あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~ 作:白紅葉 九
おそらく、私がそれに気づけたのは、見たことがあったからだろう。
「……ァ”ァ”ァ”ァ”ア”ア”……」
『ッ、第一艦隊、吹雪さんから距離を取ってくださいッ!』
私の必死さが伝わったのか、吹雪の近くに居た北上さんと響さんが吹雪さんから距離を取った。
吹雪さんは顔を俯けたまま、唸るように声を出している。
もし、何かがあった時には独断で動けるようにと指揮下から外れたけど、本当にそのまさかが起きるとは。
『吹雪、どうしたの!?』
『赤城は、なにか知っているのかい?』
『……深海化ですね。
吹雪さんは私が何とかしますので、第一艦隊は深海棲艦の殲滅をお願いします』
私がそういうと、第一艦隊は吹雪さんに近い深海棲艦から倒していってくれる。気を利かせてくれて有難い。
……さて、何とかすると言ったはいいが、私は深海化を治した経験はない。
過去に一度、目の前で艦娘が深海化した光景を目撃したことがあるだけだ。
その艦娘は……いま、どうしているかわからない。
一度、深海化が直ったと思ったら、次の出撃の時に再度深海化した。
結局、艦娘に戻すことも、沈めることも出来ず、彼女は海の何処かへと消えていってしまった。
「ですが、前とは状況が違います」
弾薬も、燃料も、満足に補給できる。
損傷したら、鎮守府で入渠できる。
もしかしたら、今回は深海化を治せるかもしれない。
私は、あの子に艦娘を守ると約束した。
だから、今度こそは、守る。
ひとまず、方法としては、前回の行動をなぞることになるだろう。
まず、深海化というのは、艦娘が深海棲艦になりかけているというよりは、深海棲艦に憑依されかけているという説明の方が近い。
そのため、深海棲艦を殺すか怯えさせればいったんは艦娘の方を表層に出すことができるはずだ。
といっても、憑依している深海棲艦は寄生虫に近く、深海棲艦に攻撃すれば艦娘にも何かしら影響が出る。
前回の時は、軽い記憶喪失だった。
今回も同等の結果が出る可能性があると、警戒した方が良いだろう。
深海棲艦を裏側にやった後は、また出てきたときに倒す。
さて、とりあえず、彼女を表層に出させよう。
「吹雪さん」
「暗くて。
アァ、ソトハクライ。
コチラガワハ、コンナニアカルイノニ」
……思考誘導か。
なら、こちらも無意識の部分に洗脳を施しておこう。
深海化は物理的なことでは解決せず、精神的な部分で解決する。
吹雪さんが深海にいたいと思っているままでは治ることはない。
「その先に、光はありませんよ」
「深くて。
ゲンジツハ、ニゲダシタクナルナ。
コウカイモ、タクサンアル」
「その道は、正解じゃありませんよ」
「寂しいのに。
オマエニ、ナカマハイルノカ?
イヤ、アイツラハ、オマエノコトヲ、ナカマダトハオモッテイナイ。
シカシ、シンカイニハ、タクサン、ナカマガイル」
「そこに、仲間はいませんよ」
誤った光の認識を変える。
現実逃避という逃げる道を塞ぐ。
仲間という曖昧な定義を確定させる。
吹雪さんが私を敵意に満ちた目で見る。
しかし、それは私のことを認識したということ。
あと一押しだ。
「沈め」
「吹雪さん」
「沈んで」
「必ず助けますよ」
「沈んでよ!!!」
「あなたの提督が」
「オイ、オマエ、ウルサイゾ。
ワレノジャマヲスルナ、カンムスフゼイガ!」
吹雪さんの自我が戻りつつあるのか、深海棲艦は焦ったように表層へ出てくる。
先程までは、盾にするように吹雪さんを表に出していたというのに。
しかしそれは、計画通りであり、これ以上ない好機でもあった。
「ワレノジャマヲシテ、タダデスムトハ、オモッテイナイダロウナ!
アァ、イラツク! イラツクッッ!!!
マズハ、コノブザマナオンナノカラダデ、キサマヲシズメ――ヒィ”ァ”ッ」
私の光った目を見て、深海棲艦は怯えたような表情を見せます。
そうでしょう。普通に見るだけで殺気を感じると言われたこの目に、殺気を込めているのですから。
そして私は、淡々と、表情を変えずに言いました。
「――あなたはいつでも殺せます」
「ァ”ァ”……」
深海棲艦が怯えたように内側に籠ったので、表層に出てきた吹雪さんのことを見ます。
深海棲艦のあの怯えようから、深海棲艦は吹雪さんに、私への恐怖を植え付けたり、私に関する記憶を消したりする可能性が高いです。
そして、もしかしたら、深海化が治っても記憶が戻らない可能性もあります。
「吹雪さん」
吹雪さんが私の目を見ました。黄色く光っている私の目を。
「ごめんなさい」
吹雪さんは、顔に恐怖を浮かばせました。
私は万感の思いを乗せ、その言葉を言いました。
「さようなら」
その言葉を聞き終わるのが早いか、吹雪さんは意識を落としました。
吹雪さんが海面に落ちる前に受け止め、抱き上げる。
周りを見ると、まだまだ深海棲艦はいる。
響さんに吹雪さんを預け、私は刀を握った。
その日、横須賀第十三鎮守府には、暗い雰囲気が流れていた。
というのも、提督が変わってから初めての死者が出るかもしれないと言う境地に立たされているからだ。
艦娘深海棲艦化現象。
通称、深海化。
これは、過去に何度も確認されている、艦娘が大きな傷や心理的揺らぎがあり、深海棲艦となる現象である。
過去に治った事例が一度だけあるが、それは外国の話で、真偽は不透明。
それを除けば、一度とさえ治った事例がない現象である。
間宮さんや鳳翔さんが勝った時のために祝賀会用の食事を用意しており、この暗い雰囲気のなか大規模侵攻勝利の祝賀会が行われることとなった。
現在は、その祝賀会の真っ最中である。
私が一人で静かにお酒を飲んでいると、後ろから肩を叩かれた。
振り向くと、そこには給糧艦の間宮さんがいた。
「あのー、赤城さん。
例の件なのですが、状況が状況なので、延期してもらっても大丈夫とのことです」
「ご配慮ありがとうございます。
ですが、迷惑はかけられませんし、変わらず二週間後までに返答します。
ただ、直前のご連絡となる可能性が高くなってしまいそうで、申し訳ありませんとお伝えください。
それまでに、間宮さんは準備を済ませておいてください」
「わ、わかりました!」
間宮は意味を理解したのか、少し驚いたように詰まりながらも返答する。
この件はまだ提督には伝えていないが、想定通りにいけば二週間後には返答を返せるはずだ。
返せない場合でも、相手に借りを作ると今後大変になるので、無理にでもする必要があるのだが。
間宮さんはそれだけ言うと、再び料理をするために厨房へ戻っていった。
それを見届け、私は長門さんと陸奥さんと話していた加古さんに話しかけ、二人きりになった。
加古さんは言いたいことがありすぎて上手く言葉にできないようだ。
もどかしそうに口を開いては閉じてを繰り返している。
しかし、決心がついたのか、話し出した。
「赤城さん、あのね……私、ずっと怖かった。
誰かを信じるのも、信じて裏切られるのも」
私は加古さんの独白を黙って聞く。
「最初に赤城さんと出会って、“信じなくていい”って言ってくれた時、この人には全部見透かされているんじゃないかなって思った。
だから、赤城さんの前では、何も考えずに気を張らずにいられた。
けど、赤城さんが居なくなって、怖くなった。
信じられる相手が一人もいない、この世界が。
そんな時、提督が来て……『私を信じて』って言ってくれたの」
「加古さんは、東提督に救われたんですね」
「うん……」
「外の世界はどうでしたか?」
「……すごく、綺麗だった」
加古さんは笑って言った。
なら、もう加古さんは大丈夫だろう。
加古さんの問題は、加古さん自身が加古さんのことを信じられなかったから起こったのだ。
加古さんは、信じたいと思った相手に、自分が信じたいと思った相手を信じていいのかという疑心暗鬼を重ね、思考に影を差していた。
それを提督が、気づいていたのかはわからないが、きっかけを与えてくれたのだと思う。
加古さんと別れ、暁さん、響さんと話していた川内さんの所へ行く。
「赤城さん!
ずっと眠っていたけど、もう動いても大丈夫なの?」
「はい、大丈夫ですよ、暁さん。
心配してくれてありがとうございます」
「レディだから当然のことよ!」
「赤城さん、先程の戦いでは、暁が航空機に助けられた。
「どういたしまして。
機関部の損傷が激しかったので警戒しましたが、無事でよかったです」
「次は赤城さんに守られなくてもいいように、頑張るわ!」
暁さんと響さんと談笑する。
そして、静かに私に目線を向けていた川内さんを見る。
川内さんの目はわずかに潤んでおり、今にも泣きだしそうな笑顔をこちらに向けている。
「川内さん、よく頑張りましたね」
「ッ!!
……うんッ!!」
そう言った川内さんは、その目から涙を溢す。
私は川内さんの背中を軽く摩り、落ち着くのを待つ。
数分もしたら川内さんも落ち着いたのか、涙を拭い、目を冷やしてくると逃げるように水場へ向かっていった。
大勢の艦娘がいる場で泣いてしまって、恥ずかしくなっているのかもしれない。
また後で、二人きりになれるタイミングで話しに行くことにしよう。
私がそんなことを考えていると、一瞬祝賀会が波を打ったように静かになる。
全員が目線を向けている方向を見ると、そこには表情に重い影を落とした東提督と、それを無理矢理ここに連れてきていた大淀さんがいた。
東提督は誰とも話すことなく、静かにバイキングの食事に手を付ける。
それを見て、静かになっていた艦娘たちも、それぞれ自由に行動し始める。
私は暁さんと響さんが提督のもとへ行ったのを見て、会話を盗聴する。
何故なら、ここは元ブラック鎮守府。
闇はまだ、根強くそこに残っているのだから。
「提督、暗い雰囲気だけど大丈夫?
美味しいものを食べたら、元気が出るわよ!」
「暁……ありがとう」
「元気ないわね……まぁ、吹雪があんなことになっちゃったら仕方ないわよね……。
吹雪も、かわいそうね」
「え……?」
「だって、そうでしょ?
あの子、戦闘以外で死んじゃうんだもん。
私たちみたいな兵器が戦闘以外で死んだら、本当に無価値になっちゃうじゃない」
「お前ッ――!!!」
「ヒッ……! やだ! ごめんなさい!
ごめんなさい! もう反抗しないから! 許して!
痛いのは嫌なの! 嫌ぁぁあぁああ!!!」
頭を抱え込み土下座をするように蹲る暁さん。
提督はそんな暁さんを見て唖然とした表情で立っている。
「あっ……ごめ――」
「――提督、いったん暁から離れてくれるか」
「……ごめん。
執務室に戻っておく」
響さんの言葉に東提督はそう返して、祝賀会を出ていく。
それを追うように大淀さんも出ていった。
祝賀会は騒然としている。
艦娘の反応は三通りだった。
東提督と暁さんの両方を心配する反応。
やっぱり東提督は信用ならないという反応。
暁さんの様子をよく見た光景だと、特に気にも止めていない反応。
一つ目は東提督に救われた者たちと、刀術教室に通っている者たちと、間宮さん、鳳翔さん、龍驤さん。
二つ目は東提督と関わりが薄い長門さん、陸奥さん、古鷹さん。
三つ目が、翔鶴さん、北上さん、扶桑さん、山城さん、陽炎さん、不知火さん。
そして最後に、祝賀会のことを忘れて工廠にいるだろう明石さん。
論外。
「嫌だ嫌だ嫌だァ!!!
もうあの頃には戻りたくないのぉ!!
罰なら私が受けるから!
お願い!! 私の妹には手を出さないで!!
何でもするからぁ!!」
さて、考えるのもいいが、いったん暁さんを何とかすることにしよう。
暁さんに近づき、半狂乱状態の暁さんと目を合わせるようにしゃがみ込む。
目線が定まらずに大声を上げていた暁さんも、ずっと視線を向けられていたら、ぼーっとするように少しずつ視線が定まっていく。
それでも、体の震えと、トラウマによる恐怖で涙が止まらないみたいだ。
「暁さん」
「や……いや……だ……」
暁さんをゆっくりと抱きしめる。
暁さんの体の震えを直に感じた。
しばらくそのまま抱きしめていると、暁さんの腰が抜けたのか、私の体に暁さんの体重が全部乗ったのを感じた。
震えもだいぶ収まっている。
その目には、冷静さが多少戻ってきている。
しかし、あくまで多少である。
「あ、あかぎさ……わた、わたし、どうしよ……。
かいたい、されちゃうのかな……。
いや、いやだよ、もう、みんなと離れるのは、いやだよぉ……。
営倉には、いきたくない……こわい……ぅぁぁあああ……」
暁さんの背中をゆっくりと叩く。
まるで、子供を寝かせる親のように。
言葉以外の方法で、一人じゃないと言い聞かせるように。
暁さんは、その目から涙を流す。
しかしそれは、先程のように恐怖から来る涙ではなく、悲しみから来る涙であった。
「まだ、みんなと一緒にいたいよ……。
あかぎさん……わたし、どうしたらいいの……?」
「暁さん、悪いことをしたら、まずはごめんなさいって謝るところから始まるんですよ」
「許してくれなかったら、どうするの……?」
「許してくれるまで何度でも謝るんですよ」
「嫌われ、ないかな……?」
「けど、謝らないと絶対に仲直りはできませんよ」
「……ズッ……わかった。私、頑張る。
提督と、仲直りする……ッ」
「はい、応援しています」
暁さんはそう言うと立ち上がろうとしたが、腰が抜けたのが治っていないようで動けずにいる。
暁さんがわたわたと焦っているのを見て、暁さんのことを見ていた艦娘が小さく笑う。
暁さんはそれを聞いて、恥ずかしそうに顔を赤くした。
結局、金剛さんが暁さんを抱っこした。
暁さんのことは金剛さんに任せて、私は別に、艦娘の代表としてやるべきことをしに行くことにした。
「赤城」
私が祝賀会の会場から出ようとしたところで、長門さんから声がかかる。
見ると、近くに陸奥さんはいないようだ。
長門さんは真剣な表情を私に向けている。
「どうしましたか、長門さん」
「私も、提督のところへ行かせてくれないだろうか。
戦艦長門としてではなく一艦娘として、提督と話したい」
長門さんには、艦娘のまとめ役を頼んでいる。
しかし、実際は吹雪さんがいるため、それほど多く活動しているわけではなかった。
だが、吹雪さんが意識不明になったことで、これからはもっと活動することになるだろう。
そして、今回は艦娘の代表としてではなく、一人の艦娘、東提督の指揮下にある者として、提督という存在を見極めたいと言ってくれた。
もし、戦艦長門として提督と話したいと言っていたら、これは長門さんの仕事ではないからと否定していただろう。
もし、陸奥さんを同行させていたら、変わる気がないと判断し否定していただろう。
しかし、長門さんは肩書をなくし、ただの艦娘として、提督という役職への評価をするために、東提督と話したいと言った。
それを、私が否定する理由はない。
「わかりました。
暁さんの件の話が終わった後でいいのであれば、構いませんよ」
「問題ない。
ありがとう」
そうして、長門さんと共に執務室に向かう。
あの場で東提督は、私に説教をされることは予想できたのだろう。
そのため、彼女は『執務室に戻る』とハッキリ言った。
だから、間違いなく執務室で待っているはずだ。
執務室につき、扉をノックする。
すぐに、『どうぞ』という東提督の声が聞こえたので扉を開ける。
執務室には、表情に影を落とした東提督が一人いるだけだった。
大淀さんはいないようである。居たら退室するようにお願いしていたから、手間が省けてよかった。
東提督は私だけが来ると思っていたのか、私の後ろに続く長門さんに少し驚いたような表情を見せる。
「東提督、先程の暁さんとの件で参りました。
それと、長門さんが個人的に話したいことがあるとのことで連れてきました。
構いませんか?」
「う、うん……構わないよ」
東提督が長門さんがいることを許可したため、そのまま話し出す。
私からは暁さんとの件を話すだけだ。
「暁さんは前任時代での扱いから、艦娘は兵器として扱われるものだと思っています。
そのため、今回あのような発言をしました。
暁さんは間違った発言だったと反省し、謝罪したいと言っています」
「わかった。
また暁さんとは時間を取って話したい」
「了解しました。
暁さんに伝えておきます。
私からは以上です」
「では、私から話してもいいだろうか」
「……ああ」
東提督は覚悟を決めたような表情で返答する。
長門は東提督の目を合わせる。
お互い、真剣な表情だ。
長門さんは事前に話したいことを考えてきたのか、東提督と目を合わせながら、つまることなく話し出す。
「提督。あなたの正直な意見を聞きたい。
あなたにとって、艦娘とはなんだ?」
その質問に、提督は少し考えるような素振りをしてから答える。
「……共に戦う仲間だ。
しかし、兵器とは違い、お互いに高め合うことができる」
「では、あなたの望む鎮守府はどんなものだ?」
「艦娘同士がお互いに高め合い、認め合える鎮守府にしたいと思っている。
そのために私は、艦娘を支え、艦娘の願いを叶えられるように最大限のサポートをしたい」
「……では、あなたにとって暁との件は、それを達成することができるものだったか?」
「いやッ……全く真逆のことだ。
身近な者が危篤状態であるからと言い訳をして、職務を放棄していた……最低な提督だ」
長門さんが私に視線を送ってくる。
長門さんの言いたいことがわかり、小さくうなずく。
本当に、吹雪さんと東提督は、似た者同士だと思う。
二人の問題は、自信がないということだ。
吹雪さんは東提督の役に立っている自信がなく、東提督の傍にいても迷惑じゃないかと考えた。
東提督の場合は、艦娘のために働けている自信がなくなっていて、自分が提督をやっていていいのか悩んでいる。
東提督は最近まで表面化に出ていなかっただけで、無意識化で思っていたのだろう。
ただ、二人の問題点は、悩んでいる姿が他人からどう映るのかわかっていない点だろう。
私たちは人間や艦娘以前に、一人の軍人である。
そして今は、戦時中である。
指揮官に当たる提督や、艦娘のトップに当たる第一艦隊旗艦にいる者が、弱音を吐くと言う行為。
それが、どれだけ艦隊の士気を下げるのか。まったく分かっていない。
「提督、最後の質問だ。
――私にとって、提督とは何だと思う?」
「え……そ、れは……」
東提督は何も言えず黙り込む。
きっと、東提督にとっては、質問の意図も理解できない質問なのだろう。
東提督は、わからないことに対して苦々しい表情を隠すこともなくさらけ出す。
その表情自体が、この質問の不正解だと言うのに。
長門さんは、そんな様子の東提督に対して失望するような表情をして言った。
「私の求める提督は今の質問に答えられる提督だ」
「……」
「東提督、退室してもよろしいでしょうか」
「あ……うん」
東提督がその無力さが前面に出た顔を横目で見ながら、私たちは退室する。
扉を閉まったのを確認し、祝賀会が開催されている食堂に戻るために歩を進める。
長門さんは周囲に誰もいないのを確認してから、声を潜めて私に聞いてくる。
「なぁ……私は、彼女に背中を預けられるだろうか」
あの様子の東提督を見たら、そういう疑問が出るのも仕方がないだろう。
しかし、いくら百戦錬磨の武将でも、欠点が一つもない人間などはいないし、人は失敗をすることで強くなる。
「きっと、その答えはすぐに見つかりますよ」
「ああ。
……私を、これ以上失望させないでくれればいいがな」
長門さんはそれだけ言うと、それからは祝賀会の会場につくまで一言も話さなかった。
会場についた途端、憂いたような表情を消し、いつもの頼れる戦艦長門に戻った彼女を見て、何とも言えない気持ちになる。
なぜなら、その高すぎる理想が自身さえも苦しめていることに、彼女は気付いていないのだから。