あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~   作:白紅葉 九

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第十一話 天龍の気持ち ☆

――天龍side――

 

 “オレ”が“俺”に戻れなくなったのは、その時だったと断言できる。

 

「ヒッ、来るな“化け物”!!」

 

 そう仲間から言われた瞬間、“俺”は生きる目的を失った。

 

 

 

 

 

 “俺”の家は、他より多少裕福なだけの普通の家だった。

 

 両親からはたくさん愛を注がれていたし、メイドや執事も小言は多いけど家族のように接していた。

 

 小中は世間一般で言うお嬢様校だった。

 そこで学級委員や生徒会に入るくらいには活発で、クラスの中心にいるタイプだった“俺”はその生活に満足していた。

 

 高校生にもなると将来の夢がハッキリしてきて、ずっと陸上部だった“俺”は、プロの陸上選手になることが夢だった。

 その夢に向かって、毎日練習に明け暮れていた。

 

 

 そんな生活は、本当に簡単に崩れ去るのだと、身を持って体感した。

 

 目の前に広がるのは横転したトラック。それが一瞬にも、何時間にも感じられて。

 

 気付いたら、“俺”は病院にいた。

 

 目の前には“俺”が目覚めたことに喜ぶ両親。

 よかった。“俺”は無事だったのか。

 

 そう安心しようとして、ふと違和感に気づいた。

 

 あれ、足の感覚が変だ。

 

「父さん、母さん。

 “俺”、ちゃんと足あるよな?」

 

“俺”はその時の、ひどく辛そうな両親の表情を一生忘れることができないだろう。

 

 そして、お医者さんは“俺”に下半身不随という病名を告げ、治ることはないだろうと言った。

 

 

 その日、呆気なく“俺”の夢は途絶えたのである。

 

 

 

 

 

 それから、“俺”は家に引きこもった。

 死にたいと願うだけの生活が続いた。

 

 両親も、従者も、“俺”を何とか家から出そうとあの手この手を使ってきた。

 だけど、全部を突っぱねて家に引きこもった。

 

 退屈を紛らわすために色んなゲームをやり込んだ。

 最初はオフラインのものばかりやっていたが、FPSなども気になって、オンラインのゲームも始めた。

 

 そこで、“俺”は生まれつき病弱で毎年のように入院をしているという『──』と出会った。

 

 

 『──』はゲームが上手かった。

 だから“俺”も負けじとゲームを頑張った。

 

 いつしか、“俺”と『──』は、親友でありライバルのような存在になっていた。

 

 ある日『──』から、大事な話があるとチャットが来た。

 

 『──』は、生まれつき病弱で辛かったと前置きをしてから、艦娘になろうと思っていることを告げてきた。

 艦娘に対する同調率が高ければ、身体不随も治ることがあるらしい。

 

 そして、“俺”も艦娘にならないかと誘ってきた。

 

 艦娘は深海棲艦と戦う危険な職業だ。

 不安も大きかったが、もう一度歩けるかもしれないということに大きな期待を持った“俺”は艦娘になることを選んだ。

 

 両親やメイド、執事にお別れを言って、“俺”は天龍になることを決めた。

 

 

 

 

 

 ──沈む。沈む。沈む。

 

「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ!!!」

 

──深い海の底に、沈む。沈む。沈む。

 

「助けて、誰か! まだ死にたくない!!」

 

──体が重い。動かない。落ちていく。

 

「うあああああああああああ!!!!」

 

──シズム、シズム、シズム。

 

「なんだ、あの光は!?」

 

──ヒカリダ。アレハ、キボウノ……。

 

「違う!!

 あんな禍々しいものが希望の光なわけがない!!!」

 

──ヤット、スクワレル。ヤット、チンジュフニカエレル。

 

「行くなっ! 止まれっ!!

 くそっ、やめろおおおおおお!!!」

 

──嗚呼、沢山敵ヲ殺ソウ。

 

「……アハハッ」

 

──沈メ。沈メ。沈メ。

 

「沈メ。沈メ。沈メ。

 

 

 

 ──あ、れ……?」

 

目の前に広がるたくさんの深海棲艦の死体。

 

 “オレ”が、倒したのか……?

 

 ああ、よかった。

 敵がたくさん倒せた。

 

 『──』、“オレ”、こんなに強くなったよ。

 

「ヒッ、来るな“化け物”!!」

 

え……?

 なんで……?

 

 “オレ”、敵をたくさん倒したよ?

 

 いつもみたいに、『ナイスキル』って言ってよ。

 『相棒として誇らしい』って言ってくれよ。

 

 

 なんで、“オレ”に銃口を向けてるんだ?

 

 

 

 

 

 “オレ”、何の為に戦ってるんだ?

 

 

 

 

 

 嗚呼、やっぱ──死にてぇ。

 

 

 

 

 

 艦娘同調率、驚異の93%。

 そんな“俺”は、ほとんど正確に、天龍の今までを追体験できるほどたくさんの記憶を受け継いだ。

 

 ──沈んでからずっと深海にいて、狂ってしまった“天龍(オレ)”の記憶を。

 

 

 

 

 

 轟沈は恐い。

 だから、解体されて人間に戻ったら、自殺しよう。

 

「赤城、オレを解体してくれ」

 

「解体されたら死ぬつもりの人には、許可できませんよ」

 

「なら、オレがお前に勝ったら解体してくれ」

 

「もし勝てたのなら考えますよ」

 

赤城を倒すために、明石に頼んで軍刀を作ってもらった。

 しかし、真正面から挑んでも、奇襲をしても、罠に嵌めても、どんな手段を使っても……。

 

 赤城に一発当てるどころか、赤城の無表情を崩すことさえもできなかった。

 

 

 提督が来ても、赤城が大本営に掛け合ったため、解体の権利は赤城にある。

 しかし、いずれ提督に解体の権利が移った時のために、提督を見極めようと思った。

 

 ──こいつは、オレを解体してくれるのか。

 

 提督が早くに謎を解いたのは予想外だったが、シナリオ上は問題ない。

 赤城との対戦の機会は失ったが、また挑めばいい。

 

 赤城が去った武道場で、俺は刀を鞘に仕舞って提督に話しかけた。

 

「提督、オレが解体を望む理由はわかっているだろ?

 頼むよ、オレを解体してくれ」

 

シナリオ上で用意した偽の解体理由。

 あの一時間の謎解きをする上で、必ず必要となる情報だ。

 

 あとは、提督がどうやってオレを解体させないようにするかを見極めるだけだ。

 

 そういえば、見極めると言ったら、赤城は変なことを言っていたな。

 確か、『天龍さんはまだ、東提督を見極めることができていないのですね』だったか。

 

 なんかのハッタリだと思うが、赤城の場合は本当にわかっていそうな気もする……怖ぇ~。

 

 

「解体理由、ね」

 

ひとまず……いまは提督がなんて言うのか、たしかめるのが先か。

 

「──わからない!」

 

「……はっ?」

 

え……? は……?

 

「んな、なんで!?

 最後の、あの一時間かかる謎解きでわかるはずだろ!?」

 

「実は、謎が解けたって、ただの“ハッタリ”なんだよね。

 解体を希望している艦娘が天龍さんだってわかってから、天龍さんがよくいる場所を艦娘に聞いたんだ。

 場所がわかってからは、今までの謎解き的に『道場破りに来た』って言うのが正解かな、って思っただけ」

 

嘘だろ……? そんな適当な推理で、実行したのか?

 間違っていたらどうするつもりだったんだよ……。

 

 というか、解体理由を知らない場合ってどうすればいいんだ?

 シナリオは解体理由を知っている上で作っていたから、あのシーンも出来ないし、あの言葉も言えない。

 

 おいおいおい、シナリオぶっ壊れるぞ。

 どうすればいいんだよ!?

 

「けど、推測はついているよ」

 

「……お?

 じゃあ、聞かせてみろよ」

 

よかった。これで多少の軌道修正はできるか……?

 

 けど、謎解きにはあの一時間の謎解き以外で、解体理由のヒントになるような要素はなかったはずだが……。

 本当にわかるのか……?

 

「最初の謎解きでは時雨さんが、他の謎解きでも度々駆逐艦が関わっていたことからわかるように、天龍さんが駆逐艦と仲がいい。

 しかし、この鎮守府の過去の資料からわかるように、この鎮守府は駆逐艦を盾にする戦法を取ることが多くあり、練度の高い天龍さんは守られる側だった。

 それを見て、自身の非力を嘆き、解体願いを出した。

 しかし、今後また駆逐艦が壁になるようなことは嫌で、新しい提督がそういうことをしないのか見極めようと思った」

 

完璧だ。

 そう、シナリオの答えはまさにそれだ。

 

 駆逐艦を盾にするあの非道な戦術が資料に載っていたのは知らなかったが、完全に軌道修正ができたし問題はない。

 あとはこれを肯定して、シナリオに戻るだけだ。

 

「ああ、そう──」

 

「──そう思わせたくて、私に謎を解かせた。

 違う?」

 

「ッ……!?」

 

なんでバレて……!?

 もしかして赤城のやつ……いや、赤城はおそらく言わないだろう。

 

 赤城と関わった時間はそう長くないが、あいつは自分の得になること以外はやらないやつだ。

 特に提督に関われば面倒だとさえ思っているだろう。

 

 なら、どうしてバレた?

 っていうか、とりあえず否定しねえと。

 

「何言ってるんだよ、提督。

 深読みのしすぎじゃねえか?

 前半だけだったら正解だったのによ」

 

「なぜ、私にそう思わせようとしたのか。

 それは、私に解体の権利が移った時に『駆逐艦のため』とかもっともらしい理由を付けて、解体の許可を貰うため」

 

「おい聞けよ……っ」

 

オレの言葉を聞かず、話し続ける提督。

 オレは、オレの考えを全部当てる提督に対して、焦りを覚え始める。

 

 そんなオレの様子に気づいているのかいないのか、提督はオレに笑みを向けた。

 

「実はね、天龍さんの同じ考えを持っていた人に会ったことがあるんだ。

 ──その人は、艦娘同調率89%。

 天龍さんには劣るけど、天龍さんと同じように海に沈んだまま狂った船の記憶を持っていた」

 

「ッ……!!」

 

嘘だろ、オレ以外にもいたのか……?

 

 だって、どの建造艦に聞いても沈んだ時の記憶は覚えてないって言っていた。

 漠然と沈むのが恐いって思っているやつしかいなかった。

 

 みんな、どうして恐いのかわかってなかったのだ。

 

 沈んでしまったら、暗くて、深くて、寂しいのに。

 

「彼女は毎日のように『解体してほしい』って言っていた。

 『どうして戦っているのかわからない』、『海は暗くて、深くて、寂しい』ってね。」

 

──オレと、同じだ……。

 

 死にたいけど、沈むのは嫌だから、解体してほしかった。

 仲間を守るために深海棲艦を倒したら、仲間から拒絶されて、どうして戦っているのかわからなくなった。

 

 暗くて、深くて、寂しい深海にいる深海棲艦たちに、同情すら覚えていた。

 

 ずっと、オレが間違っているって。

 オレが異端なんだって思っていた。

 

「「──“ただ、恐かった”」」

 

声が被った。

 しかし、それは提督の声ではなく……。

 

 ──その横にいた吹雪が発した声だった。

 

「私も同じでしたよ、天龍さん。

 ただ、私とあなたが違ったのは、提督に出会ったのが早いか遅いかだけ」

 

そう言って、吹雪は提督に笑いかけた。

 提督も照れたように笑う。

 

 妙に、二人の指にはまっていた指輪に視線を吸い寄せられた。

 

「私は提督に救われて、艦娘として生きる道を選びました」

 

「天龍さん、私は天龍さんも……いや、この鎮守府にいる全ての艦娘を救いたい!」

 

「「だから……──私(提督)に賭けてみない?(みませんか?)」」

 

 二人から手を差し出された。

 

『ヒッ、来るな化け物!!』

 

「天龍、私たちと一緒に来て!!」

 

……ああ。そうか。

 

 赤城は、こうなることがわかっていたんだな。

 

 

 ──オレは、二人の手を握った。

 

「正直、まだ信じらんねぇ……。

 ──だが、賭ける価値はある!!

 これからもよろしくな、提督! 吹雪!」

 

「「うん!(はい!)」」

 

 

 

 

 

 拝啓、お父様、お母様、そしてメイドと執事の皆様。

 オレは、陸上のプロにはなれなかったけど、素敵な仲間を見つけました。

 

「はぁ!? マジかよ?

 完全に騙されたぜ……」

 

提督は、艦娘のことをよく考えてくれている人です。

 この人になら付いていけると思える、信頼できる人です。

 

「あっ、そうだ。

 吹雪、決闘しようぜ!」

 

「えぇっ!?」

 

「いいんじゃない?

 楽しんできてね、吹雪」

 

「提督!?

 あっ、も~! わかりましたよ!」

 

それと、オレはいま、憧れている人がいます。

 

 その人はとっっっっっても、強いです!

 何回挑戦しても勝てません。

 

 その人は常に無表情で敬語なのですが、鎮守府の全員から信頼されています。

 

 とてもとても尊敬している、憧れの人です。

 いつか越えられるように頑張ります!

 

「つえーな、吹雪!」

 

「天龍さんも、とても強いですよっ。

 いったいどれだけ戦ってきたんですか!」

 

「天龍でいいぜ!

 二週間前に初めて刀触ったけど、相性が良いみたいだな」

 

「その実力で二週間!?

 絶対すぐに追い抜かれる……」

 

「赤城は刀触って九ヶ月しか経ってないらしいけど、もう吹雪よりは強いと思うぞ。

 後で一緒に襲いに行くか?」

 

「九ヶ月……はい、お供します」

 

「ふ、二人とも、ほどほどにね!」

 

艦娘のオレはもうみんなと会うことはできないけど、幸せに暮らしているので、みんなも体調に気を付けて、楽しく過ごしてください。

 

 ──艦娘になったあなたたちの自慢の娘より。




作者から

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