遂にこの日が来てしまった。全国のウマ娘ファンなら一度は来たいと思うトレセン学園に訪れることができるイベント、学園祭。実際は応援してくれているファン達への感謝祭なのだが、他の人からすれば名前の違いなど些細なことだろう。
日に日に伸びる残業時間に顔がやつれてきた俺を見かねて先輩トレーナー達も渋々、感謝祭の準備を手伝ってくれた。
”チームスピカ”のトレーナーである沖野トレーナーと”チームリギル”のトレーナー、東条ハナことおハナ先輩がブツブツ文句を言いつつ息の合ったコンビネーションで作業を進めている姿を見て、「お似合いっすね」と調子に乗ってついからかってしまった。
おハナ先輩から目で人が殺せる程の殺気を貰い、あるはずのない尻尾がピンと立つ錯覚に陥りながら、何とか感謝祭までに準備を終えることができた。
もしかすると、リギルメンバーのあの精神の強さはおハナさんからの視線で鍛えられた可能性が?
バカなことを思いつつ鏡の前で自分にできる超カッコいいポーズを取って目つきを鋭くしていたら「なに遊んでいるの?」とご本人からお手本を見せてもらったので、俺には無理だなと納得しつつ急いで片付けを行うのであった。
感謝祭当日、いつものように校門で朝の挨拶を終えた俺は今日の予定をどうするか悩んでいた。
俺や先輩トレーナーが担当するお化け屋敷はローテーションでそれぞれ役を担当することになっており、俺は午後から担当することになっている。
その為、午前中は自由行動となりせっかくならと生徒たちが行っている出し物に顔を出そうと思ったのだが、全てを回るのは時間的に厳しく、行ける箇所は限られている。
感謝祭に参加している人全員に配られたパンフレットを眺めながら、面白そうな出店やイベントを探す。
たくさんの出店やドーナツ大食い対決、はたまた男装ウマ娘喫茶など、王道のものから少しマニアックなものまで、彼女達のレースで見せる姿とは違った一面を見ることができるように、色々な催し物を用意している。
一通り催し物一覧を確認して、とりあえず男装ウマ娘喫茶とやらに行くことにした。確か前にテイオーがルドルフも出るとはしゃぎながら俺に報告してきたから、きっと女性客が多いだろう。
久しぶりに照れルドルフが見れるかもしれない、そんなことを考えながら勝手につり上がっていく口元を我慢することなく、ゆっくりとそちらに向かうのであった。
男装喫茶に向かう途中、ふと暗い雰囲気の出店があることに気付く。看板には”表はあっても占い”と書かれている。
……このダジャレを考えたのは誰だ?ルドルフか?いや、ルドルフはここまでセンスはない。もう少し分かりやすくエアグルーヴのやる気を下げるはずだ。
確信めいた自分に満足した俺はいつの間にか占い屋に足が勝手に進んでいた。
「おや?おはようございますサブトレーナーさん。サブトレーナーさんもシラオキ様のお告げをご所望で?」
「えっ?あっ、あぁおはようフクキタル。折角だしお願いしようかな」
中にいたのは怪しげな雰囲気を出して水晶の前に座るウマ娘”マチカネフクキタル”とその横で佇む”メイショウドトウ”が待ち構えていた。
誰がやってるかと思えば、中にいた二人を見て納得した。占い好きのフクキタルに、仲の良いドトウが助手ということか。
……この二人のどちらかが看板の名前を考えたのか?意外だな……いや、もしかしたらシラオキ様とやらのお告げか?だとしたら結構お茶目な性格してるんだなシラオキ様は……。
「むむむむっ……今日のあなたの運勢は……凶です!」
「ああっ!救いはないんですか!?ラッキーアイテムとか?」
「むんっ……!ズバリ……お薬です!!」
「まぁ!良かったですねっ、サブトレーナーさん!」
色々突っ込み所があるが黙って占い結果を聞き入れる。以前フクキタルに占ってもらった時も同じような結果になり、その日は一日不幸の連続だった。ラッキーアイテムの一日十個限定ニンジンスイーツを手に持っていた時だけ嘘のように平和になった。
まぁスイーツを狩人のように狙ってくるオグリとマックイーンから隠れるのに大変だったが……
シラオキ様のお告げなら仕方ない。今日はもう男装喫茶だけ行って午後は大人しくお化け屋敷で頑張るか。
二人にお礼を言って出店を後にする。しかしラッキーアイテムが薬ってなんだ?タキオンから貰えばいいのか?そんなことをしたら余計に不幸になるだろ。ならサプリメントみたいなやつか?
詳しくフクキタルに聞いとけばよかったと少し後悔しながら男装喫茶に向かう。すると歩いている先に巾着袋が落ちていることに気付いた。
だいぶ年季が入ったものだが、一般客の落とし物か?ヒョイとそれを拾い、軽く触って中身の感触を確かめる。どうやら金銭的なものではなさそうだ。後で学園に届けるか、そう思いつつ巾着袋をポケットに入れ、改めて薬について考えながら男装喫茶に向かうことにした。
「きゃーーー!!」「わーーー!!」
「いやーーー!!」「クァーカイチョーカッコヨスギル!!」
男装喫茶に入ると悲鳴のような大歓声が鼓膜を破らんとばかりに攻撃してくる。中には白目になりながら気絶している人もいるがこれ大丈夫か?死者なんて出してないよね?
それとさっきから気付いてないようだがテイオーさん?君のテンションが上がり過ぎた尻尾が俺の顔にバシバシ当たっているんだが?ちょっと気持ちいいのが少しイラッとくる。
大歓声の先には恐らく”男装が似合うウマ娘”ランキングがあったら間違いなく上位に入るウマ娘 ”エアグルーヴ” ”テイエムオペラオー” ”フジキセキ” そして我らが生徒会長”シンボリルドルフ”が執事服を着てお客さんたちに接客していた。
この歓声の理由に納得せざる得ない程に執事服が似合っている四人を見て、すかさずスマホを取り出し写真に収めていく。ターフを駆けていく姿とはまた違ったカッコよさを見せつけている四人の姿を脳裏に焼き付けるだけでは勿体ない。
ちゃんと形あるものとして残しておかなければ!!俺はそんな使命感に駆られ次々に撮影していく。決して普段いじられている仕返しではない。
俺の存在に気付いたのか、オペラオーは更に胸を張り自分を見ろとアピールし、フジキセキは少しだけ照れたようにウインクをした。エアグルーヴはこちらを射殺さんとばかり睨みつけているが多分気のせいだろう。
「あっ!サブトレーナー!?ねぇねぇカイチョーかっこよすぎるよね!?見てみて!カイチョーカッコいいよね!?カイッチョー!!」
息継ぎする間もなく早口で喋るテイオーにルドルフは誰にも見られないように後ろを向いて一つ咳をする。あれは間違いなく照れてるな。しょうがない、俺も一緒にテイオーと応援するか!
「カイチョーカッコいいよーカイチョー!!」
「カイチョー超カッコいいっちょーカイチョー!!」
俺の渾身の応援が通じたのだろう、プルプル震えるルドルフのベストショットを写真に収め、満足気に店を出ることにした。久しぶりに見たテレルフ、いただきました!
部屋に戻った俺は軽く昼食を取り、午後から出番の時間まで余裕があるのでリラックスしながら雑誌をペラペラと捲っていく。
『あなたの夢は誰ですか?
私はみんなとウマぴょいしたい!総集編!!』
相変わらずクソみたいなタイトルだが、中身は意外と真面目に考察している雑誌を眺めていく。
前に病院で見た雑誌の発行元を調べ、いつの間にかネットで注文していた。これは自分では気が付かない彼女達の力を更に発揮できるように買った参考資料なのだ。決してイヤらしい目的ではない!
時計をチラリと見るとそろそろ準備をしていく時間が近づいてきた。午前中に入った先輩トレーナーからはほとんど客が来ないと言っていた。まぁ当たり前だろう。
ウマ娘たちがやるのならいざ知らず、わざわざトレーナーしかいないお化け屋敷に行きたいと思う物好きなんていないわな。
折角作った数々の小道具がお披露目できないのは残念だが、またいつか使う日が来るかもしれないし大切に保管しておこう。
そろそろ着替えるか、そう思い読んでいた雑誌を机に置いて、いざ立ち上がろうとしたときにポケットに何か入っていることに気付く。何か入れてたかなと疑問に思いながらポケットに手を突っ込み忘れていた物を机の上に取り出した。
それは午前中に拾った巾着袋だった。しまった、すっかり忘れていた。後でたづなさんに届けようと思っていたのに、四人の写真をたくさん撮って舞い上がってついど忘れしていた。
念の為巾着袋の中身を確認することにした。ほぼ有り得ないが、危険物が入っている可能性もある。そっと袋を開けて開いたままの雑誌の上に広げていく。
中身はいくつ種類があるか分からないほどの薬が入っていた。よく見ると全て薬と言う訳ではなく、錠剤タイプやタブレットタイプのサプリメントのようだ。普通の色をしているのでタキオン製ではなく市販のものみたいで、少し安心した。しかし無駄に種類だけは多いな。どんだけサプリ飲んでんだよ。
これなら一応問題ないな、雑誌の上に散らばったサプリメントを巾着袋に入れ直そうとした瞬間、ドアからノックをする音が聞こえた。一言どうぞと言って顔を出して来たのは意外な人物だった。
「し、失礼します。あ、あの、サブトレーナーさん……」
「ん?どうしたスペ?何か用事あったか?」
「……」
訪ねてきたのはチームスピカの一員でスズカの同室相手でもある”スペシャルウィーク”だった。
だがどうにも彼女の様子がおかしい。何かを言いたげなのに言葉が出ない。何度も地面と俺の顔を往復している表情からは彼女が何を言いたいか分からない。
ふと突然、彼女の視点がある一点を見つめたまま固まる。顔を青ざめながら目線が離れない彼女の視線の先は、先程まで読んでいた雑誌のページに釘付けになっている。
(アカン、やっちまった……)
段々顔色が悪くなっていく彼女の顔に釣られるように、俺の顔色も青ざめていくのがよく分かる。
たまたま開いていたページの先は”スペシャルウィーク特集”と書かれた彼女の勝負服姿がデカデカと載っている一枚だった。
きっと彼女は今、こんな変態野郎に教えを乞うていたのかと幻滅しているに違いない。
違うんだスペちゃん!変態は認めるが決して如何わしいことに使ってないんだ!いや、スペが魅力的じゃないとかそういう訳ではなくて、沖野トレーナーが何度も触っていた太ももとか、ずっと羨ましいと思っていたけど……とにかく違うんだ!
心の中で何度も言い訳をしている間に、彼女の顔がどんどん悲しみに暮れていく。もう遅いかもしれないが、急いで机の上に散らばっているサプリ諸共雑誌をカバンの中に仕舞い込んだ。
「あの、サブトレーナーさん……さっきのって……」
「……」
何て彼女に声を掛けていいか分からず、ひたすら頭の中で言葉を探す。だが俺よりも彼女の方が早く声を掛ける。
「サブトレーナーさん……スズカさんから聞きました。サブトレーナーさんのことを」
「えっ?」
スズカから聞いたって……病院で読んでた雑誌のことか?
……やっぱりスズカも気付いてたんだな。それで仲が良いスペに注意しろと警告したのか……
ここまで言われたらなら素直に謝るしかない。土下座してでも、それで許されるものではないが、彼女達を傷つけてしまったことに誠心誠意向き合わなければ!
「サブトレーナーさん?私の夢、覚えていますか?」
「あ、あぁ。”日本一のウマ娘になる”だろう?」
「はい。前にトレーナーさんから『日本一のウマ娘ってなんだ?』って言われたときに、スズカさんは『見ている人に夢を与えられるような、そんなウマ娘』と答えました。」
「もちろん覚えてるよ。スペも自分なりに答えを探して、見つけられたじゃないか」
「はい!私の夢は、これからも応援してくれるみんなの夢を背負えるような、そして私を応援してくる人に夢を見せられるような、そんなウマ娘になることです!」
彼女が決意した夢を聞くのはこれで二度目になるが、スペならきっと叶えられると思う。”日本総大将”の名に恥じない走りをする彼女ならきっと。
「サブトレーナーさん!私、次のレース絶対に勝ちます!スズカさんにも、みんなにも絶対に負けません。私を一番応援してくれた人に夢を届けたいから……!」
力強く宣言する彼女の顔は迷いが吹っ切れたような表情だった。多分次のレースにスペのお母ちゃんが応援に来てくれるんだろう。そこで自分がまた一歩成長した姿を見せたいんだ。なら俺がやれる事はただ一つ。全力でサポートするだけだ。
「だからサブトレーナーさん!最後まで……ちゃんと見届けてくださいね?」
「あぁ、もちろんだ!成長したスペの姿を、俺に見届けさせてくれ!」
「はいっ!」
感極まった表情で答えたスペは静かに部屋を退出して行った。きっと彼女は変な雑誌なんか読んでる俺に活を入れに来てくれたんだろう。
ありがとうと小さくお礼を言い、気合いを入れ直した俺は、血のりたっぷりTシャツに着替えた後、そのままお化け屋敷に向かう途中に幼い二人組のウマ娘たちに見られ悲鳴を上げながら逃げていく後ろ姿を呆然と見送るのであった。
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誤字報告もありがとうございます。確認はしているつもりなのですが……詰めが甘いですね
また次回もよろしくおねがいします