主人公様が最初の精霊、夜刀神十香を封印してから月日は過ぎ、雨のよく降る季節になった。封印された十香は来禅学園の二年に編入、士道と同じクラスで慣れない学業に励んでいる。概ね原作通りに進んでいて一安心である。
こちらも戦闘訓練開始から結構経っているので、多少戦い方が様になってきた、らしい。なにより大きいのは、特典の性質を調べられたこと。
一つ、ルーレットに存在するのは、1番から10番まで。
劇場版やゲーム限定の特殊な天使はおそらく使えない。もちろん0番も。
二つ、未封印の天使はフルスペックで扱えない。
先日3番、つまり【
三つ、使用中の1時間霊力に際限がない。
精霊が霊装や天使の顕現、権能の行使の際に消費される霊力。それが、どうやら天使を顕現できる(というかしなければならない)1時間の間、いわゆる大技をいくらでも使うことができた。【
以上が、特典の詳細である。俺がスタミナお化けだったらある種チートだったかもしれないが、持ち手がダメだとチートも腐るってのはどこ行っても同じらしい。
さて、現在俺はとんでもない問題を抱えている。命の危機に関わるかと言われればそうでもないが、死にたくなるような問題ではある。
「今日からここッスかぁ・・・」
「最上級の防犯システム及び防衛システム。精霊が暴れても多少耐えられる強度。都市最高級マンションにも劣らないサービス。これだけ揃ってまだ不満なわけ?」
ジト目で見つめてくる我らが小さな指揮官。だってここさ、精霊が住むところじゃないですか。
確かに、質という点ではこのマンションは喉から手が出るほど住みたい。けれど、事故物件がまだ優しく見えるくらいの特大の爆弾を、これから大量に抱えることになるここは、むしろできる限り距離を置きたいのだが。
「最低質でいいんでブラジルに家構えれません?」
「あなた扱い上は一応精霊よ?理解してる?」
いやまぁそうなんだけどさぁ。
精霊を知っている方々からしてもイレギュラー極まりない俺は、精霊と同程度の扱いを受けることになってる。結果のこれだ。
逃げてぇ、でも逃げれる気がしねぇ。どうして人生ってこう上手くいかないんだ?
「なんて?」
「だから、明日からあなたにも士道と同じ訓練を受けてもらうわ」
「なんで?」
「あなたも精霊の封印が可能になったからよ」
「なんで?」
「知らないわよ」
はぇー、そうなんすねぇ。
「...十一の霊力を収めるもの──仮にこれを『器』と呼ぶことにするが──その器が日に日に成長しているようでね。昨日の身体検査で、精霊一人分の空きが確認できた」
「それで士道先輩一人に負担をかけないよう俺も攻略要員にしたい、ってことですか」
「その通りよ」
「ふーん、なるほどなぁ」
(……いやなにしてんの始祖の精霊!?関わらないっていったよね!?そっちが関わるように仕向けるのやめてくれません!?)
必死のアイコンタクトで抗議する。
(...私としては遺憾だが、村雨令音としてはこうするほかなかったんだ)
申し訳なさそうに視線が返される。
(今からでも誤魔化したりとかさぁ、なんかできないです!?)
(...ふむ、君を下すのは骨が折れそうだ)
(てめぇ…!)
もういい。気を遣うとか機嫌とるとか知らん。原作主要キャラの一人だけど、それはそれとしてこいつ許さん。俺の計画を泡沫にしやがって。睡眠薬の中身全部ラムネにしてやるから覚悟しとけよ。
「今日はもう帰りなさい。ふっ、明日が楽しみね」
「ヒエッ」
あの顔は、『今まで苦労させられた分、罰ゲームで仕返ししてやるわ!』の顔。確実に社会的に殺すと決めたときの、嗜虐性に溢れたドSの顔だ。
…仮病って通じるかな。
やけ食いしようと思ったけど冷蔵庫に何もなかったので、近場のスーパーで買い物。この時期はあの子とエンカウントする可能性があるからあまり出歩きたくはないけれど、背に腹は代えられない。背中はお腹とくっつきそうだけど。
雨も降り出したし急いで帰ろう。滑りやすそうだから足下に気をつけんとならん。でないと転んでしまう。そう、ちょうどあんなふうにつるべたぁんっと…。
ふぅ。多分別人だね。特徴的なレインコート着てるけど別人。ちらっときれいな水色の髪が見えたけど別人。転んだ拍子にウサギのパペット人形が飛んできたけど別人。そう、べつじんなのさ(焦燥)
助けるしかねぇじゃん畜生。なんかいやな予感はしたけど、よりによって今日どんぴしゃで遭遇する?神の見えざる手が働いてる気がするんだが。転生前に会ったあの神様のせいか。
心中でこれでもかと愚痴りつつ、ウサギのパペット人形を回収。転んだ少女に少しずつ近づきながら人形を渡す。恐る恐るといった具合に手を伸ばし、やっと人形を受け取った少女。そのまま腕に装着し、ついにその口を開いた…!
『やっはー、悪いねおにーさん。たーすかったよー』
…パペットのほうが。そう、まさかの腹話術である。
この少女、四糸乃はある種の二重人格、人との会話をウサギのパペットであるよしのんに任せている。
まぁ、こんな奇抜な少女がただの脇役登場人物なわけがなく。四糸乃は精霊だ。識別名称はハーミット。ASTに対して反撃せず逃げ回っているため、危険度は高くない。
その実際は、人を傷つけたくないという少女の優しさから来るもの。殺意を向けられ存在を否定され、それでも相手を思いやる健気な少女。原作では主人公が無謀を通して男前に救いに行っている。この世界線だと、どうなるんだろうなぁ。
むっちゃ嫌な予感するけど。
『ぅんでさー、起こしたときに、よしのんのいろんなトコ触ってくれちゃったみたいだけど、どーだったん?正直、どーだったん?』
「いやー、柔らかかったしフサフサだったし、最高の触り心地だな」
濡れてなければなお良かった、という言葉はどうにか口に出る前に抑え込んだ。
『お世辞が上手いねおにーさん。それに免じて、今回はサービスってことにしてア・ゲ・ルんっ』
「そりゃありがたいねぇ」
俺の存在も忘れてくれないかな、サービスついでに。
『ぅんじゃね。ありがとさん』
「おう、もう転ぶなよ」
できれば士道パイセンの前でもっかい転んでくださいお願いします。
四糸乃に手を振りながら見送って、その背中が見えなくなってから思いっきりため息を吐いた。なんか、もう疲れた。やけ食いする気にもならん。さっさと帰ってシャワー浴びて寝よう。
・・・こんなに買っちゃった食材、どうしよう。
「む、じゅーいちではないか」
「こんにちは」
買い物袋をえっちやおっちら運んでいると、マンション前で夜刀神十香と出会った。そういえばこの時期は五河家で暮らしてるんだったか。できれば距離を取りたいけど、挨拶は欠かせない。挨拶は大事って古事記に書いてるしな。
「その袋は・・・おお!食べ物がいっぱいだぞ!」
無計画に買いまくった結果です(白目)
柊十一は、この身体の小ささに似合う少食なので、実際はそんなに食べれるわけではない。ということで、少し処分に迷っていたのだが、うん。
「あの、買いすぎたので、みんなで食べませんか。よろしければ」
「それはいい!みんなで食べると美味しいからな!」
・・・致し方ない犠牲、ということにしておこう。今後もっと関わることになるのだから、良好な関係を築いておいて損はない、はず。
ついでに、士道パイセンから美味しい親子丼の作り方でも教えてもらおう。もしかしたら振る舞うことになるかもしれないし。
デアラ読み返してて遅れました。反省はしてるけど後悔はしてない。