レースの固有名詞が描写されないのは、その辺の知識不足のせいです。
『作中の時系列や流れ的に、このレースは〇〇(レース名)にした方がいい』という指摘がありましたら、是非教えてください。
――貴方は『絶対に負けたくない』とは言ったけれど『優勝したい』とか『勝ちたい』とは言わなかったわ。
――考えておいて欲しいの。ゴールを抜けた先で、貴方がどんな人生を思い描いているか。
――貴方の言う『ゼロ』から先の未来で、どんなことをしたいのか。どんなものを見たいのか。
――それがなければ、例え貴方の脚が動いたとしても納得のいく道を進めるとは思えないわ。
……今でも、僕の中で完全な答えは出ていない。
僕が『SBR』に参加したのは、完全に僕個人の理由だった。
優勝して黄金のトロフィーや勝利の栄光をこの手に掴みたいだとか、そんなことは少しも考えていなかった。
ゴールの先に輝かしい成功の未来が待っているなんて思っていなかったんだ。
ただ、僕はゴールを通り抜けた時、その後に続く道を自分の脚で歩いていけたらよかったんだ。
少なくとも、僕はそれを望んでいた。
最初のスタートラインを踏み出した時は――。
太平洋のサンディエゴから始まったレースは、100日以上の長い期間を経て大西洋のマンハッタン島で終結しようとしていた。
第8ステージのゴールは、そのまま最終ステージのスタートとなり、選手はそれぞれ待機しているボートでニューヨーク州ブルックリン地区コニー・アイランドまで渡ることになる。
1位から着順ごとに15秒間隔で各ウマ娘がスタートし、約13kmの市街地を走るのが『SBR』レース最後の第9ステージだ。
ポイント制のレースにも関わらず、この終盤で他の選手を大きく引き離す単独1位のウマ娘はいなかった。
優勝圏内にいるのは4名――僕のスローダンサーもその内に入っていた。
『なあ……!』
アッパー湾を渡るボートの中で僕は苛立っていた。
ボートが出る順番は、第8ステージのゴールの着順だ。
僕達は第8ステージを5位で入着してしまった。
『なあってばッ! もっとスピード上げれないのかッ! 遅いぞッ!』
冷静に考えて、ボートが着いた後のスタート順はもう決まっているんだ。ここで前のボートを追い越しても何の意味もない。
焦っていたんだ。
あの時の僕は、何かに急き立てられているようだった。
胸を掻き毟りたくなるような気分だった。
『まさか、お前Dioから妨害の為のワイロを貰ってるんじゃないだろうな!?』
『ジョニィ! こっち……こっちに来て。落ち着くのよ』
スローダンサーがいなければ、僕はボートの船員にもっととんでもない暴言を吐いていただろう。船を降ろされていたかも……。
彼女は僕を抱えて、誰もいない甲板の隅へと連れて行った。
『離してくれッ! この程度の距離なら君の手伝いは要らない……要らないんだ! 例え脚が動かなくったって、この程度! クソッ!』
気持ちの整理がついていなかった。
第8ステージで、ジャイロが死んだんだ。
表向きは『事故』ということになっている。しかし、実際にはもっと事態は複雑だった。
これだけ大きなレースだ。多くの参加者がいる中で、様々な国籍のウマ娘や人間が関わり、そこには国家だとか組織といった個人を越えた勢力の思惑も絡んでいる。
つまり、誰かが誰かを勝たせたくて、その為にレースの外から『妨害』という手段に出る奴らもいたって話だ。
詳しい事情は分からない。
多分、機密だとかそういう世間に公表出来ない部分が多くあるのだろう。
確かなのは……第8ステージの終盤で僕達は大規模な『妨害』に巻き込まれた。
僕達だけじゃない、レースの先頭集団だった多くのウマ娘やトレーナーが巻き込まれた。
複数の勢力が入り混じった、巻き込み事故みたいな混沌とした状況だ。
ジャイロはその中でヴァルキリーを……そして、結果的に僕とスローダンサーを庇って、致命傷を負った。
僕自身も怪我を負ったが、重傷ではなかった。ジャイロのおかげだ。
ジャイロは、死んだ。
ヴァルキリーは、走ることを止めた。
僕とスローダンサーは……レースを、続けることにした。
『……どうして、僕を担いで走ったんだ』
スローダンサーは怪我をした僕を背負って、第8ステージを走り抜いた。
結果、彼女は『5位』になった。
そして……Dioとシルバーバレットは『1位』で第8ステージをゴールし、リードしていたポイントを逆転されてしまった。
『君1人で走れば、きっと1位でゴールに滑り込めたはずだ。Dioの優勝の可能性を潰すことが出来た』
『怪我をした貴方を放ってはおけなかった』
『放っておけばよかったんだ、僕のことなんて! トレーナーがいなくてもウマ娘は走れる! ルール上、何の問題もない!』
『走れないわッ!』
スローダンサーは、僕の胸倉を掴み上げて怒鳴りつけた。
思えば、出会って以来僕は彼女を怒らせてばかりいた気がする。
『トレーナーが信じなければ、ウマ娘は走れない。お願い、自棄にならないで。ゴールするって決めたんでしょう?』
……何故、僕はレースを続けようと思ったのだろう?
スローダンサーは、元々僕がレースに参加する為に頼み込んだウマ娘だ。
もちろん、彼女にも報酬はある。走り切れば、賞金と栄光が手に入る。
だけど、彼女が最初に走り始めたのは僕の願いの為だ。
そして多分、最後まで走ってくれるのも同じ理由だった。
僕の願い……。
このレースで得ようとしたもの……。
結局、僕の脚は動かなかった。
可能性を知るジャイロも失ってしまった。
僕は未来だけじゃない、大切な友も失ってしまったんだ。
本当に手にしたかったものは、ゴールの先には存在しない……なのに、何故?
それを考えようとすると、今でも頭の中にレースの記憶が幾つも思い浮かんで、答えの形が薄れていく。
自分の脚で歩けるようになりたかった。
ジャイロを失いたくなかった。
Dioに負けたくなかった。
4人でもっと旅を続けたかった。
僕は――。
『第9ステージはおよそ30分で決着がつく市街戦。最後のコースでは、貴方達トレーナーが介入する余地はないわ。ウマ娘だけの戦いになる。やれることをやりましょう、今の内に』
『ああ……そうだな。その通りだ。地図を出してくれ。ルートを、考えないと……それから』
『……ジョニィ。貴方は――』
今でも、僕の中で完全な答えは出ていない。
あの時彼女が言った、ゴールの先で思い描くものについては……。
レースの結果は、知っての通りだ。
スローダンサーは、シルバーバレットに負けた。
世間は『2位』の彼女を称賛した。
そのトレーナーである僕を喝采した。
この『SBR』レースを完走した者達を等しく称えた。
多くの参加者が、多くのものを得ただろう。上位の者ほど、より多くのものを――。
僕は何を得たのだろう?
レースを終えて、ジャイロやヴァルキリー、スローダンサーとさえ別れて独りになった時に残ったのは、途方もない喪失感以外には『敗北した』という強い思いだけだった。
僕は、勝ちたかったのだろうか?
少なくとも、僕はスローダンサーがシルバーバレットに敗北する姿なんて、絶対に見たくはなかったんだ。
自分の信じたウマ娘が、打ちのめされる姿なんて……。
今、僕は再びレースに出ようとしている。
敗北して逃げた先で出会ったゴールドシップと共に、あのDioとシルバーバレットのコンビに挑もうとしている。
あの時の答えを出す為に――。
◆
ディエゴ・ブランドーとシルバーバレットが学園を訪れたあの日から1週間が経過していた。
3人で行った模擬レースの状況こそ部外者には知られていなかったが、学園のホールで世界的に有名なウマ娘と一触即発の状況になったこと、その後実際に3人がレースで激突した事実は生徒達の間で広く知れ渡っていた。
情報が錯綜しているとはいえ、騒ぎが学園内で収まっているのは僥倖と言っていいだろう。
無責任に外部に漏らす者や、噂を聞きつけてデマを広める悪質な記者などもいない。
ディエゴ達が話題作りに自ら情報を広めることもなかった。
「――しかし、やはり彼らが日本に来た目的は別にあったな」
学園の生徒会室。
本来ならば関係する役員以外入れない場所で、シンボリルドルフとジョニィは顔を突き合わせて、タブレットに表示された1つの情報に視線を落としていた。
あの日の騒動の当事者として、定期的に話し合う機会を設けている。
この事態には、信頼出来る例外として生徒会役員のエアグルーヴだけが関わっていた。
「つい先日の記者会見です。シルバーバレットを同伴させて、ディエゴ・ブランドーが大々的に発表しました」
エアグルーヴが今朝の記事の一面を見せた。
「半年ほど日本に滞在し、その期間でレースに参加する。しかも、1つや2つではない。10回のレースに参加して全て勝利する、と」
「僕も日本のレースに関してはこの学園に就任する際に勉強したけど、どれも有名なレースばかりじゃないか?」
「その通りだ……その通りです」
「いや、敬語はいいよ。エアグルーヴ……僕って苦手に思われてる?」
「そうじゃない。『ジョースター』という苗字が苦手なだけだ」
「どういうこと?」
「とにかく、話を続けるぞ」
咳払いをするエアグルーヴと傍らで苦笑を浮かべるシンボリルドルフ。
2人を不思議そうに一度見回して、ジョニィは話の本筋に集中することにした。
「これは様々な面で問題発言だった。記者会見後の反響は凄まじい。マスコミはこぞって好き勝手に書いているな」
「実質、日本のウマ娘に対する宣戦布告だからね。分かりやすく盛り上がるだろう」
しかも、その発言をしたのが3か月前に『SBR』で優勝し、今でも話題になり続けているウマ娘とそのトレーナーなのだ。
ジョニィ・ジョースターとの因縁が記憶に新しく、2年後の『URAファイナルズ』まで繋ぐ話題を探す必要すらない火種が向こうから飛び込んできた。
日本のレース業界は、今や最高潮の盛り上がりを見せている。
良くも悪くもだが。
「いくら話題性が高まるとはいえ、こんな発言では批判も多いだろう」
「ネットでの反応は半々といったところです」
僅かに眉を顰めるシンボリルドルフに対して、エアグルーヴは収集した情報を答えた。
2人とも国内では相応の実績を持つ、日本の代表格とも言えるウマ娘だ。
だからこそ、学園を管理する生徒会の地位に就いている。
ディエゴとシルバーバレットの宣言は、2人の立場からしても今後に大きく関わりのあることだった。
「シルバーバレットには『SBR』を優勝した以前に、イギリスでの実績もありますからね。国内にもファンは多かったようです」
「Dioは日本がアウェーであることを理解している。敵を作ることは、きっと承知の上での発言さ」
「となると、やはり目的は2年後の『URAファイナルズ』に向けての地固めか……」
「多分ね。アメリカやイギリスと比べると、日本は純粋なファンの力が強いと思うよ。国家や一部の上流階級よりもレースへ与える影響が大きい」
外国人としての視点で、ジョニィが答えた。
ウマ娘がレースで勝てば、当然ファンがつく。
ファンが増えれば国内の人気が高まり、そのウマ娘の参加するレースは注目され、盛況になる。
そして、やはりファンというものは自分の応援するウマ娘の勝利を望んでレースを見に来るのだ。
ただ強いだけでは、ただ勝つだけでは、歓迎されない。
ファンの多いウマ娘を負かすことで、勝ったウマ娘がかえってブーイングを受ける場合もある。
そういった面で見れば、外国のウマ娘が日本のレースで勝つことは純粋な結果以上に難しい問題だった。
「あえて過激な発言で注目を集め、レースに勝つことで日本での地位を固めるつもりか。最初は批判も多いだろうが、短期間で10回も勝てば世間の認識も変わる。返す手のひらも多くなるだろう」
エアグルーヴが苦々しげに呟いた。
無謀で愚かな発言だと一笑に伏すには、シルバーバレットの刻んだ伝説は大きすぎた。
「日本のレースの規約的にはどうなんだい。外国のウマ娘がこんなに好き勝手に参加出来るものなのか?」
「複雑なところではある」
ジョニィの質問にはエアグルーヴが答えた。
「実際に、過去グラスワンダーなど一部の海外出身のウマ娘が国内固有のレースへの参加を却下された事例がある。しかし、その後ファンの運動で無事参加出来ることになった」
「つまり、業界の決定を曲げてしまった前例があるのか」
「そういうことだ。ファンの力が強いというのは、確かな話だな。特に現在、『SBR』の影響によってグローバル化という名の規則の形骸化が起こりつつある。シルバーバレットの参戦は歓迎されるだろう。ファンにもアンチにもな」
「勝利も敗北も望まれている。Dioの挑発に、まんまと乗った形になるわけだ」
「日本のウマ娘は世界にも負けない、とマスコミは美辞麗句で煽り立てるだろう。参加を拒否すれば日本のレース業界は逃げ腰、実質奴らの不戦勝だ。完全に扇動されてるよ、やり口がまるで政治家だ!」
「実際、Dioの奴はトレーナーを辞めたら政治家を目指すと思うよ」
悪態を吐くエアグルーヴに、ジョニィが淡々と返した。
ディエゴ・ブランドーという男の本質を理解している。
彼は天性の才能があったからこそトレーナーになった。
しかし、それはあくまで社会の頂点に上り詰める為の手段の一つに過ぎないのだ。
「事前に日本で自らの存在をアピールし、一定のファンを獲得しておく。下地を作った上で2年後の大会に臨み、優勝を掴むことで日本国内での地位を確固たるものにする――これが彼らの計画の概要というわけだな」
それまで黙って情報を整理していたシンボリルドルフが、簡潔な形で話を纏めた。
「半年で十連覇――勝つと思うか? シルバーバレットは」
エアグルーヴは、あえてシンボリルドルフではなくジョニィに訊ねた。
ディエゴの計画が現実のものならば、日本の主立ったウマ娘は全員彼らのターゲットだ。
いずれ自分達もシルバーバレットと争うことになるだろう。
敬愛するシンボリルドルフ本人にその予想を直接聞くのは、ほんの僅かだが恐ろしかったのだ。
会長は負けない。
自分も負けるつもりはない。
しかし、相手は『
シルバーバレットを相手にするということは、まさに世界を相手にすることと同義なのだ。
その強大な敵と渡り合い、今なお敵視されているジョニィの意見を聞きたかった。
「過去、Dioとシルバーバレットはイギリスで短期間での十連覇を成し遂げている」
ジョニィは私的な見解を避けて、過去の実績から答えた。
「ああ、それについては調べてある。ディエゴ・ブランドーとシルバーバレットがトレーナー契約を結んだ年だ。イギリスの主立ったレースを制覇した上で、最後は王族の観戦するレースで優勝し、コンビとしての知名度を世界的にも広めた」
「当時からシルバーバレットは勝って当たり前のウマ娘だった。だけど、短い間隔でのレースはどんなウマ娘でも疲弊させる。最初は無謀な挑戦だと言われてたよ。Dioの話題作りに天才が潰される、とね」
「実際に無謀だと思う。月に1、2回のレース間隔は過密なスケジュールだ。次のレースに向けての十分な休息も調整も挟む暇がない」
「だからこそ、トレーナーのケアや管理能力が重要になる。トレーナーが必要ないとまで言われたシルバーバレットの傍にいてDioの名が霞まないのは、それだけの能力を示したからだよ」
「ならば、今回もやってのけるか……」
「目的の為ならどんなものでも利用する! それがDioという男だ。シルバーバレットの溢れる才能を限界まで使って、今の地位を築き上げたんだ」
「……含む言い方だな。まるで、奴がシルバーバレットを利用しているように聞こえるぞ」
エアグルーヴの指摘に、ジョニィは黙り込んだ。
私見を避けたつもりでも、どうしても個人的な感情が入り混じってしまう。
彼の人生にとって、ディエゴ・ブランドーという男はそれほどの割合を占める存在だった。
特に、今は――。
「ディエゴ・ブランドーの情報は私も調べた。実績は素晴らしいが、黒い噂も多くある。例えば、彼が20歳の時財産を手に入れる為に83歳の老婦人と結婚した」
「……」
「その老婦人は半年後に死んだ。彼が殺したかもしれない、という噂だ。だが、そんな真偽不明の噂と実際の奴の能力に何の関係がある?」
「まあ、待ってくれ。エアグルーヴ」
シンボリルドルフが穏やかに制した。
「彼が言いたいのは、おそらく別のことだ。あのコンビの強さに関することだろう?」
「……ああ、そうだ」
「だったら、教えてくれないか。メジロマックイーンから聞いたよ。君はゴールドシップにも『勝てない』と断言したらしいが、何を根拠としてのものなんだ?」
シルバーバレットとは模擬レースではなく、本物の舞台で争うことになる――シンボリルドルフはもはや確信していた。
来るべきその時に備えて、彼らと渡り合ったジョニィの話はどんな些細なものでも参考になる
エアグルーヴも黙って注目する中、ジョニィは意を決したように小さく息を吐いた。
「シルバーバレットというウマ娘については、実力以外で語れることは少ない。彼女が何を考えてDioの傍にいるのかも分からない。ただ、彼女はDioによく似ていて、それを前提に僕の感じたことを語らせてもらう」
本来ならば、ゴールドシップに対して言おうとしたこと――そして、結局言えずにいたことを話し始めた。
「この日本は豊かな国だ。君達2人も含めて、この学園に在籍するウマ娘達は才能にも環境にも恵まれた者が多い。育まれた環境が、君達にレースへの『意義』や『意欲』を与えてきた」
「それに対して、あの2人は違う。奴らはあの地位に至るまで、あらゆるものを奪い取ってきた」
「特にDioはそうだ。下層階級で生まれた彼は、トレーナーとしての技術も地位も食べ物さえも奪い取って生きて来た」
「Dioは生まれた時から、運命までも『奪い取って』来た人間! 奴らは勝ち続けてなお『飢えて』いる! だからこそ、『強い』ッ!」
ジョニィの語る内容を、静かに聞き入れるシンボリルドルフと、納得のいかない表情を浮かべるエアグルーヴ。
「……つまり、貴様はこう言いたいのか? 我々日本のウマ娘は、ぬるま湯に浸かった惰弱さ故に負けると」
「『飢えなきゃ』勝てない。ただし、あんなDioなんかより、もっともっと気高く『飢え』なくては――」
ジョニィの言葉には、単なる精神論だと決めつけることの出来ない説得力があった。
世界を相手に渡り合った者としての重みがあった。
エアグルーヴがそれ以上何も反論出来ずに神妙に黙り込む中、シンボリルドルフが代わりに口を開く。
「君の言いたいことは分かった。文字通り住む世界が違うからこそ、我々の常識では計り知れないものがあの2人にはあるのだろう。それに対する警告として真摯に受け止めさせてもらう」
「ああ。具体的な話じゃなくて申し訳ないが……」
「いや、とても参考になった。ただ、だからこそ聞いておきたい」
ここまで気を張り詰めていたシンボリルドルフは、少し表情を和らげて訊ねた。
「何故、ゴールドシップにそのことを話さなかったんだ?」
「む……」
「君は彼女に『勝てない』と断言するだけだった。具体的な根拠を教えれば勝てるというわけでもないだろうが、私にはあえて君がそれを話さなかったように思えてね」
「……鋭いな、君は」
ジョニィは困ったように頬を掻いた。
「『飢える』ことがDioに勝つことに繋がると僕は思っていた……少なくとも、『SBR』の最中では」
観念したかのように、語るつもりのなかった話の続きを口にする。
「ただ一つのことを渇望し、どんな犠牲を払ってでも目的を達成する『漆黒の意思』こそが勝利に繋がると信じて、僕はあのレースを走り抜いた。それは間違いないと思う。今でも、そう思う」
――だが、あの日。
「見たんだ、僕は。ゴールドシップの走りに黄金のような輝きを見た」
彼女は、あの日初めて出会ったジョニィ・ジョースターという男の為に走った。
浜辺で何の目的もなく座り込んでいた、彼女の言う『暇そうな奴』に見せる為に、自分を限界に追い込むような無茶苦茶なやり方でゴールまで走ってみせた。
「彼女はあの時、勝利に飢えていたか? 何かを捨てて走っていたか? ――違う。逆だ。彼女は背負わなくてもいい、僕の苦悩を背負って走り抜いた」
――君はレースに臨む意義や意欲を『受け継いで走るウマ娘』だ!
あれは本心から出た、真実の言葉だった。
その走り方が他の走り方と比べて劣っているなど少しも思っていない。
彼女の走りには『気高さ』と『尊さ』があった。
「僕は、そんなゴールドシップの持つ『黄金の精神』に魅せられた。彼女の黄金のような走りに賭けてみたい」
そう言い切るジョニィの表情を見て、シンボリルドルフは満足げに笑い、エアグルーヴは呆れたようにため息を吐いた。
「……何だそれは。単なる惚気か? 結局、貴様はシルバーバレットに勝つ為にどうしろと言いたいんだ?」
「ゴールドシップには『飢える』ことを学んで欲しい。だけど、それに囚われて欲しくない。少しずつ成長して、そうすれば最後に勝つのは彼女のような『受け継いで走るウマ娘』だ。僕は、彼女自身の走りが勝つところが見たいんだ」
「やはり、惚気ではないか。我々が勝つ為の参考にはならんぞ、このたわけっ!」
エアグルーヴの一喝に、ジョニィが肩を竦める。
シンボリルドルフは、堪えきれないとばかりに押し殺した笑い声を漏らした。
「なるほど、よく分かったよ。君は本当に、ゴールドシップに期待しているんだな」
「……期待を掛けるだけで、何も行動に移せていないけどね」
あのレースから1週間、ジョニィは一度もゴールドシップと顔を合わせていなかった。
様子を窺う限り、彼女は授業にすらまともに出ていないらしい。
ジョニィは敗北から学べばいいと思っていた。
無理をせず事実を受け止め、今は3着に甘んじても少しずつ成長すれば、いずれシルバーバレットに勝てる、と。
しかし、あの敗北が彼女に与えたショックは、思っていた以上に大きなものだった。
「あの敗北にショックを受けたのは彼女だけではない。君もそうだ」
「……そうかな?」
「そうだ。君自身、自覚していないフリをしているだけだ」
シンボリルドルフの指摘に、ジョニィは黙り込むことしか出来なかった。
「だからといって、担当するウマ娘のケアもしないというのは、トレーナーとしての怠慢以外の何物でもないと思うな。甘えてはいけない」
何処か面白そうに叱責するシンボリルドルフに対して、やはりジョニィは何一つ反論出来ずに沈黙するしかなかった。
◆
「――あら、1週間も経つのに思ったよりも荒れてませんわね」
ゴールドシップの部屋を訪れたメジロマックイーンは、室内を見回して少し感心した。
学園の寮は基本的に2人分のルームシェアである。
しかし、偶然なのか謎の多い彼女に何か謎のめぐり合わせがあるのか、ゴールドシップにシェアする相手はおらず、1人あぶれていた。
1人しかいない部屋の主が機能不全を起こせば、環境は荒れていく。
メジロマックイーンは、床に散らばった服やタオルを集め始めた。
「ちゃんと洗濯はしてあるようですね」
洗濯して乾燥させた段階で力尽きたのだろう。
皺くちゃの洗濯物を抱えて、空いている方のベッドへ腰かける。
自分の持ってきた荷物を傍らに置くと、黙って畳み始めた。
「……マックイーン、止めても無駄だぜ」
部屋の主は、自分のベッドで布団に挟まり、放置されて萎びたハンバーガーの具のようになっていた。
「アタシはゴルゴル星に帰ることにした。もう地球にはいられないんだ」
「あら、そうなのですか」
メジロマックイーンは、萎びたハンバーガーの世迷言をあっさりと聞き流した。
「ウ〇コ野郎に負けた。アタシは日本のウマ娘の恥さらしだ」
「汚い言葉を使うのはやめなさい」
「アタシはウマ娘ではなかった。ゴルゴル星からやって来た宇宙人がウマ娘に擬態していたんだ。レースに勝てない似非ウマ娘なんだ……」
「世界のエースを相手に接戦をしたルーキーが、随分と自惚れた落ち込み方をされますのね」
「キビシー」
「負けたのなら、勝てるように努力すればいいのです。アナタはここで終わるようなウマ娘ではありませんわ」
「無理だ。イヤだ。アタシはもう誰にも勝てねー……レースなんて出たくねー。何もかも忘れてチーズ蒸しパンになりてーよ」
「チーズ蒸しパンになったら、ティータイムのお茶請けにして差し上げます」
普段とは勝手の違うスルーを続けられて、ゴルゴル星出身の宇宙人は喋らなくなった。
シルバーバレットとのレースに敗北して1週間。
メジロマックイーンは初めてゴールドシップの部屋を訪れたが、おそらく1週間ずっとこの調子だったのだろう。
授業には顔を出さず、学園の各所で幽鬼のように彷徨う姿が度々目撃された証言だけが挙がっている。
彼女の所業が今のところ学園で問題になっていないのは、普段の奇行が周囲に認知されているからだ。
ずっと部屋に閉じ籠っていないだけマシなのかもしれないが、ゴールドシップがおそらく人生で初めてだろう挫折に打ちのめされていることは確かだった。
ジョニィ・ジョースターがトレーナーとなってから、彼女の知らなかった一面が次々と明らかになる。
メジロマックイーンは、その事実が嬉しいような悔しいような複雑な気分だった。
「それで、アナタはこのまま萎びたハンバーガーになっているのか、チーズ蒸しパンに生まれ変わるのか、どっちですの?」
そう皮肉を投げ掛ける自分の声が思ったよりもずっと冷たいことに、口にした自分自身が驚いた。
盛り上がった布団が怯えるように僅かに震えた気がした。
「……もうちょっとゴルシちゃんに優しくしてもバチは当たらないんでねーの?」
「今のアナタに必要なのは、優しく布団を掛け直してあげることよりも、剥ぎ取って尻を叩くことだと思うのですが」
「ふーん、じゃあやってみろよ」
「分かりました」
「え゛っ!? ちょっ待……イヤァァーーッ! やめてよして乱暴しないでっ、え゛ん゛ッ!!」
メジロマックイーンは、事前に言った通りのことを実行した。
「ひでぇ……普段の奇人変人に振り回される可愛いマックちゃんは何処行っちゃったの?」
「奇人も変人もアナタのことですけどね。おはようございます、ゴールドシップさん」
「……おはよう」
ようやく起き上がったゴールドシップは、ボサボサの髪を掻きながら恥ずかしそうに笑った。
「なんちゅーか……マジで恥ずかしいな。あんま顔見んなよ。目ヤニとかついてるかもしれないし」
「ずっと寝ていたわけではないのでしょう?」
「そりゃ1週間寝っぱなしじゃないけどさ、今もう昼過ぎだし」
「夜、走っていたのではないですか?」
「……見てたのかよ?」
「いいえ、勘です。でも、マヌケは見つかったようですわね」
「……どーにもやりづれーな。今のマックちゃんはよぉ」
ベッドに座り直して、向かい合う形になったメジロマックイーンから気まずげに目を逸らす。
しばらくの間、お互いに口を開かない沈黙が流れた。
メジロマックイーンは目を逸らさず、黙ってゴールドシップが話を切り出すのを待っている。
「色々とな……らしくねーのは自覚して、考えてみたんだよ」
やがて、ゴールドシップはポツリポツリと話し始めた。
「もうちっと脚が速ければとか、もうちっとスタミナがあればとか……なんか当たり前のことしか浮かんでこねーんだわ」
型破りの自由人なゴルシ様が何の面白味もねーよな! と、茶化すように笑う。
しかし、それを聞くメジロマックイーンは静かに微笑んで、話の先を促すだけだった。
「公式のレースをデビュー戦しか経験してねールーキーが何言ってんだって思うかもしれねーけどよ、壁にぶつかってると感じるワケ」
「世界最強の壁ですわね」
「不思議とな、今度こそアイツに勝ってやる!……って気分にはならねーんだ」
「……」
「ただ、絶対に負けたくない時に負けたって後悔がな……スゲーんだ。夢にまで見るんだよ」
「……ええ」
「変だよな。マックイーンとか見てるとさ、こういう時次のレースで勝つ為に色々奮い立つと思うんだ」
「わたくしは、そうですわね」
メジロマックイーンは、自分自身を強調して答えた。
「負けた時の気分というのは、人によって違いますわ。あまり気にしないという人もいます」
「うん」
「そういう人が次も負けるかというと、そうでもありません。勝ったりもします」
「うん、そうだな」
「勝ちたいと思わないから次も勝てない、とか。そういうことは気にしなくていいと思いますわ」
「……そうかな?」
「特に、アナタはそれでいいと思います」
「へへっ、何だよそれ」
いつの間にか俯いていた顔を上げて、ゴールドシップは少し笑った。
「ジョニィがな、レースの前にアタシは勝てないってハッキリ言ったんだよ」
メジロマックイーンには既に一度話した内容を、改めて口にする。
「シルバーバレットは『飢えた者』でアタシは『受け継いだ者』、その差がゴール前の一瞬で出るってな。……言われた通りになったよ」
「それだけが原因だとは思いませんわ。実力や経験の差もあります」
「理屈では分かってる。でも、どうしても自分を納得させられねーんだ」
ゴールドシップは固く拳を握り締めた。
「次に勝つ為にどうすればいいかじゃなくて、何で負けたのかを延々と考えちまうんだ」
「それは多分、アナタの走り方が否定されたからですわ」
「否定?」
不意を突かれて、キョトンとした顔をする。
1週間悩み続けていて、そんなことは考えたこともなかったといった顔だった。
「……そうなの?」
「いえ、わたくしにアナタの本当の気持ちなんて分かりませんわ。ただの推測です」
子供のように純粋に訊ねてくるゴールドシップに対して、メジロマックイーンは苦笑しながら続けた。
「飢えた者が勝つ、というのは競技において一つの真理であるとは思います。実際に、わたくしもそう考えていますわ」
「うん、マックイーンがレース前にスイーツ断食するのもそれが理由だな」
「ジョースターさんの言葉とは大分重みが違うような気がしますが……まあいいですわ。とにかく、勝利に飢えることは力になると思います」
「……だから、アタシは負けたんだよな」
「あのレースで、自分が飢えていなかったと思いますの?」
「シルバーバレットに腹が立ったから勝負を挑んだんだ。アイツに負けたくないって思いだけが強かった」
ゴールドシップは、あの時抱えていた複雑な感情を読み解くように独白した。
「1着でゴールしたいとか考えてなかったんだ。そうでなきゃ、会長にも負けてるのに悔しいって思わないのはおかしいだろ」
3人で走って、3着だったレースだ。
3人中最下位。
しかし、順位に対して悔しいとか情けないとか思うことはなかった。
ただひたすら、自分の前を走り続けたシルバーバレットと、その背中を見ることしか出来なかった自分が悔しくて嫌だった。
「デビュー戦でもそうだったんだ。結果的に1着は取れたけど、走ってる時はそんなこと考えてなかった」
「ええ、それはアナタの普段の走りを見ていれば分かります」
「そりゃ勝てなかったら悔しいさ。けどよ、それよりもアタシはレースで熱くなりてーから走ってるんだ。楽しいから走ってるんだ」
それが間違いなく本心であるはずなのに、まるで世間では認められない価値観を口にしているかのように自信のない声が出てしまう。
「だから……そんな考えで走ってる奴が、絶対に負けたくない奴に負けたんなら……その考えが間違ってるってことになっちまうだろ」
それが結論だった。
1週間、喉元でつっかえていたものをようやく吐き出した気分だった。
しかし、スッキリとした気持ちになんてならない。
ただ自分の抱える問題の形と重さを、再認識しただけだった。
その重さのせいで、走ることはもちろん立ち上がることさえ出来ない。
「アイツに……シルバーバレットに負けたくなかったんだ。アイツに勝てれば、アタシは――」
「何ですか?」
「うまく言えねーよ」
シルバーバレットに勝ったら自由になれる――そう言うつもりだった。
自由になって、そうしたら、また好きなように走ることが出来る。
何の負い目もなく、レースを楽しむことが出来るようになる。
そう言おうとしたのだ。
しかし、それも本心ではないような気がした。
そういう気持ちがあることも間違いではないが、それだけではないような気がした。
ジョニィを侮辱された時に抱いた黒々とした感情と、そのジョニィに自分の勝利を信じてもらえなかった時の悔しさ。そして、実際に勝てなかった時の無力感。
様々なものが身体の中を渦巻いて、全てを言葉という形で表すことが出来なかった。
ゴール前で必死に叫んでいたジョニィが自分に向かって何を言っていたのか聞き取れなかったことが、あのレースで一番の心残りだった。
「結局、『飢えなきゃ勝てない』ってことなのかな……」
「そのことでしたら、わたくしは少し考え方が違いますわ」
「どう違うんだ?」
「もしかしたら、アナタに押し付けるような考えになってしまうかもしれませんが――」
メジロマックイーンは少し言葉を探すように間を取り、
「わたくしは、ゴールドシップさんの走り方が好きですわ」
そう答えて、微笑んだ。
「勝つ為に飢えることを学ぶのは必要かもしれません。けど、その考え方に囚われて欲しくはありませんわ。シルバーバレットに勝つことをゴールだと考えてほしくない。通過点だとでも思っていただければ良いと思います」
「……マックちゃん、スゲーこと言うね」
「そうですか?」
「本気でいけ好かない奴だけどさ、相手は世界のトップに立つウマ娘だぜ。そいつに勝つことを通過点にしろって、ルーキーに対する無茶ぶりの中でも最大級じゃねえか」
「あら、アナタの口から常識的な反論が出てくるなんて初めてですわね。それに、ルーキーはルーキーでもアナタは『ゴールドシップ』でしょう」
「いや……そりゃアタシは天下のゴルシちゃんだけどさ」
そう言うゴールドシップの方が何処か自信が無さげで、メジロマックイーンの方が疑いのない自信を持って断言する。
普段の2人とは真逆の構図が出来ていた。
「アナタが『負けたくはないけど勝ちたいとは思わない』と考えるのは、そういうことなんだと思いますわ」
「……」
「アナタにとって、シルバーバレットというウマ娘は越えるべき壁ではあるけれどライバルではないと思います。一度越えることさえ出来れば、アナタはもう彼女を気にしないでしょう。アナタの走り方はライバルを必要としないでしょうから」
「……マックイーンにもさ、ライバルっているだろ?」
「いますわね」
「他の奴にもさ、大抵いるんだ。アタシみたいに嫌いだから対抗するって関係じゃなくてさ、一緒にレースに出て競い合う、高め合う相手がさ」
「そうですわね。レースでそういう相手がいると、お互いに充実します」
「だからさ、ライバルを必要としない走り方って……悪いことなんじゃねーかなーって……」
「悪くありませんわ」
メジロマックイーンは、ゴールドシップの躊躇いを切り捨てるように断言した。
「何も悪くありません」
優しく笑いながら、ハッキリとした言葉で続ける。
「どんな主義主張や信念を持ち出そうが、レースの結果が出ればそれが全てですわ。納得のいくゴールが出来るかどうか――それが全てだと思います」
「……『納得』のいく、ゴール」
「負ければ『納得』がいきません。だから皆、勝ちにいくのだと思います。結局、そのことへのこだわりに個人で違いがあるだけなのだと思いますわ」
「……」
「だから、ゴールドシップさんは自分の走り方に後ろめたさなんか感じる必要はないのです。それを拭う為にシルバーバレットに勝たなければいけないというのなら、勝てばいい。そうして決着をつけた後にも、アナタのレースは続いていく」
それが何でもないことなのだと言い聞かせるように、
「アナタの『良い』と思うように走ればいいのです」
力強く告げた。
「改めて言いますけれど、わたくしはゴールドシップさんの走り方が好きですわ。本当に楽しそうで、何処までも自由で、ゴールを過ぎた後もそのまま宇宙まで走っていけそうで――」
――だから、その走り方を捨てない為に、シルバーバレットに勝ってください。
その言葉を聞いて、ゴールドシップは眼を見開いた。
押し付けるような考えになってしまうかもしれません、と。メジロマックイーンは言っていた。
そうなのかもしれない。
彼女の言葉を聞いて、頭と胸の奥で渦巻いていた混沌としたものが、不意に一つの方向へ向けて加速し始めたような気がした。
ベッドから起き上がることすら億劫だった。まともにトレーニングをする気も起きず、衝動的に走り出したくなる焦りだけがあった。
そんなゴチャゴチャした気分が綺麗さっぱり消え去って、視界が広がったように感じた。
押し付けられたものじゃない。
彼女は自分に走る理由を与えてくれたのだ。
ジョニィの言う通り、自分は何処までも『受け継いで走るウマ娘』だった。
そういう走り方が、好きなウマ娘だった。
ゴールドシップは、今度こそしっかりと顔を上げて、メジロマックイーンの眼を真っすぐに見返した。
「これが、わたくしなりにアナタに言えることですわね」
そして、きっと自分よりもアナタが話すべき相手がいる。
メジロマックイーンの瞳は言外にそう伝えていた。
「……へっへっへ、さすがはマックイーンだな」
ゴールドシップは、まず感謝の礼を口にしようと思った。
しかし、無意識に普段のヘラヘラとした軽薄な笑顔と軽口が出てしまっていた。
「挫折した若者を諭し、導く偉大な先人! いよっ、さすが名門メジロ家を背負って立つ女!」
「真面目な話をしていましたのに、からかわないで下さい」
「スイーツを我慢する以外は何でも出来る女!」
「わたくし、『パクパクですわ』なんて言ったことありませんわ!」
いつもの調子を取り戻したゴールドシップは、勢いよく立ち上がって、寝間着を脱ぎ捨てた。
「まったく、アタシとしたことが1週間も無駄にしちまったよ! 笹食ってる場合じゃねぇ!」
「ジョースターさんなら、今は生徒会室にいるそうですわよ」
畳んだばかりの洗濯物からジャージを渡しながら、必要な情報を教える。
「マジでさすがだな、アタシのやりたいことまでお見通しかよ!」
「それと、何かお腹に入れておきなさい」
ジャージを着終えたゴールドシップに、今度は荷物の中から栄養補給用のチューブゼリーを手渡す。
それを受け取ったゴールドシップは、潤んだ瞳でメジロマックイーンを見つめた。
「優しい……優しいマックイーンおばあちゃん……ッ!」
「アナタの祖母になった覚えはありませんわ。というか、100歩譲ってもそこはお母さんじゃありません!? もうっ……早く行きなさい」
「……あのさ!」
「何ですか?」
「ホントにさ、助かったよ。色々話をしてくれてさ、アタシ1人じゃ答え出なかったと思うから……だから」
「はい」
「だ、だから……っ!」
喉元まで言いたい言葉が出かかっているのに、つっかえて顔が熱くなる。
しばらく頑張ってみたが、結局素直な気持ちを表に出すことは出来なかった。
「――今度、何か奢るわ! あ、100年後ヒマ!? 空いてたら宇宙行こーぜ!」
メジロマックイーンにとって、ゴールドシップの普段の言動は振り回されるだけで理解不能だ。
しかし、今回ばかりは言いたいことがよく分かった。
照れ隠しに捲し立てる彼女を微笑ましく思いながら頷く。
「ええ、予定を空けておきますわ」
そう言って、走り去る彼女を笑いながら見送った。
◆
『うぉおおおおォォーーー!! どけどけどけェーーー!!』
騒がしい雄叫びと足音が近づいてくるのに気付いて、ジョニィ達は一斉に生徒会室の扉へ視線を向けた。
『レーダー受信、レーダー受信。周囲ニ、トレーナー反応アリ。……レーダーが反応してるなら間違いねえ! この辺りにトレーナーがいるはずだ!!』
騒音の発生源は、扉の前で立ち止まって何やら喚いている。
エアグルーヴはその意味不明さに不審そうな表情を浮かべたが、シンボリルドルフはジョニィの方を見ながら苦笑を浮かべた。
「どうやら、君が迎えに行くよりも彼女の方が先に立ち直ったようだ」
「ああ。この後どうなるのか、何となく分かるよ。すまないけど、僕の車椅子は部屋の方へ戻しておいてくれ」
訳知り顔で会話をする2人に訊ねようとして、エアグルーヴが扉から眼を離した瞬間、
「ゴルシちゃんとのコミュニケーション・パートの時間だ、コラァ!!」
その扉が勢いよく蹴り開けられた。
「な……っ!?」
開かれた扉から、ゴールドシップが飛び込んできた。
比喩でも何でもなく、生徒会室に身体ごとダイヴしてきたのだ。
その勢いのまま床を前転して、壁に盛大にぶつかることでようやく停止する。
呆気に取られたエアグルーヴが気に掛ける余裕も咎める暇もなく、すぐさま立ち上がったゴールドシップがジョニィに駆け寄った。
「見つけたぜ、ジョニィ! ここで会ったが100年目! アタシと一緒に来てもらうぜぇ!」
「拒否権ある?」
「あるワケねーだろ、んなモン!」
「分かった。じゃあ、せめてその手に持ってる麻袋を使うのはやめてくれ……」
「トレーナー捕獲完了!」
「話を聞けェ! ゴールドシップッ!!」
頭から被せられた巨大な麻袋によって、ジョニィの台詞の後半は飲み込まれていった。
ここに至るまで思考停止していたエアグルーヴが、ようやく我に返る。
「ま、待て! ゴールドシップ、貴様どういうつもりだ!?」
「すまねぇな、アタシはこれから担当トレーナーとの絆レベルを上げるイベントをこなさなきゃいけねーんだ。悪いが、ジョニィは借りてくぜ。話があるなら明日にしてくれ!」
ゴールドシップはジョニィを詰め込んだ麻袋を担ぎ上げながら、満面の笑顔で答えた。
そして、面白そうに状況を見守るシンボリルドルフの方へも顔を向ける。
「そういうワケだ。構わねーよな、会長さん?」
「ああ、構わない。彼との話し合いは丁度終わったところだ」
「じゃ、アタシとジョニィは失礼させてもらうぜ!」
「……ゴールドシップ」
「なんだァ?」
「また君の元気な姿を見られて嬉しい。よくぞ、戻ってきた」
その言葉に、ゴールドシップは不敵な笑みを返した。
「会長、次にレースをする時はアンタにも勝つぜ」
「ついでに扱えるほど、私の力は甘くはないぞ」
お互いに一瞬だけ好戦的な視線を交した。
「――よっしゃ! それじゃあ、改めてあばよ!!」
「待たんか、貴様!」
エアグルーヴの制止を振り切り、ゴールドシップはあっという間に生徒会室から走り去っていった。
残されたのは、先ほどまでの騒動が嘘のような静寂と半壊した生徒会室の扉だけだった。
突然の嵐が通り過ぎたかのような一幕だった。
「クソッ! 人ひとり担いで、なんて速さだ!」
「あの足腰の強さは天性のものだな。やはり、ゴールドシップは将来有望なルーキーだ」
「感心している場合ですか」
エアグルーヴは疲れたようにため息を吐いた。
「会長は、あのゴールドシップを随分と眼に掛けておられるようですね」
「一緒に走ってみて、彼女の才能を肌で感じたよ。今回の敗北が彼女にどんな影響を与えるのか不安だったが……見事に復活してくれたようで何よりだ。彼女は強くなるぞ」
「私には素直に喜べません。奴が成長するということは、起こす問題の規模が大きくなることと同義なような気がします」
「はははっ、違いない!」
「笑い事ではありません」
ぼやきながらも、何処か気が晴れたように明るく笑うシンボリルドルフの様子に安堵した。
ディエゴ・ブランドーとシルバーバレットの関わる事柄を眼にする時は、常に気を張り詰めていたのだ。
今回、それが初めて解れたような気がする。
エアグルーヴにとって、ゴールドシップは得体の知れないルーキーという印象しかなかったが、シンボリルドルフはシルバーバレットに対抗する重要な存在だと考えているようだった。
「会長は、あのシルバーバレットを倒すのはゴールドシップだと考えているのですか?」
「……分からない」
手元のタブレットに映る、シルバーバレットの過去の記事に視線を落としながら答えた。
「ただ、あのシルバーバレットというウマ娘を単純な実力だけで測るのは危険だと思うよ」
「どういうことでしょうか?」
「ジョースター君が言った通りだ。数字やグラフで表現出来るデータ以上の何かを隠し持っている……そんな気がする。私でも理解の及ばない何かが」
「……会長が誰かに劣っているとは、私には思えません」
「劣っているとか優れているとかの問題ではないんだ。理解が及ばないことが問題なんだ」
自分と似ていると思ったウマ娘。
生まれつき勝利することを義務付けられてきた存在。
シンボリルドルフ自身は、自らの歩む道に迷いはなく、後悔もしていない。
掲げる理想とその責任の重さを、当然のこととして背負ってきた。
むしろ、その重みが地に足のつく確かな実感を、理想が歩む道の正当さを証明してくれているように感じていた。
そして、同時にそれ以外の生き方を想像するのも難しかった。
もし胸に抱く理想もなく、成すべきことの為に使われない自らの才能を持て余していたら、自分はどんな生き方をしていただろうか?
想像出来ない。
ただ意味もなく強いだけの生き方など、孤独と虚しさしか感じない。
――『生まれは同じ』だったはずだ。
――しかし、何処かで道を違えた。
――何かの『出来事』あるいは『出会い』をきっかけにして、シルバーバレットはシンボリルドルフとは全く違う人生の指針を見つけた。
そんな価値観の違う道を、シルバーバレットは歩いている。
自分と同じ才能と環境に恵まれながら、その力を自分の為だけに使って生きている。
そこに満たされる意義はあるのか。
際限のない渇望の先にゴールは定めているのか。
彼女が、自らの進む道の先に何を見ているのか――。
「私は、もう少し彼女を知る必要があるのかもしれない……」
シンボリルドルフは無意識に、そう呟いていた。
「会長……?」
黙り込んだシンボリルドルフを案じるように、エアグルーヴが声を掛ける。
その不安げな声を聞いて、我に返った。
信頼する右腕に、意味もなく気を遣わせるべきではない。
シンボリルドルフは話題を変えることにした。
「すまない、ちょっと考え事をしていた。そう……そうだ、ジョースター君のことだ」
「あのトレーナーが何か?」
「ああ、実は彼に海外のギャグを教えてもらっていたんだ」
「え゛っ」
エアグルーヴにとって最悪の話題転換だった。
シンボリルドルフは明るい空気に切り替えることが出来る、いい思い付きだと考えていた。
「日本のダジャレとは、また趣向が違っていてね。文化の違いが面白く感じるよ」
「そ、そうですか」
「日本の場合は言葉遊びだが、海外のものはジェスチャーにも重きを置いているようなんだ。どれ、1つ紹介しよう」
「え!? いや、それはご遠慮して……!」
「見てくれ、エアグルーヴ。今、私の指は4本立っているな」
「は、はい」
「そこちょっと
「……」
「分かるかな? 『し』で4本、『つ』は『トゥ』と発音して指2本だ。最後に『れい』で指の形を丸にしてゼロというわけなんだ」
「な……なるほど?」
「君、そこちょっと失礼ィィィ~~~」
「…………はい」
「外国のギャグというのも趣深いものだな」
「大変、興味深いですね……」
たまに誤解されるが――エアグルーヴは、シンボリルドルフのダジャレに呆れているわけではない。
彼女の抱く尊敬の念は極まっている。
彼女がダジャレを聞いて調子を崩す時。それは敬愛する会長が会話に紛れ込ませたダジャレに気付けなかった己の不甲斐なさに嘆く時なのだ。
故に、彼女は苦悩の極みにいた。
慣れない海外のギャグを一生懸命見せてくれる会長の心意気を喜ぶべきか。
ただでさえ反応が困難な会長のダジャレに文化の壁という更なる難易度を加えたジョニィを恨むべきか。
苦悩の果てに、エアグルーヴの調子は下がった。
◆
被せられていた袋が取り払われた時、目の前に広がったのは何となく予想していた通りの光景だった。
青い水平線。
白い浜辺。
視界の片隅に映るボロボロのカヌーは見覚えのあるものだ。
あの日、ゴールドシップと初めて出会った場所だった。
「アタシとオマエの運命の出会いの場所だ。懐かしいか?」
「……ああ、懐かしいね。まだ、あれから1か月しか経ってないとは思えない」
あの時と同じように、ジョニィとゴールドシップは並んで腰を降ろした。
「アタシも同感だね。1か月前にジョニィをトレーナーにするなんて想像もしてなかったし、1週間前にシルバーバレットと対決して負けるなんてことも想像してなかった。退屈しねーよ、ホント」
「この1週間、何してたんだい?」
「負けた悔しさで、枕を涙で濡らし続けてたよ」
「そうか……すまない」
「ああん? 何で謝るんだ?」
「レース後のメンタルケアはトレーナーの仕事だ。僕はこの1週間、君に対して何も出来なかった」
「ヒドイ! アタシとの関係は仕事だけだったの!?」
「……すまない」
「いや、どっちに対して謝ってんのか分かんなくなるから真面目な返答やめろっつーの。後者に対してだったら、さすがのゴルシちゃんも傷つくぞコラ」
以前は当たり前のように交していた軽口にも、ジョニィは黙り込むだけだった。
「完全復活したゴルシちゃんのことは、もうどうでもいいけどよォ~。今度はオメーの方が溜め込んでるモン吐き出した方がいいんじゃねーの?」
その様子を見て、ゴールドシップは呆れたようにため息を吐いた。
「別に、僕は何も溜め込んじゃいないさ。あのレースで一番精神的にショックを受けたのは君だ」
「嘘つけ! 信じて送り出したゴルシちゃんが盛大に負けて、オマエもショック受けてたんだろ? だから、アタシに構う余裕がなかったんだ」
「忘れたのか? 僕は君の敗北を予言していたんだ。あらかじめ分かっていた結果に動揺する必要なんてない」
「本当かぁ~? 本当に何も溜め込んでないかぁ~? 胸に仕舞ってるモン全部吐き出しちまえよ! 海ってのはそういう場所なんだ! 他には誰もいない、二人っきりだぞ☆」
「いいや、ないね。僕には吐き出すものなんてない! 君が立ち直ったのなら、それで問題は解決だ。話を先に進めよう」
ジョニィは視線を前に向けたまま、頑なにそう言い切った。
ゴールドシップは、そんな横顔をじっと見つめた。
「ジョニィ、アタシの眼を見ろ」
からかうようなものではなく、隠された本心を見抜くような真剣な眼つきだった。
「隠すなよ、ジョニィ。ウマ娘とトレーナーだ。アタシ達は、2人でひとつなんだ。オマエが侮辱されると、アタシは酷く腹が立つ」
ジョニィは何かを堪えるように、固く眼を閉じた。
しかし、ゴールドシップの静かなささやきは、彼の抑え込もうとした感情を激しく揺さぶった。
「アタシがレースで負けて、オマエは悔しくなかったのか?」
その問いかけに、ジョニィはついに耐えきれなくなって口を開いた。
「――ッ、ああ! 悔しかったさ!!」
本音を吐き出した。
一度、堰を切ってしまえば、抑え込んでいた様々な思いが一気に溢れ出してきた。
当時の記憶がフラッシュバックして、身を捩るような悔しさで頭がいっぱいになる。
「悔しかったに決まってる! 何で、僕が君の負ける姿を見なきゃいけないんだ!?」
ジョニィはゴールドシップの眼を真っすぐに睨みながら、捲し立てるように叫び続けた。
「しかも、よりによってあのDioとそのウマ娘にだッ! あんな光景、2度と見たくなかったのに! 何で負けてるんだよ、君は!!」
「え~、でもアタシ『負ける』って予言されちまってたしなぁ~」
「あんなくだらない予言くらい覆してくれ! 君は僕の信じたウマ娘だぞ!」
「吐き出せとは言ったけど、オマエ無茶苦茶言うなぁ……」
「クソッ! ゴール前で僕があんなに大声で応援していたのが聞こえなかったのか!?」
それを聞いて、ゴールドシップは一瞬ポカンとした。
あの時、ジョニィが何を必死に叫んでいたのか知りたかった。
あのレースで一番の心残りだったことが、あっさりと解決したのだ。
「……そうかそうか。いや、ワリーな! あの時は必死だったもんで、聞こえてなくてよォ」
少しの間呆けた後、ゴールドシップは湧き上がる喜びを抑えきれずに顔をにやけさせた。
「何をニヤニヤしているんだ? 真剣に受け止めてくれ! この際だから言っておくが、僕が悔しかったのは負けたことだけじゃあないッ!」
ジョニィはゴールドシップに詰め寄って、告げた。
「いいか、君はシルバーバレットより劣ってなんかいない。『成長』さえすれば、君は奴に勝てるほどのウマ娘になれる! それを理解せず、見下すDioにもムカついているんだッ!」
「へえ? ……アタシは、シルバーバレットに勝てるのか?」
「勝てる! 君の走りは『世界』にも通用するッ!」
ジョニィは断言した。
迷いは一切なかった。
これまでずっと黙っていたことを、全て言い切った。
言葉にして吐き出したことで、溢れる感情のまま捲し立てていた勢いが落ち着いてくる。
ジョニィとゴールドシップは、しばらくの間無言で見つめ合った。
1週間前の敗北以来、ようやく2人の心が何の隔たりもなく通い合ったような気がした。
「――いいぜ、ジョニィ。話の『前提』が無事成立して何よりだ。ここから先へ進めよう」
ゴールドシップは真剣な表情で言った。
「『アタシはシルバーバレットに勝てる』――その為に必要な時間はどれくらいだ?」
その質問に、ジョニィは少しだけ考えてから答えた。
「3年……いや、2年だ。2年で『君はシルバーバレットに勝てる』ようになる。僕が保証する」
それは聞く者が聞けば『無理』や『無謀』とも言える結論だった。
どれだけ才能が溢れていようと、デビューしたばかりのウマ娘が、今や実力も経験も世界のトップクラスに立つウマ娘に、そんな短期間で追いつけるわけがない。
担当トレーナーの贔屓目を超えて、無能で無責任な発言だとすら捉えられる。
しかし、ジョニィは断言した。
この結論に一切の疑いや不安は抱いていなかった。
「2年か……『URAファイナルズ』には間に合うな」
「ああ、そうだ。トレーニングをしてレースの経験を積み重ねれば、世間が期待する通り君は2年でシルバーバレットと同じ舞台に立てるようになる。そして、世間の予想を裏切って勝つ」
力強い宣言だった。
自分の担当するウマ娘の可能性を全く疑っていない、トレーナーの理想的な言葉だった。
しかし、ゴールドシップは小さく首を振った。
「……駄目だ、遅い。2年後じゃ遅いんだ」
ジョニィの信頼が嬉しくなかったわけではない。
一度敗北したシルバーバレットに勝てるという可能性を信じてくれるだけでも、望外の喜びだ。
『世界』の重みを、決して侮っているわけではない。
「とんでもねーことを言おうとしてるのは分かってる。でも、2年じゃ駄目だ。時間が掛かりすぎる。もっと早く、アイツに勝てなきゃ駄目だ」
ゴールドシップの無謀を通り越して現実を見ていない発言を、ジョニィは黙って受け入れた。
まるで、そう言うことを分かっていたかのように。
そして、自分自身もまたその考えに同意するように、何も反論することなく話の続きを促す。
「焦りとかそういうんじゃない。アイツと走ってみて分かった。アイツの走りは相手を『屈服』させる走りだ。一度あの走りに負けたら、次に勝つまでずっと萎縮することになる。『勝てない』と思い込まされる!」
「……そうだ。シルバーバレットは、そういうウマ娘だ」
「何より、アタシ自身が『納得』いかねぇ! アイツの背中を追いながら2年間もレースに出るなんて我慢出来ねぇ! どんなレースでも『アイツに勝てない自分』を思い描きながら走らなきゃいけないなんて、絶対に『納得』いかねぇッ!」
「――『納得』は全てに優先するぜッ! でないと、アタシは『前』へ進めねえッ! 『本当の走り方』を取り戻すことは出来ねえッ!!」
ゴールドシップの決意の叫びは、海の彼方にまで響き渡るようだった。
途方もなく困難な道のりに対して、迷いも恐れもない。
彼女の限りない覚悟を込めた言葉だった。
ジョニィはその言葉を静かに聞き入れていた。
「ジョニィ、Dioとシルバーバレットはまだ日本にいるんだろ? いつまでいるんだ?」
「約半年の予定らしい。日本国内のレースを荒らし回って、それからアメリカに帰るつもりだ。次に日本に戻ってくるのは、2年後の『URAファイナルズ』になるだろう。それ以外、日本に来る理由がない」
「だったら、ジョニィ……分かるよな? トレーナーとして、アタシの今後のレースについての展望を聞いてくれ」
ジョニィは躊躇なく頷いた。
彼もまた覚悟を決めていた。
「――これから『半年以内にシルバーバレットに勝つ』! アイツらが国内にいる間に『決着』をつけるッ!」
To be continued……
育成の序盤に『目標:世界最強のウマ娘に勝つ』を12ターンで達成しなくちゃいけない無理ゲー。
ジョニィがゴルシに優しくしないせいでマックイーンがそういう役割に来ちゃうんですよね。ゴルマク最高ですわ。これだけあれば勝ちですわ。
・おまけ
SBR版ウマ娘『サンドマン』
インディアンの義姉に育てられたウマ娘。
名前が「マン」なのはあれだよ、白人が勝手に聞き間違えて呼んだんだよきっと。
部族への恩返しの為にSBRに参加し、賞金によって住む土地を買おうと決意する。
出身が出身なだけに公式のレースには参加した経験がなく、トレーナーもいない個人参加。
しかし、岩場から岩場へ飛び移るトリッキーな移動方法や『大地を味方につけた走法』によって、レースでは上位の成績を維持し続ける。
第5ステージにおいて重傷を負ってリタイア(原作通りの死亡ルートも検討したが、三女神様が不幸をどっかにフッ飛ばしてくれたことにしよう)
無事、部族の下へ帰って義姉と涙の再会を果たす。
また、彼女の走りや参加理由がテレビなどでピックアップされ、国の保護を受けられるようになった。
原作では部族の嫌われ者だったが、ウマ娘世界では部族全体の娘扱い。「掟に背いた罰だッ!」とか言ってた野郎はただのツンデレになった。