白銀圭の敬愛   作:おろしぽん酢

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プライバシーとデリカシー

夏に近づくにつれ日が上るのが早くなったとは言え、人の営みもそれに伴う訳ではない。

数多の使用人を擁している四宮邸でも警護と何人かの使用人が動いているだけで、必然昼間よりも警備の手は薄くなる。

特に外からの侵入者に対しては厳重な警備がなされているものの、中からの脅威には脆弱である。

 

 

「あっ」

 

「あっ」

 

 

屋敷の外をうろつく不審者と鉢合わせてしまった。

手には千枚通しを持っている。

 

 

「ふんっ」

 

 

鋭く振り抜かれた凶器を間一髪で避けるも、すぐさま切り替えて首元に突きつけようとしてくる。

明らかに手練の犯行である。

 

 

「うおっ、危ねぇ!」

 

 

朝方とは言え決して誰でも入れるほどの甘っちょろい警備はしていない。

ここまできたということは四宮家の者に用事がある感じだろうし、関係ないので逃げたいんだが顔を見られている以上追跡されて目撃者を消そうとするはずだ。

初撃を見た限りでは一対一なら勝てると思うんだが。

 

 

「あやべ。」

 

「どうしますか、ボス。」

 

 

背後からやってきた黒ずくめの女に気づかなかった!

首元にナイフを突きつけられ、同時に両手も拘束される。

千枚通しを持っている輩とは明らかに次元の違う練度を持っている。

ボスと呼ばれた男...いや女は悩む様子を見せる。

 

 

「こうなっては仕方ありません。消えていただきましょう。」

 

「かしこまりました。」

 

「馬鹿なのか?」

 

 

真剣に人を消そうとする二人に呆れた様子で答える。

両手を捻り輪ゴムで拘束された両手を振り解いて、後ろの女に話しかける。

 

 

「消そうとするな人を。こいつに教育してる奴の顔が知りてぇよ。」

 

「今は貴方では?」

 

「お前が口答えしてくるなヤバい奴その2。おままごとに使うおもちゃのナイフどっから持ってきたの?」

 

 

後ろを振り返ると黒ずくめの衣装に身を包んだ...思いっきり顔と目立つ金髪が出ている早坂がいた。

 

 

「何してんだこんな朝っぱらから。」

 

 

当然、もう一人は同じく黒ずくめの...一瞬華奢な男に見えたので人違いかと思ったが四宮かぐやである。

 

 

「それはこちらのセリフです。朝方から人の家に侵入するとか不審者じゃないですか!」

 

 

不審者2がたまたま全身黒の服装だった不審者3に逆上している。

不審者が三人集まって人が集まらないようヒソヒソと会話している様子は高校生探偵が見たら怪しげな取引と勘違いしてもおかしくない。

 

 

「千枚通し持ってるやつに言われたくないだろ。千枚通し持ってるってなんだそういう妖怪いるだろ多分。」

 

「かぐや様が屋敷中の車をパンクさせたいとのことでしたので。」

 

「もうそういう妖怪じゃん。現代版鎌イタチ?」

 

 

千枚通し女の手がワナワナと震えている。

やはり妖怪にはこの体から溢れる聖なるオーラが耐えられないのだろう。

 

 

「もうっ早坂!わざわざ言う必要ないでしょう!?」

 

「主人を犯罪者扱いされるわけにはいきませんでしたので。」

 

「妖怪になったけどな。」

 

 

この後に及んで気にする名誉があったのか痴態の説明をした早坂を咎めている。

 

 

「はぁ...まぁ良いでしょう。こうなったら手伝ってもらいますから。」

 

「嫌なんだが?」

 

 

おもむろにスマホを取り出すと、今日の天気を見せてくる。

 

 

「今日は雨の予報なんです。つまり、会長と相合...いえその...会長が私に何かしらのアクションを仕掛けてくる可能性が高いわけです!」

 

「そのための仕込みだと?」

 

「会長が仕掛けてきた時に対応できるように送迎の車は予め潰しておく必要がありますから!」

 

 

嬉々として語る目の前の女を警察に通報するべきではないだろうか。

 

 

「それだけではありません。会長の通学方法を探るために自転車置場の監視と計画のための天気図の読み込みも欠かせませんから。」

 

「その能力を勉強に注いだら白銀を抜かせると思うぞ。割とマジで。」

 

 

着々とストーカー方向の能力だけが成長していっている。

やはり警察を呼ぶべきか。

 

 

「今からは考えられる会長の行動パターンの割り出しとてるてる坊主の量産を行いますから、丁度人手が欲しかったところなので都合が良いです。」

 

「良くないが?」

 

 

いつの間にか計画に組み込まれていることに恐怖を覚える。

早く逃げなければ。

 

 

「諦めてください。」

 

 

隙を見て逃げ出そうとする八雲の服をがっちりと掴まれる。

 

 

「離せ早坂!俺は地獄には行きたくないんだ!」

 

「それは私もです!けど私は逃げられないんですよ分かりますか!?」

 

 

そう叫ぶ早坂の目には明らかに道連れを作ろうという決意が見える。

 

 

「行ってやれよ主人だろうが!」

 

「私は天国に行きたいんです!地獄へは二人が行ってください!」

 

「その言い振りだと私が地獄へ行くことは決まっているかのように聞こえるのですが?」

 

 

逃げ出そうとする相手を妨害する二人の姿は酷く醜かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雨、降りましたね。」

 

 

放課後、生徒会室のある棟からの昇降口を眺めることのできる建物の一室に二人はいた。

 

 

「社畜根性極まりすぎだろ。雨が降ったから報われたとでも言いたいのか?」

 

 

対生徒会監視用の建物として買われた建物の中でも一際広い部屋は四宮の計らいで早坂のものになっている。

本来は家とはなるべく切り離して使うためのその措置はある意味では成功しているが完全に早坂の趣味に染まっている。

明らかに工事の手が入ったサウナがあるのはなんだ。

これは生徒会の監視に必要ないだろ経費で落ちんのか?

 

 

「成功するまでやるんですよ?」

 

「降って良かったな。四宮の部屋にアホみたいに逆さに吊られたてるてる坊主の死体の呪術的念力が働いたか。ついでに部屋の主人も呪ってくれればいいのに。

 

 

慣れた手つきで二人分の紅茶を用意すると、既に窓に面した小さなテーブルに座っている八雲の隣に座る。

 

 

「でも良かったんですか?ここからだと見るだけしかできませんけど。」

 

「ブレインが自分で動く必要ないだろ。」

 

「自分のことブレインって呼ぶのやめた方がいいですよ。」

 

 

机の上のスマホからピコンと通知が鳴る。

 

 

「お、来たか。欲張りやがって半分でも良いぐらいだぞ。」

 

「誰ですか?」

 

 

嬉々としてスマホを手に取り忙しそうに指を動かす。

実行役と連絡を取っているのだろうが計画の成功は絶対だ。

万が一次があったらいくら忠義に厚いといえども主人の醜態を晒して使用人に白く禿げた呪物の量産を手伝わせてしまうかもしれない。

 

 

「金で簡単に動く男だ。」

 

「石上優ですか。」

 

「酷いなお前その通りだけど。」

 

 

どんな場所でもゲームができれば文句を言わず待機し、多少の金を払えば都合の良いように動く。

素晴らしい駒なんだ。

何故か肉料理がトラウマになっているらしいがさわやかのハンバーグをおみまいしてやろう。

 

 

「早速連絡だ。二人が生徒会室を出たらしい。」

 

 

こちらから出来ることは少ない。

後は指示だしと天に祈るのみだ。

つまり二人の恋愛模様を安全圏から眺めることが出来るわけだ。

なんだその楽しいイベントは。

懐から超高倍率スコープを取り出し、二人の口の動きから読唇術で会話の内容を読み取る。

 

 

「やはり白銀は仕掛けて来たか。これで第一関門は突破だな。」

 

 

隣の早坂を見るとスコープを片手に持ちイヤホンをつけている。

イヤホンを分捕る。

 

 

「何するんですか。」

 

「こういうのがあるなら最初に言え?」

 

 

イヤホンをつけると二人の会話が高精度で聞こえてくる。

二人の会話に一々反応しては呟く早坂の声も真隣から聞こえてくる。

 

 

「そうですかぐや様、相手とは事前準備の量が違うんですからまともにやってれば勝てるはずなんです。」

 

 

四宮が傘を忘れて来たことを疑っているようだがその程度ではなんの支障も無い。

むしろ切り返せば勝利が見えてくる。

 

 

「ガハハ勝ったな。」

 

「ッ対象Fが出現!石上優は何をしてるんですか!!」

 

 

本当に使えない駒だ。

やはりあいつをハンバーグにするしかない。

 

 

「ゲームやってたらいつの間にか通り過ぎてましただと!無能すぎる!!」

 

「でもこの前それで電車二駅も行き過ぎて待ち合わせ遅れましたよね?」

 

「迷惑をかける相手にも格があるだろ。お前は一日までならセーフだ。」

 

 

使えない男だ。

やはり紅茶に毒を入れるしかない。

 

 

「あでもなんかいけそうだな。流石は俺の考えた作戦だ。」

 

「さっき無能がどうとか言ってませんでした?」

 

「成功すれば過程は問題ない。」

 

 

二人は一つの傘の下で肩を寄せ合い歩き始めた。

その姿を確認して、一つ安堵の溜息をつく。

真隣にも同じように溜息をついている早坂がいる。

短いイヤホンを共有するためにいつの間にか肩が触れるほどの距離まで近づいていたようだ。

イヤホンを外して距離を取ると、コップの中に残った紅茶を一気に飲み干す。

 

 

「おかわりですか?」

 

「いや、もう良いだろう。これ以上いて別の仕事を振られたら敵わん。」

 

 

荷物を手に取り忘れ物がないか室内を見渡す。

先ほどまで座っていたテーブルには特に無さそうだ。

部屋のかなりの空間を占めている大きな棚はごちゃごちゃと小物が置かれていてあそこに鍵とか置いたら絶対忘れると思う。

 

 

「なんですか女性の部屋観察するとか...そういう趣味ですか?」

 

「あそこに置いてるのこの前遊んだ時買ったやつだろ。気に入ったんだな。」

 

「早く出ていってもらえますか?」

 

 

グイグイと部屋から押し出される。

 

 

「あ、そうだ。お前サウナ好きなのは良いけど脱衣所は片付けとけよ。」

 

「は...は!?」

 

 

廊下に出て風呂場への扉が目に入ったことで思い出してそう言う。

早坂は顔を赤くしたり青くしたりと忙しい。

 

 

「さっきトイレ行こうとしたら散らかったまんまだったぞ。」

 

「...殺します。」

 

 

 

 

 

 

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