意図せずウマ娘達から目の光を奪うお話   作:みっちぇる

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また運営が搾取しにきたので初ウマぴょいです



第8話(サブトレ視点)

 最後の一枚を力の限り握りしめ、中身が分からないようにバラバラに破り捨てる。ようやく全て処分することができた。

 目の前には涙を流しながらガックリと四つん這いになる一人のウマ娘。

 もしこの光景を誰かに見られたら俺はきっと捕まるだろう。だが今回俺は被害者なのだ。

 

 “人類みなウマ娘計画”などとトチ狂ったことを言って俺と沖野トレーナーに耳と尻尾を生やした一枚絵を書いて大量に印刷しやがった極悪犯、アグネスデジタルは恨めしそうにこちらを睨み付けているが知ったことではない。

 

 もし同室のタキオンが興味を持ったらどうする!俺やタキオンのトレーナーが真っ先に実験台にされるだろ!どうせ失敗して先輩トレーナーがまた変色するオチなんだから、いちいち介抱するのは面倒くさいんだ。

 

「うう〜渾身の一枚だったのに〜!サブトレーナーさんは人の心がないんですか〜?」

 

「お前がしたことはただの無差別テロだ。もっと自分が犯した罪を自覚しろ!」

 

 全く反省の色が見られないデジタルに深くため息をつき、引き出しから一枚の写真を取り出し、未だに落ち込んでいるデジタルに手渡した。

 

「なんですか〜サブトレーナーさ……こっ、これはっ!?」

 

「どうだ?最近撮ったばかりの激レアだぞ?

もう二度とさっきの絵を描かないと誓うなら、これを授けよう!」

 

「はっ、はい!!一生サブトレーナーさんに付いていきます〜!!何でも言うこと聞きますから!!」

 

「い、いや、そこまで言わなくていいから……」

 

 ご馳走を前に、飼い主からずっと待ての命令をされている犬のようにヨダレを垂らしながら俺に忠誠を誓うデジタル。           

 年頃の女の子としてどうかと思うが、まあ今更かと納得する。

 

 デジタルに渡したのは、ウオッカにスカートの後ろに付いたゴミ?を取ってもらっているスカーレットの写真だ。照れてる表情のスカーレットと、やれやれ顔のウオッカを収めた満足のいく一枚だ。

 

 案の定デジタルは写真を見て昇天してしまったが、またいつもみたいにしばらくしたら復活するだろう。

 当初の目的は果たし終わったし、俺も仕事に戻るとしよう。まだトリップしているデジタルを放置して、俺は今日の仕事場へと向かうのだった。

 

 今日は急遽”チームカノープス”のトレーニングを手伝うことになり、本来行く予定だった”チームリギル”のトレーナー、おハナさんに断りを入れ、カノープスメンバーがトレーニングしている場所へと急ぐ。

 

 カノープスのトレーナー、南坂トレーナーがたづなさんに呼ばれたらしく、少しの間トレーニングを見ることになった。

 まあ俺が注意するのはターボが暴走しないように見張ることぐらいだが。

 

 ”ツインターボ” ”イクノディクタス” ”ナイスネイチャ” ”マチカネタンホイザ” チームカノープスに所属する、実に個性的な彼女たちを纏めるのは俺一人では無理だ。

 南坂トレーナーも四人によく振り回されているが、締める所はしっかりしていて俺も見習うことが多い。

 

 偶に俺一人で彼女たちの面倒を見る時は大抵、南坂トレーナーが帰ってくるまで雑談していることがほとんどだ。そしてウズウズしだしたターボが勝手にターフを走り回って、スタミナが尽きるのを待つのがお約束になっている。

 

 今日もいつも通りカノープスの控え室でのんびり雑談していたのだが、一人だけ様子がおかしい。

 ナイスネイチャがじっと俺のことを見つめ、目が合うとすぐに視線を逸らす。話掛けても何でもないの一点張りだが、その様子は何かあると言っているようなものだ。

 

 他のメンバーも不思議そうにネイチャの様子を伺っていたが、予定より早く南坂トレーナーが戻って来た為、結局ネイチャに話を聞きそびれたままトレーニングをすることになった。

 トレーニング中もどこか集中力が欠けているネイチャを不審に思い、南坂トレーナーも事情を聞いてみたようだが、あの様子だと何も分からなかったようだ。

 

 俺もネイチャのことが気になるが、今は南坂トレーナーに任せよう。そう判断し、俺的癒やしウマ娘ランキングトップ三に入るマチカネタンホイザをむん!とからかいながらトレーニングを手伝っていった。

 

 最後までネイチャからの熱い視線を受けていたが、特に何も言われることが無いままトレーニングも終わり、そのまま自室へと戻る。

 まあ自室と言っても俺はまだトレーナーではないので、物置部屋を片付けて自分のスペースを作っただけなのだが。

 なので、部屋の奥の方はまだ片付け終わっていない物が大量に置いてある。

 

 たまにエアグルーヴが唐突にここに来て早く片付けろと文句を言いながら掃除をしてくれるが、一向に終わる気配はしない。このまま彼女に全部任せようとしているのは内緒だ。

 

 部屋に戻り、明日のスケジュールを確認して準備に取り掛かる。明日は今日行けなかったリギルのトレーニング補佐をおハナさんから依頼されているので、各メンバーの練習メニューを確認していく。

 

 明日の予定なら恐らくマルゼンことマルゼンスキーのトレーニングに付き合うことになりそうだ。

 学園内でも古株の彼女との付き合いは、たづなさん達を除けば一番長いかもしれない。

 

 実力は学園屈指で面倒見も良く、後輩たちからも慕われている。唯一の欠点とすれば、何処から情報を仕入れているか知らないが、彼女が流行っていると思い込んでいるのはとっくにブームが過ぎ去ったもので、情報が古い。

 

 いつもならあえて乗っかるが、さすがに俺が子供の頃に流行ったギャグを突然やり出し時はついツッコミを入れてしまった。

 

 ”だっちゅーの”とか今の若い子は知らんだろう。

 それはそれとしてとっても眼福でした。ありがとうございます!! 

 

 そんな彼女だが、レースになると”スーパーカー”の異名を持つほど大活躍をしている。もしまだ彼女がチームに加入していなかったら、ひっきりなしにスカウトされるのは間違いない。

 でも、どんな敏腕トレーナーよりも彼女は俺を選んでくれた。今より更にひよっ子だった俺を、将来トレーナーになった時にチームに入りたいと言ってくれたのだ。

 

 だから彼女は、俺の初めてのチームメンバーになる。いや、まあトレーナーになれないとチームを作れないんだが。

 それなのについ先輩トレーナーと張り合ってしまい、ルドルフにも声を掛け見事?スカウトに成功してしまった。

 だから彼女たちの為にも、俺は絶対トレーナーにならなくてはならないのだ。

 

 決意を新たに明日の準備を進めていく。ふと携帯に目を向けると、メッセージありとの文字が液晶に表示されていた。

 

 『ういにんぐらいぶDVDって

  またすぐに発売される?

  むっちゃ人気やし買えるとき買った方がいい?

  すし

  めんたい』

 

 ……これは酷い。これ絶対途中で飽きただろ。

 同窓会の誘い以来よく連絡来るようになったが、たまにこんなアホな事をしてくる。いや、たまにじゃなくて常にか。

 

 そういえばウイニングライブDVDの発売もそろそろか。仕事が忙しくてすっかり忘れてた。

 折角だし俺の分も買ってもらって入院中の爺ちゃんにお見舞いで渡すか。多分爺ちゃんにとっては一番の特効薬になる筈だしな。

 

 どんな内容で返信してやろうか考えながら部屋を出て何となく屋上へ向かう。気分転換に外に出れば天才的な縦読み文が思い付くだろう。あいつとはセンスが違うことを思い知らせてやる。

 

 流石にこの季節になると夜の風が冷たい。もうすぐ秋も終わって冬に変わり、今年一年が終わると思うと歳を取ったなぁとしみじみ実感する。

 十代と二十代とでは一年の体感時間が変わるとよく言われるが、まだ十代の頃はその意味が分からなかったけど、今ならよく分かる。

 もうあの頃には戻れない……少し寂しい気持ちが肌寒い風と共に身体と心を冷たく襲ってくるのを、ただじっと我慢することしかできなかった。

 

 つい気持ちがナーバスになってしまい、同級生に送るメッセージも弱音が吐き出てしまった。まぁあいつのことだ。もしかしたら縦読みに気付かないかもしれないしいいだろう。

 

   『もっと早く行かないとすぐに

    うり切れちゃうぞ。

    つぎに出るのなんていつか分からないんだし

    かえる時にかっておかないと。俺も生徒の

    れんしゅう見ないといけないし代わりに

    たのんだぞ!』

 

 ふむ、こんなもんか。我ながら中々いいセンスだ。あまり考える時間が無かった割には満足のいく出来栄えになった。

 早速メッセージを送信しようと電話帳からあいつの名前を探す。だが結構な時間屋上に居たせいで指が寒さで思うように動かず、タッチパネルが上手く反応しない。

 しかも風が急に強く吹き出し、思わず目を瞑ってしまう程の強風が襲ってくる。

 何とか送信完了の画面を確認して、もう部屋へ戻ることにした。

 

 明日の準備も無事に終わり、帰り支度をしようと荷物の確認をしていたら、いつも使っている手帳が見当たらなかった。

 さっきまで確かにあった筈なのにどこにいったのか。カバンやポケットを調べるが出て来ない。

 もしかして、屋上で落としてしまったか?他に考えられる場所はないし多分そうだろう。

 自分のドジっぷりに呆れつつ急いでもう一度屋上へと向かった。

 

 先程まで立っていた足下に見覚えのある物を見つけた。やっぱりここだったか。愛用している手帳を忘れないようにポケットに仕舞い込み、ふと下の景色を見下ろす。

 

 ほんの数時間前まで生徒たちの元気な声が響き渡っていたのに、暗闇と共にその声が少しずつ小さくなり、今では冷たい風切り音しか聴こえない。

 星空が地上を照らす光景は、毎日見ている筈なのにどこか神秘的に見える。その景色をしばらくの間、一人占めしていた。

 

 だから、突然後ろから重みを感じたのは心臓が飛び出るかと思う程ビックリした。

 

「もお!あんまりお姉さんを心配させないでよね!」

 

「あ、ああ、ごめんごめん。でもよくここにいるって分かったな?」

 

「当然よ?だってあなたのウマ娘なんだから!」

 

 ふわりと漂う女性特有の優しい香りを感じ、何事かと顔だけ後ろを確認すると、マルゼンスキーが少し息を切らしながら背中を預けていた。

 

 突然の訪問者に驚きつつも、顔には出さないように気を引き締める。マルゼンは昔から距離が近いというか、ボディタッチも平然としてくるので、油断しているとすぐに俺の息子たんが反応してしまう。

 実はもうすでに少し反応してしまっているのは俺のせいじゃない。絶対に俺のせいではない!!

 

 いや、だってマルゼンのような美女が背中合わせで、しかも手を繋いでくるなんてそれで反応しない奴は男として枯れているだろ?

 あぁ〜、おて手柔らかいなぁ〜……なんて思っていない。顔がニヤけてもいない。ほんとだよ?

 

「一人で苦しかったわよね?もう大丈夫よ。あたしが側にいてあげるから。心配しないで」

 

「……」

 

 君の言う通り下の方はもうパンパンで苦しいぜ!なんて言ったらどうなるか。ただ社会的に終わるのだけは分かる。

 

「実はあたしも初めての重賞レースは怖かったの。もうすぐ出走だっていうのに初めて脚が動かなかった。

そんな時に君がおハナさんに怒られながらあたしを励まそうとしている姿を見て思いっきり笑ったの。そしたら震えも止まって脚が動くようになった。

だから今度はあたしが助ける番。怖くても、誰かが側に居てくれるだけできっと力になるから!」

 

 ……ぶっちゃけマルゼンの言っていることはほとんど聞いていなかった。すまん……

 何とか破裂しそうな想いを耐えぬかねばと、遠くに見えた半月が照らす三女神像に視線を向ける。

 

 もう我慢しなくてもいいですか?

 

 俺の問い掛けに答えてはくれない。でも何となく笑った気がしたから多分OKなんだろう。それでいいのか女神様?

 

 どうにかマルゼンからの誘惑に耐え切り、二人で学園を後にする。帰るまでずっと手を離してくれない彼女の真意は分からない。

 ただ一つ言えるのは、今日俺は悶々と眠れない夜を過ごす。それだけは間違いなかった。




書いたら出るって聞いたから初めてネットに晒したのに☆3青因子もピックアップも出ないやん!!

ちょっと〜三女神さんどうなってるのこれ!?

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