あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~ 作:白紅葉 九
大淀さんは、東提督さんとの
解体という単語に動揺し、東提督に対して危害を加えそうになった、と。
潜水艦寮を取り壊すという話は噂程度に聞いていたが、本当だったのか。
この件に関しては、勘違いしやすい言葉だっただろうし仕方ないだろう。
問題は、現在大淀さんが私たちに見せている“名無しの解体願い”だ。
解体願いは、実のところ色々と書く欄がある。
しかし、その解体願いは名前の部分が空白だった。
その代わり、解体を希望した理由の欄に『何のために戦うのかわからなくなった』の一言だけが書かれていた。
私はそれを見て、これを誰が書いたのか推察がついた。
「赤城さんは、誰がこれを出したかわかりますか?」
「予想はついていますが、答えることはしませんよ」
私がそういうと、大淀さんと吹雪さんは困惑したような表情を見せた。
東提督は理解しているのか、私の言葉を補足するように言った。
「わざわざ匿名で出しているということは、名前を知られたくない事情があるんだろうね。
もしくは、探してほしいとか」
「そういうことですね。
彼女の場合は後者でしょうから、頑張って謎解きしてください」
私はそう言って、“名無しの解体願い”を裏返した。
すると、本来白紙であるはずの裏側に、『雨が降ったら竜が飛ぶ場所で、雨が止んだ時に見える景色を見に行け』と書かれている。
わぁ……想像していたより、ちゃんとした謎解きだった。
雨が降ったら竜が飛ぶ場所は、竜飛こと鳳翔さんが、雨が降るときに行く場所のこと。
鳳翔さんには鎮守府の艦娘や提督の衣服の洗濯を任せているので、つまり洗濯物が干してあるところ。
そして、その近くには、艦娘のみんなで花を植えた花壇がある。
雨が止んだ時に見える景色は、雨が降った時に行く場所なのに雨が止んだ、つまり時雨のこと。
花壇で時雨の植えた花、つまりニチニチソウが見る景色。
ニチニチソウには『楽しい思い出』『友情』という花言葉がある。
つまり、時雨の楽しい思い出や友情を感じる場所を、時雨本人に聞いてそこに行く必要があるのだろう。
その場所がどこなのかはわからないので、調べるのは東提督たちに任せて、私はその場を去った。
東提督たちと別れた私は、武道場へ来ていた。
私がここに来たのは始めてだ。
おそらく、この鎮守府で暮らす艦娘の多くが、この場所の横を通ったことがあったとしても、中に入ったことはないと思う。
近づけば近づくほど武道場のなかから強く感じる殺気。
一歩入れば殺されると思えるほど。
いや、そういう心構えで入らなければ一瞬で呑まれるほど、刺々しい殺気が武道場の周りには渦巻いている。
間違いなく、私のお目当ての人物はこの中にいる。
私は刀を構えてから、勢いよく扉を開けた。
その瞬間、扉から飛び出してくるように伸びてきた刀を刀で防いだ。
カアアァァッッン
鈍い金属音がなり、すぐ刀は離れ次の攻撃が来る。
私が提督に攻撃した時とは違う。
しっかりと目を開け、私を私と認識したうえで、憎しみも殺意もなく、ただ純粋に私に刃物を突き立て殺そうとしとしている。
彼女こそ、件の“名無しの解体願い”を出した張本人である。
彼女の攻撃を防戦のみで防いでいると、彼女は唐突に刀を下ろした。
そして、武道場に戻って、刀を鞘に仕舞ってから着ていた剣道着一式を脱ぎ始めた。
私は彼女に文句を言うように話しかける。
「本当に遠慮がないですね。
──天龍さん」
「遠慮しなくていいって言ったのは赤城だろ?」
道場着を一瞬で脱ぎ終わって普段着になった天龍さんは、再び刀を取り出しながら、にぱっと笑ってそう言った。
ブラック鎮守府を告発した後、ストレスチェックなどの目的で、一度艦娘全員に個人面談を行った。
個人面談なので私と相手のみだ。
私はあまり人に好かれるタイプではないので、金剛さんや龍驤さんに任せたかったのだが……。
二人とも明らかに
天龍さんと最初に会話したのは、その個人面談の時である。
彼女は“なにか”に怯え、恐がって、人に対して壁を作っていた。
だから、その壁を壊すために『遠慮しないでいいですよ』と言った。
そうしたら、こうなった。
まさか、その“なにか”が“昔、素の自分を出して、仲間である艦娘に距離を置かれたこと”などと、誰が想像つくか。
遠慮がなくなった天龍さんは、急に軍刀を扱い始めたと思えば、私に刃を向けてくるようになった。
最初は屋内でも攻撃してきたため、それは周囲に危険があると言って止めさせた。
だから、最近は屋外に出た瞬間を狙って攻撃してくることもある。
そういうわけで、鎮守府にいる間は気が抜けなくなってしまった。
「赤城なら、解体願いを書いたのがオレだってすぐ気付いてくれると思ったぜ!」
「個人面談の時に嫌というほど悩みを聞かされましたから」
「赤城に対しては遠慮しないって決めたからな!
解体願いを出せば、必ず赤城はオレのところへ来る!
そこを……襲うッ!」
そう言って天龍さんはまた刀を構え、一瞬で距離をつめてくる。
数週間前までまともに刀も持ったことがない初心者だったはずだが、この短時間で成長しすぎじゃないだろうか。
しかし、流石に歴が違う。
いやまぁ、私はほとんど一人遊びみたいなものだったが、歴が違う!
対戦歴は天龍さんと同数だけど、歴が違う!
……なんだか、今日までの一年間が虚しく思えてきた。
そうなのだ。
実は、前任は、私が改装で軍刀を所持できるようになっても、使うことを認めてくれなかったのだ。
大淀さんに聞いたら、軍刀で反逆されることを恐がっていたようだ。
結果的に、私はずっと軍刀をただ携帯しているだけの人になっていた。
ひとまず、攻撃をいなしながら天龍さんと会話を続ける。
「提督に謎解きをさせているようですが、あれはどういった意図だったんですか?」
「二つだな。
単純に新しい提督を見極めたいっていうのと……吹雪だったか?
刀を腰に差していたから、戦ってみたいと思ってな」
だめだこの戦闘狂はやくなんとかしないと。
しかし、残念なことに、彼女の目的は本当にその二つなのだろう。
東提督が解体を望む艦娘を助けるというシナリオを書いておきながら、当の本人は微塵も解体を止めてほしいと思っていないのだ。
──心の底から、解体されるのを望んでいるというのに。
東提督にその心内を言うほど、彼女は東提督をまだ信頼していない。
だから、シナリオ上で『解体はやめる』と宣言しても、それはただのシナリオであって、彼女の本心ではないのだ。
私のそんな気持ちを察したのか、付け加えるように天龍さんは言う。
「赤城、勘違いするなよ?
俺は提督を見極めるっていったんだぜ」
「はい、聞いていましたよ。
──天龍さんはまだ、東提督を見極めることができていないのですね」
「あ……?」
本当に、残念だ。
──私はもう、天龍さんが東提督に助けられる未来が来ることを確信しているというのに。
天龍さんはまだ、東提督を侮っているのが、本当に残念だと思う。
天龍さんが私に対して疑問を投げかける前に、武道場の扉が勢いよく開く。
そこから東提督と吹雪さんが入ってくる。
おそらく大淀さんは執務に戻ったのだろう。
天龍さんは、東提督たちが来るのが想像していたより早かったのか、時計を二度見、三度見する。
「天龍さん、道場破りに来たよ!!
……って、赤城さん?」
「少しお邪魔しています。
私のことは気にせず話してください」
東提督は謎解きにより得た答えなのか、道場破りという単語を言って武道場へ入ってきた。
鳳翔さんが竜飛だったり、武道場が道場だったり、天龍さんはわりと安直な言い換えをすることが多いようだ。
狼狽した様子の天龍さんは、東提督に話しかける。
「な……んでッ、そんなに速く謎は解けないはずだ!
一時間後にならないとわからない問題もあったのに、おかしいだろ!」
「あー、あの問題ね……。
一時間待つのは長かったし──手っ取り早く、全部の選択肢を試したよ」
「はっ……?
……んなもん……どれだけ時間がかかると思って……」
「妖精さんに協力してもらったよ。
ちょっと酷使しすぎちゃったし、これは金平糖がたくさん要りそう……」
東提督はまだ見ぬ大量の金平糖と、それを買うのに必要な費用を考えて顔が青くなっている。
改めて見たら、東提督の周りにいる妖精さんたちは疲れ果てている。余程大変だったのだろう。
「そうじゃなくて、道場破りをしに来たよ」
「あ、あぁ……赤城、誘っておいてすまないが、また今度“初決闘”しようぜ!」
私はそれになんの返答もせず、武道場から出る。
最後まで『絶対だぞ!』と念押しする声が聞こえてきていたが、全部無視をした。
そもそも、最近は毎日のように襲ってくるやつがどの口で言う。
あれは天龍さんのなかじゃ戦いのカテゴリに入っていなかったらしい。
私は銃刀の所持が許されない平和な世の中になることをひたすらに願ったのだった。
その後、天龍さんは解体されたいと言わなくなった。
代わりに、天龍さんのように、吹雪さんが突然攻撃してくるようになった。
なぜ???