意図せずウマ娘達から目の光を奪うお話   作:みっちぇる

14 / 24

タマモクロスの実装待っているので初ウマぴょいです



第7話(ウマ娘視点)

『あいつは行けてもGⅡくらいまでしか無理だよ』

『典型的な井の中の蛙だ』

『実力に対してプライドが高すぎる』

 

 耳にタコが出来るほど聞こえてくる雑音。好きなだけ何とでも言えばいいと鼻で笑う。

 誰にどんなことを言われようとも、何度泥を被って嘲笑われようとも、絶対に後退しない。決して頭を下げない。その覚悟を持って日本一の学園に来たのだ。

 だから私は一流のウマ娘なんだと叫び続けるし、勝利という名の証明をこの手に掴む。

 

 どう言われようと、どう思われようと、勝って才能を証明してみせる。相応しい結果を掴み取って、私は一流なんだと認めさせてやる。

 

 それでも雑音が収まることはない。

 実の母からの連絡もいつも同じ内容だ。

 

『トレーナーはついたの?やっぱりダメだった?もう早く帰ってきなさい』

 

 私に何も期待していない。無理だと最初から決めつけている。

 

『あなたに走りの才能はない。諦めなさい。別の道を探した方が幸せになれる』

 

 なんで勝手に決めつけるの!!

 そんな言葉なんかで絶対諦めてやるものですか!!

 

 私がレースに出る時でも大反対してきたお母さま。

 

『レースの世界はあなたの想像以上に過酷で、甘い世界ではない。私の真似はしなくていい』

 

 GⅠを取ったことのあるウマ娘だからこそ言える助言なのだろう。けれど、決してお母さまの真似をしたくてこの世界に飛び込んで来た訳ではない。

 過酷で大変?それがなにか?その程度で諦めるなら最初から選択していない。私の覚悟は、誰かに推し量れる程安くはない!!

 

 だからトレーナー選びだって妥協はしない。

 

 未熟だけど是非一緒にやりたい?未熟なら他のウマ娘の所に行きなさい!

 

 母親の栄光を私が受け継ぐ?過去の栄光など興味がない。誰かの後追いなどお断りよ!

 

 ダメ。全然ダメ。私に声を掛けるトレーナーたちの言葉を片っ端から否定していく。

 私が求めているのは一流のトレーナー。志も、目標も何もかもレベルが低すぎる。同じ覚悟を持つトレーナーでなければ決して認めない。

 

 次第に私をスカウトしようとするトレーナーは少なくなっていった。それでも絶対に妥協することはない。必ず私に相応しいトレーナーが現れるはず。まだ私の事を見つけられていないだけ。

 自分に言い聞かせるようにトレーニングに励み、開催される選抜レースや模擬レースはなるべく参加するようにした。

 

「だから言ってるじゃない!!私には才能があるって今度の選抜レースで認めさせて、一流のトレーナーと専属契約するって!!忙しいからもう切るわよ!さようならっ!!」

 

 お母さまからもう聞き飽きた言葉を遮り電話を切る。現役中も、引退して仕事を始めてからも、私のことはほったらかしだったのに、今更口出ししてくることにイライラが隠せない。

 

「って、ぎゃっ!?だ、誰っ!?……ってあなた!何笑ってますの!?」 

 

「ブフッ!!いや悪い!まさかキングみたいなお嬢が『ぎゃっ』なんて言うとは思わなくて……くくっ」

 

「なっ!!今すぐ忘れなさい!!」

 

「いやいや、『キングの驚く声』なんて滅多に聞くことができないんだから、たまたまとはいえ聞けたことは光栄なことだろ?」

 

「えっ?そっ、そうね!!このキングの驚いた声なんて普通は聞けないわよ?ありがたく思いなさい!!」

 

 いつからそこにいたのか、私の目の前でニヤニヤしながらこちらを見つめている一人の男性。私に話掛けてくる男性など、スカウト以外では彼くらいしかいない。

 

「というかキングこそこんな所で何してるんだ?もうすぐ模擬レースの時間なのにまだ来ないっていつもの二人が捜してたぞ?」

 

「……あっ」

 

 携帯の時間を確認し、急いで練習場まで向かう。もうウォーミングアップをしている時間もない。脇目も振らず目的地へと駆け急ぐ。

 

「はあ……はあ……おーっほっほっほ!お待たせしたわね!おーほっほ……ごほっ、ごほっ」

 

 何とか出走前までに間に合い、急いで呼吸を整えてスタート地点で軽く柔軟を始める。もう既に身体は火照り、いつでも出走出来るが、一流たるもの事前準備は欠かせない。

 

「あの子の名前は?」

 

「「キング!!」」

 

「誰よりも強い?」

 

「「勝者!」」

 

「その未来は?」

 

「「輝かしく!誰もが憧れるウマ娘〜!」」

 

「そう!一流のウマ娘といえば〜?」

 

「「「「キングヘイロー!!」」」」

 

 今日も私を慕う二人の子達と、あの人の掛け声でいつもの自己紹介がバシッと決まった。出走前だというのについ私の名前を一緒に叫んでしまったが致し方ない。

 さあ、今日こそ私の、一流ウマ娘の走りをその目に焼き付けなさい!

 

 選抜レースも終了し、出走者やトレーナーたちは帰り支度を始める中、私は一人練習準備に入る。

 

「お疲れ様!足は大丈夫か?」

 

「誰にものを言っているのかしら?一流たる者自己管理くらい出来て当然よ」

 

「ははっ、そこまで軽口が言えるなら大丈夫そうだな。

……今日は惜しかったな」

 

「惜しくても負けは負けよ。こんな結果じゃ駄目なのよ!この私が、キングが二着に終わるだなんて……!」

 

 先ほどの選抜レース。前を塞がれてしまい、位置取りもうまくできなかった。結果、スパートが遅れ先頭に逃げ切られてしまいハナ差の二着。

 

「……先団は団子状態。前は塞がれ、位置取りも最悪。予想より早い先頭集団のスパートに自分のペースは乱され、最後までスタミナが保たず終盤やや失速」

 

「……あなたにしてはよく分析したわね。腹が立つくらいに正確だわ。特別に褒めてあげる」

 

「そりゃあキングの走りをずっと見てきたからな。超一流サブトレーナーは一流ウマ娘の走る姿を見て成長しているんだぞ」

 

「……ふふっ、なによそれ。超一流なら早くトレーナーになりなさいよ。」

 

 私の言葉に参ったなと苦笑いを浮かべる彼の顔を見て、気付いたら自然と笑みが溢れていた。

 彼との付き合いはいつからだったか?私の走ったレースを自分で解説し、彼に教えを説くという、いつの間にか奇妙な関係が始まっていた。

 ウマ娘に教えを請うトレーナーなど聞いたことがない。一流トレーナーどころかトレーナーですらない彼に私は何をしているのだろう。

 

 それでも、この時間は嫌いではなかった。悪態をつきながらも、彼に教えを説く私にビックリしている自分がいることを感じながら、出来の悪い教え子に分かりやすく解説していく。

 

 

 それなのに、この私が直々にあなたの夢を手伝ってあげたのに、あなたは勝手にこの世界からいなくなろうとしている。

 

 ふざけないで!!まだあなたに、一流の走りを見せていない。キングの力はこんなものではない!この程度で納得されては困るのよ!

 

 ……私はあなたの為に悲しんであげない。泣いてもあげない。

 だって私はキングだから。王は誰の前でも胸を張って生きなければいけないから。

 

 だから、私がキングではなくなった時、私の役目が終わった時に悲しんであげる。

 その時はちゃんと胸を貸しなさいよ?殿方は女性の泣き顔を見てはいけないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあキングちゃん!ウララ先に行くね!」

 

「え、えぇ。行ってらっしゃい」

 

 変わった。キングヘイローはハルウララが朝早くから朝練に向かう背中を心配そうに見つめる。

 ほんの少し前までは二回も彼女を起こして、先に寮を出て三度寝してないか心配する程朝に弱かったウララが、今ではキングよりも早く起きて学園に向かうようになった。

 

 ただ朝早く起きる様になっただけなら何も問題は無かった。一番心配な事はウララが笑わなくなったことだ。

 全く笑わなくなった訳ではない。ただ明らかにキングの前では無理に笑顔を作っている。プライドは高いが、元々面倒見のいい性格のキングは、ウララの様子がおかしいことには直ぐ気が付いていた。

 

 だからこそ、キングは様子がおかしくなった時にすぐ助けなかったことを後悔している。ウララから話をしてくれることを待っていたが、日に日に雰囲気が変わっていく彼女を黙って見ているだけしかしなかった。

 

「〜〜〜ああもう!なぜこの私がここまで気にしなければならないのよ!!」

 

 悪態をつきながらもウララに追いつこうと急いで準備を始めるキングは、心のざわめきを無視するかのようにウララの後を追い掛けるのだった。

 

 練習場に到着したキングは、慣れないダートコースの感触に戸惑いつつウララの元へゆっくり歩を進める。既にウララは額に大量の汗を掻きながらダートを駆けていた。

 ウララの練習風景に思わず足を止め、彼女の走りに目を奪われる。

 

 キングはまるで大きなレース本番のように自分を追い込み、鬼気迫る表情で走る彼女に思わず寒気が走る。

 ウララとは何度か一緒に併走したことがあるが、速さはともかくここまで迫力を出して走っていた事はない。

 寧ろただ一緒に走れて嬉しいと、終始ニコニコしながら走っていたことが一番印象深い。

 

 ここまで彼女が変貌した理由が何かあるはずだ。結局キングはウララが一人黙々とトレーニングしている姿に声を掛けることができず、その理由をただひたすら考えていた。

 

 その日の夜、門限ギリギリに帰ってきたウララが、疲れ果てた様子でベッドに飛び込み、そのまま夢の中に飛び立とうする彼女にとうとうキングが話を持ち出した。

 

「ウララさん?少しお時間よろしいかしら?」

 

「んー?どうしたのぉキングちゃん?」

 

 練習疲れからか、既に半分程意識が飛んでいるように見える。そんなことはお構いなしとキングはウララに詰め寄った。

 

「ウララさん?トレーニングを頑張るのはいいことですが、少々気負い過ぎではなくて?常に全力なんて身体が持ちませんよ?」

 

「んーん。そんなことないよ。ウララは遅いからたくさんトレーニングしないと……」

 

「私から見てもウララさんは明らかに無理をしていますわ!いくらウララさんの身体が丈夫とはいえ、このままだといずれどこか怪我をしますわ!」

 

「……それでも頑張らないと。次は絶対勝つって決めたから……次のレースで……勝たないと……間に合わない。サブトレーナーが……見てくれなくな……る……か……ら……」

 

「えっ?ちょっとウララさん!?」

 

 キングが問い詰める前に完全に意識を失いスヤスヤと眠りに入るウララ。色々と聞きたいことが聞けず、モヤモヤする感情をグッと我慢し、ウララにそっと毛布を被せ、自分も就寝の準備に入る。

 

 ウララがここまで追い詰められている理由。きっと最後に呟いた人物が関わっている。そう確信しながら、キングの心中は不安に押し潰され、中々寝付けない夜を過ごすのだった。

 

 翌日、いつもより遅く起床したキングは、既に寮を出てトレーニングに向かったルームメイトの空になったベッドをしばらく眺め、登校の準備を行う。

 

 昨日の夜から継続して襲ってくる不安が、学園に近付くごとに強くなってくる。とうとう校門まで到着し、いつものように登校してくるウマ娘たちに挨拶をしている彼の様子をじっと伺う。

 

 いつもより顔がやつれている。どことなく元気がない。最近まともに会話をしていなかったせいか、しっかりと彼の顔を見る機会がなかった。しばらくじっと彼の顔を観察していると、こちらに気付いたのか彼もじっと見つめ返してきた。

 

 思わず顔を背け、急いでその場から脱出する。なぜそうしてしまったかは分からない。

 一つ言えるのは、これ以上彼の顔を見続けるのが辛い、キングはなぜそう思ったのか疑問を感じつつ、いつもより早い足取りで学園の中に向かって行った。

 

 一日中心のモヤモヤが取れぬまま、気付けば下校の時間を迎えていた。大きく深呼吸を一度、二度と行い彼がいる部屋まで向かう。

 通い慣れた道の筈なのに、いつもより遠く、足取りも重い。

 途中、三女神像に熱心に祈っているウララの友達、ライスシャワーの姿を見つけたが、彼女に近付くにつれ空気が重く、息苦しい。嫌な汗が背中から流れ落ちる感触に気持ち悪さを感じつつ、早々にその場から立ち去った。

 

 いよいよ彼がいる部屋の前まで到着し、何かを感じる前に勢いよく扉を開けた。

 そうしなければ、ずっと扉の前で立ち往生してしまう気がしたから。

 私はキングだ。何を恐れる必要がある。彼女はいつものように自分を奮い立たせ、部屋の中を確認した。

 

 部屋の中に目的の人物はいた。だが、黒いゴミ袋に隠すように何かを詰め込んでいるのに集中しており、こちらに気付いていない。

 

「何してますの?」

 

「うお!?び、びっくりした〜。突然なんだよキング。心臓に悪いだろ!」

 

「あら、それはごめんなさい。あなたがコソコソと変なことしているのが気になってね」

 

「い、いや。別に怪しいことなんてしてないって。ただゴミ掃除していただけだし……」

 

「ふーん……ならその袋の中を見ても何も問題ないわよね?ただのゴミなんでしょ?」

 

「いやっ、ちょ、待って待って!!」

 

 見るからに慌てている彼の言葉を無視し、隠そうとしていた黒い袋を強引に奪い取り、力の限り袋を破り捨てる。

 

 バサッと中から落ちてきたのは、血だらけになったシャツにタオル。遅れて部屋の中を舞い散る赤いティッシュペーパーと紙吹雪にキングの思考は停止する。

 彼はしまったと気まずそうに顔を背け、沈黙が部屋を支配する。

 

「なによ……これ……」

 

「……」

 

「ちょっとあなた!!なによこれは!!」

 

 堪らず叫び散らすキングの悲痛な声が部屋全体に響き渡る。彼女の鋭く睨み付ける視線に、まるで親に怒られたかのように縮こまる彼は、黙って床に散らばった袋の中身を片付けようとする。

 

「ちょっと!何とか言いなさい!!これはなによ!?

これは……あなたのなの?」

 

「ああ、そうだ……」

 

「そう……。それで……大丈夫なの?」

 

「……」

 

「……そっか。そういうことだったのね」

 

 やっとウララがあんなに自分を追い詰めていた原因が分かった。恐らく彼女も知ったのだろう。彼の秘密を、誰にも知られたくなかった秘密を。

 だからあんなに必死だったのだ。頑張って頑張って、何とか勝利を掴んで彼に最後の恩返しをしたい。

 

 ありがとうという想いを形に残したい。今まで勝負に拘らなかった彼女が初めて追い求め、欲した勝利を彼に届けたい。その想いが今の彼女の原動力なのだ。

 

「分かったわ……もう何も聞かない……

いえ、一つだけ聞かせなさい。あなたは……もう満足したの?」

 

「するわけないだろ!!こんなんじゃ……満足できねえよ!!」

 

「そう。なら最後までその目で見届けなさい。私が!!このキングが!!ウマ娘の頂点を、可能性を、あなたに見せてあげるわ!!だから……それまでは勝手に逝くんじゃないわよ!!」

 

「!!ああ、約束する」

 

 彼の返事に、今まで見せたことがない慈愛に満ちた表情で彼の手を握る。まだ体温を感じるその手がいつ冷たくなるか分からない。

 でも、彼と約束したのだ。ならばキングたる自分が約束を違えるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何をそんな心配な目で見ているの?このキングが約束を破る訳ないじゃない。確かにライバルは強敵ばかり。私と同じ王の名を持つウマ娘もいる。

 でもそれがどうかしたの?キングはこの世に一人だけ。そう、この私、キングヘイローが真の王者なのよ!!

 

 だからあなたは安心して私だけを見てなさい。あなたの無念は私が晴らしてあげる。全部終わったその後に……ちゃんと泣いてあげるから……




誤字報告ありがとうごさいます!

ウマ娘視点を書き終わると胸に穴が空いたような気分になるのはなぜでしょう?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。