あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~ 作:白紅葉 九
全裸の艦娘と、同じく全裸の東提督。
東提督はその艦娘に覆いかぶさっており、艦娘が誰なのかははっきりとわかりません。
周りに他の艦娘はいません。
完全に二人っきりだったようです。
「何をしているのですか?」
「あ、かぎさんっ!?
ちが、誤解だッんぷっ!」
慌てて起き上がろうとする東提督でしたが、再びその艦娘の胸に顔を埋めました。
よく観察すると、東提督の背中に艦娘の手が回されて引き寄せられているようです。
東提督が艦娘の胸に顔を埋めたことで、その艦娘の顔がハッキリと見えました。
……そこでやっと、現状を理解して安堵した。
「──翔鶴さん、東提督を離してあげてください」
「赤城さん……!
だって……──だってこの人、何度お願いしてもキスしてくれないんですよ!!?」
翔鶴さんはドロップ艦で、前任から『キスは愛情の証だ』と洗脳のように思いこまされた。
結果、キスをしてくれない相手は自身のことが嫌いなのだという価値観が出来上がった。
そのため、嫌いじゃないという証明の為にキスをお願いしてくるのだ。
私は毎回断っているのだが、そうすると毎回悲しそうな顔をするのでとても罪悪感がある。
しかし、本人は気付いていないようだが、キスをお願いする時、毎回足が震えている。
つまり、心の底では恐怖を感じているということだ。
そんな人に対してキスをできるわけがない。
ひとまず、翔鶴さんと東提督を引き剥がす。
翔鶴さんがいずれ、東提督に対してキスをお願いするのは読めていた。
だけど、それが大浴場で押し倒されるほどだとは……。
そういえば、今日の朝礼で東提督は私室である提督室のお風呂が壊れたって言っていたっけ……。
だから、今日はこっちのお風呂にいるのか。
ちなみに、鎮守府のお風呂は、艦娘にとっては癒しの水だが、人間が使っても温泉の効能程度には効き目がある。
人体に有害な物質も入っていないので、人間が使っても問題はない。
「うぅぅぅ……キスしてくださいよぉぉぉ……!」
「ええっと……赤城さん、お風呂入ろうか?」
「そうですね」
という訳で、翔鶴さんを放置して、体を洗った後にお風呂につかる。
東提督は私の隣に座った。
んん……? なぜか気が付いたら、その場の流れで東提督とお風呂に入っているぞ……?
私は東提督が話しているのを相槌しながら聞く。
そういえば、いままで何度か東提督とは話したことがあるけど、こうやって雑談をするのは初めてかも。
「そういえば、赤城さんは何%?」
「何がですか?」
「艦娘同調率」
艦娘同調率ってなんだ?
いや、待て。たしか……参考書にちょっとだけ載っていたはず……。
えっと……艦娘の艤装の元となる艦船との同化率、みたいなものだった気がする。
見つかっているなかで最高が97%、その次に高い人が93%、三番目に高い人が89%だったかな。
平均的には30%もあればいい方で、50%以上は鎮守府に一人いればいい方らしい。
ちなみに、1%でもあれば、建造艦になることができる。
しかし、ドロップ艦は検査を受ける義務はないはずだ。
「測っていないのでわかりません」
「……えっ!?!?」
「え?」
そんなに驚くことがあるだろうか。
少なくとも、私の記憶の限りでは測った記憶はない。
といっても、その検査がどういうものかわからないため、知らないうちに測っている可能性はあるが。
ただ、東提督の様子がおかしいので、疑問を投げかける。
「知っていると利点があるのですか?」
「……艦娘同調率上昇近代化改修、通称『近代化改修』を聞いたことはある?」
「いえ、初めて聞きました」
近代化改修に関しては、前世で馴染みのある言葉だが。
今世では、艦娘同調率上昇近代化改修というのが正式名称のようだ。
「近代化改修というのは、艦娘の装備をそれぞれ個人にあった形に改修することで、艦娘同調率を上げるというものよ。
艦娘同調率が高いと、艦娘適性も強力なものになる。
つまり、
なるほど。
艦娘適性が強力になると、付喪妖精さんとの結びつきが強くなる。
結果、艦娘として強力な力を手に入れる。
そして、その艦娘適性を強力にするのに近代化改修という手段がある。
それは、おそらく艦娘同調率の検査を受けていないと行えないものなのだろう。
つまり、私と、おそらくこの鎮守府にいる多くの艦娘は近代化改修というのをやったことがなく、弱い状態で戦っていたということだ。
「検査機は配備されいたはず……。
明日にでも全員にやらせよう……」
東提督が心底疲れ切った表情でそう言った。
それくらい彼女にとって予想外で、やっていて当然なことなのだろう。
私としては、艦娘同調率を上げたとして、それほど大きく戦闘力が変わるのだろうかという疑問の方が強いが。
いまいち、その変化が理解できていないため、必要性がわからない。
しかし、東提督がこれくらい焦ることだから、それなりの変化はあるのかもしれない。
それから、鎮守府の生活の話だったり、刀術教室の話だったり、私がいまやっている資格の勉強についての話だったりをしたりした。
艦娘との交流を尋ねたら、大淀さんや、明石さん、あとは間宮さん。
そして、刀術教室に通っている人たちとは、それなりに話せているようだ。
ただやはり、戦艦や空母は関わることはあってもあくまでビジネス上の関係として距離があるらしい。
刀術教室以外の軽巡や駆逐はあまり東提督と関わろうとしていないため、そちらも壁を感じているようだ。
それに関しては、まだ着任して一ヶ月程度だから仕方ないだろう。
逆に、提督という存在に対して嫌悪感を覚える者が多いこの鎮守府で、この短時間でここまで関われる人を作れたのは褒められるべきことだ。
東提督と別れてからはいつものルーティーン通りに動いて、次の日を迎えた。
朝礼で、東提督から艦娘同調率検査と近代化改修を全艦娘に対して行う事が発表された。
どうやら稀に、何もしていなくても艦娘同調率が上がることもあるらしい。
そのため、検査を受けたことがある艦娘も対象となった。
稀になら検査しなくても、と思ったのだが……。
きっと、東提督の周りにその少数の艦娘がいたとか、そう深くない理由だろうと結論付け、気にしないことにした。
艦娘同調率検査機を体につけ、睡眠薬を飲んだ。
目を瞑ると、何も見えなくなった。
──第一航空艦隊旗艦赤城、出撃します!
「……海の上?
私は……どうして、ここにいるんだっけ……」
──加賀さん、飛龍さん、蒼龍さん。日本に勝利を持ち帰りましょう。
「あれは……加賀、飛龍、蒼龍……?
そうだ……──私は、
──今度は、ミッドウェー島攻略ですか……。
「ミッドウェー海戦……?
ッ! だめだ! 行ったらだめだ、
──きゃぁっ! 誘爆を防いで!!
「くぅっ!!
──ごめんなさい……雷撃処分……してください……。
「あっ……」
──沈む。沈む。沈む。
「落ちる……深い、底のない海へ、落ちていく……」
──沈む。沈む。沈む。
「息が、できない……光が、消えていく……」
──沈む。沈む。沈む。
「沈む……暗い……恐い……」
──沈む。沈む。沈む。
「痛い……どうして、こんなに痛いの……」
──沈む。沈む。沈む。
「……
──
私は、人より容姿が優れていて、他人の感情を読み取るのが苦手でした。
私は、人より頭脳が優れていて、他人の欠点を見つけるのが得意でした。
気が付いたら、私は学校で虐めを受けていました。
容姿に嫉妬され、頭脳に嫉妬され。
感情を読み取るのが苦手で、欠点を見つけるのが得意。
そりゃあ、虐められると思います。
最初は私の容姿に惹かれ、私に味方していた男性たちも数年経てばいなくなり……。
女性の嫉妬は止まることを知らず、虐めは過激になっていきました。
幸いなのか不幸なのか、私を虐待していた両親が交通事故で死にました。
そうして、中学校を卒業してすぐに働き始めたので、虐めもなくなりました。
学校での虐めも、両親からの虐待も、私が飄々として一切気にしていなかったので、向こうも止められなくなって長引いたのかもしれないと、今では思っています。
中卒で就職した私は、当然の如く低収入の職場しか選択肢がありません。
それに、虐めっ子たちがネットに私の悪評を流していたらしく、それも影響して不合格になることも多かったです。
なんとか最低限の生活費が稼げるブラックな職場に就職しました。
そして、死にました。
仲間のなの字もない人生でした。
愛情のあの字もない人生でした。
幸せのしの字もない人生でした。
周りを敵に囲まれ、嫉妬や嫌悪の感情を向けられ、観葉植物のように感情を動かすこともなく、死んだように生きて、死にました。
──もう一度、仲間に会いたい。
「もう一度、チャンスが欲しい」
──もう一度、仲間と共に戦いたい。
「もう一度、人と向き合いたい」
──シズミタクナイ。
「けれど、沈んでしまいました」
──チンジュフヘ、ヒカリノアルバショヘ。
「光は、すぐそこにありました」
──アア、キボウノヒカリハ……仲間の光だったのね……。
「そうか、絶望とは……仲間の温かさを知らないことだったのですね……」
──ならばもう一度、返り咲いて魅せましょう。
「──ならばもう一度、第二の生を参りましょう」
──浮かぶ、浮かぶ、浮かぶ。
「さようなら、
──鎮守府を任せたわ、
……はい、任されました。
ゆっくりと、意識が浮かんでいく。
だんだんと四肢の感覚がはっきりしていき、薄れていた記憶を思い出し始める。
そうだ……。私は、艦娘同調率検査機を使って、同調率を測っていたんだ。
ゆっくりと体を起こし、意味もなく自身の手を見つめる。
いま会ったのは……赤城の、船の記憶か……。あの光景も、全部、赤城が見た景色……。
暗くて……深くて……そして──とても、温かかった……。
目から何かが零れ、頬を伝った。そのまま、その何かは止まることなく、たくさん溢れてきた。
私はどうして泣いているのかもよくわからなく、止め方もわからず涙を流す。
「赤城さん……!」
東提督の声が聞こえたと思ったら、体に衝撃と共に自分のものではない体温を感じる。
横を見ると、そこには東提督がいて、その腕は私の背中に回されていた。
それは、深海のように冷たくなかった。
あたた、かい……。
「ひと、りじゃッ、ないっ……?」
「赤城さんはここにいるよ」
嗚咽交じりに聞くと東提督はそう答えた。
その返事に、私は涙が止まらなくなった。
赤城、戻って来られたよ。鎮守府に。
仲間のもとに。提督のもとに。
これからは、私も仲間を作るから。
だから、安らかに眠ってね。
その後、明石さんが来た。
そして、機械に書かれた数値を見て叫んだ。
「同調率101%ぉおぉっっ!!?!?」
……私は何も聞かなかったことにした。
作者から
評価、感想、ありがとうございます!!!!
誤字報告、大変助かっています!!!!!!!!!
これからも本作をどうぞ、よろしくお願いいたします!!!!!!!!!!!!!