あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~   作:白紅葉 九

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第十二話 刀術教室

 天龍さんの起こした名無しの解体願い事件が解決してから、早一週間。

 何故かあれから、天龍さんだけでなく、吹雪さんや木曾さんにも刀を持って襲われるようになった。仕方ないので、鎮守府の治安維持のためにも、刀術の教室という名目で勤務時間内に刀術をする時間を設けることになった。

 そしたら、その三人以外の艦娘からも刀術を学びたいという人が現れ、名実ともに刀術の教室をする時間ができた。

 刀術を鍛えるという名目なので、勤務時間に入る。艦娘は人と変わらず勤務したらお金が貰える。外出願いを提督が受理すれば、外へ遊びに行くことも出来るのだ。

 

 しかし、私たちは、前任がお金を横領していたので、建造艦以外はまともに鎮守府の外を知らない。給料はちゃんと大本営から支払われたのだが、そもそも何の資格も取得していない艦娘の月給は十万円。六年近くいた天龍さんでさえ、普通のサラリーマンの二年分くらいのお金である七百万円程度しか貰えなかった。

 私は一年間勤務をしていたため、百二十万円のお金を貰った。とりあえず、私用のパソコンを買った。

 

 ちなみに、この艦娘の月給の安さは、資格取得をして給料を上げる前提だからだ。

 資格には、深海棲艦に対する知識の資格だったり、陣形などの戦術に対する知識の資格だったり、砲弾が直撃するまでの時間を計算する資格だったり、色々な資格がある。

 そして、本来ならば、それらを勉強する時間も、勤務時間に組み込まれている。

 

 普通、資格取得をするときは、鎮守府を長く勤めている艦娘や、資格について詳しい人間から教わることが多い。参考書はあるので、独学で覚えることは可能だが、その勉強は勤務時間に含まれない。

 仕事に関係することで、誰かに対して教えている、もしくは誰かから教えられているという状況であれば、それは勤務時間に含まれる。しかし、独学の場合、本当に学んでいるのか確認できる人物がいないため、趣味として扱われ給料が出ないのだ。

 

 この鎮守府は資格を持っている人もいなければ、人間に良い感情を持っていない艦娘が大半だ。そのため、資格取得をする時間を“組み込まない”のではなく、“組み込めない”のである。

 例外として、刀術や砲術は、仕事の訓練として扱われるため、資格取得のカテゴリではないが勤務時間に含まれる。

 

「あかぎ……なにしてるの……?」

 

「そうですね……あえて言うなら、趣味活動でしょうか」

 

 私はやっと届いた資格取得のための参考書と勉強用具一式を机に広げながらそう答える。

 流石に、食事代や電気代は全部鎮守府から出ると言っても、月給十万じゃ不安だからね。

 

「むり、しないでね……」

 

「はい。おやすみなさい」

 

「おやすみ……」

 

 すぐに川内さんの寝息がベッドから聞こえてくる。

 最近は夜にうなされることも少なくなってきたので、いい好調なのだと思う。

 それでもまだ、一人は恐いようで、こうやって一緒の部屋で寝ている。

 

 

 

 

 

 数時間勉強をしていると、窓の外からにょきっと野良妖精さんたちが現れた。

 たまに数人で来ることはあるが、七人全員で来ることは珍しい。なにかあったのだろうか。

 

【付喪妖精さんたちが勉強したいって言っているから、それを伝えに来た】

 

 付喪妖精さんが?

 いったん勉強の手を止め、艤装を展開する。すると、付喪妖精さんがわらわらと出てきて、部屋に合計72人の付喪妖精さんがひしめく。

 それぞれ思い思いの参考書を取っていき、勉強をしだす。

 

【付喪妖精さんも、先生の助けになりたいって思ってるんだよ!】

【先生、僕たちも勉強していっていい……?】

 

 もちろんだよ。

 

 そうして、一人でやる勉強のはずが、たくさんのみんなと一緒にやる勉強に変化した。

 付喪妖精さんがわからない問題があれば、野良妖精さんがそれを私に伝えて、私が解説する。まるで本当の先生になったみたいだ。

 

 付喪妖精さんに問題の解説をしていくうちに、私自身にもいろいろな資格の情報が身についていった。人に教えると記憶に残りやすいというのは本当らしい。

 このままいくと、十種類も用意した参考書が、半年足らずで読み終わってしまう。早めに次の参考書を用意しておくことにしよう……。

 とりあえず、なるべく試験日が近いものからやろう。

 

 私がそんなことを考えていると、気になる項目を見つけた。

 “妖精さんについて”と書かれたその項目の内容は、たった一ページに留まっている。

 

 妖精さんとは、艦娘や深海棲艦以上に未知の生命体である。妖精さんが正式名称であり、さんを付けず呼ばれることを妖精さんは嫌う。ただし、名前を付けた場合は例外である。

 妖精さんの好物は甘いもので、特に金平糖を好んで食べる。しかし、生きるために必ずしも食べなければいけないという訳ではない。妖精さんに頼みごとをするときは、甘いものを渡すとしてくれることが多い。

 提督の見える妖精さんと、艦娘の見える妖精さんは別物であり、それぞれ空中妖精さんと陸上妖精さんという。

空中妖精さんは宙に浮かんでおり、物を触ることができない。会話を交わすことができるが、その声は妖精適性が高い者でないと聞き取れない。しかし、妖精さん側ははっきりと提督や艦娘の言葉を理解している。提督適性のある者が認識できる妖精。

 陸上妖精さんは宙に浮かぶことができず、基本的に艦娘の艤装の中におり、艤装を出していないときは艤装と同じで亜空間にいると思われる。空中妖精さんと違い、言葉を話すことができないと思われるが、言葉は理解していると思われる。艦娘適性がある者が認識できる妖精。

 

 この文章を読んだだけで、いかに妖精さんのことがわかっていないのかがわかる。空中妖精さんと陸上妖精さんって……名前を聞くこともできなかったのだろうか。

 

【妖精さんの声をはっきり聞こえる人は少ないから】

【妖精さんを恐がる人間も多い~】

【でも、東提督ははっきりと聞こえているみたいですよ】

 

 やっぱりそうなんだ。

 東提督の周りにいつもいる妖精さんは、東提督と仲が良いように見える。

 

【未来のこと好きだから!】

 

 未来って、確か東提督の下の名前だったか。……って、え!?

 声のした方向を見ると、見慣れぬ妖精さん。しかし、今の言葉から察するに、東提督の妖精さんなのだろう。

 東提督の妖精さんはいつも東提督の周りにいるから、油断していた。これで東提督に私に提督適性があることが知られるとまずい。

 

【大丈夫!言わないよー】

【言わないでってお願いしてあるから大丈夫だぞ!】

 

「はぁ……よかったぁ……」

 

【妖精さんはみんな友達!】

【友達を傷付けることは言わない!】

 

 妖精さんは仲間意識が強いようだ。

 

 

 

 

 

 その日から、夜は東提督のところの妖精さんとも一緒に勉強をするようになった。

 色々妖精さんのことで疑問に思っていたことを東提督のところの妖精さんに聞いたりもした。

 その過程でわかったのだが、普通は自分のステータスや妖精さんのステータスを見ることはできないらしい。いったい私の提督適性はどうなっているのやら……。

 

「おいおい、よそ見してていいのかァ!?」

 

「天龍さんは剣筋が素直なので読みやすいですね」

 

「はあっ!!」

 

「吹雪さんは攻撃の時に声を出す癖を直すか、うまくフェイントとして使えるようになりましょう」

 

 娯楽も資格持ちもいないこの鎮守府で、週六で開かれている刀術教室。教師は私のみ。生徒は現在八名。吹雪さん以外はひと月も刀に触っていない初心者である。

 

「──そこまで!」

 

「五分経ったよ」

 

 暁さんと響さんがそう告げると、天龍さんと吹雪さんは座り込み肩で息を吸う。

 いまやっていたのは、簡単な模擬戦である。天龍さんからどうしてもと頼まれたため、仕方なしに行っている。

 刀術教室の生徒で一、二の強さを誇る天龍さんと吹雪さん。吹雪さんは長年軍刀を使ってきたから技術があるのは当然だが、天龍さんは驚異のスピードで成長している。

 

「天龍、お疲れ!

 途中の軍刀を振り下ろしたところ、惜しかったな」

 

「あのフェイントが決まってれば一発当てられたかもしれないからなぁ……悔しいぜ」

 

 そして、その脅威のスピードを誇る天龍さんと同じスピードで着実に力を付けて言っている木曾さん。二人がある程度力をつけてタッグで挑んできたら、流石に負けるかもしれない。

 

「吹雪、すごかったよ。かっこよかった!」

 

「夕立もあんな風に刀を使えるようになりたいっぽい~!」

 

「ありがとう、時雨ちゃん、夕立ちゃん」

 

「私もすぐ追いつくからねっ!」

 

「待ってるね、島風ちゃん」

 

 時雨さんと夕立さんは、まだ初心者なのもあるかもしれないが、単体だとそれほど強力には感じない。しかし、タッグを組んだ瞬間、時雨さんが技を、夕立さんが力を。お互いの弱点を補い、お互いの長所を生かした戦い方をする。

 1+1が3にも4にもなる二人だ。今後がとても楽しみな二人である。

 

 島風さんは、刀を振る速度がとても速い。普段島風さんは吹雪さんと戦ってもらっているのだが、たまに吹雪さんを追い詰めている場面を見るほどその速さは驚異的だ。

 ただ、まだ剣筋に無駄があるので、こちらが最小限の動きで防げば簡単に防げる。しかし、無駄は努力すれば消せるし、より力のかかる攻撃のやり方を身に着けたら、とても強くなる。速さは大きな武器だから、それをうまく使えるように現在は教えている。

 

 基本この刀術教室は、二人一ペアで訓練している。ペアの組み合わせは天龍さんと木曾さん、吹雪さんと島風さん、暁さんと響さん、時雨さんと夕立さんだ。私は実践重視でやっているので、ペア同士一対一で戦ってもらうか、二ペアで、二対二で戦ってもらっている。

 

 教えているのはあくまで私が考えた刀術だ。私が考えた、ひとまず赤城流と名付けておこう。赤城流には五つの戦いの型がある。超攻撃型、攻撃型、バランス型、防御型、超防御型だ。型ごとに戦い方が変わるので、型がわかったらその型に合った戦術などを教える方向にシフトする予定だ。

 超攻撃型と超防御型は、戦術に尖りが出やすい。つまり、扱うのが難しいというわけだ。なので、既にその兆候が出始めている島風さん、暁さん、響さんは結構強くなるために時間がかかるだろう。

 逆に言えば、使いこなせれば自分だけの強力な武器となる。

 

「では、次回までに反省点を探しておくように。

 お疲れさまでした」

 

 みんながお疲れ様と言い終わったのを確認してから、武道場を出る。

 みんなはいつも、この後八人で夕食を食べに行く。何度か、夕食の時に次に勝つための作戦会議をしている光景を見たことがあるため、今回もそうだろう。

 

 私は刀術教室が終わったら、執務室にいる東提督に終了報告をしに行かなければならない。

 それに加え、刀術教室での活動内容や全員の進捗を紙にまとめ提出する必要がある。

 

 何度も執務室に行くのは面倒なので、私は事前に活動内容は書いておいて、進捗は刀術教室中に隙を見て書いている。

 ただ、そうやって隙を見せていると、たまに天龍さんが襲ってくるので、気が抜けない。天龍さんのすぐ人を襲う癖はどうにかならないのだろうか。おそらく東提督に注意されても止めないだろうし、お手上げ状態だ。

 話が逸れたが、刀術教室が終了するまでに書ける内容は書いておき、終わった後に残った部分を書いているため、執務室に行ったときに東提督に同時に渡すようにしている。

 

 

 

 

 

 今日もいつも通り、提出する紙を持って、執務室に行って扉をノックした。

 

「どうぞ」

 

 聞こえてきた声は、東提督のものではなく、大淀さんのものだった。執務室の扉を開けなかに入っても、提督はおらず大淀さんがいるのみであった。

 もしかして、また何かに巻き込まれているのだろうか。

 

 そんなことを考えながら、紙を渡して執務室を出る。いつもこの後に、お風呂へ行ってから夕食を食べる。刀術教室が終わるのが十七時なので、夕食を食べるのはだいたい十八時だ。夕食を食べ終わったら、一日中部屋にいるあの子へ明日の分の三食を渡してから、ちょっと早いが寝かしつける。

 あの子が現在いる部屋は、本来来客用の部屋だ。冷蔵庫やお風呂が付けられている。その部屋に電子レンジを置けば、現在のあの子が過ごしている部屋である。

 

 

 

 

 

 今日もルーティーンに従って入浴をしに大浴場へ向かう。ちなみに、この世界の入渠はお風呂で大浴場にあるお湯につかると何故か傷が癒えていく。これはゲームの時みたいに四人まで、という決まりはない。しかし、高速修復材は大きな湯船に入れると効果が薄くなるので、ゲームと同じで一人一つだ。

 

 私は大浴場につき、衣服を脱ぐ。長い髪を一つで結んで、大浴場の扉を開けた。

 

 ──そこには、艦娘を押し倒している東提督がいました。


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