あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~ 作:白紅葉 九
どれくらい経ったか。
涙も枯れ、落ち着きも取り戻してきた。
その間に明石さんが説明していたが、初めて検査を受ける人は、船の記憶と自身の記憶を混同して情緒不安定になることがあるらしい。
艦娘同調率が低いとなりにくく、高いとなりやすい。私もそれで涙を流したのだろうとのことだ。
その説明を、ずっと東提督に抱き着かれながら聞いていた。
これに関しては、原因は東提督ではなく私にある。
離れようとした瞬間、私は反射的に『一人にしないで!』と叫んでいたのだ。
自分でも自分がよくわからないのだが、とにかくそういう訳で、現在も東提督に抱き着かれている。
恥ずかしさと、わずかに感じる寂しさが混じり合って、とても居心地が悪い。
明石さんは早々に『イチャイチャはほどほどに~』と言って、部屋を出ていった。
別にイチャイチャしているわけではないし、東提督には吹雪さんというケッコンカッコカリをした相手が……。
そこまで考えて、気付いた。
――この状況、吹雪さんに見られたら相当不味いのでは。
そして、そういうフラグは、大抵回収してしまうのだ。
「提督、いい加減仕事に戻らないと大淀さんが……」
「「「……」」」
嫌な沈黙が生まれる。
私たちが何も言えぬままいると、静かに吹雪さんはこちらに歩いてきた。
「あ、ふ、吹雪、これは……!」
焦ったように東提督が言おうとするが、吹雪さんはそのまま東提督に抱き着いた。
私も東提督もそれに驚くが、東提督は目を細めたかと思うと吹雪さんに笑いかけた。
……ああ、なるほど。
明石さんの言っていたことを理解した。
──目の前でイチャイチャされると、こんなにも居心地が悪いものなのだな。
私がそんなことを考えていると、吹雪さんが口を開いた。
「沈むと寂しいのは知っていますから……。
だから、今日だけ、特別ですよ」
そう言って、東提督をぎゅーっと抱きしめる吹雪さん。
ぎゅー、ぎゅー……うん、ちょっと強すぎじゃない?
東提督の表情すごいことになってるよ?
まぁ、ケッコンカッコカリした相手が別の女性を抱きしめていたら、そういう反応にもなるよな……。
あとで東提督には謝っておこう。
「……ありがとう、ございます」
「「ッ……!?」」
私は顔を綻ばせながらそう言うと、二人は驚いた表情を晒す。
あれ、いま、私、笑えた……?
今まで、笑顔は作らなきゃ出てこなかったのに。
そっか……私も、笑えるんだ。
そのまま何分か経ち、やっと落ち着いた私は東提督から離れた。
長い時間泣いたので、目に冷えたタオルを置いて冷やす。
そうやっていると、いくつか吹雪さんから質問が投げかけられる。
どうして抱き着いていたのか、などだ。
同調率が101%だったと伝えると、『100%越えていませんか!?』と当然の感想が投げかけられた。
それについては私も知りたい。
そうやって吹雪さんと話していると、吹雪さんから気になる言葉が聞こえた。
「まぁ……そうじゃなければ、何日も眠っていないですよね……」
「何日?」
「赤城さんは、検査を始めてから十三日間眠っていたよ」
十三日間!?!?
でも、改めて考えれば百年近い時間の船の記憶を思い出していたわけだから……。
それくらいかかっていてもおかしくないかもしれない……のか?
私が毎日三食運んでいたあの子、ちゃんと生きてる!?
いや、大丈夫のはず……。
もし私が三食を届けられない状況になったら、大淀さんに運んでもらうようにお願いしてあるし……。
「目覚めてすぐで申し訳ないけど、赤城さんにはすぐに“大戦”へ調子を整えてほしい」
「“大戦”……?」
「近々、深海棲艦が大規模侵攻を起こすと予想されたんだ。
ここ横須賀第十三鎮守府は、全体的に練度も優れており、近代化改修でみんな力を付けたため、大規模侵攻が起きた時に深海棲艦の基地へ攻撃を行う役割に選ばれた」
大規模侵攻。
それは、百体以上、多い時は千体を超える深海棲艦が陸地への侵攻を目的とし襲撃してくることである。
それを“大戦”と表現をしているため、最低でも千体は確認されているのだろう。
我々の鎮守府は、深海棲艦が別の鎮守府を襲撃しているときに、深海棲艦の基地を叩き、基地に帰れない深海棲艦たちを追い込み漁の感覚で倒していくのだろう。
「すぐに近代化改修を行うよ。
だけど、開戦までに終わらなかった場合でも、完了次第戦場へ突入してもらうことになる」
「了解しました」
どっちにしろ、近代化改修の性能を確かめている時間はなさそうだ。
ブラックに感じるかもしれないが、それが軍人というものだからね。
戦あるところに軍人あり。戦わなければ民が死ぬ。
明石さんがやってきて、私の艤装を謎の装置に入れる。
そして、表示される『04:30:00』の文字。次の瞬間には『04:29:59』になった。
その時、鎮守府の放送が鳴る。
『大規模侵攻が開始されました!
作戦を開始します!』
それを聞き、東提督はすぐさま工廠を出ていった。
私は明石から、今回の作戦の詳細を聞く。
まず、この作戦は普段の艦隊とは違う艦隊で行われる。
第一艦隊 旗艦吹雪 随伴陸奥・北上・暁・響
第二艦隊 旗艦長門 随伴翔鶴・加古・天龍・木曾・島風
第三艦隊 旗艦金剛 随伴龍驤・川内・時雨・夕立
第四艦隊 旗艦古鷹 随伴扶桑・山城・陽炎・不知火
これが今回の艦隊編成だ。
川内さんが、私がいなくても出撃できるようになっていること以上に、驚いたことがある。
あの子が……。
――加古さんが、艦隊編成に加わっているのである。
私のいない十三日間で一体何があったのか。
とても聞きたいところだが、いまはそんな時間はない。
戦闘海域の説明に入った明石さんの説明に、集中する。
四時間半が経ち、近代化改修が終わった艤装を取り付ける。
無線の先では、苦戦している様子の鎮守府のみんなの様子が聞こえてくる。
「今日は全力でいくよ」
【最初から最高火力でいくよー!】
【誘爆は防ぐ】
【傷一つ付けさせないよ!】
【戦の時間だ! 負けないぞー!】
【索敵範囲いっぱいだ~楽しみ~】
【が、頑張ります……】
【行きましょう、先生!】
「――さぁ、返り咲いて参りましょう」
海の上に立つ。
そして、前進する。加速、加速、加速。
【はっやーい!】
【ひ、ひぇぇー!】
火力科長と幸運科長がどこぞの艦娘っぽい言葉を発する。
しかし、本当に早い。
「私こんなに速かったっけ?」
私がそう問いかけると、装甲科長と対空科長が答えてくれた。
【近代化改装による強化と】
【レベル99だからだぞー!】
最近は全速力で走ることもなかったから、知らなかった事実だ。
原作では近代化改装やレベルアップでは速力は変わらないはずだが、この世界では変わるようだ。
これなら、予定より早くたどり着けるかもしれない。
【天候と風向きは良好】
【前方六キロ先まで深海棲艦なし~】
【最速で二十七分十五秒後に到着する予定です】
回避科長と索敵科長と委員長がそう教えてくれる。
おそらく、ここら一帯の深海棲艦も大規模侵攻の方に行っており、いないのだろう。
最速で約三十分だから、それまで耐えてくれるといいのだが……。
私がそんなことを考えていると、唐突に野良妖精さんが全員、上を向いて黙り込んだ。
「みんな、どうしたの?」
私がそう問いかけると、委員長が小さく呟くように言った。
【……妖精王様】
妖精王様って、どなた?
名前からして、妖精さんの王なんだろうけど。
私が困惑していると、野良妖精さんたちが目を瞑ったかと思ったら、その体が輝いていく。
「えっ!? みんな、大丈夫!?」
【大丈夫ですよ、先生】
【あったかい……】
【ぽかぽかする~】
少なくとも、不快感はないようだが……。
委員長が大丈夫だと言うので、速度は変えずに前進したまま、その横をぴったりと走る野良妖精さんたちを見守る。
そうして、だんだんと光が弱まっていったかと思ったら、そこには赤いマフラーを付けた野良妖精さんたちがいた。
【先生、私たちは、野良妖精さんから随伴妖精さんに変化しました】
「随伴妖精さん……?」
【はい。私たちは先生の随伴妖精さんなので、先生と一緒に戦うと強くなります】
野良妖精さんたちはどうやら、随伴妖精さんに変化したようだ。
といっても、いまいちその違いがわからないのだが。
見た目的には赤いマフラーを付けただけだし。
と思ったら、最高時速だと思っていたスピードがどんどんと上がっていく。
【パワーアップだよ先生!】
【前方八キロメートル先に深海棲艦~】
【撃破しといたぞ!】
「索敵科長、対空科長、どこまで航空機飛ばせる?」
【どこまでも~】
【みんなが戦っているところまで行けるぞ!】
大幅な時間短縮だ。
すぐさま東提督に伝えると、その急なパワーアップには驚いていたが、許可を貰えた。
そのため、航空機の移動を開始する。
『作戦遂行中の全艦娘に告げる。
第五艦隊旗艦赤城が現在作戦領域へ進軍中。
暁の水平線に勝利を刻むときは近い!』
無線から東提督の声が聞こえ、一瞬無線が静かになる。
数秒後、第一艦隊旗艦である吹雪が了解と返し、無線は被害報告などに戻る。
【たくさんの深海棲艦と艦娘が見えてきたよ~】
航空機の管理は全て妖精さんたちに任せているため、私は戦場に付くまで何もすることがない。
しかし、母艦として覚悟を決める。
「――第一次攻撃隊、攻撃開始!」
【火力科長、一発目にどでかいやつをお願いします】
【腕が鳴るねぇ! 任せて! ≪告知≫するよ、最大火力の攻撃でたくさん沈めるよ!】
【っ……! ≪予知≫した! たくさん攻撃が来るっ……!】
【攻撃は連射と機動を中心に、対空科長は攻撃元を探してください】
【……≪探知≫したぜ! 十七時の方向だ! って、もう撃ってきたっ!?】
【数機の被弾を≪認知≫した。この程度十秒もあれば直せる】
【被害軽微のようなので、戦闘陣形は崩さずいきます】
【――≪明知≫した。……あ、一瞬だったけど見えた~?】
【ちゃんと≪感知≫したよ。北が深海棲艦多め、南は囮部隊で、本命は北東だね】
【艦隊の≪知能≫として、新たな作戦を発令します。北東に囮部隊を移動させます。西に本命を向かわせ、そこを殲滅してから西の艦娘と共に、北の深海棲艦を挟み撃ちする形で攻撃します。攻撃は連射中心、第二次攻撃隊が到着したら火力を上げます】
【【【【【【【了解!】】】】】】】
委員長がスキルを使用し的確に指示を出す。
その指示通りに各科長と付喪妖精さんが動く。
あれ、もしかして、私いらない子?
【先生に勝利を届けるぞー!】
【先生、また一人倒したぞ! 褒めて!】
「すごいね、対空科長」
私が不安に思ったのを察したのだろうか。火力科長と対空科長がそう言う。
実際、これだけで私の心は満たされるのだから、不思議なものである。
と、そんなことを考えると、やっとのことで戦場が見えてきた。
そこで交戦しているのは、第三艦隊と第四艦隊。
しかし、敵の数が数だ。
苦戦しているわけではないが、長時間の戦闘で精神的に来ている部分も多く、普段の戦闘よりミスが増えている。
「第二次攻撃隊、発艦!」
【数機で艦隊を護衛しながら残りの機体で深海棲艦を攻めます】
「了解。
古鷹さんと、陽炎さん……それと、暁さんには注意を払っておいて」
【わかった! 二人への攻撃は特に警戒しておくぜ!】
「――第二次攻撃隊、攻撃開始!」
【火力隊長、敵も消耗していますので、威力の調整はお願いします】
【任せて! ≪告知≫するよ! 全部の深海棲艦を五撃以内に倒すよ!】
【回避科長、敵が多いので回避優先でお願いします】
【わかったよ。敵の位置は≪感知≫済みだから任せてね】
【おっと、古鷹への攻撃が来たけど、防いどいたぜ!】
「対空科長よくやった!ありがとう!」
【へへ~ん。報酬は弾んでくれよ?】
【お前は金平糖がたくさん食べたいだけだろう】
【あっ、バレた?】
【バレバレだ】
「この戦いに勝ったら、たくさん金平糖あげるからね!」
【楽しみー!】
【金平糖……!】
そうやって妖精さんと話しているうちに、私も戦闘が出来る距離まで来ていた。
仲間にぶつからないように少しずつ減速し、腰の刀を抜いて構える。
速度が出ているのもあり、遠くに見えていた深海棲艦との距離も一瞬で縮まる。
そして、深海棲艦の横を過ぎる瞬間斬りつけ、そのまま敵陣奥まで行き、減速していた速度を上げ辺り一帯の深海棲艦を吹き飛ばす。
【流石先生です……!】
「ありがとう、委員長。
みんなが闘っているのに何もできない、じゃ嫌だからね」
話しながらも、既に十体以上の深海棲艦を倒している。
すると、私の機体たちに支援されながら第三艦隊と第四艦隊の艦娘たちが少しずつ前線をあげてくる。
すこしもすれば、彼女たちは私と同じくらいの位置まで来ていた。
偶然、第三艦隊旗艦の金剛さんと近くなり、無線無しで話す。
「赤城、来ると思っていたデース!」
金剛さんから意外なことを言われる。
私は十三日間眠っていたようだし、この戦いでも目覚めない可能性の方も大いにあった。
というか、そう思う方が自然だろう。
実際、私がこの日に目覚められたのも偶然以外の何物でもない。
「どうしてですか?」
「赤城だからデース!
あなたは一番来てほしい時にさらっと現れるのデース!
だから、さっさと“あの子”のところへ行くデース!」
「……ありがとうございます。
金剛さんは、変わりましたね」
以前と比べて声色も表情も明るくなっている。
「あの提督のせいデース!
文句なら提督にいってくださいネー!」
「わかりました。
あとで、提督には感謝しておきましょう」
それだけ言って、私は再び深海棲艦の群れに突撃していく。
加古さんは第二艦隊に所属している。
つまり、この深海棲艦を越えたところにある。
【もうすぐですよ、先生!】
「ありがとう委員長!」
委員長に感謝を伝えながら、目の前の深海棲艦を蹴り飛ばして進む。
その勢いで二体の深海棲艦に傷を与える。
その二体を無視して進もうとすると、上空から航空機が二体の深海棲艦に攻撃を加えた。
私の航空機が出したものではない。
「翔鶴さんには後でお礼をしないとねっ!
この勢いに乗って、行くよ!」
【――≪明知≫した】
【≪感知≫したよ。先生、南側の敵が消耗しているから、狙うならそっちを!】
「わかった!」
進行方向を変え、南側に寄っていく。
たしかに、こちらの敵は消耗が激しい敵が多い。
何体か敵を倒した辺りで、広い水平線が見えてきた。
そして、そこに第一艦隊と第二艦隊の艦娘たちの姿を見つけた。
「ッ、あかぎ、さん……!」
「……加古さん」
そこには、加古さんの姿があった。
しかも、その姿は変わり、改二の状態となっていた。
私と会ったことで色々な感情が溢れてきたのか、何もできないでいる加古さんに近寄った。
そして、私を見つめる加古さんの頭を撫でる。
「ッ、あかぎさぁぁぁんッッ!!!
うわぁぁぁああんッ!!」
「よく頑張りましたね、加古さん」
大声で泣きだした加古さんの頭を優しく撫でる。
この十三日間、加古さんはどう思いどう過ごしたのかはわからない。
ただ少なくとも、部屋から出ることを決断させる何かがあったはずだ。
しかし、今はそれを聞いている時間がないため、手っ取り早く頭を撫で、褒める言葉を与える。
それが今の加古さんに一番必要なものだと、この数秒間で導き出した答えだ。
少し経ち、加古さんが泣き止んだのを確認して、頭から手を離す。
加古さんも気分を切り替えて、敵の殲滅に行動を移していく。それを見ていたのか、私に無線が届く。
『赤城さん』
『どうしましたか、吹雪さん』
『……正直、現状私の作戦指揮では、この戦いの勝率は五分五分としか言えません。
赤城さん、あなたなら、この戦いを勝たせることはできますか?』
十三日間。何があったのか全く知らない私でも、その言葉で吹雪さんが自信を喪失していることに気付けた。
提督は変なところで鈍いと言うか、身近な人物の変化ほど気付けないタイプなのだろう。
吹雪さんは、提督が加古さんや金剛さんを変えたのを目の当たりにしていた。
だから、自身は提督と釣り合っていないんじゃないかと不安に思って、それが自身の喪失につながっているのだろう。
じゃなければ、圧倒的有利なこの状況で五分五分なんて言葉使わないだろうし……。
指揮系統下にいる者を不安にさせる指揮権の譲渡なんて提案するわけがない。
……。
本当に、面倒くさい。
『……私を指揮系統から外して頂けるのなら、勝てますよ』
口から出たのはそんな言葉。ああ、やっぱり駄目だった。
正しい言葉が思いつかなくて、妥協策に落ち着いてしまう。
人が自力のみで変化するって、やっぱり相当大変だ。
しかし、私のプライドにも似た矜持が。
同時に恐怖にも似た妄想が、誰かに頼るという行為を選ばせない。
その点において、私は大淀さんや天龍さんに大きく劣っている。
二人は、トラウマを克服した。
私は……。『 』……っ。
【先生、大丈夫ですか?】
……大丈夫。もう落ち着いた。
今は、戦いに集中することにしよう。
横須賀第十二鎮守府近海大規模侵攻 人的被害(艦娘)
横須賀第十三鎮守府
作戦参加艦娘数22名
損傷無し 0名
小破 4名
中破 12名
大破 5名
轟沈 0名
特殊損害 1名