意図せずウマ娘達から目の光を奪うお話   作:みっちぇる

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消灯時間が過ぎたので初ウマぴょいです



第7話(サブトレ視点)

 風呂に入り一日の疲れを癒やし、なんとなく体重計の上に乗ってみる。……どうやらダイエットに成功していたようだ。痩せたいなんて思ったことすらないのに、勝手に減っていく俺の体重。スゴイね人体。

 

 バカなことを言いつつ、いつもよりも多めに用意した夕飯を無理矢理腹の中に押し込んでいく。忙しさも相まって、最近食事をまともに取っていなかった反動が、目に見えて身体に表れてきてしまった。

 

 この大切な時期に身体を壊してしまっては先輩たちやウマ娘たちにも迷惑を掛けてしまう。俺自身も楽しみにしているURAファイナルズが体調不良で見られなくなるなど、ファンの一人としてこれ程悲しいことはない。

 何とかして身体の調子を取り戻さなければ。スペやオグリならペロリと平らげる量の夕食を、胃袋が悲鳴をあげているのを感じつつ、どうにか全て体の中に入れることに成功した。

 

 もう動けない……パンパンに膨れ上がったお腹を擦りながら少しずつベッドの方へ転がって行く。途中食べた物が逆流しそうになるのを必死に食い止め、どうにかベッドまで身体を持って行くと、気持ち悪さを誤魔化すように必死に夢の中に旅立とうとするのだった。

 

 翌日、まだ全て消化しきれていない腹の気持ち悪さに四苦八苦しながら学園まで向かう。未だ吐き気が伴い冷や汗が流れ出る身体に、本来なら冷たく感じる秋風が妙に心地よい。

 

 学園に到着した頃には多少なりとも体調が回復し、いつも通り先に掃除を始めているたづなさんに挨拶をして俺も掃除を手伝おうとした所でこちらを見つめる視線を感じた。

 

「サブトレーナーさん。あの、顔色が優れないようですがお身体の調子は大丈夫ですか?」

 

「えっ?あぁ、ちょっと昨日の夜食べ過ぎてしまって……胃もたれ気味なだけで仕事に支障はないですよ」

 

「まあ!?あまり無茶をしないでくださいね?サブトレーナーさんが体調を崩したと知ったら、あなたを慕っている生徒たちが悲しみますよ?

……もちろん私もですけど」

 

「ははっ、昔から身体が丈夫なことだけが唯一の自慢ですからそうそう倒れたりはしませんよ。でもたづなさんが看病してくれるならそれでもいいかなぁ……な、なーんて」

 

「もう!冗談が過ぎますよ!倒れる前にちゃんと私が看病しますからそんなことはさせません!」

 

 冗談交じりにウインクを決めながら俺をからかってくるトレセン学園の女神様。もう少し俺が年を取っていたならば、間違いなく今すぐ交際を申し込んでいただろう。

 だが残念ながら俺の事は弟のようにしか思っていない現状だと断られるのは目に見えている。いつか男らしい所を見せて印象を変えていかなければ。そんなことを考えながら、生徒たちの登校を待っているのだった。

 

 今日も元気よく登校してくる生徒たち。だが、最近妙に視線を感じることがある。いや、挨拶しているのだから視線を感じるのは当たり前なのだが、何というか、こちらを観察しているような、様子を伺っているような、どことなく居心地の悪さを感じてしまう。

 

 現に今も視線を感じており、恐る恐る視線の先を確認すると、俺の先生でもある”キングヘイロー”がこちらを睨み付けるように佇んでいた。

 いつもなら高笑いしながら挨拶をしてくるというのに、今日は俺をじっと見つめるだけで微動だにしない。

 

 なんだ?キングを怒らせるような事したっけか?前に一着を取ったレースでもちゃんと率先してキングコールを大合唱したし、こっそり内緒で毎回応援に来てるキングのお母さまのこともバレていないはずだ。

 

 まさか!?同士デジタルに依頼した”スカイ✕キング本”がバレたか!?いや、デジタルがそんなミスをするとは思えない。今まで何十冊と俺の要望をバレずに叶えてくれた同士であり盟友だ。今回も無事に依頼を完遂してくれているに違いない。

 

 考えても原因が分からない。仕方ない、こういう時は申し訳無さそうな表情で反省の色を見せた方が都合がいい。とりあえず反省してますと態度を示していれば、大抵の事は穏便に解決できるのだ。

 

 ごめんなさいと特に謝る理由もなく反省の色を出しながらキングを見つめていると、彼女は一目散に駆け出し学園の中に姿を消してしまった。

 どうやらオレの謝罪スキルがまた一歩成長したようだ。キングに文句を言われることもなく、何とかこの場を凌ぐことが出来た。

 

 他にも視線を感じたような気もしたが、キングに気を張りすぎて勘違いしただけだろう。その後は特に問題なく朝の挨拶も終わり、生徒たちの後を追うように自分の持ち場へと向かうのだった。

 

 授業の終わりを告げるチャイムが学園中に鳴り響いている頃、俺は感謝祭で使った小道具の片付けをしながらある一人の来客も待っていた。

 この日を待っていたからこそ、どれだけ残業しようが、ウマ娘たちからイジられようが、耐えれたと言っても過言ではない。待ち合わせの時間に近付くにつれ、心臓が激しく高鳴るのを抑えきれず、何度もドアの方へと顔を向ける。

 昔親から買ってもらったゲームを、帰りの車の中で説明書を読む子供のように、ワクワクしながら待ち人を待っていると、遂にドアの方からノック音が部屋の中に木霊する。

 

「しつれいします〜。サブトレーナーさーん?いますか〜?」

 

「おお!待ってたぞデジタル!!さあ、早くこちらに来たまえ!」

 

「も〜サブトレーナーさんってば掛かり過ぎですよ!そんなに焦らなくてもウマ娘ちゃんたちは逃げないですよ」

 

「あ、ああ、ごめんごめん。ちょっと興奮し過ぎたな」

 

 俺が今日一日待ち望んでいた人物、ウマ娘大好きウマ娘こと”アグネスデジタル”が大きなカバンを引っ提げ扉から現れる。既にその顔は俺と同じく、ニヤケきった顔を我慢できずにいた。

 

「ではでは、さっそく今回の依頼品をお渡ししましょう。いや〜サブトレーナーさんのお陰でインスピレーションがどんどん湧いてきましたよ〜」

 

「いやいや、俺にはデジタルみたいに形に残すなんてことは出来ないからな。デジタルのお陰で俺も楽しむことができるし、お礼を言うのはこっちの方だよ」

 

 お互いに謙遜し合いつつ、デジタルがカバンの中から二冊の本を取り出した。これこそ、俺が依頼し待ち望んでいたもの!!

 ”ウララ✕ライス”と”スカイ✕キング”の尊み画集だ。デジタルと俺が実際に見た光景や、俺たちの妄想を現実にした、ファンなら尊死してもおかしくない一品。それが今、俺の手に一冊ずつ手渡された。

 感動で震えが止まらない。書いた本人も既にヨダレを垂らしヘブン状態だ。だがここで注意するのは野暮というもの。俺たちはしばらくの間、二人しかいない空間でデジタル渾身の出来を確認しながら感傷に浸っていた。

 

 どれほどの時が経ったのか、時間が過ぎるのを忘れる程熱中していた俺たちは、次の作品について討論を始めた。

 

「今まで俺の要望ばっかり叶えてくれたし、次はデジタル最推しの”オペラオー✕ドトウの画集にしよう!何とか二人だけの空間を作って、いいシーンが撮れるようにセッティングするから」

 

「ほっ、ほんとですか〜!?はぁ〜〜〜想像しただけで眼福ぅぅ!!」

 

 まだ実際に見てないというのに既にトリップしているデジタル。でも気持ちは痛いほど分かる。二人の関係は一言では言い表すことは出来ない。

 オペラオーは、デジタルのような特殊な性癖を持った子にも優しくしてくれるし、ドトウにとってはライバルであり理想のウマ娘だ。デジタルが興奮しても仕方がないだろう。

 

「そうだ!どうせなら二人の間に態と俺が間に入って二人の関係をイジって反応を見るっていうのはどうだ?」

 

「ガッ……ガイアッッッ!!」

 

「えっ!?おっ、おう!?

 ガイアって誰だ……?

 

「アグネスデジタルさんはウマ娘ちゃんたちの悲しんでる顔は見たくないのです!!大好きな推しがしょんぼりしてたら悲しいもん!」

 

「デ、デジタル……すまない。俺が悪かった。俺はもう少しで取り返しのつかないことをする所だった……」

 

「ううん、大丈夫ですよサブトレーナーさん。誰にだって間違いはありますから」

 

 とんでもない過ちを侵す所だった俺を未然に食い止めるだけでなく、その罪を許してくれる彼女の表情は、本当にウマ娘を愛していることが分かる程に慈愛に満ちていた。

 口から流れ出る彼女のエキスがキラキラと輝きを放ちながら床に落ちていく。心の中で後で掃除するのは俺なんだけどなぁと愚痴を一つ零すが胸に秘めておく。

 

「ではサブトレーナーさん。私はそろそろウマ娘ちゃんたちの所に戻りますね」

 

「ああ!時間取らせて悪かったな。また何かいいシーンを見かけたら報告するよ」

 

「是非お願いします〜!!

……あっ!もう一つサブトレーナーさんに渡すものがありました。たくさんコピーしたのでよかったらどうぞ〜」

 

「??あ、あぁ、ありがとう。デジタルもトレーニング頑張れよ!」

 

 口元をハンカチで拭きながら部屋を出ていくデジタル。渡された一枚の紙は裏側のようで、薄っすらと何か書かれているのは分かるが、こちらからでは何なのかよく分からない。

 

 意を決して紙を反対にすると、そこにはデカデカと俺と沖野トレーナーが仲良く肩を組んでいる一枚絵が描かれていた。

 それだけなら特に問題は無かった。だがこの絵には違和感しか感じない。

 何だこの気持ち悪さは?何だこの違和感は?

 嫌悪感が酷い。吐き気が止まらない。

 デジタルはどうしてこんなテロ紛いのことをしやがったのか……

 

 オッサン二人がウマ娘と同じ耳と尻尾を生やし、いい笑顔で肩を組んでいる。

 

 しばらく汚物を眺めた後、念入りに何回も破りゴミ袋の中に詰めていく。二度とこの世にでないように願いを込めて。

 いや、そういえばデジタルのやつたくさんコピーしたとか言っていたな。

 湧き上がる怒りを抑えつつ、まだ片付いていない部屋の掃除を始める。無駄にゴミが増えてしまったが丁度いい。俺はなるべく早く先ほどの記憶を消し去るように掃除に取り掛かるのだった。

 

 ようやく感謝祭で使った道具を全て片付け終わったが、一つ気になることを見つけてしまった。確かお化け屋敷用に作った血塗れTシャツは三着あった筈だ。それなのに今ここにあるのは二着しかない。

 

 はて?誰かまだ持っているのか?別に無くなっても困ることはないのだが、三着のうちのどれかに俺の血が付着しているのがある。

 小道具を作っている最中、思わず指先を切ってしまい、近くにティッシュが無かったので、既に作り終わっていた血塗れTシャツで拭いてしまったのだ。

 

 幸い、そこまで血は出なかったため、少ししかTシャツに付着していないが、それでも自分の血が付いたかもしれないシャツが無くなるなど、少しばかり嫌な気分になる。

 まあその内どこかで見つかるだろう。あまり気にしないことにして、二着の血塗れTシャツと血のりが付いたティッシュをゴミ袋の中に詰めていった。

 

 

「何してますの?」

 

「うお!?び、びっくりした〜。突然なんだよキング。心臓に悪いだろ!」

 

「あら、それはごめんなさい。あなたがコソコソと変なことしているのが気になってね」

 

「い、いや。別に怪しいことなんてしてないって。ただゴミ掃除していただけだし……」

 

「ふーん……ならその袋の中を見ても何も問題ないわよね?ただのゴミなんでしょ?」

 

「いやっ、ちょ、待って待って!!」

 

 いつの間に部屋の中にいたのか。キングがなぜかこちらを疑うような目で見つめ、持っていたゴミ袋を目にも留まらぬ速さで奪い取る。

 ま、まずい。あの恥ずかしい絵を見られたらキングのことだ。

「あなた……そんな趣味がありましたの!?気持ち悪い!二度と近づかないで!!」とか言うに決まってる。俺だったら絶対言うし!

 何とかして阻止せねば……だが、俺の想い虚しくキングは勢いよくゴミ袋を破り、中から破り捨てた一枚絵がヒラヒラと部屋を漂っている。

 

「なによ……これ……」

 

「……」

 

「ちょっとあなた!!なによこれは!!」

 

 ウマ娘の視力すげえな。まだ空中を彷徨っている紙くずでもしっかり中身を把握できるなんて……

 というかキングさん、そこまで怒ることはないんじゃないの?確かに気持ち悪かったのは分かるが……

 

「ちょっと!何とか言いなさい!!これはなによ!?

これは……あなたのなの?」

 

「ああ、そうだ……」

 

「そう……。それで……大丈夫なの?」

 

「……」

 

「……そっか。そういうことだったのね」

 

 そりゃあデジタルから貰ったものだしこれは俺のもので俺の絵だ。さすがに誤魔化すことはできない。大丈夫と心配されても、大丈夫な訳がない。もう俺の精神はボロボロだよ。

 でもなぜか怒りが収まってきているキングは一人納得している。もしや、俺が描いたものではないと分かってくれたのでは?

 

「分かったわ……もう何も聞かない……

いえ、一つだけ聞かせなさい。あなたは……もう満足したの?」

 

「するわけないだろ!!こんなんじゃ……満足できねえよ!!」

 

「そう。なら最後までその目で見届けなさい。私が!!このキングが!!ウマ娘の頂点を、可能性を、あなたに見せてあげるわ!!だから……それまでは勝手にイクんじゃないわよ!!」

 

「!!ああ、約束する」

 

 キングの問いについ本音が出てしまった。意味はよく分からなかったが、まだこの程度でウマ娘たちの尊い姿に満足するはずがない。彼女たちの魅力はまだまだ無限大に広がっているのだ。だから俺は、ウマ娘たちの可能性をどこまでも追い求める!

 

 でもキングさん……年頃の女の子がイクなんて言わない方が……意外とキングっておませさんなのかな?

キングの自信溢れる言葉に思わず約束してしまったが、これから性欲の発散する時は報告しろってことか?

 

 もう部屋から出て行ってしまった彼女にもう一度聞く勇気は当然あるはずもなく、俺は散らばったゴミを渋々片付けるのだった。




リハビリ以外はひたすらベッドで寝るだけ
もう気が狂うほど暇なんじゃ

というわけで身体の様子を見ながら投稿を再開します

活動報告などでメッセージを下さり、心配してくださった皆様にはこの場を借りてお礼申し上げます。
温かい言葉がリハビリや執筆の励みになりました。
これからもよろしくお願いします!

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