GOLD SHIP RUN   作:パイマン

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第一話のアンケート結果(すでに終了)により、ウマ娘『シルバーバレット』は、一人称『私』でカリスマがあるキャラになりました。
どのアンケート結果でも、イヤな奴なのは共通してます。
また、サポートカードとして『シンボリルドルフ』が登場することになりました。
悩みましたが、会長のキャラをより理解する為に星3交換チケットを使いました。会長しゅき。
メジロマックイーンはガチャで引くことにしました(鋼の意思)
ライスシャワーもガチャで引きます(漆黒の意思)



#2「シルバー・バレット・ファイア」

 ――あの日、僕は出会ったんだ。

 希望。あるいは奇跡。なんでもいいが、とにかく僕は出会った。

 女と遊んでいる最中に行った劇場で撃たれて、僕は脚の動かない栄光の残骸に成り下がった。

 あれから2年経つ。

 あんな事がなければ……と、後悔しない日はなかった。女優の劇なんか、見たくもなかったんだ……。

 あれ以来、1ミリだって動いたことのない僕の脚……。

 世間は僕に諦めろと言った。

 言葉で……あるいは無言で。

 この脚はもう動かないのだ、と。

 ドン底の人生から這い上がるチャンスなどないのだ、と。

 だけど、あの日。

 あの北米大陸横断レースの始まるスタート地点のビーチで――。

 

『妙な期待をするなよ。お前の事情がどんなものか計り知れないが、そのイスから立ち上がったのは偶然にすぎない。単なる肉体の反応で、それ以上のものは何もない』

 

 ――『ジャイロ・ツェペリ』

 それが彼の名前だった。

『SBR』レースに参加する為に、あのビーチにやって来ていた。

 彼があの場で偶然見せた『鉄球の技術』は、これまで僕が見たことも経験したこともない不思議な力を持っていて、その力は僕の止まっていた肉体を動かした。

 

『ハッキリ言っておく。この『鉄球の回転』は、確かにオレの武器だ。だが、おたくさんのような歩けない者を歩かせることなんか出来はしない』

 

 初対面の彼は、他人の僕にそう冷たく断言した。

 だけど、そんな言葉だけを信じられるはずがない。

 現実に起こっているのに、そのままでいられるか。

 やっと見つけた希望なんだ。なんとしても、その『回転』の秘密を暴いてやる。

 彼がレースに参加するというのなら、それを追ってやる。

 賞金も栄誉も、僕には必要ない。必要なのは希望という光だけだ。

 

『そのウマ娘の選択は、正しい』

 

 思い返せば、あの時の僕は『スローダンサー』に随分と酷いことをした気がする。

 才能も功績もなく、ただ無為に独りあの場にいた彼女に僕が声を掛けたのはただ必死だったからだ。

 彼女の心情や都合を何も考えていなかった。殴られても仕方がなかった。

 だから、彼の遠慮のない真実の言葉は、僕だけでなく彼女も救ったのではないかと今では思う。

 

『老いたウマ娘には経験がある。おっと、レディに対して年齢なんてデリカシーのない話をしちまったかな』

『だが、このレースのような場合、脚をくじいたりするような危険な土地に勢いで突っ込んでいったりしない。体力だけの若いウマ娘のようにはな』

 

 彼は本当に、最初から最後まで謎の多い男だった。

 担当するウマ娘の名は『ヴァルキリー』 ゼッケン番号B-636。

『SBR』レース参加時の書類には経歴や出身地など、自己申告制の情報を一切記入していなかった。名を売ろうという考えはなかったらしい。

 だが、優勝するという意思は固かった。

 優勝に興味のない僕は、あのレースでは異例の協力体制を取って、長い道のりを共に進んでいった。

 

『いいか、ジョニィ。何度も言うが『鉄球の回転』は『技術』だ。お前が期待しているような肉体を癒すパワーなんてものはない』

『回転の力が干渉出来るのは皮膚まで。お前の脚が動いたのは、筋肉に電極を刺して刺激を与えるような医療技術と同じだ』

『それでもいいなら、お前は歩く真似事くらいは出来るようになるかもしれない』

 

 その後のレース展開によって彼らの人気が高まってくると、運営側も観客へのアピールの為に改めて経歴などを洗い出そうとしたが――。

 イタリア出身であること以外はほとんど情報は明かされず、名前もどうやら偽名らしいということが分かっただけだった。

 そのミステリアスな人物像がかえって彼の人気を高めた。

 

『だが、その脚を根本的に治したいというなら……『外』からじゃあなく『内』からの干渉が必要なのかもな。『回転のエネルギー』を肉体の内側に伝わらせる方法』

『それがどんな方法で、どんなことが起こるのかは、オレにも分からないがな』

 

 彼と彼のウマ娘は常に上位の記録でレースを進めた。

 だが、9つのチェックポイントの内、第8ステージの終盤において――死亡。

 ヴァルキリーを庇っての事故だった……と、世間では公表されている。

 

『……おい、ジョニィ。ジョニィ……こっちだ。こっちだぜ。オレはこっちへ、進むぜ……』

 

 遺体は、ヴァルキリーが祖国に持ち帰った。

 トレーナーである彼と兄妹であるかのようによく似た、気の強いウマ娘だったが……別れ際の、厳かだけど何処か寂しげな彼女の微笑みが今でも忘れられない。

 

『そうゆう事なら……そうゆう事でいいんだ。オレの本名は……約束したよな。誰にも言うなよ……』

 

 一時期は優勝候補として世界的に知名度を上げながらも、彼と彼のウマ娘のその後の経過は依然として知られていない。

 

『じゃあな……元気でな』

 

 ――ジャイロに会いたい。

 もう一度、君と話がしたい。

 無事な君と一緒に肩を並べて歩くことが出来たら、どんなに素晴らしいことだろう。

 あるいは、レースの時と同じように4人で共に旅路を進んでいけたのなら……。

 だが、歩み出そうとした僕の足は、再び止まってしまった。

 あのレースに参加しなければよかった。

 希望なんて知らなければよかった。

 そんな後悔さえ、時々湧いてくる。

 

 

 

 あれから2ケ月――。

 僕はもう一度出会った。

 希望というには少しばかり奇妙な、黄金の輝きを持つウマ娘に――。

 

 

 

 

 

 

「――その『鉄球』は?」

 

 ジョニィが束の間の夢想から我に返ると、テーブル越しに目の前のウマ娘が不思議そうに手元を見ていた。

 

「……え?」

「その手に持った鉄球さ。トレーニング用の道具か何かかな?」

 

 ジョニィが左手で玩んでいた、手のひらに収まる程度の鉄の球を指して訊ねる。

 確かに、日常的に持ち歩くには少々不思議な物体だった。

 危険物という程ではないが、ズシリと重く、一見すると何の用途があるのか分からない。

 握力や筋力を鍛える為の道具という判断は常識的なものだった。

 

「ああ、これはお守りというか……」

 

 ジョニィは苦笑を浮かべながら適切な言葉を探し、

 

「亡くなった友達の形見、かな」

 

 結局、素直に答えることにした。

 気まずくなるほど悲しい事情を含んだ物ではないと思った。少なくとも、自分は『彼』の死について一区切りつけている。

 相手のウマ娘もそれを察したのだろう。

 

「そうか。不躾な質問をすまない」

 

 軽く目を伏せ、短く謝罪をするだけで済ませた。

 ジョニィも小さく首を振るだけで、それを許した。

 元々、謝罪など必要のない質問だった。

 ジョニィは鉄球を車椅子に付けたポーチへ仕舞うと、目の前のチェス盤に集中することにした。

 昼食の時間を過ぎたトレセン学園のカフェテリアは閑散としており、トレーニングや学業から一息入れようとした者達の憩いの場となっている。

 特に、今日の天気ははあいにくの雨だ。

 雨音と穏やかなBGMが流れる空間で、ジョニィは目の前のウマ娘に誘われてチェスに興じていた。

 お互いに共通の考えから、カフェテリアを利用する他の生徒達からはなるべく目立たない隅のテーブルを選んだつもりだったが、思惑空しく二人の様子は周囲の注目を集めていた。

 ジョニィ自身が今や学園でも話題のトレーナーなのだが、相手のウマ娘も負けず劣らずの立場であるが故だ。

 

「さっ、次は君の手番だ。チェスを続けよう、ジョースター君」

 

 簡潔な仕草や言葉にも気品がある。

 没落したとはいえ貴族の出身であるジョニィにも納得出来る、上に立つ者としての気高さがある。

『シンボリルドルフ』――学園の生徒会長を務め、ウマ娘としての実績は日本で最強格である『皇帝』と呼ばれる存在だった。

 

「続けるのはいいんだが、僕なんかと指して楽しいか?」

 

 何故か自分を妙に気に入っているらしいシンボリルドルフへ純粋な疑問を投げ掛けながら、ジョニィは駒を動かした。

 トレセン学園のトレーナーに正式に就任してから1か月ほど経つが、何かと気に掛けられることが多い。

 彼女の人柄からして嫌われることの方が珍しいだろうが、短い時間で随分と気安い関係になっているような気がした。

 

「まず、チェスを嗜む生徒というのは意外と少ないんだ。加えて、私の相手をしてくれる生徒はもっと少ない」

「君が相手だと、大抵の生徒は気後れするだろうな」

「私の至らぬ点だ。意図せずとも委縮させてしまう」

 

 二人が向かい合って座れば、有名人が共演するちょっとしたテレビ番組だ。

 カフェテリアにいる生徒の大部分が、二人のやりとりを遠巻きに眺めていた。

 小声で交す二人の会話がどんなものなのか、凡人の自分達には想像も出来ない領域にあるのだろうと夢見心地に想像しながら。

 

「だから、普段は距離を置きながら彼女達の学園生活を見守ることにしている。先ほども――」

 

 シンボリルドルフは優美な微笑を浮かべて、ジョニィの目を見据えた。

 

「ある生徒が『炭酸水』を買っていた『そうだ』」

 

 答え:『炭酸水』=『ソーダ』 

 

「……ん~~~、なかなかオモシロかった。かなり大爆笑!」

「だろう!?」

 

 優美さや気品といったものが消えて、子供のように無邪気な笑顔が輝く。

 言葉とは裏腹にジョニィの返した相槌は声色も表情も変わらないままだったが、シンボリルドルフは嬉しそうに何度も頷いた。

 

「ふふふっ、今のは結構自信があったんだ。後からもっとジワっと来るタイプだからね。気に入ったなら、君も使っていいぞ」

 

 普段は実力や肩書きをひけらかさない彼女が、珍しく自負するように胸を張る。

 シンボリルドルフにとって、チェスの相手以上に自分のダジャレに付き合ってくれる相手は貴重だった。しかも、理想的な反応をしてくれるなら尚更だ。

 ジョニィの対応が常に真顔であり、実際に内心がどうなっているのかは分からないが、幸いなことに浮かれたシンボリルドルフはそれに気付いていない。

 傍から見れば若干シュールなやりとりが混ざることを除けば、二人は気の置けない良好な友人関係を築き上げていた。

 シンボリルドルフを慕う者達から、よそ者であるジョニィが疎まれることもほとんどない。

 日常的に彼女のダジャレに付き合わされて反応に四苦八苦している副会長のエアグルーヴなどは、ジョニィに対して『適切な相槌とスルーを自然体で使いこなしている……!』と畏敬の念すら抱いていた。

 

「ところで話は変わるが、今日も『SBR』について色々と聞かせてもらっていいかい?」

 

 シンボリルドルフの問い掛けに、ジョニィは頷いた。

『SBR』レースのことは、二人の間でよく話題として持ち出されている。

 全く新しい世界的なレースに興味を抱くのは、トレセン学園の生徒会長としても、一人のウマ娘としても当然のことだった。

 彼女は国内の有名なレースを無敗で制し、『三冠』という偉業を既に達成していたが、それを踏まえても『SBR』というレースは想像もつかない未踏の世界だった。

 その栄光を掴み取った上位のウマ娘達には殊更関心を寄せていた。

 

「走ったコースの状況については、あらかた話したと思ったけど」

「ああ。スポーツというよりサバイバルと言った方がいいような、壮絶な話だったよ。今日は、そんなレースに参加したウマ娘達について、君の見解を踏まえて話を聞きたいんだ」

 

 シンボリルドルフの胸中には、競い合う世界は違えど、自分の想像もつかない偉業を成し遂げたウマ娘達への敬意が満ちていた。

 

「例えばトレーナーの君から見て、出会ったウマ娘の中で1番『強い』と思ったのは、どんなウマ娘だ?」

「あのレースでは『強い』や『弱い』といった要素はあまり重要じゃなかったな。運が大きく関わる場面も多かったし、変わっていく環境に適応出来るかどうかが生死を分けた。一概に誰が『強い』とか判断は出来ないよ」

「すまない、質問が悪かったな。子供が遊びで話す、スタローンとジャン・クロード・ヴァンダムはどっちが強い? そのレベルでいいよ」

「……スタローンとヴァンダム知ってるの?」

「……再びすまない、映画は見たことないんだ。有名な俳優だから、アメリカ人の君に分かりやすい例えかと思って」

 

 シンボリルドルフは、赤面を誤魔化すように小さく咳払いをした。

 

「や、やはりレースを上位でゴールしたウマ娘が優秀だったと順当に判断すべきかな?」

「いや、さっき運の話をしたけど『3着』のウマ娘『ヘイ・ヤー』は実力としてはどう見ても平凡だったと思うよ。単純な直線のコースで走れば、この学園の生徒の半分には負けるだろうね。ただ、その運だけが並外れていた」

「ほう、つまり運だけで上位に食い込んだと? ……それは、競技者として些か納得のいかない結論だな」

「世界は広いってヤツさ。競技としてのレースの外には、そういう強さもある」

 

 国内で実力を比べ合う正統なスポーツを究めたシンボリルドルフと、大陸という広大なコースを走り抜く経験をしたジョニィの見識の違いだった。

『SBR』レースではプロ・アマチュアを問わず参加を認めており、ヘイ・ヤーはまさにアマチュアの代表格とも言えるウマ娘だった。

 元々は、トレーナーの『ポコロコ』と一緒に田舎の牧場で働いていて、レースになど一度も参加したことがなかった。

 ポコロコのトレーナーという肩書きも参加の際に勝手に付いたもので、彼自身トレーナーとしての資格もなければ技術も持っていない、ただの農夫だった。

 

「でも、ウマ娘のメンタルケアに関してだけは本当に優秀だったよ。あの特殊な状況下でのレースでは、ウマ娘に掛かるストレスは相当なものだった。そんな中で、ヘイ・ヤーは最後まで調子を崩すことがなかったように見えた」

 

 その幸運ゆえか、ヘイ・ヤーは長いレースの最中でも大きな怪我や病気などを患うことはなかったが、疲労だけはどうにもならない。

 ポコロコがトレーナーとして持っていた能力は『常に彼女の傍にいて、励ます』だけだった。

 ただそれだけの能力だった。

 ただそれだけの能力で、100日以上の期間、9つのステージを越えてヘイ・ヤーを支え続けた。

 

「テレビとかでヘイ・ヤーに付けられた二つ名が『幸運の星(ラッキースター)』だったっけ」

 

 レース後、ヘイ・ヤーは今回の実績を元に競技としての世界に進出――することはなく、ポコロコと一緒に故郷へと帰っていった。

 現在では、賞金を元手にして牧場を広げ、以前よりもずっと余裕のある暮らしをしているという。

 一攫千金を体現した彼女は、まさに苦労を知らない幸運の成功者だった。

 テレビなどで特集される際にも、彼女のウマ娘としての実力を評価する内容はほとんどなく、宝くじで一等を当てた金持ちを紹介する番組のようなものばかりだ。

 

「世間では彼女が幸運だけで楽に賞金を勝ち取ったように揶揄するけど、少なくとも僕にとってあの二人の手にした成功は順当なものだと納得出来る。他の参加者と同じように辛い環境を経験して、二人で全てを乗り越えていた」

「なるほど……私は、ヘイ・ヤーというウマ娘について少し誤解していたようだ。テレビに映る時、彼女の様子がいつでも自信に満ちているように見えたのは、幸運があったからではなく支える者がいたからなんだな」

 

 ウマ娘とトレーナーの一つの理想像だ、と。シンボリルドルフは何処か嬉しそうに呟いた。

『全てのウマ娘が幸福になる世界を作る』――成就には果てしない困難と道のりが存在する理想を掲げる彼女にとって、ヘイ・ヤーがレースの外で掴み取った幸福は新たな可能性として輝いていた。

 夢破れた者を多く知るからこそ実感する。

 レースから離れた世界にも、ウマ娘の幸福は存在するのだ。

 その証明は一つの救いのようにも思えた。

 

「やはり、現在世間で流れている評価よりも、経験者から聞く実際の話は違うな。もっと聞かせてくれないか?」

「別に構わないけど……やっぱり、次は『2着』の話?」

「ああ、是非聞かせて欲しい! 君のウマ娘『スローダンサー』について」

 

 珍しく積極的に頼み込むシンボリルドルフに対して、ジョニィは少しばかり気恥ずかしさを覚えていた。

 必然的に、自分のことについて語ることになるからだ。

 

「……随分、彼女を高く評価しているようじゃあないか」

 

 ジョニィとしてはスローダンサーが評価されることを素直に嬉しく思っているが、それにしてもシンボリルドルフを含めて世間は好意的な意見や評価ばかりだった。

 それに比例するようにジョニィ自身の評価も上がっていくのだから、当人としては困惑も混ざる。

 

「彼女の成し遂げた偉業を評価しないウマ娘はいないさ。大器晩成、彼女こそは一度夢に背を向けてしまった者にとっての希望なんだ」

 

 ジョニィの反応に対して、シンボリルドルフは笑って答えた。

 

「不愉快に感じてしまったら申し訳ないが、ハッキリ言って彼女に才能と呼べるものは存在しない。年を経ることで得た経験は貴重だが、それを踏まえても実力は平凡の一言に尽きる――と、私は判断する」

「ああ、その判断に間違いはないよ」

 

 何よりも、その事実をスローダンサー本人が痛いほど自覚していた。

 自覚していたからこそ、彼女はあのビーチにいた。

 レースに参加するわけでもなく、漲るような自信と真っ白な未来を携えた無数の若いウマ娘達が集まる熱狂の中を、ただ無為に彷徨っていた。

 あの時、ジョニィと同じくらいの絶望を、彼女もまた抱えていたに違いないのだ。

 

「才能と機会に恵まれず、レース場を去る――ウマ娘として、よくある結末なのだろうな」

 

 シンボリルドルフは心苦し気に現実への了解を示し、そして内心では了承していなかった。

 彼女は恵まれた側のウマ娘だ。

 持つ者が持たざる者の未来を憂うのは憐れみ以外の何物でもない。

 それを自覚している。

 

「だが、スローダンサーはその終着点から壁を越えて道なき道へ進んだ。そして、栄光を掴み取った」

 

 だからこそ、シンボリルドルフは会ったこともないウマ娘を誇らしげに語った。

 

「彼女には、尊敬しかない」

「ああ。僕もそうだ」

 

 ジョニィも迷いなく断言した。

 

「彼女との馴れ初めについて、聞かせてもらってもいいかな? スタート時には君達は全く注目されていなかったから、ほとんど記録が残っていない」

「その記録の通りさ。彼女とは、スタート地点のビーチで偶然出会った。彼女にそのつもりはなかったけど、僕はどうしてもレースに参加する必要があった。だから、パートナーになるように頼み込んだんだ」

「運命の出会い、というヤツかな」

「そんな綺麗なモンじゃない。当時は僕も彼女も劣等感を抱えていたから、初対面の印象は最悪だったと思うよ。いや、僕が最悪だったんだ」

「ははっ、まさか金でパートナーを頼み込んだわけでもあるまい」

「実はその通りなんだ」

「……えぇ?」

「歯が折れるほど殴られたよ。しつこく付きまとったら、足も折られた。まあ、下半身が麻痺してたから痛みはなかったけどね」

 

 事も無げに語るジョニィを、シンボリルドルフは僅かばかりの軽蔑を込めて見つめた。

 しかし、ジョニィは当時の言動を恥じてはいても、金を払ってウマ娘を買収するという行為自体に問題は感じていないようだった。 

 

「君は……結構、手段を選ばないタイプなんだな」

「友達やスローダンサー自身にもよく言われたよ。でも、だからこそあのレースを走り切れたと思ってる」

「ハングリー精神を否定するワケではないが……」

「だから、正直世間の評価には戸惑ってるんだ。僕をスローダンサーを導いた高潔な指導者のように扱うのはやめて欲しい。高潔なのは、彼女の方だった」

「勘違いしないで欲しいが、別に君に失望したワケじゃないんだ。性格の面で意外な部分を見たというだけで、私は君のトレーナーとしての評価を疑ってはいない」

「スローダンサーは、レースの中で成長した。才能を越えたのは、彼女の努力と意志だ」

「そして、君の与えた『技術』でもある」

 

 シンボリルドルフの鋭い視線が、ジョニィの瞳の奥に隠されているものを射抜いていた。

 先ほどまで談笑していた気安い友人ではなく、『皇帝』と評される実力者としての眼光だった。

 

「私は、血の滲む努力と不屈の精神が生み出す成果について軽んじてはいない。だが、同時に限界という壁の高さも痛いほど知っている」

「……」

「ほとんどのウマ娘達が挫折せざるを得ないその壁を越えたのは、れっきとした『技術』があったからだ。スローダンサーの走りには、才能を補って余りある『技術』があった」

「……」

「私には、その『技術』の正体がまるで分からなかった。だが、確かにある。そして、それは君が教えたものだ」

 

 そう強く断言する彼女の声には、隠しきれない渇望が滲んでいた。

 

「私は、それがとても知りたい」

 

 走ることに意義を見出し、スピードの限界に探求心を刺激される、ウマ娘としての本能が『皇帝』にまで上り詰めた彼女にも存在した。

 いや、頂点を究めようとするからこそ、人一倍大きな力への貧欲さがあった。

 いつの間にか、手元のチェス盤からは動きがなくなっていた。

 二人は互いの内心を探るように、しばらくの間無言で視線を交した。

 

「……しかし、君が『それ』を教える相手は私ではないんだろうな」

 

 自然と強張っていた体から力を抜くように、シンボリルドルフは普段通りの気品ある微笑を浮かべた。

 

「残念ではあるが、楽しみでもある。君の鍛えたゴールドシップとレースで競い合う日が来るのが」

 

 デビューしたてのウマ娘に対して、『皇帝』は期待を寄せていた。

 

「一つだけ、答えると――」

 

 ジョニィはポーチの中にある鉄球に思いを馳せながら言った。

 

「あの『技術』を僕が教えたというのは、正確じゃない。僕も教えられる側だった。レースの中で、二人で学び取ったんだ」

「更に先人がいたというのか?」

「ああ。そして、スローダンサーはあの『技術』を完全に身に着けることは出来なかった」

「完全ではない……あれで?」

 

 シンボリルドルフの胸中に戦慄が走った。

『SBR』レースの状況を放映するテレビの中で見た、スローダンサーの走り。

 平凡で見るべき所のない走りが、時として信じられない爆発力を発揮し、不整地を滑るように駆け抜ける。

 身体能力で差のある相手との競り合いでは、経験とそれ以上の不可解な『技術』をもって制してみせた。

 様々な場面で、予想を悉く裏切るパフォーマンスを発揮した彼女の『技術』が、まだ未完成なものであったというのか。

 

「……なるほど。完全な『技術』を身に着けたゴールドシップと勝負をするのが、楽しみではあるが怖くも感じるな。立場に胡坐をかいて挑戦を待ち構えている余裕はなさそうだ」

「君が慢心してくれるほど甘い相手だとは思っちゃいないさ。それに、全てはゴールドシップ次第だ」

「彼女では、あの『技術』を身に着けるのは難しいか?」

「ゴールドシップは、既に『自分の走り方』を持っている。スローダンサーとは前提が違うんだ。僕が教えることは余分かもしれない」

「確かに、彼女は才能に溢れた良いウマ娘だ。トレーニングで走っている姿を、何度か見たことがある。とても楽しそうだったよ」

「ああ。なんというか……彼女は『敵を必要としない走り方』なんだ。ライバルとかそういう『絶対に勝ちたい相手』がいなくても、自分だけで強くなれるタイプなんだ」

「言いたいことは分かるよ。彼女はとても自由な走り方をする。レースに勝つことではなく、レースを楽しむことが一番の目的なのだろう」

「勝てれば気分がいい。だから勝つ――そういうタイプさ」

「そして、実際に勝つ。レースを楽しみたいというウマ娘は他にもいるが、結果が伴うことは少ない。才能とは残酷だな。望んだ者に与えられるわけではないのだから」

「ゴールドシップが持っているのは才能だけじゃないさ。そうでなきゃ、僕も彼女の走りには魅せられなかった」

「誤解をさせたなら、すまない。私も彼女の自由奔放さは素晴らしいと思う」

「つまり、ゴールドシップは行動方針にムラッ気があるって話なんだ。彼女には、スローダンサーのような『技術』は必要ないかもしれないし、君と競うこともないかもしれない」

 

 ジョニィの言葉に、シンボリルドルフは意表を突かれたような表情を浮かべた。

 

「ふむ……ひょっとして、君達は『URAファイナルズ』に参加しないつもりなのか?」

 

 秋川やよいが提唱した、全てのウマ娘の頂点を決めるレース『URAファイナルズ』は2年後に開催予定となっていた。

 本来は、もっと時間が掛かるはずだったのだが、『SBR』によってウマ娘のレース業界が活気づいていたことと、その『SBR』を盛り上げたトレーナーの一人であるジョニィが学園にいたことで当初の想定よりも話題性がずっと高くなったのだ。

 レース開催宣言の反響は、日本国内を越えて世界にまで広がった。

 海外からのスポンサーも付くようになり、大会の準備は急ピッチで進められている。規模も予定より大きくなりそうだ。

 優勝すれば、第二の『SBR』とも言える世界的な栄光を手にすることが出来る。

 国内で実績のあるウマ娘は、ほとんどが参加することになるだろう。

 しかし、ジョニィは顎に手を当てて、思案するように即答を避けた。

 

「ゴールドシップ次第、としか言えないな。僕としては参加したいと思っている。僕の顔をレースの宣伝に使ってしまっているし、個人的にもこの学園で世話になっている恩は返したい」

 

 ちなみに、ジョニィの存在が『URAファイナルズ』の宣伝になってしまったのは結果的なものであり、やよい自身にそのような意図はなかった。

 事態が発覚したその日の内に、彼女はジョニィの元へ謝罪に訪れている。

 そういった律儀な部分も含めて、レースの成功に協力したいとは思っていた。

 どうせ、日本に来るまで目的を見失っていた人生だったのだ。

 この学園は、そんな自分に安息の生活を与えてくれた場所であり、ゴールドシップと出会う機会をくれた場所だった。

 

「学園に貢献してくれることはありがたいが、君としてはレースに参加することは義理を果たすという意味合いが強いのだな」

 

 シンボリルドルフは残念そうに呟いた。

 

「今のところ、勝利の栄光とかそういったものは、僕には重要じゃないんでね。ゴールドシップが出たいというなら、その意思を尊重するさ。ただ、どうも彼女は海外のレースに興味があるみたいだ」

「『SBR』のような、か」

「学園にいる仲間と競い合いたい、とも思ってるようだけどね。どうするかは、まだ検討中さ」

「そうか……」

 

 相槌を打って、その先を言い淀むシンボリルドルフを、ジョニィは不思議そうに見つめた。

 ただ単純に、レースで競い合えないことを残念に思っている様子ではなかった。

 彼女は聡明だ。様々な物事を考慮して発言する。

 つまり、何か言い悩む事情があるのだろう。

 

「何かあるのか?」

 

 いずれにせよ、自分が関係する話なのだ。

 

「……ジョースター君。君は『SBR』を優勝したウマ娘と、そのトレーナーを知っているな? 『シルバーバレット』と『ディエゴ・ブランドー』だ」

 

 その名を聞いた途端、ジョニィは盛大に顔を顰めた。

 

「その反応を見る限り、あまり良い印象を抱いていないようだ」

 

 シンボリルドルフは察したように苦笑を浮かべた。

 

「勘違いしないで欲しいんだが、これは優勝した相手に対するやっかみだとかじゃあない。僕がディエゴ・ブランドーという男を大嫌いなだけだ」

 

 断言するジョニィの頑なさに、シンボリルドルフは肩を竦めた。

 性格が合わないだとかの単純な理由ではなく、もっと根の深い嫌悪感を抱えている。心の底から嫌っているというプレッシャーすら発しているようだ。

 ディエゴ・ブランドーは、イギリスの名誉あるレース業界の天才トレーナーだ。

 通称は『Dio(ディオ)

 王族さえ観戦するレースでも数々の功績を残しており、『SBR』開催前から優勝候補として注目されていた。

 その『SBR』を実際に優勝したことで、彼の名声は最高にまで高まったと言っていい。

 元は下層階級出身でありながら、名門貴族に突出した才能を見出され、育てられた。

 不遇の少年時代を過ごしながらも、己の腕前一つでのし上がってきたドラマティックな経歴が、彼の人気を後押ししていた。

 しかし、ディエゴに関する知識は全てテレビや新聞越しに演出されたものばかりであり、実際にどういった人物なのかはシンボリルドルフにも知りようがなかった。

 その実際の人柄を、レースを通して直に感じ取ったジョニィが、ここまで露骨に嫌っている。

 

「つまり、そういう男なんだろうな。ディエゴ・ブランドーというトレーナーは」

「結局、僕はDioに敗北した人間だ。何を言っても負け惜しみや妬みに聞こえるだろうから、ノーコメントとさせてもらうよ」

 

 ディエゴという名が絡んだだけで、一気に警戒心を高めたジョニィは、嫌々ながらも質問の意図を訊ねた。

 

「それで、あの男が『URAファイナルズ』と何の関係があるんだ?」

「もう、大体察しているんだろう。君がレースに関わっているという情報が流れて、世間が騒いでいるのさ。ジョニィ・ジョースターとディエゴ・ブランドーの真の決着を、とね」

「冗談じゃない。決着ならあの時ついたさ。アイツは『絶対に負けたくない相手』だったけど、結局負けたのは僕の方だ。それはレースの結果が証明している」

 

 ジョニィはうんざりしながら答えた。

 

「それはDioにとっても同じことだ。奴にとっても終わった勝負さ。僕のことなんて、もう道端の石ころほども気にしちゃいないだろう」

「ところが、そうでもないらしい」

「……何だって?」

 

 シンボリルドルフはタブレットを取り出すと、画面を操作してあるニュースの一面を見せた。

 

「『URAファイナルズ』への参加を表明したディエゴ・ブランドーとシルバーバレットが、近日中に日本へ来る予定らしい。『再び相まみえるかつてのライバル。2年後の決着に向けて』というのが今一番熱い見出しだ」

「……なんてことだ、クソッ」

 

 ジョニィは思わず悪態を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 将棋の盤面を挟んで、ゴールドシップとメジロマックイーンは向かい合っていた。

 勝負の緊張が張り詰める中、ゴールドシップが満を持して手を振り上げる。

 

「ドロー! アタシはギルフォード・ザ・ライトニングをアドバンス召喚! 盤面の駒はみんなしぬ!」

「ゲームが違いますわ!」

 

 ここまでの流れを全て無視して、将棋盤にトレーディングカードを叩きつけたゴールドシップにメジロマックイーンはツッコミを入れた。

 

(あ……これは、もう将棋に飽きましたわね)

 

 全てを察したメジロマックイーンは、飛び散った将棋の駒を箱の中に片付け始めた。

 今日の天気はあいにくの雨である。

 本来予定していた外でのトレーニングを控えた二人は、室内でのそれに切り替えていた。

 今いるトレーニングルームは競争相手との駆け引きや勝負勘を養う訓練設備のある場所とされているが、実際はボードゲームが充実したレクリエーションルームに近かった。

 効果があるかどうかは個人によるが、とりあえず暇つぶしにはなる。

 

「雨あしも遠のいてきましたし、完全に止んだらわたくしと併走でもいたしますか?」

「えー!? 雨の後の地面って泥跳ねちゃうしー、ドレス汚れちゃうしー、アタシ走りたくなーい!」

「張り倒しますわよ」

 

 何処まで本気で言っているのか分からない軽口を交しながら、メジロマックイーンはため息を吐いた。

 ようやく自分のトレーナーを見つけてデビューを果たし、しかもそのトレーナーがあのジョニィ・ジョースターだった。

 デビュー戦でも無茶苦茶な走りで強引に1着をもぎ取り、それが話題を呼んだのかデビュー直後では異例の知名度を得ている。

 一人の選手として歩み出した自覚を持って何か変わったかと思えば、別に何も変わっていない。

 相変わらず、気分屋で飽き性で自由だ。

 メジロマックイーンは、今日もゴールドシップに振り回されていた。

 

「せっかく正式なトレーナーが付いたのですし、トレーニングメニューなどは組まれていませんの?」

 

 ゴールドシップからまた突飛な言動が飛び出す前に話題を提供する。

 実際、メジロマックイーン自身も興味があった。

『SBR』レースの実績を抜きにしても、ジョニィのトレーナーとしての知名度は非常に高い。

 彼が16歳の時に育てたウマ娘は、ケンタッキー・ダービーの優勝など海外の有名なレースで数々の功績を残しており、かつては若き天才トレーナーとしての名を欲しいままにしていた。

 一時期は落ちぶれたとして評価を落としていたが、今や彼の名声はかつて以上に高まっている。

 才能の限界を迎え、全盛期も過ぎたスローダンサーを更に躍進させたジョニィのトレーナーとしての手腕は、メジロマックイーンも強く興味を惹かれる点だった。

 そんなトレーナーが、予測不能に定評のあるゴールドシップへ課すトレーニングとはどんなものなのか、気になって仕方がない。

 

「メニューならあることはあるけどさ、別に普通だな。ゴルシちゃん的には、デカイ鉄球にぶつかったり、ジープで追い回されるような派手な特訓を覚悟してたのによ!」

「それは特訓ではなくただの虐待ですわ。でも、特別な内容ではなく、基本を忠実に繰り返すというのは、やはり大切なことなのでしょうね。わたくしの先入観でしたわ。お恥ずかしい」

「マックイーンは真面目だねぇ~。アタシとしては、同じこと繰り返すよりもたまに面白いこと混ぜてくれた方がやりがいがあるんだけどなぁ」

 

 そうぼやきながらも、ゴールドシップがここ1か月の間トレーニングをサボっていないことをメジロマックイーンは知っていた。

 以前ならば、他のウマ娘達がトレーニングをしている時間に、学園内やあるいは外で遊んだり奇行を行っていたはずである。

 トレーニングの合間に適度な休息を挟むという意外と考えられた体調管理の元での行動なのだが、自己流でやっている為かかなりいい加減だった。

 しかし、ジョニィがトレーナーになって以来、行動が規則的になっている。

 トレーニングの時間には、必ずその為の場所にいるのだ。

 

(気まぐれなゴールドシップさんに当たり前のことを毎日繰り返させる……この時点で、既に彼のトレーナーとしての実力が発揮されているのかもしれませんわね)

 

 メジロマックイーンは、改めてジョニィの指導力に感服した。

 実際には、トレーナーとしての能力というより、ゴールドシップを乗り気にさせる合いの手の上手さや相性の合致が大きな要因だった。

 

「今は基本的な身体能力を底上げしながら、ゴールドシップさんの成長の方向性を探っているのではないでしょうか?」

「そうかぁ? ジョニィって初見で結構何でも見抜いちまうぜ。スカウターでも使ってんじゃねーかってくらい、アタシの脚質とか理解してたし、先のこともう見えてんじゃねーの?」

「だとしたら……って、トレーナーさんのこと名前で呼んでますのね」

 

 何故か自分の方が少し気恥ずかしくなって、メジロマックイーンは頬をわずかに赤くした。

 咳払いを一つ挟んで、すぐに切り替える。

 

「その、ジョースターさんから……何か特別な技術の教練は受けていませんの?」

「特別な技術って何?」

「それは……」

「それは? ゴルシちゃん分かんない」

「ひ……必殺技、とか?」

「えっ、何言ってんの? アタシらやってるのレースよ。ゲームのやりすぎじゃない?」

「もうっ、意地悪しないでください!」

 

 ニヤニヤと笑うゴールドシップの胸を、メジロマックイーンはポカポカ叩いた。

 

「ワリーワリー、言いたいことは分かってるって。アタシも期待してたんだけど、今のところ、あのスローダンサーがやってたみたいな『技術』は教えてもらってねーかな」

 

 ジョニィのパートナーであったスローダンサーの持つ『技術』――その存在は、見る者が見れば確信出来た。

 メジロマックイーンも、ゴールドシップも、彼女の力に秘密があることは見抜いている。

 しかし、その実態がまるで掴めない。

 その正体を暴く鍵を握っているのは、トレーナーのジョニィだ。

 現在、最もその秘密に近いであろうゴールドシップのトレーニング内容について知りたくなるのは、高みを目指すウマ娘ならば誰でも同じだった。

 

「強いて言うなら、普通のトレーニング以外に『フォームの矯正』をすることが多い気がするんだよな」

「フォームの、矯正?」

「結構細かくさ、指摘してくんだよ。手足を動かす時は直線じゃなくて曲線を意識しろ、とか。手首や足首の捻り具合とかさ。どんだけ意味があんのか知んねーけど」

「直線ではなく曲線……捻り?」

 

 ゴールドシップと関わりのないウマ娘では手に入れることさえ出来ない希少なヒントだ。

 メジロマックイーンは、それらのキーワードを元にして考え込んだ。

 フォームの矯正自体は珍しいことではない。

 走る為にはより効率的な身体の動かし方があり、本人の適性やコースの状況に応じて最適なフォームというものがある。

 ゴールドシップは未だデビューしたばかりの新人で、優れた才能を持っていても様々な部分が荒削りだ。それを整えるという意味でも、妥当な教導のようにも思える。

 深い意味はないのではないか――しかし。

 

「気になりますわね」

「そお?」

 

 真剣な表情のメジロマックイーンに対して、ゴールドシップは他人事のように呆けていた。

 

「アタシとしては自由なフォームで走らせて欲しいんだよなぁ。そりゃ速くなるのは分かるけどさ、爆発力っつーの? フォーム整えて小じんまり纏まって走るよりも、ドカンッと気持ちよく突っ走りたいね!」

 

 ゴールドシップの主張も分かるような気がした。

 型に嵌らないのが彼女の走り方の長所だ。

 それを活かすだけの爆発力を秘めた肉体と才能を持っている。

 

「……ですが、それではいずれ限界が来ると思いますわ」

 

 メジロマックイーンもまた才能を持つウマ娘だが、それを技術によって研磨することを重要視している。

 これは完全に個人の考え方と性格の違いだった。

 

「アナタだけのやり方では、勝てない相手が現れるかもしれません。そんな時の為にトレーナーさんの意図を理解しておくことは必要、なのではないかと思いますが……」

 

 ゴールドシップの良さも十分に知っている。

 だからこそ、最後の部分を言い淀んだ。

 

「……マックイーンは優しいなぁ」

「な、何がですか?」

「他人のアタシをそこまで心配してくれんのがさ」

「他人だなんて、そんな寂しいことを言わないでください」

「そうだな、ワリィ。あれだろ、『不甲斐ないアナタを倒しても面白くはありませんわ!』ってライバル的なお節介なんだろ? いいなー、やっぱ『URAファイナルズ』出ようかな! マックイーンと勝負してみたいし!」

「場合によっては出ないつもりでしたの……?」

 

 そんなことを考えていたなんて全く知らなかった。

 メジロマックイーンは、驚きと安堵の混ざったため息を吐いた。

 

「まったく、世間の期待を気にしないのはゴールドシップさんらしいですけど」

 

 思わず漏れた呟きに対して、ゴールドシップは不思議そうな顔をした。

 

「どゆこと? 『URAファイナルズ』でアタシってなんか期待されてんの?」

「知らないのですか? アナタがあのシルバーバレットと『URAファイナルズ』で対決するという話題で、世間は賑わってますのよ」

 

 ジョニィがトレーナーになって以来、ゴールドシップは『SBR』に関連する世間の情報から興味を失っていた。

 レースの話を聞きたければ、参加した本人が傍にいるからだ。

 実際、ジョニィと絡めば話題は尽きず、ゴールドシップはこの1か月間退屈とは無縁の日常を送っていた。

 楽しすぎて、自分を囲む情勢の変化など気にも留めていなかった。

 

「シルバーバレットって『SBR』で優勝したウマ娘だろ。えっ、世界のスターウマ娘じゃん! アタシ、まだ無名だよ!?」

「重要なのはトレーナー同士の因縁ですわ。彼女のトレーナーであるディエゴ・ブランドーとジョースターさんをライバル同士とする見方が、今や世間では浸透しているようですわね」

「ああ、アイツか」

 

 ディエゴの名を聞いてわずかに眉を顰めるゴールドシップの反応は珍しいものだった。

 

「珍しいですわね、アナタが誰かを苦手に思うなんて」

「ジョニィがディエゴのことスッゲー嫌ってんだよな。ジョニィが嫌うってことはアタシともきっと合わないんじゃね?」

「……まあ、実際にどういう人物なのかは会ってみなければ分かりませんが、彼と彼のウマ娘が世界的に有名なことは確かですわ」

「そいつらが『URAファイナルズ』に参戦して、『SBR』での本当の決着を! ってヤツか。負けたスローダンサーに代わって、アタシがシルバーバレットの新たな対抗バになったワケだ」

 

 シルバーバレットは『エリート』という言葉を体現したウマ娘だった。

 優れた血統を持ち、生まれた時から英才教育を施され、史上最年少でデビューして数々のレースを勝ち取ってきた。

 常勝無敗。彼女自身が優れすぎていた為、トレーナーの存在に何の意味もないと言われていた程だ。

 誰がトレーナーになっても、彼女は勝つ。

 輝きを増し続けるシルバーバレットの栄光に、多くのトレーナーが焼かれ、彼女の下を離れていく中――当時、同じく若き天才であったディエゴに巡り会った。

 神が選んだ運命のコンビだ、と世間は言う。

 ディエゴと組んだ彼女は、もはや海外では最強となった。

 イギリスのレース業界で伝説となり、アメリカに進出して『SBR』で優勝を勝ち取った。

 

「今や世界を制したウマ娘。故についた二つ名が『世 界(ザ・ワールド)』――でしたわね」

 

 競い合う上でこれ以上の強敵はいない。

 そんな相手と話題性の高さだけで勝負をさせられることになりそうなゴールドシップ自身は、思いのほか冷めていた。

 

「どこまで本気で報道してんのかね? レースを盛り上げる話題の一つとして、煽り立ててるだけじゃねーの?」

 

 片や世界のスター。

 片やデビューしたての無名。

 実際のレースまでに実績をあげる期間があるとはいえ、世間はゴールドシップが勝てるとは到底思っていないのだ。

 不満だと感じる以前に、当人を無視して勝手にお祭り騒ぎになっている周囲に付き合いきれないという思いが強くなった。

 

「会ったこともないヤツを勝手にライバル枠にされてもなー。アタシ、ライバルはマックイーンがいいなー」

「光栄ですけれど、実際にレースをするとなったらとんでもない強敵ですわよ。勝つ気はありますの?」

「負ける気はないけどさー、周りがやれって言ってるだけのレースしても気分が乗らないっつーかぁ~。大体、苦手だよアイツ。テレビで見たけど、顔コエーもん!」

「世界が注目するレースですのよ。ワガママが通る状況では……」

 

 その時。

 ふと気づくと、部屋の外が騒がしくなっていた。

 生徒と思われる複数のウマ娘達が走る、慌ただしい足音が聞こえる。

 

「……何でしょう?」

 

 メジロマックイーンが扉を開けると、ちょうど目の前の廊下を二人の生徒が走り去るところだった。

 二人は開いた扉に気付かないほど興奮して、騒がしい会話を交わしながら目の前を過ぎていった。

 

「本当なの!? 今、学園のホールにあのシルバーバレットが来てるって!」

「会長が対応してるって話だよ! ジョニィ・ジョースターさんに宣戦布告しに来たんだって!!」

 

 ゴールドシップとメジロマックイーンは、思わず顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

 そのウマ娘は、名が体を表すように白銀の髪と尾を揺らして、トレセン学園のホールに佇んでいた。

 ただそれだけで、周囲の視線を集めてやまない圧倒的な存在感がある。

 学園の生徒達は似たようなウマ娘を知っていた。

 シンボリルドルフだ。

 シルバーバレットとシンボリルドルフは似ている。

 内から滲み出る計り知れない実力。

 微笑一つとっても格の違いを感じる優美さ。

 纏ったオーラは、自然と頭を垂れてしまいたくなる。

 一言でいえば『カリスマ』があった。

 しかし、シンボリルドルフのカリスマを『白』とするなら、シルバーバレットのそれは『黒』と言うべきものだった。

『憧れ』ではなく『畏怖』を抱かせる力が、彼女にはあった。

 レースで彼女の隣のゲートに入った時、そのまま立ち竦んで走り出すことすら出来なくなってしまいそうな圧力が、無意識の内に発せられているようだった。

 

「――トレセン学園へようこそ。生徒会長のシンボリルドルフだ」

 

 相対してもいないのに萎縮してしまう周囲の生徒達を救うように、報告を受けたシンボリルドルフはその場に駆け付けた。

 ジョニィとの会話で話題には出したが、まさか今日この日にシルバーバレットが学園を訪問するとは思ってもいなかった。

 

「会えて光栄だ。私はシルバーバレット」

 

 二人は絶妙な距離を空けて対峙した。

 言葉の上では友好的だが、握手を交わせるほど近寄らない。

 シンボリルドルフは普段生徒に向ける優しげな微笑を消していた。

 対するシルバーバレットは笑みを浮かべているが、それは何処か傲慢さや余裕を含んでいるような、見る人によれば挑発的に感じる笑みだった。

 

「日本に来ていたとは知らなかった」

「マスコミには知らせずに来たからな。何処へ移動するにも、彼らは大げさに騒ぎ立てる。そちらを訪れる際には迷惑になると思ったのでね」

「お気遣い感謝する。しかし、この学園に何の用だろうか?」

「単なる挨拶さ。我がトレーナーも、すぐに合流する」

 

 シンボリルドルフの傍らにはジョニィもいたが、シルバーバレットは目の前のウマ娘だけに意識を向けていた。

 

「先日、我々は『URAファイナルズ』に参加することを表明した」

「知っている。そのことをわざわざ宣言しに来たのか?」

「こういうパフォーマンスが必要なのだ。世間は、この学園と我々が因縁の下に対決を行うのだと期待している」

 

 その時、初めてシルバーバレットはジョニィの方を見た。

 視線を受けて、ジョニィは眉を顰めた。

 いつ見ても、あのディエゴとよく似た瞳だと思った。

 

「実際には違うとしても、世間が『ある』というのだから『そういうこと』にして動かなければならない。スターの辛いところだな」

「どういう意味だ?」

 

 ジョニィの代わりにシンボリルドルフが訊ねた。

 その顔つきは険しい。

 シルバーバレットの微笑は、今明確に嘲笑へと変わったのだ。

 

「我々とジョニィ・ジョースターとの間に因縁などない」

 

 ハッキリと、冷酷なほど断言した。

 

「もはや勝負はついたのだ。『そこ』にいる『それ』は、ただの負け犬だ」

 

 シンボリルドルフにも、ジョニィにも、周囲の者達にも届く、強い言葉だった。

 

「そうだろう? ジョニィ・ジョースター。既に負け犬ムードのお前と再び相対しているのは、我々の詰めが甘かったと反省しているからだ。お前の『誇り』を完全に引き裂かなかったせいで、まだ負けていないのだとお前自身にも周囲の人間にも勘違いさせてしまった」

 

 何も言い返さないジョニィをいたぶるように言葉を続ける。

 

「それを正すためにレースに参加するのだ。お前が分相応な敗者として惨めに蹲ったままならば、我々も頓着しないのだがね。今からでも世間に公表するつもりはないか? 自分は完全な負け犬であり、勝ち目のないレースに参加は出来ないと――」

「おい」

 

 シンボリルドルフの口から酷く低い声が漏れた。

 普段の温厚な彼女の姿からは想像も出来ないほど険悪なオーラが立ち昇っている。

 

「それ以上無礼な口を叩くな」

 

 シルバーバレットに向ける視線は、もはや完全に敵に対して向けるものだった。

 しかし、それを受け止める当人は、むしろ楽しげに笑っていた。

 

「そんなに睨まなくてもいいじゃあないか。別に喧嘩をしにきたんじゃない、安心しろよ。ここに来たのは、君の方に興味もあったからなんだ。皇帝シンボリルドルフ、友達になろう」

「断る」

 

 即答するシンボリルドルフの顔は、もはや能面のように感情が消えている。

 

「初対面なのに申し訳ないが、私は君がかなり嫌いになった。用が済んだのなら、さっさと消えてくれ」

 

 氷のように淡々と告げる。

 初めて見る生徒会長の冷たいやりとりに、周囲の生徒達も凍り付く中、シルバーバレットはゆっくりと視線を移動させた。

 

「そう言うなよ。興味のあった君と会い、ジョニィ・ジョースターの現状を確認した。あと一つ、取るに足らない用があってね――」

 

 シンボリルドルフとジョニィの背後に視線を向ける。

 シルバーバレットに気を取られていた二人は、そこでようやく気付いた。

 荒々しい足音と、何かを引きずる音が近づいてくる。

 

「アポイトメントはございますかァ、お客サマァ~~~? 誰だって顔してんで自己紹介させてもらうがよ、アタシの名前はゴールドシップ! 今や世界に羽ばたく期待のルーキー・ゴルシちゃんだよ☆」

「止まって! 止まってください、ゴールドシップさん……っ!」

 

 何故か腰にメジロマックイーンをしがみ付かせたゴールドシップが、肩を怒らせながら踏み込んできた。

 メジロマックイーンは彼女を引き止めようとしたらしい。

 しかし、それを引きずって無理矢理やって来たのだ。

 

「アンタがシルバーバレットだな。アタシのトレーナーに何か用か?」

 

 ゴールドシップは内から湧き上がる怒りと苛立ちを、引き攣った笑顔で誤魔化そうとしていた。

 しかし、体裁を取り繕う余裕はもはやない。

 誰がどう見てもゴールドシップは、目の前の『敵』に対して怒っている。

 シルバーバレットはその興奮した姿を涼しげに観察して、向けられる敵意を一笑に伏した。

 

「先ほどのやりとりを聞いて、飛び込んできたのか?」

「おっと、会話が成り立たないアホが1人登場ォ~~~。質問文に対し質問文で答えるとテスト0点なの知ってたか? マヌケ」

「ゴールドシップさん!」

「よせ、ゴールドシップ!」

 

 完全に喧嘩腰で挑みかかるゴールドシップを、メジロマックイーンとこれまで黙っていたジョニィが制止しようとした。

 メジロマックイーンは学園内で暴力沙汰が起こる最悪の事態を危惧していたが、ジョニィはシルバーバレットの狙いを読み取っていた。

 しかし、それを説明する間もなく、ゴールドシップはシルバーバレットの眼前にまで詰め寄った。

 

「しっかりと聞いてたぜ。取るに足らない用ってのはアタシのことかァ? ゴルシちゃんは心が広いから1回くらいの暴言は大目に見てやるけどよ~……やっぱナシ。ムカつくから一生根に持つこと決定」

「ほう、ならばどうする?」

「どうするもこうするも、アンタが訂正しねーんなら出るトコ出るぞって話だよ。っつーかなぁ――」

 

 もはや鼻先すら触れるほど顔を近づけ、怒りに満ちた眼光で相手の瞳を射抜く。

 

「アタシのトレーナーを侮辱してんじゃねぇよ。蹴り殺すぞ、テメー」

 

 殺気立ったゴールドシップの言葉に、誰もが息を呑んだ。

 平穏な学園の中で、これほどまでに激しい怒りをあらわにするウマ娘を、誰も見たことはなかった。

 ただ一人。

 その殺気を向けられるシルバーバレットだけが、面白そうに笑っていた。

 

「気に入った」

「あぁん?」

「出る所とやらに出ようじゃあないか――私と今からレースをしないか? ゴールドシップ」

 

 

 

 

 

 

「――こうなることが、奴の狙いだったんだ」

 

 外は、既に雨が止んでいた。

 練習用のレース場へ向かうゴールドシップの後ろ姿を、車椅子で追い掛ける。

 

「分かっているのか、ゴールドシップ!?」

「ああ、分かってるよ」

 

 ジョニィの叱責に対して、ゴールドシップは事も無げに答えた。

 つい先ほどまで、ホールで怒りに我を忘れかけていたような姿は何処にもない。

 

「アタシがスローダンサーのような『技術』を身に着けているのかどうか、アイツは確かめる為に来たんだろ?」

 

 冷静な口調で正解を返され、ジョニィの方が一瞬言葉に詰まった。

 

「……そうだ」

「散々挑発しておいて、戦力分析が本当の目的だったワケだ。あんな言動してるくせに慎重な奴だぜ。もっと慢心して『ワタシは調子こいて最後に逆転されるボスです』って態度取ってりゃいいのによぉ~」

「分かっていて、何故挑発に乗ったんだ!? このレースの勝敗に意味はない! 奴の前で走った時点で、君のあらゆる情報は抜かれると思った方がいい! そういう恐ろしい能力があるんだ、奴のトレーナーにはッ!」

 

 ディエゴ・ブランドーには類稀なる分析能力があった。

 どんなウマ娘であっても、その脚質や得意なコース、距離、走り方に表れる特有の『クセ』まで読み取ってしまう。

 彼自身が見なくとも、シルバーバレットが正確に収集した情報を分析し、それを更にシルバーバレット自身がレースで活かすことも可能だった。

 単なるウマ娘とトレーナーの関係ではない。

 互いが互いの能力を増幅し合う、恐るべきコンビだった。

 

「例えこのレースで勝てても、奴は何も堪えない! 観客も何もいないからだ! 手を抜くことさえするかもしれない! 本番のレースで勝って、世間にアピールすることが目的なんだッ!」

「……そこだよ」

 

 不意にゴールドシップは足を止めた。

 勢いよく振り返って、ジョニィに詰め寄る。

 

「『例え』ってなんだよ、『例え』って!? まるでアタシが負けるみたいな言い方するじゃねーか! 勝っても無駄だぞって言い方だけでいいんだよッ!」

 

 ゴールドシップはここまで貯め込んだ不満を爆発させるように捲し立てた。

 

「警戒してるのは『技術』だけで、アタシ自身の力は何とも思ってねーって部分も気に入らねーよ!!」

「ゴールドシップ。君はまだ成長途中なだけで……」

「あとさぁ、アレどう見てもアタシとアイツとの一対一の流れだったじゃん! 何で会長まで参加することになってんの!?」

 

 ――その勝負、私も参加させてもらおう。

 

 ホールでの一触即発の状況の中へ、シンボリルドルフの発言がスルリと入り込んでいた。

 シルバーバレットの目的からすれば、国内トップクラスのウマ娘の情報が手に入るのだから望むところである。

 不満げに喚き立てるゴールドシップをメジロマックイーンが宥めている間に、シンボリルドルフがシルバーバレットの着替えの為、連れ立って去っていく。

 結果、なし崩しに三人での勝負が決まってしまった。

 レース場の使用許可を得る為にメジロマックイーンもその場を去り、不満の収まりきらないゴールドシップは外へと飛び出したのだ。

 

「複数人でのレース形式にしたのは、少しでもこちらに有利にする為だ」

 

 ジョニィは諭すように、静かな口調で言い聞かせた。

 

「まともにやり合えば、シルバーバレットに有利な状況が出来上がってしまっているんだ。見ろ、雨のせいで地面が濡れて不安定だ。奴は『SBR』の経験で、不整地での走りに慣れている」

「……会長が加わったところで、何か変わるのかよ?」

「逆に奴は『正規のコースを複数人で走るレース』という形式からしばらく離れていた。その違和感が隙になるかもしれない。何より、一対一で『目の前の相手にだけ集中すればいい』という状況は避けたい。『自分と相手以外の誰かに差されるかもしれない』という第三者のプレッシャーが必要なんだ」

 

 そこまで話して、ジョニィは大きく息を吸い込んだ。

 

「だが、そこまでしても――」

 

 そして、あえて可能性を匂わせず、意を決して残酷なまでにハッキリと断言した。

 

「君はシルバーバレットには勝てないッ!」

 

 

 

「言いにくいけど予言させてもらう。このレースで君に勝ち目はない――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 

 




意外とトレーナーに対する愛が重いゴールドシップ説、あると思います。
次回、ゴルシ死す! デュエルスタンバイ!!(CV.上田瞳)



・おまけ

SBR版ウマ娘『ヘイ・ヤー』
ジョージア州の牧場でポコロコと一緒にのんびり暮らしていたウマ娘。
一度もレースに出た経験がない素人だが、とてつもない強運の持ち主であり、その運でレースを乗り切った。
3着でゴールし、受け取った賞金を持って故郷に帰り、裕福になったこと以外は何も変わらないのんびりとした生活に戻った。
世間はポコロコが彼女の幸運にあやかるだけの男だと非難しているが、ヘイ・ヤーにとって自分の幸運は彼と一緒に面白おかしく暮らす為にあるのだと思っている。
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