あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~ 作:白紅葉 九
第一話 あかんこれ
死んだ。と、思ったら転生した。
数秒で起こった出来事に、私は混乱せざるを得なかった。
ただ、少なくとも普通の異世界転移やら神様転生じゃないし、ここはなんかやばい。
目の前に目からハイライトが消えた艦娘がいたことで、私はそう確信した。
その艦娘は事務的に私をどこかへ連れていく。それが私には、三途の川を案内する死神にしか見えなかったけど。
歩いている内に、現状を整理することにした。
私は、死んだ。
それは紛れもない事実だろう。
帰り際、トラックに数十メートル吹き飛ばされるのを肌で感じたし、走馬灯と呼ばれるものも見えた。
不思議と恐怖は感じなかった。
なぜだかはわからないが、ひとつ言えることは、生きたいと思って生きていた人生ではないということだ。
決して死にたいわけではなかったが、目的もなく生きていたので、生きる理由もなかった。
だからといって死ぬ理由もなかったから生きていた。
そんな私が転生できるとは、全く思っていなかった。
転生するのに条件があるのかはわからないが、少なくとも私を選んだのは間違いではないだろうか。
まぁ、艦これの世界に来られたということに不満があるわけではないけど。
というか、そもそもだけど、私は何なのだろうか。
人間だったら生後すぐ動けるわけないし、深海棲艦だったら目の前に艦娘がいるのはおかしい。
改めて、自分の服装を見る。
──全裸である。
はい?? この状態で提督に会いに行けと?
これでも前世は肉体精神どちらも女だった。
『感情がない』とか『機械みたい』という評価を受けたことはあるが、歴とした女である。
なので、女としての羞恥心というものが──
「提督、空母が出来ました」
「そうか」
──全くなかったよ!!!
いや、男に体見られても何も思わなかった。
どうせ生まれた時に父に体を見られている訳だし、気にすることでもないかなって。
父以外の男に肌を見せたことなどなかったので気付かなかった事実。
私は、男に全裸を見られても平然としていられる。この世で最もいらない情報だな。
そういえば、空母って言ったか。
どうやら私は空母らしい。
自分がなんの艦娘か確認するために服を見ようとしたら全裸だったため、その疑問が吹き飛んでいた。
「チッ……空母か……」
提督っぽい人は空母と聞いて考え込んでいる。
私だったら、空母が出たら喜んで裸踊りくらいは余裕でできるけど。
別に今やっても問題ないけど。なぜか全裸だし。
だが、この人は何かに悩んでいるようだ。
建造かドロップかで得た艦娘を見て、頭を悩ませる時にはどんなことが考えられる?
私が初めて建造の時に悩んだのは……──いらない艦娘が来て、解体しようか悩んだ時。
ここまで来てやっと気付けた。
ここ、ブラック鎮守府だ。
恐らくだが、資源が少ないときに空母が来て解体しようか悩んでいるのだろう。
艦娘のハイライトが消えていたのも、ここがブラック鎮守府で酷使されていたからか。
もしかしたら、駆逐艦や軽巡に生まれていたら即解体だったのかもしれない。
せっかく艦これの世界に来たのにそれは嫌だな。そう考えると、空母で正解だったのかもしれない。
だけど、空母は燃費が悪いからな~。
ここでアピールのひとつでもすれば評価されるのかもしれないが……。いや、こういう暗い職場だと黙っている方がいいよねって感じがある。
決して経験則ではない。ないったらない。
そうして、私が脳内で裁判官と被告と原告を作り出し架空の裁判を開廷するくらいには時間が経った頃、やっと提督っぽい人は喋った。
時間にして五分くらいだろうか。
「いつもの単独出撃。
帰ってきたら第三艦隊に加えろ」
「わかりました」
「下がれ!」
「失礼します」
「失礼します」
一拍遅れて退室の挨拶を言う。一応の礼儀だ。
礼儀を払うべき相手なのかという問題や、そもそも
それでも、ビジネスマンの基本の一つである。
もう一つの『常に笑顔で』はこの職場で守れる気はしなかったので、すでに諦めている。
諦めることも大切である。これ名言ね。
無表情ハイライト無し艦娘と歩くこと数分、私たちは港近くにある倉庫らしき場所に来ていた。
そこには、様々な装備があるのと同時に、片付けを忘れたように少量の資源が置いてある。
……まぁ、十中八九残骸だろう。何の、とは言わないが。
怒りは湧いたが、それで現状が変わるわけでもない。それに、これからの行動次第では私もああなる。
解体されたら普通の女の子に戻る説の信奉者だが……。
私が艦娘として生まれた時のことを踏まえて、あまり希望は持たない方が良さそうだ。
まだ死ねないので解体は全力で回避しなくては。少なくとも、艦娘が楽しく笑い合っている光景を見るまでは。
私はその装備の山の横に置かれた、見覚えのある服に気が付く。それを無表情ハイライト無し艦娘……長いから、黒髪艦娘でいいか。
名前を呼ばないのは、相手が名乗っていないから。
史実で関係があったのかは知らないが、名乗っていないならあえてその名を呼ぶ必要もないだろう。
その艦娘から服を渡される。
服あったんかい!!
ならなんで、全裸で行かせた! 提督の趣味なのか!?
正解っぽいから困る!!
羞恥心を抱かないと言っても、人間として生きてきた時の常識というものがある。
常識外の行動は専門外なので、
そんなわりかしどうでもいいことを考えながら服を着ていく。
人間だった頃……分かりやすく前世の頃とするか。
前世では、中学校の時に部活で弓道をやっていたので、着付けは問題なく行うことができた。
改めて、服を見る。
その服を着る艦娘を、私は知っていた。
白と赤の混じった服。
そう、その艦娘の名は──赤城。
正規空母の一航戦の一人で、前世じゃ食いしん坊キャラとして有名だった。
空母自体燃費が悪いのだが、もしこの世界でも赤城に食いしん坊キャラのイメージがついていたら、資源のない鎮守府は手に入れても厄介だと思うだろう。
そこで解体するかは人それぞれだとは思うけど。
ゲームから娯楽として艦娘を見ていた私と、資源が限られる現実世界で軍人として艦娘を見ている人とは大きく感覚がズレているだろう。
なので、解体を選ぶ選択肢を否定することはできない。
だからと言って、艦娘の
話を変えよう。
先程、提督っぽい人は『いつもの単独出撃』と言った。
恐らく、いつも最初に単独出撃をさせ、性能を確認してから駄目だったら解体、良かったら生存という方法を取っているのではないだろうか。
つまるところ、今から行く出撃で私の艦娘人生が決まると言っても過言ではない。
これは、失敗は許されない。
私が着替えたのを見て、黒髪艦娘は移動を開始する。
出撃か……。
って、なにも武器を貰ってないけど。アニメみたいにかっこいい感じで装備されるのかな。
それとも念じれば出てくるとか。
【ネンジルホウー】
念じる方か。なんだ、ちょっと残念。
私もアニメの赤城みたいにポージングしたかった。
今すぐにでも「艤装……展開ッ!」とかっこよく決めたいところだが、廊下ではしない。
これでもちゃんとTPOは弁えているのだ。
さっきまで全裸でいたやつの言葉とは思えない?
あれは自分の意思じゃないからノーカンで。
私が脳内で独り言を言っていると、着替えた私を見て黒髪艦娘が動き出した。
どこへ向かっているのだろうか。今から出撃らしいから、それ関係だとは思うけど。
黒髪艦娘に付いて歩き出すと、彼女は話し出した。
「行動を指示します。
今から第八出撃口より出撃し、三時間後のヒトサンサンマルに第八出撃口より鎮守府へ帰還。
その後、補給を済ませたら、第三艦隊旗艦の山城と第三出撃口にて合流。
第三艦隊と共に、ヒトヨンマルマルから六時間出撃し、フタマルマルマルに鎮守府へ帰還。
補給を済ませ、空き部屋の空母寮十三号室にて就寝。
明日からは第三艦隊所属となります。
第三艦隊の行動は、ヒトフタマルマル起床。
ヒトヨンマルマルから六時間出撃し、フタマルマルマルに鎮守府へ帰還。
マルフタマルマルから六時間出撃し、マルハチマルマルに鎮守府へ帰還。
ヒトヒトマルマル就寝。
出撃及び就寝以外の時間は空母第十三修練室にて訓練。
以上です。質問はありますか?」
長い長い長い長い!!
そんな一辺に言われたら覚えられないよ!
えーっと、いまから三時間の出撃。
帰還したら、三十分後に第三艦隊と共に六時間の出撃。
明日からは六時間の出撃を二回。
それに加え、『空いている時間は鍛練に当ててね♪』っていうブラック仕様、と。
意外と覚えているものだ。
それで、質問?
いや、ありすぎてどこから言えば、っていう感じだけど。
全部を質問する時間はなさそうだから、いくつかに絞る必要がある。
今の文章でおかしい点……気になった点……。
「では二つほど質問します。
まず夜間出撃が多いですが、空母の搭載機は夜間飛行が出来ません。
夜間の攻撃手段はどうなるのでしょうか?」
「気合いでなんとかしてください」
……はい? うん? えっと、聞き間違いかな?
私の耳には、夜間の戦闘手段がない空母は、夜戦を気合で勝ち抜けって言われたような気がするんだけど。
……うん、気のせいじゃないよね。
終わってるだろ、この鎮守府。
「…………なるほど。
では次の質問ですが、指示された行動に補給しかないのですが、入渠するのに条件があるのでしょうか?」
「功績順に大破した艦娘を提督の判断で入渠させます」
なるほど、なるほど!
つまり、気合いで攻撃して気合いで傷を治せば問題ないってことね!
人間には出来ないけど、艦娘には出来るのかな??
【デキルワケナイー】
だろうね。冗談だよ、ただの冗談。
冗談みたいな状況だから、思わずネタにしちゃった。
つまり、いまの話をわかりやすくすると、『敵を倒したら入渠できるよ! そのための武器はあげないけどね!』って言うことだ。
なにこのクソゲーにすらなっていない無理ゲー。
それほどまでにここの提督は私を沈めたいのか。大食艦の影響がここまでとは。
いや、真面目に考えて、どうすればいいんだろう。
近接攻撃で戦果をあげろ、ってことかな。空母に?
とても面白い難題だね。私じゃなくて一休さんにお願いしたらどうかな。
【ダイジョウブー?】
ごめんね、つい愚痴みたいになっちゃった。
初対面の君たちに言う内容では……あれ?
おかしいな。私は脳内で会話を広げるほど寂しい人生を送ってきていただろうか。
……いや、おかしいよね。この声、さっきからずっと聞こえていたけど。
大丈夫って、心配してくれているのかな。
えっと、ありがとう。なにか現状を打開する策でもあったら助かるんだけど。
【マカセテー】
【ナントカナルー】
【ヨウセイサンニ、デキナイコトハナイー】
本当にあるとは思ってなかった。
聞き取りづらいけど、いま妖精さんって言ったような。
妖精さんって……あの、艤装とかに乗っていたり、猫を持っていたりするあの妖精さん?
この世界の妖精さんって、他人の脳に直接語り掛ける能力を持っているの?
【そうダヨー、ヨウセイサンダヨー】
【ギソウデモ、猫デモないヨー】
【ボクラハ、第三ノヨウセイ。キラーン】
【ソンナ能力、モッテないー】
【マワリヲ、ぷかぷかウイテルノー】
慌てて周りを見渡してみれば、薄っすらとだが、たしかに妖精さんらしき存在が浮かんでいるのを確認できた。
というか、妖精さんって浮かべたんだ。
艤装についている妖精さんは重力がかかっているように見えたけど。
【ツクモ妖精サンハそうダヨー】
【ボクラハ、ノラ妖精サンダカラ、ぷかぷかデキルー】
ノラ妖精サン……もしかして、野良妖精さんかな。
ツクモ妖精サンは……艤装についているから、物に付くってことで付喪妖精さんなのかな。
ぷかぷか浮いているのが野良妖精さんで、艤装を運転するのが付喪妖精さん……わかりやすくていいね。
教えてくれてありがとう、野良妖精さん。
ところで、野良妖精さんたちはどうして私に話しかけてくれたの?
私の問いかけに、妖精さんたちは顔に少し影を落として教えてくれた。
【ボクラハ、カンムスが、スキー】
【ケド、レベル1ハ、ゴウチンか、カイタイされるー】
【もう、ミタクナイー】
【ダカラ、助けるー】
轟沈か、解体……。
空母である私は一滴のチャンスを与えられた。しかし、それさえもなく解体された艦娘も存在するだろう。
妖精さんはそれらを見てきたのだ。
だから、新しく艦娘として建造され、チャンスを与えられた私を生かそうと思ってくれたのだろう。
私だって、そう簡単に死ぬつもりはない。
人生の目標も夢もないけど、せっかく艦これの世界に来たのだ。
もっと、楽しみたい!
【ジンセイを満喫するゾー!】
【ココカラハ、私たちのジダイのヨウデスネー】
──さぁ、最高に最低な艦娘人生の始まりだ。
ところで、付喪妖精さんがいないようだけど……。
【奪われたヨー】
【ダカラ、ギソウはツカエナイよー】
──さぁ、最高に最低な艦娘人生の始まりだ!(やけくそ)