探し物をしていた。
「多分あるとすればこの辺りのはずなんだけど……」
必死になってとある探し物を探す。
普通であればまた明日にでも、となるのだが、今回ばかりは事情が違う。
それは見つかれば今までに築き上げてきたものを一瞬にして崩すような代物。
命に代えても誰かに見つかるわけにはいかないのだ。
幸い、もうクラスの皆は帰っているので大丈夫。
どれだけ時間をかけても必ず見つけ出さなければ……
なんて考えながらふと時計を見ると時間は5時。
生徒が始業式に残っている時間ではない。
よし、ともう一度気合を入れ直して探し始めたその時だった。
ガラッ
教室の扉が開き、あたしは慌てて扉を振り向く。
「えっと……水谷君……だっかしら? どうしたの……?」
そこに立っていたのは同じAクラスの生徒。
クラスが変わったばかりなのでクラスメイトを全員覚えているわけではないのだが、彼のことは嫌でも頭に入っていた。
成績優秀、容姿端麗。
今はやっていないみたいだけど、一年生の頃は野球部のエースで、運動神経も抜群という恵まれた超完璧な男子。
HRの時、Aクラスの女子の大半はみんな水谷君に釘付けだった。
だからこそ新しいクラスになったにも関わらず覚えていたのであり、今彼がここにいることが不思議なのだ。
「それは俺の台詞だ木下。お前こそこんな時間に何をしているんだ?」
「あ、えっと……ちょっと探し物を……」
「探し物か……」
顎に手を当て少し考え込む水谷君。
うん、この容姿ならあれだけ囃し立てられても仕方ないか。
なんてどうでもいい事を考えていると、水谷君はバックから一つの物を取り出して言った。
「もしかして、お前の探してる物ってこれか?」
さっと取り出したものは男と男が抱き合っている絵が描かれている本。
あ、あれは………!
「そ、それあた……!」
『それあたしの!』と途中まで言ったところでハッとなる。
ま、まずい!
「ほぅ? そうか。やっぱりこれは木下の物だったのか」
パラパラと本を捲りながら確認を取ってくる水谷君。
さ、最悪だ……!
「まさか優等生の木下がこんなBL本を読んでいるとは驚きだな」
「……っ! か、返してよ……」
「ん、いいぞ」
サッと差し出された本を素早く受け取って抱え込む。
さて、ここからどうしようか……
「木下、このこと黙ってて欲しいか?」
「え……? いいの……?」
「ああ、別にいいぞ」
た、助かった!
水谷君はいい人だ!
ホッと安心しているのも束の間、あたしはこのことをこの男に知られたことを後悔することになってしまった。
「ただし、条件がある」
「じょ、条件……?」
「俺の仮彼女になれ」
「え…………?」
あたしの高校二年生の春は、最悪の一日から始まった。