意図せずウマ娘達から目の光を奪うお話   作:みっちぇる

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ホープフルで負けまくるので初ウマぴょいです


第4話(ウマ娘視点)

『日本一のウマ娘になる』

 後に日本総大将と呼ばれるウマ娘”スペシャルウィーク”が二人の母親に誓った夢である。その夢を叶える為に彼女は生まれ育った北海道から単身上京し、トレセン学園に入学を果たした。

 

 転入初日、学園に行く前に立ち寄ったレース場で彼女は一人のウマ娘が走っている姿に魅せられた。

 ”サイレンススズカ”彼女の他の追随を許さない力強くも美しいその姿に。

 そこでなんの因果か自身が所属することになるチームのトレーナーとも出会うことになるのだが。

 

 転入後は憧れのサイレンススズカの同室となり、また同じチームメイトとしてお互いに切磋琢磨し、チームメンバーやライバル達ともしのぎを削り少しずつ成長していったのだった。

 

 ある日、トレーナーから質問されたことがある。

 

『日本一のウマ娘とは何か?』

 

 スペシャルウィークは直ぐに答えを出す事ができなかった。だがサイレンススズカはその問いに対し、

 

『見ている人に夢を与えられるような、そんなウマ娘』

 

 と、少し考える素振りを見せてから答えを出した。今まで自分の夢について深く考えたことがなかったスペシャルウィークは、改めて自分の夢について考えていくことになる。

 

 敗北を知り、悔しさを味わい、努力を積み重ね勝利を挙げた彼女は、次第に自身の夢とは何か、答えを見つけていた。

 

『これからも応援してくれるみんなの夢を背負えるような、応援してくる人に夢を見せられるような、そんなウマ娘になる』

 

 生後まもなく実母を亡くし、その親友である人間の女性からたくさんの愛情を受けて育った彼女だからこそ、自分の為ではなく誰かの為に走ることができる。それが彼女の強みの一つであった。

 

 

 

 故に彼女は自分の前から誰かが消えるのを一番恐れている。

 

 

 もし、私にお父ちゃんがいたらどんな人だったのだろう。まだ食べ足りない時はこっそり自分のオカズをくれるような人?私が泣いている時は何も言わず胸を貸してくれる人?

 

 もし、私にお兄ちゃんがいたらどんな人だったのだろう。私がレースに勝ったら一番うれしそうに喜んでくれる人?私の勝負服をカワイイと照れながら褒めてくれる人?

 

 もし、この人がお父ちゃんだったら……

 もし、この人がお兄ちゃんだったら……

 

 もし、この人が私の前からいなくなったら……

 

 あなたの夢を背負います。あなたに夢を見せましょう。それが私にできるたった一つの親孝行なのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(スズカさんの雰囲気が変わった……)

 

 ある日を境にスズカは変わった、とスペシャルウィークは困惑の色を隠せない。

 以前から自身の不調に悩んでいたのは知っている。

 長いリハビリ生活を乗り越え、奇跡と言ってもいい程の復活劇を遂げたスズカ。憧れの存在でもありライバルと思っているスペシャルウィークはその姿に感動したのを未だに記憶が鮮明に残っている。

 

 しかし、その後はスズカ本人も理由が分からないスランプに陥っていた。トレーナーからスズカのことをよく見ておくようにと指示を受けていたスペシャルウィークは、スズカが無茶をしないよう細心の注意を払って観察していたはずだった。

 

 だがいつの日か、確かにスズカは変わったのだ。言葉で表すのは難しい。敢えて言うならそう、己の全てを差し出してでも勝利を欲する修羅のようだと。

 

 当然、スペシャルウィークはスズカに事情を聞こうとした。このままどこかに行ってしまうような、もう二度と会えなくなってしまうような、そんな嫌な予感を払拭するために。

 

 それでもスズカは話をしてくれない。チームメンバーや友達には巧く隠しているようで、彼女の変貌に気付いている人はいないように見える。

 最近よく二人で食事を摂ったり、トレーニングをしているハルウララとライスシャワーは、珍しく一度だけスズカと食事をしていたのを見かけたことがあるが……三人は何を話していたのだろうか。

 

 それでも彼女、スペシャルウィークは諦めなかった。もしかしたらまたあの日のようにスズカが走れなくなるかもしれない。一歩間違えれば命を落としてしまうような事態に陥るかもしれない。そんな思いが彼女の心を蝕み不安にさせる。

 

 そんな彼女の熱意が通じたのか、はたまたスズカが観念したかはさておき、今日の夜に話があると一言だけ告げたスズカは、いつものように練習場に向かい黙々とトレーニングを開始していた。

 一体何の話をするのか……彼女がそれを気にするあまり練習に身が入らないのは当然の帰結であった。

 

 その日のトレーニングが終了し、スペシャルウィークとサイレンススズカの二人は、もう誰もいない学園の中を無言で歩いていた。

 どちらとも声を掛けることもなく、ただ冷たい秋風が練習終わりの火照った身体を冷やしていく。雲ひとつない暗闇の空は、月と星両方から照らされた三女神像を神秘的に照らしていた。

 

「……」

 

「……」

 

 二人の間を静寂が包み込む。どれ程の時間が経過しただろう、もう何時間も過ぎたと錯覚しそうになるくらいに、二人で秋の夜空を堪能していると、ようやくスズカが口を開いた。

 

「ねぇスペちゃん?もしもの話なんだけどね、もしも相手の好意を踏みにじって、好き勝手に言いたい放題する人がいたら……スペちゃんはその人のことを許せる?」

 

「えっ!?どっ、どうでしょうか……?」

 

「私は許せないわ。その人がどんな気持ちで支えてくれたか……命を削って支えてくれたのに……自分勝手にのうのうと生きて……」

 

 突然のスズカからの質問と返答に理解が追いつかない。彼女は何が言いたいのか?必死に頭の中を整理するも答えが出ることはなかった。

 

「だからこれは私の我儘でもあるし、償いでもあるの。

 例え誰であっても私の前は走らせないし、譲るつもりもないわ。先に宣戦布告してきたあの二人にもね」

 

「あの、スズカさん?」

 

「……ごめんねスペちゃん。私はもう次のレースまで止まる気はないの!……それにスペちゃんも時間がないわよ?悔いを残したくないなら……もうスタートしなきゃ」

 

「……」

 

 言いたい事は全て言ったのだろう。スズカは彼女を置いて先に寮まで歩いて戻って行った。

 スズカの言葉を受けて、スペシャルウィークの頭の中には一人の男性が思い浮かぶ。なぜかは分からない。だが今は無性に彼に会いたいと心が叫ぶ。

 そんな彼女の心を乱すように怪しげに微笑む三女神像が嫌に記憶に残るのであった。

 

 感謝祭当日、普段ならみんなと楽しめる筈のイベントなのだが彼女、スペシャルウィークはあの日のスズカの言葉がずっと頭から離れないでいた。

 

 あの日の夜に語っていた許せない人とは恐らくスズカ本人のことだろうとスペシャルウィークは思う。以前本人が悔やんでいたことと状況が似ている。

 ならばその支えてくれた人とは……十中八九サブトレーナーのことだろう。つまり、スズカはサブトレーナーの為に何かをしようとしていることになる。

 

 ただ、それよりも気になることが一つ。

 

『命を削って支えてくれた』

 

 スズカは確かにこう言った。ただの言葉遊びならいいが、どうしても最悪の未来が脳裏をよぎる。

 

 チームメイトや友人たちと感謝祭を楽しみながら、サブトレーナーについて情報を仕入れていく。

 最近顔がやつれてきている。前に学園を休んだ時は病院に行っていた。よくトイレに駆け込んでいる。

 

 彼について聞いた内容はどれも体調が悪いと裏付けるものばかりで、最悪の予想が現実味を帯びてきてしまった為、とうとう彼女から余裕がなくなってしまった。

 

 突然駆け出して彼の元に向かうスペシャルウィークは、背後から自身の名前を困惑しながら叫ぶ友人たちを無視して、一歩でも一秒でも早く彼の元へと駆けて行く。

 

 彼女は別に真実がどうなのか、彼に聞く気はなかった。ただ単に彼に会いたい、彼の顔を見たい、その一心で彼の所へ急ぐ。

 

 あっという間に彼がいる部屋に到着した彼女は、そのままの勢いでドアをノックし、どうぞと彼の声が聞こえたことに安堵しつつゆっくりとドアを開けた。

 

「し、失礼します。あ、あの、サブトレーナーさん……」

 

「ん?どうしたスペ?何か用事あったか?」

 

「……」

 

 中に入ると、いつも朝校門前で見せる人懐っこいような笑顔で応えるサブトレーナーの姿があった。確かに朝の挨拶の時は気付かなかったが、よく見ると頬が少しやつれ、目の隈も広がっているような気がする。

 

 だが、それよりも彼女の心をへし折る光景が目に入る。

 それは、机の上いっぱいに散らばった薬の数々。何の薬かまでは分からないが、明らかに尋常ではない薬の数だった。

 

 あの日の夜、スズカが言った言葉が頭の中を駆け巡る。

 

『スペちゃんも時間がないわよ?悔いを残したくないなら、もうスタートしなきゃ』

 

 一つ一つ言葉のピースを繋いで、ようやく歯車が噛み合った。スズカが言いたかった言葉の意味を、スズカが変わった理由を。

 

 机の上に置いてある薬を睨む様に見つめていたせいか、彼女の視線に気付いた彼は、慌てて机に散らばっていた薬をカバンの中に入れていく。その顔は、イタズラがバレて急いで片付ける子供のように。

 

「あの、サブトレーナーさん……さっきのって……」

 

「……」

 

 もう見られてしまったことはとっくに分かっているはずなのに、それでも誤魔化そうとする姿は彼の優しさが痛いほど感じ取れ、つい視線を逸らしてしまう。

 

「サブトレーナーさん……スズカさんから聞きました。サブトレーナーさんのことを」

 

「えっ?」

 

 彼の反応を見るに、やはり彼女、スズカには真実を伝えていたのだろう。もう自分の時間が残り少ないということを。

 そんな彼だからこそ伝えたい。私の夢を。私の決意を。

 

「サブトレーナーさん?私の夢、覚えていますか?」

 

「あ、あぁ。”日本一のウマ娘になる”だろう?」

 

「はい。前にトレーナーさんから『日本一のウマ娘ってなんだ?』って言われたときに、スズカさんは『見ている人に夢を与えられるような、そんなウマ娘』と答えました。」

 

「もちろん覚えてるよ。スペも自分なりに答えを探して、見つけられたじゃないか」

 

「はい!私の夢は、これからも応援してくれるみんなの夢を背負えるような、そして私を応援してくる人に夢を見せられるような、そんなウマ娘になることです!」

 

 改めて自分の夢の決意を示すスペシャルウィーク。彼女は涙を見せまいと必死に苦手な作り笑いをして我慢していた。

 

 お父ちゃんみたいに頼りになる人でもあり、お兄ちゃんみたいに優しく接してくれた。幼い頃に憧れた、いるはずのない家族をあなたに求めていた。

 

 ならば自分がやるべき事は一つ。尊敬する二人を救う。それだけだ。このままではスズカさんは壊れてしまう。そうなれば彼の夢はどうなる?夢が叶うことなく旅立ってしまう。

 そんなことはさせない。させてなるものかと彼女は誓う。

 

「サブトレーナーさん!私、次のレース絶対に勝ちます!スズカさんにも、みんなにも絶対に負けません。私を一番応援してくれた人に夢を届けたいから……!」

 

 レースに勝ったら誰よりも喜んでくれて、レースに負けたら誰よりも一緒に悲しんでくれた。

 

「だからサブトレーナーさん!最後まで……ちゃんと見届けてくださいね?」

 

「あぁ、もちろんだ!成長したスペの姿を、俺に見届けさせてくれ!」

 

「はいっ!」

 

 部屋を出る瞬間、彼から「ありがとう」と小さくお礼の言葉が聞こえると、我慢していた涙が溢れ出る。幸いにも涙を流す所は見られなかったようだが、お礼を言うのは自分の方だと思う。

 いや、お礼を言うのは早い。まだその時ではない。

 

 彼女がお礼を言う時は全ての決着をつけた時だけだ。

 相手にとって不足はない。自分の全てを出し切ってただ勝つのみ。

 

 そんな彼女の決意の先には、微笑んでいるはずの三女神像がどこか悲しげな表情に見えた。




たくさんの感想、評価、お気に入り登録ありがとうございます。気付けば予想以上の方に本作を読んでいただいてかなりビックリしております。

これからも自分のペースで投稿していきますので
どうぞよろしくおねがいします!
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