一人称で執筆していましたが、内容に納得出来ず今回は三人称でお送りします。
ハルウララというウマ娘にとって、走るということに関して他のウマ娘と感性が違っていた。
普通は、レースに参加しているウマ娘達は一着になりたい、一番早くなりたいと結果を求めて走っている。
だが、ハルウララは結果を求めているのではなく、ただただ単純に走るのが楽しい、色んな子達と走りたいという欲求が一番にある。
もちろん、彼女にも一着を取りたいと思う気持ちもあるが、まずは楽しんで走ることが一番と考えている。
そんな彼女だが、ウマ娘としての才能は決して高いとは言えない。それは過去のレース結果を見ても明らかだ。
レース出場回数は他のウマ娘と比べると断トツで多いが、未だにデビュー戦以来一着を取ったことがない。正確にはデビュー戦ではなく未勝利レース戦での勝利だったが、彼女にとって数十回目のレースにして生涯初の一着だ。
この日のレースでの思い出は彼女にとって一生忘れられない日となった。観客も数える程しかおらず、一着を取った後に聞こえてきた拍手や声援もほんの僅かだった。
それでも、一着を取れたという達成感、そして手作りの応援グッズでレース中ずっと応援してくれていた商店街の人達と、抱き合って喜んでいるサブトレーナーの姿を見つけて、彼女は疲れた体で観客席に向かった。
「「「ウララちゃんおめでとー!」」」
「えへへ〜みんな〜ありがとー!ウララやったよぉ!」
「うぉぉぉウララァァァおーめーでーとー!!今日は人参祭りの開催じゃあぁぁぁ!」
いつの間に作ったのか、特性ウララTシャツとウララハチマキを着ている不審者、もといサブトレーナーが涙と鼻水を垂らして高らかに人参祭開催の宣言を行う。
不定期で開催されている人参祭は、人参料理だけのパーティーだ。人間が行うと一ヶ月は食べたくなくなる程の量を用意して多種多様な人参料理を作る。勿論、作るのはサブトレーナーだ。
この男、ウマ娘達の為に休みの日は料理教室に通い今では人参料理に関してトレセン学園の中でも上位に入る程の腕前になっている。努力する方向性が間違っている気もするが、彼にとってはウマ娘達が笑顔になってくれるならと全く苦ではなかった。
本来はこっそり二人で行っていた人参祭だが、流石はウマ娘。その人間離れした(人間ではない)嗅覚で人参の香りがすると言い放ち、何処からともなくウマ娘達が現れる。
特に”日本総大将”と”芦毛の怪物”と呼ばれる二人のウマ娘は今の所皆勤賞だ。そしてサブトレーナーの財布と腕が亡くなるのは毎回の恒例行事となる。仕方ないね。
八百屋のオジさんがこっそりと「一本50円な」と格安で販売してくれることを約束してもらい、「あざっす!」と感謝の言葉を伝え、改めてハルウララの方に顔を向けた。
「ウララ、今日は本当におめでとう。でもある意味今日でようやくスタートに立ったんだ。これからもっと練習してまた一着取れるように頑張ろうな」
「うん!ウララがんばるよ〜!たくさん人参食べて、もっともーっと練習していっぱいレースに出るんだぁ」
むん!と可愛らしくも力強く返事をするウララに周りの人達はほっこりと笑顔を浮かべる。そんな最中、ようやくテンションが落ち着いて来たサブトレーナーが、ふとどこかに連絡を取り始めた。
「よし、ウララ!今から先輩に連絡するけど自分で報告するか?」
「えっ?トレーナーに?うん!!ウララから報告するよ!!トレーナー喜んでくれるかなぁ?」
ウララの言葉にあの先輩が喜ばないはずがないだろうとサブトレーナーは思う。今日は残念ながら高熱を出してしまい、担当ウマ娘達に病気を移してはならないと学園から自宅待機を命じられている。
それでも諦めきれないトレーナーは葛根湯、栄養ドリンク、タキオン印の謎の薬を併用し、奇声を上げながら学園を出ようとした所を理事長秘書である”駿川たづな”により寮へ強制送還されようとしていた。
その際薬の副作用か、顔色が緑色に変貌を遂げ、まるでナメック星人の姿になったかのような先輩にドン引きしつつも、「…ウララを…頼む…」と最後の力を振り絞ってサブトレーナーに遺言?を託し、たづなさんに額に生えた触手を捕まれ、ズルズルと引きづられて行く先輩トレーナーを見送っていた。
そんなウララ大好きトレーナーが初勝利を喜ばないはずがない。きっと電話の向こうでは目から緑色の血涙を流している先輩が狂喜乱舞しているだろう。その姿を見せなくてよかったと目の前で嬉しそうに報告しているウララを見てそう思わずにはいられなかった。
興奮冷め止まぬ中、二人は商店街の人達からのお祝い品として、ダンボール箱いっぱいに敷き詰められた人参を持ち帰路についていた。
夕日を背に二人は今日のレースについて何度も振り返る。スタミナも尽きかけて呼吸も苦しい、脚が思うように動いてくれない。
そんな時に聞こえてきたのが観覧席から大声で応援してくれているみんなの声。
空っぽになったと思った力が体の内から湧いてくる。まだゴールじゃない。まだ終われない。最後の直線でウララは文字通り全身全霊(アゲマセ…ス!)でゴールまで駆けた。
そしてウマ娘生初となる一着を取ることが出来た。だから今日勝てたのはみんなのお陰だよ。ありがとう!とウララはずっとお礼を言っていた。
「勝ったのはウララが今まで頑張ってきた結果だよ」
そう言って優しく微笑むサブトレーナーを見て改めてウララは感謝の気持ちが溢れ出てくる。
レースに出る為にはトレーナーと契約しなくてはならない。だが、ハルウララというウマ娘は走る才能はないに等しい。そんな彼女をスカウトしようとする程現実は甘くなかった。
選抜レースに出てトレーナーからスカウトをしてもらおうと何度も参加したが、誰一人としてハルウララに声を掛けるトレーナーは居なかった。レースに出たい、みんなと一緒に走りたい。その思いで自分からトレーナーに売り込みを掛けることもしたが、いい返事をもらえることはなかった。
何度目かの選抜レース後、また今日もダメだったかぁと耳をぺたんと萎れつつ帰り支度を済ましていると、観覧席で項垂れている人を見かけた。
何かあったのかと興味本位で近付いてみると、そこには書類を握り締めてショックを受けている男がいた。
「ねぇねぇ、どうしたのぉ?」
「んぁ?」
彼女の言葉に反応した男は彼女の姿を見て一瞬驚いた顔をしたが、すぐに苦笑いを浮かべ何でもないよと彼女を気遣った。
「ほんとに?もしかしてお腹空いて動けないの!?待ってて!今美味しい人参持ってくるから!!」
「えっ?いやっ……別に腹減ってるわけじゃ……」
初対面のウマ娘に腹ペコキャラ認定されそうになるが、男は暗い表情で語り始めた。
「子供の頃からトレーナーになるのが夢で、今年こそいけると思ったんだけどなぁ……見事に落ちちゃったよ……
また来年までサブトレーナーかぁ」
悲しそうに語る男を見てウララの表情も一瞬曇る。だが流石は高知が誇るメンタル・モンスターハルウララ。すぐに満面の笑みを浮かべ男を励まし初める。
「だいじょーぶ!今回は残念だったけど、次はきっと合格出来るよ!ウララも中々レースに勝てなくてトレーナーさんにまだ会えてないけど、一緒にがんばろうよ!」
自分より一回りは小さい女の子からの励ましの言葉を受け男は情けなさでいっぱいだったが、どこか暖かさを感じる気持ちになり改めて彼女の姿を確認する。
体格は決して良いとは言えない、むしろ平均よりも小さくライバル達と比べたらこの小さな体は逆に目立つだろう。だがそんなハンディを努力でカバーしようと足の至るところに貼っている絆創膏が彼女の努力を証明していた。
「ねぇ、君の名前を教えてくれるかい?」
「ウララはハルウララって名前だよ。よろしくね」
これが後にダートの女王と呼ばれるようになる”ハルウララ”と、表舞台に立つことはなかった彼のファーストコンタクトであった。
それから男、サブトレーナーはハルウララが出ているレースに行ける時は必ず見に行くようにした。
トレーナーではない彼は専門的なアドバイスをする事を禁じられている。正式なトレーナーではない指導は下手をすると彼女達ウマ娘の将来を潰してしまう可能性があるからだ。
ウララが走っている姿を録画し、自分なりにフォームの修正点を見つけ、時間を見つけては先輩トレーナーに意見を貰いに行った。
自分の担当ウマ娘ではないのになぜそんなことまでしなければならないのかと一部の先輩トレーナーに怒られたりもしたが、彼は諦めることをしなかった。
基本的にサブトレーナーの仕事はトレーナーの下でアシスタントを行う。彼のサブトレーナーとしての実績は周りも評価しており、トレーナー達も彼の存在は重宝している。
通常、サブトレーナーは一つのチーム専属で付くことが多いが、彼の場合日毎、又は週毎に様々なチームで業務を行っている。負担を考えれば一つのチームに居た方がいいが、彼は勉強させて下さいと自分から率先して仕事を引き受けていた。
そんな彼が頭を下げて一人のウマ娘の為に頑張っている。先輩トレーナー達も仕方ないとばかりにため息を吐きながらも彼に力を貸していた。
そんな生活が数日、数週間、一ヶ月と続き、遂にハルウララにトレーナーが付くことになった。彼が何度も彼女の話しをしていたら一人のトレーナーがハルウララに興味を持ったのだ。
今日はピンク色かと、先輩トレーナーの顔色がまた変わっていることをスルーしつつも、先輩トレーナーと共にハルウララが出場しているレースを観戦しに行き、彼女の走りを直接見てもらう。
レースの結果は相変わらずではあったが、最後まで諦めない姿勢に先輩トレーナーのお眼鏡に適ったらしく、彼女は無事トレーナーと契約することとなった。
先輩トレーナーとハルウララが二人で話し合いをしている中、ウララがトレーナーと契約したことに嬉しさと自分の娘が嫁に行ったような複雑な気持ちに彼は悶々としていた所に、サブトレーナーの元にウララが駆け寄って来た。
「サブトレーナー!ありがとー!
ウララね、これからトレーナーと……サブトレーナーの三人でもーっと頑張るから!これからもよろしくね」
ウララの言葉にトレーナーとサブトレーナーはお互い目を合わせ、苦笑いをしながらも三人は新たな目標に向かって走り出して行ったのだった。いつの間にか紫色に変色していた先輩はスルーしながらも……
そうして月日は流れ、トレーナーを得たウララはメキメキと実力を伸ばしていった。ただし、それはウララ基準ではあるが。周りと比べるとかなりのスローペースではあるが、それでもウララにとっては楽しい毎日であった。
レース後は観戦に来れなかったサブトレーナーにレース結果を報告するのはいつの間にかウララの日課になっていた。
今日は自己ベストを更新し(順位は下から三番目だが)いつもより気分良く走れたウララは、鼻唄を歌いながらサブトレーナーがいる部屋のドアを勢いよく開けた。
しかし、そこで見たものはウララにとって生涯トラウマとして一生消えないキズとなり残ることとなる。
「うっららー!サブトレーナー!今日のレースいつもより順位が上だっ……サブトレーナー!?」
目の前にいたのはいつも優しい笑顔で出迎えてくれる人ではなく、笑顔とは正反対の苦しそうな表情で口から大量の血を吐いているサブトレーナーであった。
「……っごほっごほっ……ウ……ウララ……」
「サブトレーナー!?しっかりして!!死んじゃやだよー!」
真っ白であったであろうTシャツを真っ赤な血で染め、触れたら壊れそうな程に弱々しいサブトレーナーの姿を初めて見た。
(サブトレーナーが死んじゃう…イヤだイヤだイヤだ!!)
ウララの心中はすぐに絶望に染まる。持ち前の明るさでどんなに辛いトレーニングも乗り越えてきた彼女の鋼のメンタルであっても、恩人とも呼べる人の苦しむ姿は直視できなかった。
「……っごほっ……ウララ……俺は何ともないから!大丈夫だから!」
「いやだよっ!死んじゃいやだよぅ……グスッ……いやぁ……」
こんな状況でも自分を安心させようと無理に笑みも浮かべる姿はウララの心を攻め続ける。ウララはこんな笑顔なんて欲しくない!!そう思っても言葉にすることはできなかった。
「ウララ……今日見たことは誰にも言わないでくれるか?」
「えっ!?どうして!?早くみんなに言わないと大変だよ!!」
「頼むウララ!みんなには秘密にしときたいんだ!」
「でっ……でもぉ……」
何て言葉を掛ければいいか分からず、ただ泣き崩れているウララにサブトレーナーは思いもよらぬ言葉を掛けてきた。
今日見たことは内緒にして欲しい…彼の人柄からこの言葉の意味を理解するのは簡単だ。みんなに心配をかけたくない…また明日からいつも通りだから…
彼はウララに残酷な優しさを突き付けている。ウララが黙っていれば明日からいつもと変わらぬ日常が送れる。でもウララは明日からどうすればいいの?と答えがない疑問が体の中で渦巻いている。
「サブトレーナー……もしかして病気なの?体のどこかが悪いの?」
「ん?いや、俺は超健康だぞ。まぁ頭は悪いかもしれんが」
「でもこんなに血を吐いて……本当に大丈夫なの?」
「いや、これは血じゃなくて……ってあぁ!ウララ!門限過ぎてるぞ!急いで寮に帰るんだ!また寮長に怒られるぞ」
「えっ?でもぉ……」
「また明日話すから今日はひとまず帰るんだ。」
「……うん、分かった……明日ちゃんとお話聞かせてね」
「おう、おやすみウララ」
「……おやすみなさい……」
部屋から追い出されるように退出したウララは全速力で駆け出した。一刻も早くあの場所から離れたかったのだ。
逃げるように寮へと駆け込み、同室者のルームメイトの声を無視したまま、ベッドに飛び込みフトンにくるまった。
まるで悪夢から早く覚めるようにと願いを込めて…
1話からたくさんの感想、評価ありがとうございます。
自分の中では明るい勘違いラブコメを目指して執筆しているつもりですので、これからもお気軽にお読みいただけたらと思います。