GOLD SHIP RUN   作:パイマン

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主役のゴールドシップが唯一無二のクセの強いキャラなんで、他のキャラのストーリーはあえてあまり見ないようにしてます。
アグネスタキオンとか見ちゃったら、違う話書きたくなっちゃうからね。
なので、前評判とかよく知らないウマ娘の育成を優先的にやってました。
今回はナイスネイチャ。
……知らなかったんだ、こんなに恋愛要素のストレートなキャラだったなんて!
ヤバイ。この娘……絶対俺のことが好きだ! しかも噂の温泉イベを今回初めて当てちゃった。あ、あ、やめて畳みかけてこないで! 助けてゴルシ! 俺、この娘のこと好きになっちゃう!(完凸した桐生院サポカを試しに使ってみたらこっちも直前で温泉イベがあった件について。このでけぇ水族館が…)


#3「ドミネイト・ザ・ワールド」

「――クソッ! ジョニィのヤツ、イラつくぜェー!」

 

 ゴールドシップはチンピラのように苛立ちながら制服を脱ぎ捨てた。

 そして、丁寧に折り畳んでロッカーの中に仕舞った。

 

「……言葉とは裏腹に、物には当たりませんのね」

「自分の服なんだから当たり前だろ! 着れなくなったら困るじゃねーか、チキショーめー!」

「冷静なのか怒ってるのか分かりませんわ」

 

 更衣室へゴールドシップの様子を見に来たメジロマックイーンはため息を吐いた。

 少し安心したような、疲れたような気分になる。

 学園のホールで見たゴールドシップは、普段の様子とは明らかに違っていた。

 あそこまで本気で怒り、他人に対して敵意を剥き出しにする姿は初めて見た。

 心配だった。

 彼女の駆られる激情は、これから始まるレースだけではなく、もっと根本的に彼女の心身に影響を及ぼすような気がする。

 

「珍しいですわね、アナタがそこまで他人に苛立つなんて」

「キレてないっすよ? アタシ、キレさせたら大したモンですよ? それはそれとして、あのシルバーバレットってヤツはちょームカつくんですけどぉ。そいつに『勝てない』なんて断言しやがったジョニィは更にムカつくんだよ!」

 

 ――あの時、ジョニィはゴールドシップに向けて告げた。

 このレースでシルバーバレットに勝つことは出来ない、と。

 

『シルバーバレットが自他共に認める歴戦のウマ娘だとか、君がデビュー戦以外まだ経験したことのないルーキーだとか、君の『弱点』だとか……そういう話ではなく』

『でも……つまり、なんと言うか……君は奴に届き得るものを持っているはずなんだ。『技術面』でも『闘争面』でも、君は今の段階でもシルバーバレットに迫れるはずだった……』

 

 言葉を濁しているわけではない。

 しかし、何処か自分を納得させようと言葉を探っているジョニィの様子に、ゴールドシップは苛立ちを覚えた。

 何が言いたいんだ? ハッキリと言え。

 勝ち目がないと言ったのはアンタだ。

 アタシの力を信じるのか、信じないのか。ハッキリと言え――!

 そう詰め寄るゴールドシップに、ジョニィは酷薄な表情で答えた。

 

『ハッキリ言ってるじゃないか! 君はシルバーバレットには勝てない! 僕には分かるんだ。あのシンボリルドルフにも勝てない……経験で分かる』

 

 その冷たい返答は、ゴールドシップにとってショックだった。

 普段は他人の言動や周囲からの評価を気にしないマイペースな彼女を、彼の静かな宣告は生まれて初めて大きく動揺させた。

 思わず言葉を失うゴールドシップに対して、ジョニィは容赦なく続けた。

 

『君にとってレースとは駆け引きや競り合いを楽しむものであり、勝利は気分を良くするものだ。君はその『前向きさ』と自由な生き方で培われた『能力』でレースに参加している』

『そして、今回初めて君が『僕を侮辱された』という正当な怒りを抱いてレースに挑むという状況も理解している。それは、本当にありがたいことだと思う……』

 

 言葉とは裏腹に、ジョニィの声色は感情を排した厳しいものだった。

 

『でも、それは君が自分以外の誰かから『受け継いだ』動機だ。君はレースに臨む意義や意欲を『受け継いで走るウマ娘』だ!』

『それに対してシルバーバレットは違う! 奴は生まれた時から成功が約束されていた。周囲から与えられるものを黙って受け継いでいれば、実績や名誉を手に入れることが出来た。なのに、奴は『奪う』ことを選んだ! 勝利も栄光も、自らの意思と渇望の上で奪い取ってきたウマ娘だ!』

 

 あの『SBR』という過酷なレースで、華々しい栄誉とは程遠い泥のような競り合いを互いに繰り広げた。

 

『シルバーバレットは『飢えた者』 君は『受け継いだ者』 どちらが『良い』とか『悪い』とか言ってるんじゃあない! その差が、このレースで今の君が持ち得る全ての可能性を引き出した上で奴に迫る、最後の一瞬に出る! その差は君の勝利を奪い、君を喰い潰すぞッ!』

 

 極限の状況で渡り合った敵への理解から来る結論――その重みは、ゴールドシップの反論を詰まらせた。

 結局、それ以上ジョニィの言葉を聞くことが耐えられず、背を向けて走り去った。

 彼は、まだ何かを言おうとしたのだろうか。

 だが、今更レースをやめるわけにはいかない。

 

「ジョニィのヤツゥ……アタシが腹の満たされた子犬のように闘争心を失った根性なしだとぉ~」

「そんなことを言われたのですか?」

「言われてねーよ!」

「えぇ……?」

 

 八つ当たりでメジロマックイーンを困惑させながらも、ゴールドシップ自身、動揺を治められないでいた。

 ジョニィの忠告の意図が読めずにイライラしていた。

 勝利への渇望もなく、ただ楽しむ為にレースに臨む自分の姿勢を非難されたのか?

 そういう受け取り方も出来る。

 だが、そうではない。

 そうではないと思いたい。

 彼は、まだ何かを言おうとしていたと思う。

 今の自分ではシルバーバレットには勝てない、とは言った。

 しかし、永遠に勝ち目がないとは言わなかった。絶対に敵わない相手だとは。

 ジョニィが自分にこの先期待しているもの、望んでいるものが、あの言葉の後に続いたのかもしれない。

 

「けどよォ~、我慢出来なくなるには十分なんだよ! トレーナーが『お前の力を信じない』なんて、繊細なウマ娘の乙女心を超傷つけること言いやがって!」

 

 運動着に着替え終えたゴールドシップは、怒りと戦意を漲らせながら、敵の待つレース場へと踏み出した。

 

「オマエが見出した『黄金のような走り』ってヤツを、もう一度目に焼き付けてやるからなぁ! 覚悟しとけよ、ジョニィ!!」

 

 

 

 

 

 

 ゴールドシップが居る所とは別の更衣室に、シンボリルドルフとシルバーバレットの二人は来ていた。

 

「ほら、これを使うといい」

「新品か。気前がいいな」

「そこまで高価なものではないさ」

 

 ビニールでパッケージされた学園指定の運動着をシルバーバレットに放り渡した。

 受け取ったそれを広げて、興味深そうに眺める。

 

「なかなかいいデザインだ。記念に貰ってもいいか?」

「……好きにしろ」

 

 シルバーバレットの言葉が、本心からの茶目っ気なのか、それともこちらを単にからかっているのか分からなかった。

 無視して着替えを始める。

 

(どんな形であれ、レースはレースだ。わざと負けるつもりはない)

 

 シンボリルドルフは、シルバーバレットの本当の目的が情報収集にあることに気付いていた。

 あの場では言葉こそ交わさなかったが、ジョニィもそれに気付いている。

 その上で、彼の意図を察し、自分もレースに参加した。

 

(有利不利の状況は、これで少しはバランスが取れるはずだ。だが、ゴールドシップを勝たせる為かというと、それは違う)

 

 自分には、自分なりの目的と矜持がある。

 一人のウマ娘として、自分以外の誰かに勝ちを譲るつもりで走る気はないし、二人掛かりで相手を潰すつもりもない。

 いつものように、勝つつもりでレースは走る。

 その上で、今後の為にやるべきことをやるという冷静な打算も存在した。

 

(シルバーバレットがこちらのデータを奪うというなら、こちらも彼女の能力がどれほどのものなのか分析させてもらう。おそらく、彼女との関わりは、このレースだけでは終わらない)

 

 シンボリルドルフは、そう直感していた。

 日本にやって来た理由が、ジョニィへの宣戦布告やゴールドシップの能力分析だけとは思えないのだ。

 彼女のトレーナーであるディエゴが合流した後、『URAファイナルズ』が開催されるまでの長い期間の内に、日本で何かしらの行動を起こすつもりだろう。

 そして、おそらくその行動の内の何処かで自分はシルバーバレットと本当の意味で争うことになる。

 そういう推察と、半ば確信めいた予感があった。

 

(すまないな、ゴールドシップ。これは、君だけの戦いではない――)

 

 今から始まるレースは、ある意味三つ巴となるだろう。

 観客はなく、公式にも記録が残ることはない、互いの思惑と意地が交差し合うレースだ。

 生徒の味方をする会長としてではなく、レースに臨む一人のウマ娘としての冷徹な意識に切り替えたシンボリルドルフは、ロッカーの扉を閉じた。

 元から着慣れた運動着だ、時間など掛からない。

 シルバーバレットよりも自分の方が早く着替えを終えたのは、事前に計算していたことだ。

 

(少々姑息だが、肉体の外観からも情報は収集出来る。こんなものは駆け引きとも言えないが、遠慮をする相手でもない)

 

 既に戦いは始まっている。

 先に着替えを終えたシンボリルドルフは、自然な仕草でシルバーバレットの方に観察の為の視線を向けた。

 

「――ッ!?」

 

 そして、思わず息を呑んだ。

 服を脱ぎ、半裸となったシルバーバレットの身体には夥しい数の傷跡があった。

 一番目立つのが、右肩だ。

 おそらく何かで擦った、いや削ったと表現してもいいような、皮膚の引き攣った傷跡が広がっていた。

 粗いコンクリートの壁やアスファルトの地面で肉を擦った時の傷が、このような感じになる。

 左の脇腹の傷跡も目を惹いた。

 こちらは範囲は狭いが、縫合の跡が分かる傷だった。

 何かが刺さった跡のようだ。

 刃のような鋭利なものではない。木の枝のような太く、表面の粗い物が刺さった跡だ。

 思わず、上から下まで全身を観察して、左脚に視線を落とした時シンボリルドルフは背筋に冷たいものが伝うのを感じた。

 左脚の大腿部に、長い縫合の跡があった。

 切り傷のように見える。しかも、縫合する必要があった程の傷だ。

 あと少し深ければ、筋肉の機能に影響が出ていたかもしれない――そんな恐れを抱かせる傷が刻まれていたのだ。

 選手生命はもちろん、後の生き方まで左右される、ウマ娘として最も恐怖を感じる傷跡だった。

 そして、それら以外にも幾つもの小さな傷跡が、シルバーバレットの身体には刻まれていた。

 本来ならば、美術品のように整えられているはずの肉体が、多くの傷跡で彩られている。

 シンボリルドルフは、そこに痛々しさよりも戦慄を感じた。

 

「君ほどのウマ娘が……」

 

 動揺を悟られないように押し殺した声が、僅かにこぼれ出た。

 古傷と言えるほど時間の経ったものではない。

 治ってはいるが、ごく最近ついた新しい傷ばかりだ。

 何処で負ったものか、それは分かり切っていた。

 全て、あの『SBR』レースで負ったものに間違いはなかった。

 

 ――こんな傷を負うような経験をする必要が、何処にあった?

 

 元々、シルバーバレットというウマ娘の成功は、既に約束されていたはずだった。

 優れた血統に生まれ、環境にも恵まれ、実際にそこで育まれた能力と経験は彼女に常勝をもたらした。

 栄光への道は舗装され、敵も障害もない。

 芝とダートのレースを走っていれば、いずれ彼女は何の憂いもなく頂点に立つことが出来ただろう。

 

 ――そんな彼女が、何故『SBR』などという危険なレースに参加したのか?

 

 その意味を、もっと深く考えるべきだったのかもしれない。

 何処かで彼女を、自分と似た存在だと考えていた。

 才能と環境に恵まれたからこそ勝利を義務付けられ、どんな形であれ、それに応える為に走るウマ娘だと。

 だが、違う。

 目の前の存在は、自分とは決定的に違う道を歩んでいる。

 シンボリルドルフは得体の知れない畏怖を、初めてシルバーバレットから感じていた。

 

「さて、待たせたな」

 

 気が付けば、シルバーバレットは着替えを終えていた。

 シンボリルドルフの視線や意図に気付いていたのか、それともいないのか、その表情からは分からない。

 

「行くとしようか」

 

 初めて対面した時から、常に崩れぬ余裕の笑み。

 傲慢とも取れる絶対の自信。

 

「……ああ」

 

 その瞳を見る。

 

(気をつけろ、ゴールドシップ……)

 

 世界を制したと評され、敗北を知らぬ常勝の実力を備えながら、なお頂点を目指して『飢えた』その瞳を。

 

(こいつは、強い――!)

 

 

 

 

 

 

 勝負の場となるレース場にいるのは、実際に走るゴールドシップ達3人に加えて、ジョニィとメジロマックイーンだけだった。

 ホールで彼女らのやりとりを見ていた生徒達は、誰もこの場には来ていない。

 シンボリルドルフが、生徒会長としての権限を使って近づかせないようにしたのだ。

 

「今回使用するコースは『ダート』 距離は『2000m』となりますわ」

 

 完全なる第三者として審判の役割も担うことになったメジロマックイーンが、3人に向かって説明する。

 彼女ならば、例え身内が相手でも公平な判断をするという信頼を受けてのものだった。

 

「ダートか……構わないのか?」

 

 シルバーバレットが、シンボリルドルフに対して訊ねた。

 学園が備えるダートコースは本物のレース場と変わらない、水捌けの良い砂を使っている。

 とはいえ、つい先ほどまで降っていた雨の影響で地面は乾ききらないほどの水分を含んでいた。

 湿って固まった砂の感触は、泥に近い。

 不安定な足場はシルバーバレットにとって有利だ。

 

「私は構わない」

 

 シンボリルドルフは短く答えた。

 敵にとって有利となり、自らにとって不利となるコースを選んだのは全く打算的なものだった。

 シルバーバレットにとって情報収集が第一の目的となるならば、わざわざ重要な情報を渡す必要はない。

 今回の走りで彼女が知ることが出来るのは『不利な状況で走った相手の情報』だけだ。逆に、こちらは『実力を活かせる状況で走った場合の能力』を知ることが出来る。

 2000mはゴールドシップがデビュー戦で経験した距離だ。

 レース経験の差というハンデを抱える彼女には、僅かながら不利を消す要素となる。

 これが、今のシンボリルドルフに出来る精一杯の援護だった。

 そして、おそらくシルバーバレットはこれらの意図を察しているのだろう。

 お互いの思惑を読み切った上で言及しない、不文律のようなものが二人には成立していた。

 

「そうか。気を遣わせてしまったようで申し訳ない。せめて、私が勝っても『足場が悪かった』という言い訳くらいは通してやろう」

「はぁー!? 何でこっち見るんですか!? 何でゴルシちゃんの方見ながら言ったんですかぁー!?」

「ゴールドシップさん!」

 

 シルバーバレットに掴みかかろうとするゴールドシップを、メジロマックイーンが諫めた。

 ジョニィは先ほどから、ずっと無言のままだ。

 その表情から、何を考えているのか内心を読み取ることは出来ない。

 ゴールドシップの方も、そんなジョニィからあえて視線を外しているように見える。

 

(冷たい方、なのかしら……?)

 

 シルバーバレットへの敵意を大げさに見せてはいるが、ゴールドシップがこの場の誰よりも純粋にこのレースへ臨もうとしていることは、メジロマックイーンにも分かった。

 打算や策謀など挟まない、愚直なほど真っすぐな勝利へ向かう意思を感じる。

 やはり、初めて見るゴールドシップの姿だった。

 そんな彼女に、あろうことか『勝ち目はない』と伝え、それ以上何も言わないジョニィがこのレースに何を見出しているのか。

 メジロマックイーンは酷く気になりながらも、今この場でそれを口にすることは出来なかった。

 いずれにせよ、この勝負の結末を見届けなくては何も分からない。

 

「それでは各バ、ゲートに入ってください」

 

 本番をシミュレートする為に、コースには本物さながらのゲートが用意されている。

 シルバーバレットを挟むようにして、3人は隣り合うゲートへと入っていった。

 その途端、シンボリルドルフとゴールドシップを得体の知れない重圧が襲った。

 すぐ隣のゲートに怪物が入っているかのように錯覚する威圧感。

 それはレースに臨む時のシルバーバレットが放つプレッシャーに他ならない。

 並のウマ娘ならば、走ることも忘れて立ち竦むしかない威圧の中、しかし左右の2人は眉一つ動かさなかった。

 

「――ほう。少なくとも、この私の隣に立つ資格はあるようだ」

 

 シンボリルドルフとゴールドシップは一笑に伏した。

 

「コケ脅しをする暇があるならレースに集中することだ。中央を無礼(なめ)るなよ」

「アタシが動揺するのは、隣のゲートにウ〇コが落ちている時くらいだぜ」

「こらっ、ゴールドシップ。汚い言葉を使うんじゃない。折角、中央の学園に在籍出来る生徒は皆すごいんだぞ、というアピールをしたのに」

「いいんだよ、コイツなんかもうウ〇コみたいなモンだ」

「ゴールドシップさん、始めますわよ!」

 

 騒がしいやりとりを交す二人の間でシルバーバレットが面白そうに笑いをこらえる中、メジロマックイーンの注意が飛ぶ。

 今度こそ、レースの開始を前にした本当の緊迫感が3人の間に走った。

 自然と軽口は閉ざされ、周囲は静まり返る。

 お互いがお互いの放つプレッシャーに呑まれてはいない。

 これが公式のレースではないことが惜しまれるような、勝負の行方の見えない緊張感を抱きながら、メジロマックイーンは隣にいるジョニィへ目で問い掛けた。

 無言で返された頷きが、答えとなる。

 ゲート開閉の遠隔リモコンを頭上に掲げ、ハッキリと見えるようにスイッチへ指を掛ける。

 メジロマックイーンは大きく息を吸い、声を張り上げた。

 

「――スタート!」

 

 合図と同時にスイッチが押し込まれ、ゲートが解放された。

 3人が飛び出したのは、ほとんど同時だった。

 誰も出遅れなど起こさない。

 歴戦のウマ娘であるシルバーバレットとシンボリルドルフはもちろん、ゴールドシップも2人に対して全く劣ることのない完璧なスタートを切ってみせた。

 水を含んで泥のようになったダートを蹴散らし、3人が最初の直線を走る。

 

「……やっぱり、こういう形になったか」

 

 レース場に着いて以来、ジョニィは初めて言葉を発した。

 その呟きを聞き取ったメジロマックイーンが、改めてレースの進行状況を観察する。

 先頭を走るのはシルバーバレット。

 そのすぐ後ろにゴールドシップ。

 少し距離を置いて、シンボリルドルフが最後尾を走っている。

 シンボリルドルフが後ろを走っているのはスピードで劣っているからではなく、間違いなく作戦だった。

 オーソドックスではあるが、序盤は後方に控えて脚を溜め、後半で差すつもりなのだろう。

 同時に、シルバーバレットの走りを観察する意図も含んだ上での位置取りだった。

 先頭を走るシルバーバレットがそういう逃げの作戦なのか、あるいは本気で走っているのかは、メジロマックイーンには分からなかった。

 彼女の全力の走りを理解しているのは、恐らくジョニィだけなのだ。

 そして、それに追従するゴールドシップは――。

 

「ジョースターさん……これは、拙いのではないですか?」

 

 思わず、メジロマックイーンはジョニィに問い掛けていた。

 ゴールドシップの走りには『逃げ』や『差し』といった作戦はなく、ただ目の前を走るシルバーバレットを追っているだけのように見える。

 真後ろにピタリと張り付くような位置取りも、それを裏付けているような気がした。

 水気を含んだ地面は靴底に張り付き、地面を蹴ると同時に後方へ飛び散る。

 すぐ後ろを走るゴールドシップは、胸や肩にそれを受けて、服を汚していった。

 汚れるだけならば、まだいい。

 高速で走る中降りかかる土や泥は、少量であっても反射的に脚を竦ませる。

 些細なことではあるが、精神的にも肉体的にも良いことはない。

 シンボリルドルフが距離を取っているのは、そういった影響を避ける為でもあるのだ。

 ゴールドシップの位置取りは悪手としか思えなかった。

 やはり、シルバーバレットにこだわる余り、冷静な判断が出来ていないのではないか。

 

「いいや、位置は問題ない。あの『位置』がスゴクいいッ! あの『位置』がベスト!」

 

 ジョニィは力強く断言した。

 

「そ、そうなのですか?」

「ゴールドシップが知っててやってるのか不明だけど、あれは『風圧シールド走法』だ。前走バの向かい風の死角に尾けて風圧による疲労と速度低下を避け、脚力を温存する作戦だ」

「理屈では分かりますが、死角となる位置を維持するには相手とかなり接近しなければなりません。脚同士の接触事故さえ起こり得ます! 危険ですわ!」

「確かにリスクはある。だが、ベテランの走りに追従するという判断は経験の差を埋めるという点でも正解だ。3人という少人数だからこそ、接触のリスクを大きく減らせる。元より、リスクで怯むような奴じゃあない!」

 

 メジロマックイーンは、その言葉からゴールドシップへの理解と信頼を感じ取った。

 同時に、彼女の走りが抱える危険性をジョニィが案じていることも察することが出来た。

 彼の顔には、緊張感から来る汗が滲んでいる。

 

「……だが、これは『観客の見ているレース』じゃないし、相手は『シルバーバレット』だ! 気を付けろ、ゴールドシップ! 仕掛けてくるぞッ!」

 

 いつの間にか、ジョニィは手に汗を握り締め、前のめりの焦燥感に突き動かされるまま叫んでいた。

 かつて、彼女の走りを初めて見た時のように。

 

 

 

 

 

 

(まさか、この私をシールドに使うとはな――)

 

 背後にピッタリとくっついたまま離れないゴールドシップの気配を感じながら、シルバーバレットは面白そうに笑った。

 先頭を走る者が後方に対して『追いつけない』という焦りを与えるように、後方を走る者は先頭の者に『追い抜かれるかもしれない』という恐怖を与える。

 全く引き離されることなく追従するゴールドシップのプレッシャーは凄まじいものだった。

 並のウマ娘ならば、その重圧に耐えきれずに動揺し、ペースを崩してしまう。

 レースの終盤、ゴールを目の前にして背後にある気配が爆発し、次の瞬間自分を貫いて飛び出していくのではないかとさえ錯覚するだろう。

 しかし、シルバーバレットにはレース全体の状況を観察する余裕すらあった。

 

(その若さにして走力も判断力も、加えて度胸も申し分なし。だが、あのジョニィ・ジョースターをトレーナーとするウマ娘が持つ『一番の脅威』を、こいつはまだ見せていない)

 

 最初のコーナーを曲がり、再び直線に入る。

 気配を絶ったかのように静かなシンボリルドルフにも気を配りつつ、シルバーバレットはゴールドシップに意識を集中した。

 

(お前はあの『技術』を持っているのか? いないのか? 温存しているというのなら、少しばかり揺さぶりを掛けてやろう)

 

 走る最中、一瞬だけ姿勢を低く沈める。

 その変化にゴールドシップが気付いた時には、既に遅かった。

 

(あの『SBR』の道無き道に比べれば、ここのダートはまるで整えられた絨毯の上を走るようだなァ――!)

 

 シルバーバレットが、地を這うような前傾姿勢の状態で加速した。

 それに反応するよりも早く、背後のゴールドシップの顔面を土と泥が襲った。

 

「ぐぅ……っ!」

 

 背後からわずかに上がる呻き声を聞いて、事が成功したのを確認する。

 加速をする為深く踏み込んだついでに、意図して地面を蹴り上げ、後方へ『つぶて』のように巻き上げてよこしたのだ。

 傍から見れば、それが狙って行われた妨害行為なのか単なる事故なのか、酷く判断が難しい動きだった。

 可能性があれば審議されただろう公共のレースではあり得ない、伝統のイギリスレース界の外にあるラフプレーだ。

 張り付くように背後を陣取って走っていたゴールドシップには避けようがなかった。

 動揺で集中力を切らされ、眼に土や泥が入れば視界を塞がれた状態になる。

 そんな状態で、まともに走れるわけがない。

 顔の泥を拭い、一度切れてしまったレースへの集中力は精神的に立て直すだけでも大きなロスだ。

 場合によっては脚さえ止まってしまうだろう。

 ――普通ならば。

 

(――何ッ!?)

 

 だが、止まらなかった。

 背後から迫る気配は、一瞬たりとも遠ざかることはなかった。

 思わず視線を走らせたシルバーバレットは、却って自らが動揺させられることになった。

 ゴールドシップは全く怯むことなく走っていた。

 顔面を土と泥で汚しながらも、それを拭う仕草さえ見せない。

 眼の中に泥が入っても瞬きすらせずに見開き、口に入った砂利を噛み締めながら息を吐き、鬼気迫る表情で眼前の背中を睨みながら走り続けていた。

 

「止まると思うなよ……」

 

 口を動かすとガリガリと不快な感触がする。

 視界は不鮮明な上に激痛が走る。

 しかし、それでも彼女の内側で燃え上がる炎は揺るがない。

 前へ踏み出せという意思の炎は。

 

「これしきのことでよォォォーーーッ!!」

 

 泥と汗の混じったものが、高温を発する肉体の表面で蒸発し、白い湯気となって立ち昇っていた。

 それを纏いながら、ゴールドシップは最後のコーナーを曲がり切る。

 そして、最後の直線。

 ここまで敵の背後に甘んじてきた鬱憤を晴らすかのように、ゴールドシップは脚力を爆発させた。

 泥にまみれながら充血した眼で迫る姿は、かつてない強大なプレッシャーとして目の前を走る者を圧し潰そうとする。

 

「――なるほど。お前を過小評価していたようだ、ゴールドシップ」

 

 しかし、前を走るのはシルバーバレットだった。

 世界を制したがゆえに『世 界(ザ・ワールド)』と呼ばれるウマ娘だった。

 

「だがッ! 無駄だッ!」

 

 シルバーバレットの瞳の奥で『漆黒の炎』が燃え上がる。

 

「無駄無駄無駄ァ!!」

「何!?」

 

 追い抜こうとするゴールドシップを突き放すように、シルバーバレットが加速した。

 ここに至るまでの走りとは明らかに違う、彼女の『本気』だった。

 

「マヌケが……知るがいい! 『世 界(ザ・ワールド)』の真の力は、まさに『世界を制する』力だということをッ!!」

 

 その加速は一時的なトップスピードを発揮するだけのような甘いものではなかった。

 限界が無いかのように『加速し続けて』いる。

 あらゆるウマ娘の常識を覆すような、信じられないほど鋭く伸びる末脚だった。

 

「バカな! 単純な脚力の差じゃねーだろ、コレ……ッ!?」

 

 徐々に引き離されていく背中を、ゴールドシップは信じられない気持ちで睨みつけることしか出来なかった。

 確かに凄まじい末脚だが、何故こうも容易く差が開いていくのか。

 走る速度以外にも違いがあるとしか思えなかった。

 ジョニィの言っていた『不整地を走ることに慣れている』という意味はこのことなのか。

 しかし、理屈が分からない。

 水に濡れて踏み込みが効きにくいダートの上を走っているのは、全員同じだ。

 地面に点在する硬さと柔らかさが異なった領域同士を繋ぐ、幾つもの『ライン』――。

 その中でも最速で有利に走れるベストの『ライン』を、シルバーバレットは優れた感覚と経験で見極めながら走っているというのか?

 彼女には分からなかった。

 

 ――『君はシルバーバレットには勝てないッ!』

 

「うっせーぞ、ジョニィ! 黙ってアタシを信じねぇか!」

 

 もはや策も力も出し尽くした。

 スピードは上がらない。

 差も縮まらない。

 むしろ、離されていく。

 精神的な動揺をきっかけに乱れた呼吸が、スタミナの消耗と共に更に荒れていく。

 必死に走り続けるゴールドシップの視界に、ゴール付近で待つジョニィの姿が映った。

 彼は叫んでいた。

 自分と同じように必死で叫んでいた。

 何をそんなに必死になるというのか。

 この結末を予想したのは、彼自身だったのに。

 

「クッソォォォーーーッ!!」

 

 心がグチャグチャになる。

 ただ手足だけは死ぬ気で動かした。

 だが、そんな行為はゴールを目前にして『追いつけない』と絶望したウマ娘が皆やるようなことだ。

 足掻くゴールドシップの傍らを、実体のない影のようなものが音もなく走り過ぎていく。

 

「やはり来たか、シンボリルドルフッ!」

 

 ゴールドシップに代わってシルバーバレットに迫るのは、それまで気配を消し、焦りを殺し、限界まで溜めていた『皇帝』の末脚だった。

 応える言葉は無く、ただ冷静に、氷の刃のように鋭く差し迫る。

 純粋な身体能力だけでは説明出来ないスピードは、彼女もまたシルバーバレットのような『ライン』が見えている証拠だった。

 ゴールの直前、シルバーバレットとシンボリルドルフの差が限界まで縮まった。

 審判を担当するメジロマックイーンの眼でさえ、その差は見極められない。

 ほとんど同時に、人の形をした2つの弾丸がゴールを飛んで過ぎていった。

 

 ――レースは終わった。

 

 ゴールドシップがそこを通ったのは、5バ身ほど離された後のことだった。

 

 

 

 

 

「レースの結果は……申し訳ありません。わたくしの眼では判断出来ませんでしたわ。お二人は、ほとんど同時にゴールしたように見えました」

 

 メジロマックイーンは、シルバーバレットとシンボリルドルフに乾いたタオルを手渡しながら告げた。

 さすがに写真判定用カメラなどの設備は備えていない。

 肉眼で見る限り、2人がゴールする瞬間はハナ差すらなかったように見えた。

 違う位置から見ていたジョニィにも正確な判定は下せない。

 ハッキリとしているのは、ゴールドシップが3着だったことだけだ。

 

「なるほど。ならば、この勝負は私の負けということにしておこうか」

 

 軽くかいた汗を拭いながら、シルバーバレットが事も無げに告げた。

 

「こちらの有利な条件で、ほぼ同着だったのだ。とても胸を張って自分の勝利だなどと誇れんな」

「……そうか。では、私も1着は辞退させてもらおう。明確な勝利を刻めなかった、自らへの戒めとして」

「好きにするといい」

 

 牽制し合うように言葉を交わすと、2人はあっさりと勝敗に関する議論を放棄した。

 お互い、そこに意義を見出してもいなければ、こだわりも持っていない。

 このレースが持つ意味を表も裏も知っている。

 本当の決着は、いずれ別の機会に果たされることになるだろう。

 

「……ゴールドシップさん」

 

 2人とは離れた位置で座り込むゴールドシップの傍に、メジロマックイーンはそっと歩み寄った。

 汗だくの顔を俯かせて、肩を大きく上下させながら息を整えようとしている。

 ゴールして以来、一言も口にすることはなかった。

 ジョニィの方を見るどころか、顔すら向けようとしない。

 メジロマックイーンは、黙ってタオルを頭に被せ、彼女の今の表情が誰にも見えないようにした。

 

「ゴールドシップ、君は……」

 

 ジョニィが何かを言いかけながら近づく。

 しかし、上手く言葉が紡げなかった。

 苦悶の表情を浮かべ、レースの時から握り締めたままの拳を震わせながら、なんとか言うべきことを形にしようとする。

 

「いや……僕は……」

「――『言い訳』は、通じないぜ。ジョニィ・ジョースター」

 

 不意に、全く予想もしない方向から、この場の誰のものでもない声が割り込んだ。

 学園の生徒が近づかないように指示したはずのレース場に、いつの間に居たのか、1人の男が佇んでいた。

 その存在に気付いたジョニィとシルバーバレットが、互いに全く正反対の反応を見せる。

 

「お前は……Dio!」

「来たか、我がトレーナー!」

 

 ジョニィが完全なる敵意をもって睨みつけ、シルバーバレットが嬉しげに両手を広げて迎え入れる。

 ディエゴ・ブランドー――シルバーバレットのトレーナーにして、彼女の伝説を築いた立役者が、そこにいた。

 初めて対面するメジロマックイーンとシンボリルドルフは、僅かに身構えた。

 テレビの画面越しに彼の顔や言動は知っていたが、直に出会ってその人柄や性格といったものを感じ取ることが出来た。

 整った顔に浮かぶ不遜な表情や態度。その瞳に奥に暗く燃える野心や野望といったものが、彼の全身から滲み出ているようだった。

 ジョニィが嫌うのも無理はない。

 合わない人間にはとことん嫌われるタイプだろう。

 シルバーバレットによく似た、色で表現するならば『黒い気配』を纏った男だった。

 何処か危険な『匂い』のする男だ――ウマ娘である2人は本能的にそう感じ、忌避感を抱いた。

 

「私のレースを見ていたのか?」

 

 そんな周囲の反応を尻目に、シルバーバレットはディエゴの傍へ寄り添うように歩み寄った。

 

「ああ、見ていたよ。シルバーバレット、お前の勝ちだ」

「そうか。君がそう言うのなら『そういうこと』にしておこう。『どうでもいいこと』だ、ここでのレースなど」

「ああ、完全に理解した。もう、この学園に用はない。さっさと帰るとしよう」

「分かった。必要なことは、後で話すとしよう」

 

 2人だけで言葉を交わし、ジョニィ達からあっさりと背を向ける。

 つい先ほどまで行われていたレースの緊張やその余韻すら残っていないかのように。

 ディエゴとシルバーバレットは、この場から立ち去ろうとしていた。

 

「――待てッ、Dio!」

 

 それを呼び止めたのはジョニィだった。

 ディエゴが足を止めて、振り返った。

 

「何だ? オレに何か言いたいことがあるのか? ジョニィ・ジョースター。『言い訳』は聞かないと言ったぜ。お前らが……負けた『言い訳』はな」

 

 車椅子に座るジョニィを自然と見下しながら、ディエゴは吐き捨てるように言った。

 取るに足らないものを見る眼だった。

 

「改めて、再認識したよ。お前らはオレ達の敵じゃあない。ただ目障りなだけだ。本当の決着をつけたいというのなら、世間が納得する完全な形でつけてやるさ。面倒だけどな。オレを呼び止めたのが『敗北宣言』なら、聞いてやるぜ」

 

 あまりに傲慢が過ぎる発言に、メジロマックイーンとシンボリルドルフも眉を顰めた。

 しかし、ジョニィは黙って睨みつけたまま、ゴールドシップに至っては何の反応も見せない。

 ディエゴは、そんな2人の様子を一瞥すると、鼻で笑って再び背を向けた。

 

「言いたいことがないんなら、オレはもう行くぜ。暇じゃあないんだ、スターはな。この日本で、色々とやることがあるんだ」

「……そうだな。大したことが、言えるわけじゃないんだ」

 

 ディエゴの背に向けて、ジョニィは言った。

 

「結局、僕が君に負けたのはどうしようもない事実だからな。今、この場で言えるのは本当に大したことじゃない……ただ、どうしても一つ、宣言しておきたいことがあるんだ」

 

 ディエゴとシルバーバレットの背が遠ざかっていく。

 2人に向けて、ジョニィは短く、しかしハッキリと告げた。

 

「――君達は、僕とゴールドシップが倒す」

 

 それは、ジョニィが初めて見せた、今後のレースに向けての明確な意思表示だった。

 彼の瞳には、決意と覚悟の炎が燃えていた。

 ディエゴは一瞬だけ足を止め、そしてすぐに歩みを再開した。

 そのまま振り返ることもなく、2人は学園を去っていった。

 

 

 

 

 

 

「ゴールドシップは、未だジョニィ・ジョースターからスローダンサーのような『技術』を教わってはいない。まず、間違いないだろう」

 

 学園を後にしたシルバーバレットは、迎えの車の中でディエゴに収集した情報を伝えていた。

 

「隠している様子でもなかった。今回のレースで見た、あれが彼女の現在の全力なのだろう」

「現在の……含む言い方をするじゃあないか」

「秘めた素質は素晴らしい。これは素直な称賛だ」

 

 学園でのレースを思い出しながら、シルバーバレットは楽しげに笑った。

 

「彼女ならば、ジョニィ・ジョースターの指導の下でなくとも、この私に届き得る才能を持っていると判断する。そこに、あの『技術』が加われば、いずれ本当に我々の前に立ちはだかる障害となるかもな」

「へえ、そうかい。だが、その『いずれ』ってのはいつの話だ?」

 

 ディエゴは興味などないといった様子で切り捨てた。

 

「3年後か? 5年後か? 奴らが必死こいてトレーニングを積み重ね、健気に実績を稼いでいって、お前に届き得る存在になったとしても、もうその頃にオレ達は同じ舞台に立っちゃいない。そんな格下を、相手にしなくちゃいけない立場にはな」

「ああ、そうだな。奴らが今からあの『技術』を身に着ける準備を始めたとしても、それが脅威となるのはずっと先のことだろう」

「フン、そもそもオレは脅威だなんて思っちゃいない。油断するのはバカのやることだから、警戒を払っているだけだ。シルバーバレット、お前に勝てるウマ娘など存在しない」

 

 シルバーバレットに顔を寄せて、ディエゴは囁いた。

 

「いいか、あんな奴ら相手にするだけ時間の無駄なんだ。オレ達は勝ち続けて『社会の頂点』に立つ。どいつもこいつも、オレ達の下につけてやるんだ!」

「分かっているとも。我々が頂点に立つ。私は誰にも負けない」

 

 シルバーバレットは嬉しそうに微笑みながら、ディエゴの瞳を見つめ返した。

 巨大な富と権力を手に入れ、栄光を掴み、賞賛に囲まれながらも尚止まらない飢えた獣のような瞳を。

 

「ジョニィ・ジョースター。お前らが先を行くオレ達に追い縋りたいというのなら……好きにすればいいさ。オレ達がとっくに通り過ぎた道の『足跡』くらいは追わせてやる――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 

 




ゴールドシップはボーボボみたいな理不尽ギャグの権化で、周りを振り回してばかりで、たまに痛い目見て、でもいざという時にはシリアスもこなして、ヤバイ状況でも何とかなるような安心感をくれる名脇役だと思います。
でもなぁ、オレはお前が主役のスポ根が見たいんだよゴルシィ……!


・おまけ

SBR版ウマ娘『スローダンサー』
才能なし・実績なし・将来性なしの三重苦を背負ってすっかりいじけてしまった陰キャソバカス年増のウマ娘(メカクレか野暮ったい眼鏡か悩む)
『SBR』のスタート地点で彷徨っていた所をジョニィに(金で)誘われ、キレて半殺しにする。
しかし、一晩中付きまとわれ、恥も外聞もなく縋りつかれて最終的に彼の頼みを受け入れ、レースに参加することになる。
その後、何度も死にそうな目に遭いながらも、ジョニィと共にジャイロやヴァルキリーから多くを学ぶことで限界を越えて成長し、最終的に2着という栄光を手にする。
レース後は都会の有名なウマ娘育成機関の講師に就任することに成功した。
ジョニィの世話をしながらその後の人生を送るつもりでいたが、傷心の彼を想って密かに国内から送り出す手助けをした。
でも、未だにジョニィには未練たらたら。

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