意図せずウマ娘達から目の光を奪うお話   作:みっちぇる

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ジェミニ杯が始まったので初ウマぴょいです

今回は短めで、一方その頃……みたいなお話


幕間1

(はっ、はっ、はっ……!!)

 

 最終コーナーを曲がり、最後の直線を残された力を振り絞って駆けて行く。

 

 息が苦しい。脚が重い。止まりたい。もう疲れた……

 

 彼女の中から小さく聴こえていたノイズが、徐々にはっきりと身体に訴えてくる。激しく動く心臓の音よりも、ダートを蹴り上げる足音よりも、トレーナーからの叱咤激励の言葉よりも大きく。

 

「……よしっ、いいぞウララ!

 これでまた自己ベスト更新だ!!」

 

「はぁっ……はぁっ……ほんとに?」

 

「あぁ!この調子なら入賞も充分可能性があるぞ!」

 

「……トレーナー?もう一本走ってくるね?」

 

「んー……じゃあ次でラストな。最近オーバーワーク気味だからこれ以上は駄目だ」

 

 小さくコクッと頷くと、ウララはスタート位置まで小走りで向かった。その背中を見て、担当トレーナーは彼女が化けつつあると感じ取っていた。

 

 

 

「ウララを鍛えてくださいっ!!」

 

 ある日突然、トレーナーに深く頭を下げて懇願するウララ。詳しく話を聞くと、次に出走予定のレース”URAファイナルズ”で何としても一着を取りたいとのことだった。

 

 只々走ることが大好きで、結果を出すことよりもみんなと走れることが嬉しい。純粋にレースを楽しむ、それが彼女の持ち味の一つだ。

 だが、逆を言えば”絶対に勝つ”と意気込む闘争本能が欠けている。『勝つ喜び』を一度しか味わったことがない為に『負けて悔しい』という感情に乏しい。

 

 そんな彼女が初めて己の口から「勝ちたい」と切に願ったのだ。どういった心境の変化か分からないが、担当トレーナーとしては彼女の気持ちに答えてやりたい。

 ウララの決意に満ちた表情を見て、トレーナーは今後のプランを頭の中で立てていくのであった。

 

 次の日から、ウララの特訓が始まった。今までは彼女のフィジカルの強さを活かし、なるべく多くのレースに出走して実戦経験を積むといった方針でトレーナーは彼女を指導していた。怪我をしないというのも立派な才能の一つだからだ。

 

 目標のレース”URAファイナルズ”まであまり時間はない。彼女ができるギリギリを見極めてトレーニングを積んでいるが果たして間に合うか。結果は出始めている。しかし圧倒的に時間が足りないのだ。

 

 今までどんなに苦しいトレーニングでも、笑顔でやり遂げたウララが()()()()()()()()()黙々とトレーニングを行っている。それ程までに彼女は次のレースにかける意気込みが強いのだろう。

 そんなことを考えつつ、ダートを駆けるウララを見て何とかしてやりたいと切に願うトレーナーであった。

 

 

 

(はっ、はっ、はっ……!!)

 

 身体がまた悲鳴をあげているが、それすらも無視してゴールまで駆けて行く。妙に冴えている頭の中で彼女は思う。

 

(みんなすごいなぁ……”勝つ”ってこんなに大変なことだったんだ……ウララはただ楽しかったらそれでよかったのに。

……あれ?()()()って何だっけ……?)

 

 そんな彼女の疑問に答える人などおらず、今日もウララは限界まで身体を酷使していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある日の昼、いつものようにトレセン学園の食堂では、お腹を空かせたウマ娘たちで賑わっていた。今日のメニューはなんだろう、これすっごく美味しい!彼女たちの嬉しそうな、楽しそうな声があちらこちらから聞こえてくる。

 

 そんな和気あいあいとした雰囲気に包まれている食堂の片隅で、三人のウマ娘が食事を摂っていた。もし彼女たちを知るものが見たら珍しいと思う組み合わせであり、普段から話をしている姿など見たことがなかった。

 

 「「「……」」」

 

 三人は特に会話をすることもなく、黙々と食事を続けていく。いや、よく見れば三人の内の二人、”ライスシャワー”と”サイレンススズカ”は何度も話し掛けようとしているが、お互い遠慮してしまい結果として無言が続いてしまっていた。

 ちなみにもう一人のウマ娘”ハルウララ”は今日のメニューであるカレーが思っていた以上に辛く、涙目で我慢していた。

 

 なぜ三人が一緒に食事をする事になったのか。それは前日に遡る。

 

 サブトレーナーの寿命が残り少ないことを知ったウララとライスは、残された時間をなるべく一緒に過ごしたいと今まで以上に彼の所に顔を出すようになった。

 本当はずっと一緒にいたいが彼にも仕事がある。邪魔をしてはいけないと理解しているが、それでも二人は彼の側にいたかった。

 

 だが、そのような想いを抱いているのは当然、二人だけではない。

 

 ウララとライスが彼の様子を見に部屋を訪れる度に彼女、サイレンススズカとすれ違う。最初はただの偶然だろうと思っていた。しかし、その頻度がほぼ毎日のように起これば彼女たちも察しがついた。

 

 彼の、サブトレーナーの身体の秘密を知っている。

 

 そして彼女たちは悟ったのだ。彼の秘密を理解しているのは自分だけではないと。

 

 ウララから、お互いどこまで知っているか確認しよう。との提案に、ライスとスズカは無言で頷いた。もう門限の時間が迫っていた為、翌日の昼に一緒に食事を摂りながら話をすることに決まり、その日は解散となった。

 

 次の日、あまり目立たぬよう端っこの席に座り食事を開始する三人だが、ウララ以外はお互いに会話をする切っ掛けを探すが中々切り出すことができず、気まずい空気が流れ続けている。

 

 臆病で弱気なライスと、無口で物静かなスズカはお互いに少し人見知りをする性格も相まって、どこか居心地が悪そうに見える。

 それでも両者とも彼については譲ることができない。彼について少しでも新しい情報が分かるならばと、彼女たちは必死なのだ。

 

 結局、ウララの口が落ち着きを取り戻した後に、ウララ主導で情報交換が行われた。

 彼についてどこまで知っているのか、他にも知っていそうな人はいるのか。お互いが知り得る情報を交換し共有していく。

 

 彼の身体について知る切っ掛けに差異はあれど、大凡自分たちが認識している情報と変わりないことを知った三人は、心のどこかで嘘であって欲しいと願っていたことが無情にも否定されてしまい、認めたくない事実が現実なんだと嫌でも実感する。

 

 気付けば先ほどまであれだけ群がっていた生徒たちは周りにほとんどおらず、そろそろ昼休憩が終わる時間に差し掛かっていた。

 

 三人は立ち上がり、また何か新しい情報が分かったら直ぐに知らせると約束した後、それぞれのクラスに戻ろうとした所にウララから声が掛かる。

 

「スズカさん!ウララ負けないからね!スズカさんにも、ライスちゃんにも、ぜったいぜーったい負けないから!」

 

 ウララからの言葉にライスとスズカは目を見開くも、彼女からの宣戦布告に笑みを返す。その笑顔の意味は何なのか、それは彼女たちにしか決して分からない。




本編が少し時間掛かりそうですので一旦息抜きに

遂にスタートしましたジェミニ杯
みなさん頑張りましょう!

ライス、タイシン、ネイチャ、奴にジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!

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