あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~ 作:白紅葉 九
意気込みはよし。用意はなし。
「拝啓、前世の私へ。
今世の私はいま、海で漂流しています……」
【ウソはダメー】
【カエリミチはオボエテルよー!】
あれから、水上に立った私は妖精さんに先導されるまま、水平線をどこへともなく移動している。
接敵した場合は戦う武器もないため、すぐに百八十度回って直進。
秘儀・百八十回転逃げ!
この場においての秘の意味は、秘めた力ではなく、
「成果0じゃ解体されそう。
問題は攻撃手段だよね」
【オトコなら拳!】
「女なんだよなぁ」
【泣きオトシ?】
「深海棲艦に通じるのか……?
通じたとしても、こんな戦争下じゃ殺される未来しか見えないよね」
【アキラメロ!】
「死ねと言いたいのか!?」
そんな感じで海の上を漂っていると、魚みたいな形をした深海棲艦を見つけた。
あれは駆逐艦だろうか。しかもどうやら、負傷した状態であり、他に深海棲艦がいるようにも見えない。
「あれならフィジカル(物理)で、もしかしたら?」
【イケルかもー!】
【ホウゲキヨウイ!】
「空母なんだよなぁ」
【イッタイイチだから、ボクタチなにもスルことないー】
「じゃあ、ソロ討伐かぁ~……」
他に艦娘もいないから元々ソロであるか。
さっきからずっと頼っていた妖精さんを頼れないとなると、すこし心許なく感じる。
音を立てないように気を付けながら深呼吸をする。心を整えて、足を踏み込み駆逐艦へ突撃した。
同時に、無機質な瞳が音に反応してこちらを見た。
私は防御を捨て一直線で向かっていき、そのどこからどこまでが顔なのかわからない顔面へアッパーをかました。
「ガギャァァァァ!!!!」
モンスターらしい悲鳴を上げ、駆逐艦は吹っ飛んでいく。
そして、全身を粒子にして消えていった。敵って、こんな感じに消えるのか……。
とりあえず一安心。初戦闘は、無事に切り抜けられた。
ほっと一息を吐く。
【レベルがアガッタヨー】
「そんなポテトが揚がったみたいなテンションで言うことか、それ?」
今日出会ったばかりではあるが、恒例となりつつある妖精さんとの漫才を簡単に終わらせる。
というか、新たにレベルなんて概念が出てきたな。
たしかに、ゲームでも艦娘にレベルはあった。
しかし、アニメ版では暗黙の了解でなくなっていたし、この世界もそういうものだと思っていた。
「レベルが上がるとなにか特典があるの?」
【ツヨクナル!】
「何も情報が得られないことがわかったよ、ありがとう」
ちょっと前から思っていたのけど、もしかして……妖精さんってあんまり使えない……?
【これで、ソロクチクカンなら拳イッパツでタオセルよ!】
「妖精さん有能!」
【あついテノヒラガエシだー】
いいじゃん。
ほとんど絶体絶命みたいな状況だし、有益な情報をくれる存在を贔屓したって。
それから調子に乗って何匹も駆逐艦を倒していく。
先程妖精さんが言っていたことは本当で、駆逐艦は顔面を一発殴るだけで倒すことができた。
上手く敵の武器を奪えないのかと試行錯誤してみたが、それは難しそうだった。粒子で消えやがって……。
そうやって敵を倒していたら鎮守府へ帰還する時間になっていた。
危ない危ない、妖精さんに指摘されなかったらわからなかった。妖精さん有能!
もう少しレベル上げをしたかったが、妖精さんによれば燃料も心もとないようだし大人しく帰ることにした。
既に鎮守府の指令に対して、真面目に従おうという気は微塵もないのである。
鎮守府に付くと黒髪艦娘がおり、私を見ると薄く笑った。
まるで、被害者がまた一人増えたとでも言うように。
地獄の門を開いて、また一人絶望を見る者が現れたとでも言うように。
まぁ、言い得て妙というやつだろう。黒髪艦娘はこの鎮守府のことをよく思っていないのは表情からよく読み取れる。
そして、黒髪艦娘から二枚の紙が渡される。
そこにはこの鎮守府の地図とこれからの行動の指示が記されていた。
いや、書かれているのなら、わざわざ行く前に指示を受ける必要はなかったのでは?
そもそも、生還できると思っていなかった説。
……あまりにも濃厚な説だから、いったん考えないようにしたい。
思考を放棄し、その指示書通りに動く。
ひとまず補給を受け、第三艦隊と合流した。
第三艦隊の皆々様の紹介をしたいところだが、残念ながら一言も話すことなく出撃することになった。
いくら対人能力を強化されたビジネスマンの私でも、自己紹介されていない人物を紹介するのは困難極まれる。
私は問題ないが、普通の人なら三時間も命懸けの戦場にソロで立たされた後に、また六時間も戦場に立たされるなんて状況は耐えられないのではないだろうか。
戦場って結構精神的に来るし、周囲の警戒とかで身体的にも休まる時がないし。
私の場合は、常にストレスが貯まる周囲が敵だらけの場所に慣れているので問題ないのだが。
いや、決してブラック企業ではないよ?
ちょっと頭のおかしい上層部と、残業手当を出さない上司がいるだけだから。
そして、そのまま特に会話もなく出撃は終わった。
当たり前と言えばそうだけど、私以外には武器が支給されているようだ。
そもそも、空母に武器を持たせなければただの大きな的だと思うのだけど。
おかげで、軽巡洋艦や駆逐艦を殴るくらいしかできなかったよ。
当たり前だけど、入渠の許可は出なかった。残念でもなく当然というやつだ。
結局、その日は黒髪艦娘以外の艦娘と会話を交わすことかった。
私の自室は空母寮十三号室。相部屋ではなく、一人部屋だった。
寮というのは相部屋のイメージが強いのだが、どうやらこの鎮守府は違うようだ。
ぽっと出(文字通り)の私をいきなり第三艦隊に所属させるくらいだから、艦娘自体が少ないのかな。
「妖精さん、この鎮守府の艦娘って何人くらいいるの?」
【二十人くらいー】
【けど、ヒンパンに変わる……】
頻繁?
その言葉に、思考が冷えるのを感じた。
私は艦娘が大好きだ。
一人の死だって認めたくないくらいに、艦娘のことを愛している。
「頻繁というのは、具体的にはどの程度でしょうか?」
【何回かカレーをタベタら、イナクナッテル……】
【ナカガよかった妖精さんも、キヅイタラ、イナイ……】
【三十回アカツキを見たら、ダレカがイナイ……】
つまり、ひと月にひとりが死ぬ、ということですか。
それは、それは。
とても、認められません。
許容、できません。
【アカギ、目が!】
【ナンデ、カイニのケイコウが!?】
「……っえ?
ぁ、どうか、した?」
危ない。一瞬、感情的になってしまった。
昔から感情的になると今みたいにやらかしてしまう。
私が怒りに吞まれた時、わずかな理性が冷静になれと警告する。
それは怒りを抑えるためではなく、それほどまでに思わせた相手を効率的に、合理的に排除できるようにと。
ただ、それが傍からだと、顔から表情が抜け落ちているような感じになるらしい。
そのため、私が怒っている姿を見ると、顔面を蒼白させて見てはいけないものを見たという表情をする人が多い。
しかし、目やら改二やらは初めて言われる。
【赤城、いまイッシュン目が金色になった】
「えっ、そうなの?
感情が高まったら目が光るなんて超能力は持ってないんだけどね……」
【ホカのカンムスが改二になった時と、同じケハイがした】
【改二が近いのかなー?】
【ナニカとキョウメイしてどばーってなったのかもー】
【ゲンインフメイなのですー】
どうやら私は、艦娘になって目を光らせる能力を手に入れたようだ。
用途不明、発動条件不明瞭、効果目が金色になる。
いらなくね?
いや待て、なんか改二うんたら言っていたし、改二になるために必要な何かなのかもしれない。
この世界で改二がどういう扱いなのかはわからないが、『改二=強い』という公式は変わっていないはずだ。
それはそれとして。
「明日も早いし、ねよ……」
【おやすみー】
【おやすみなさい!】
【おさしみやさい】
【おやすみ!】
そういえば……妖精さんの声が、はっきりと……聞こえるような……。
そんなことを考えながら、私の意識は落ちていった。
次の日から、特に代わり映えのしない日々が続いた。
懸念していた夜間戦闘も、攻撃手段が拳なのでそれほど気にならなかった。なんで空母が拳で戦ってるの?
驚くことに睡眠時間は一時間なのだが、艦娘だからなのか一時間睡眠でもわりと平気だった。
前世では四時間睡眠が普通だったのだが、一時間しか寝なくていい身体というのは楽でいい。
出撃していない時間は、訓練という名の妖精さんとの雑談時間となっている。
一応訓練場には弓道用の弓と矢と的があるので、手持無沙汰になったらやっている。
しかし、現状において使う予定のない技術を向上させるのにはすぐに飽きが来た。
そのため、最近は架空の刀剣を使って仮想の敵と戦っている。両方とも架空なので、傍から見たら腕を振り回して暴れている変な人にしか見えないと思う。
この場には妖精さんしかいないから問題ナシ。
妖精さんと言えば、最近名前持ちが現れた。いや、名付け親は私なんだけど。
それが委員長。
野良妖精さんはだいたい三十人くらいいるので、わかりやすく学校のクラスのようにして、役職名を名前として呼んでいる。
ちょうど三十人いるから、クラスリーダーとしてちょうどいい名前を選んだ。
ちなみに、名前持ちは現状、委員長一人だけである。
野良妖精さんはよくぷかぷか浮いてどこかへ行くことが多いのだが、委員長に妖精さんへの伝言を頼むと、なぜか次の日には全員に伝言されている。
そうやって扱っていたら、委員長に伝言を頼む人ということで、私はみんなから先生と呼ばれるようになった。
「妖精さん、この技どう? かっこよくない?」
【最後もっと斬り捨てた、みたいな感じが欲しい!】
【背中で語るみたいな!】
「じゃあ、こうかな?」
ちなみに、いまやっているのは、剣の新しい技の開発だ。
やっぱり、強さも必要だけど見た目も必要だよね。厨二心てきに!
そういえば、気が付いたら妖精さんたちの言葉が流暢になっていた。
最初は機械音みたいで聞き取りづらかったのが、普通に話しているのと変わらないくらいになった。
聞き慣れるものなのかなぁと思って、妖精さんに他の艦娘はどうなのかと聞いてみたら、驚きの答えが返ってきた。
どうやら、普通の艦娘は妖精さんの声を聞くことができないそうなのだ。
そういうと誤解を生みそうだが、そもそも野良妖精さんというのは普通の艦娘に見られるものではないらしい。
艦娘というのは本来、付喪妖精さんしか見えない。
付喪妖精さんは話すことができないので、艦娘も妖精さんと話すことができない。
正確には話せるらしいのだが、妖精さんにしか通じない言語を使っているとのこと。
そのため、付喪妖精さんと野良妖精さんは会話をできるらしい。
一応、野良妖精さんが付喪妖精さんの言葉を翻訳して伝えることはできるらしいが、難しいそうだ。
例えば、お餅を外国人に説明する時、白くて丸くて正月によく食べる食べ物と説明する必要がある。ただ、日本人同士ならお餅で通じる。
野良妖精さんにとって、付喪妖精さんの言葉を伝えるのはお餅を知らない外国人に翻訳するのと同じ難しさがあるようだ。
話を戻すが、艦娘が妖精さんの声を聞けないというのは、付喪妖精さんの声が聞けないということ。
普通の艦娘には野良妖精さんを見ることも話すことも出来ないため、艦娘は妖精さんと話すことができないというわけである。
では逆に、野良妖精さんが見えたり、話せたりする人というのは、この世界でわかりやすく言うなら提督適性がある者のようだ。
つまり本来は、艦娘は付喪妖精さんと、提督は野良妖精さんとしか関わることができない。
私がその両方と関わることが出来るのは不明だ。私は勝手に、前世が提督で今世が艦娘だからだと思っている。
もしくは……もしや存在したのか、転生特典くん……!
【そろそろ出撃の時間だよー】
「あっ、もうそんな時間?
それじゃあ、行こうか」
【僕今日休むー】
【私もー】
【俺は行くぞ!】
【昨日休んだから行こうかな】
特に決まりがあるわけではないが、気づいたら出撃は自由参加となっていた。
そのため、妖精さんたちは出撃前に今日行くか教えてくれる。それがなんだか出席確認みたいで、本物の先生になったかのような気分になる。
どうやら、今日の出席者は十五名のようだ。
ああ、そうだ。
言い忘れていたが、最近超能力に目覚めた。
【誇張しすぎー】
てへぺろっ。
「でも、ステータスが見られるってファンタジーじゃスキルの一つだし!
……妖精さん限定だけど」
そう、なんと妖精さんのステータスが見られるようになったのだ。
≪──(野良妖精さん) レベル1 索敵F≫
≪──(野良妖精さん) レベル1 幸運C+≫
≪委員長(野良妖精さん) レベル2 統率S・指揮B≫
レベルは現在、委員長以外は全員1だ。
スキルは火力、装甲、回避、対空、索敵、幸運などがあった。なんだか見覚えがあるなぁと思ったら、近代化改修で上がる数値と似ていた。
近代化改修では火力、雷装、対空、装甲なのだが、空母の雷装が上げられないのが関係しているのか雷装はなく更に索敵と運が加えられている。
色んな妖精さんを見てみたが、六つ以外のスキルを持っていたのは委員長だけだった。
そのスキルは統率Sと指揮B。名前をつける前からあったスキルで、おそらく名前通りのスキルなのだろう。
感覚的にはレアスキルだが、おそらくそれ以上の価値はないと思われる。
現在は、伝言係としてとても重宝している。
『第三艦隊、出撃します』
【行くぞー】
【眠いー】
【今日もブラック日和だー】
そうこうしているうちに、出撃の時間となった。
旗艦の合図で陣形を組みながら海域を進んでいく。
正直、敵もあまり出ないので、最初ほど四方八方を警戒はしていない。
野良妖精さんと話すこともできないので、ひたすら退屈な時間である。
ちなみに、四六時中と言ってもいいほど一緒にいる野良妖精さんたちだが、その存在は提督にバレていない。
というのも、提督とは例の全裸邂逅以来、一度も会っていない。
野良妖精さんに囲まれている艦娘ってだけで目立ちそうだし、知られないに越したことはない。
それこそ、ここの提督なら人体実験とかの施設に容赦なく売りそうだし。
そうなったら怖いから逃亡用に燃料を隠れて貯めている。
どこに貯めているのかは妖精さんに聞いてくれ、私も知らない。
『七時の方向、深海棲艦を発見』
【パンチー!】
【キーック!!】
【スーパーハイパートルネードファイアーパンチー!】
改めて感じるのだが、ここの艦娘は常時ハイライト消えている&抑揚のない声&無表情なのだが、大丈夫だろうか?
こういう時、ブラック企業勤めで毒さ……ゲフンゲフン、鍛えられた自身の精神に助けられる。
あっ、ブラック企業勤めだと認めてしまった。
いままで頑なに、ストレスから目を背けるために認めていなかったのに。
といっても、正直もう、ブラックという言葉を聞いても、今日のご飯はパンだよと言われたくらいの感情しか湧かないのだが。
ブラック鎮守府勤めが私を成長(?)させた。
泳ぎ続ければドブ川でも生きていけるのだ。まぁ、一回死んだんですけどね!
『第三艦隊、帰還します』
【帰るぞー】
【眠いー】
【今日もブラック日和だったー】
こうやって、いつも代わり映えしない日々が今日も終わった。いや、現在時刻は
そんなどうでもいいことを考えていたら、滅多に使われない鎮守府の放送がかかった。
『第三艦隊赤城、至急執務室に来なさい』
どうやら、第三艦隊所属の赤城さんという艦娘が呼び出されたようだ。
珍しい。いったい、第三艦隊所属の赤城さんは何をしたのだろうか。
何か悪いことでもしたのだろうか、第三艦隊所属の赤城さんは。
【先生のことですよ】
「うっ……必死に逸らした現実を冷静に叩けつけないで、委員長……。
常識的に考えて、初手全裸にされた相手に会うとか、下手なブラック企業よりブラックだと思うんだけど」
私の中で、提督は部下を初手で全裸にさせる頭のおかしい変態だ。一つも現実と相違がないのがつらい。
提督は野良妖精さんを見られるので、執務室へ入室する前にみんなとはいったんお別れだ。
執務室の扉をノックして入る。
改めてこの部屋を観察してみると、本棚に頻繁にずらしている跡がある。もしかして、隠し部屋とか地下室とかそういうのだろうか?
「第三艦隊赤城、招集に応じました」
「おい」
「かしこまりました」
面倒臭そうに提督は全てを黒髪艦娘に任せた。
黒髪艦娘は私を椅子に座らせ、謎の機械を取り付ける。
数十秒後、その機械と繋がっていたモニターを見て、何かに満足したのか提督が頷いた。
それを見て、黒髪艦娘は私から機械を外した。
「チッ、さっさと出てけ!」
「「失礼します」」
何かの検診だったのだろうか?
私の表情分析が間違っていなければ、及第点には届いていそうだったが。
そうして、退室した私はどこかへ向かう黒髪艦娘について行った。
「行動を指示します。
本日の出撃をなしにして、今から工廠で改装を行います。
詳しい指示は現場の明石から聞いてください。
改装が終わり次第、第二艦隊へ移動となります。
以上です。質問はありますか?」
改装? 改装ってつまり、赤城改になるということか?
さっきの検査みたいなやつは、それが出来るか調べていたということだろうか。
それに加えて、第二艦隊への移動? いったいどんな心境の変化だ?
『君、頑張っていたから評価するよーーーん☆☆』的な感じではないだろう。
考えられる可能性は……第二艦隊の空母が、轟沈した?
「……特にありません」
よし、よく怒りを抑えた私。
怒りで目の色が変わるなんて検査一直線だ。
まだこの仮初の平穏のままでいたい。
まだ、反逆は早い。
工廠につくと、黒髪艦娘は私を置いてさっさと帰ってしまった。というより、あまり工廠に居たくないって感じか?
その心境はわからず、ひとまず工廠の扉を潜った。
「あっ! ……赤城、さん」
最初はなにか期待するような表情をして私を見たその人は、すぐに顔を絶望に染めた。
決して、一目見て絶望されるような見た目はしていないはずだけど。
しかし、今世で初めて無表情以外の表情を見たような気がする。軽く懐かしさすら覚えた。
おそらく、この人はまだまともなのだろう。
……いや、この絶望に染まった顔を見てまともと言っていいのかわからない。
いや、本当になんで、人の顔を見て絶望したんだろう?
だけど、ひとまず今世において、黒髪艦娘以来の話せる相手だ。まとも認定でいいのではないだろうか。
まともの基準があまりにも終わっているけど。
「……それでは、改装を始めます。
赤城さんの改装を担当する工作艦明石です……」
明石さんは絶望した表情のまま話をする。
それ、逆に器用じゃない?
「まぁ、返事なんて……──」
「航空母艦、赤城です。
本日はよろしくお願いします、明石さん」
「……!?!!?!???」
明石さんは限界まで目を見開き、口をパクパクさせる。
だからそれ、逆に器用じゃない?
顔芸芸人でも目指しているのだろうか。
そうじゃなかったら目指した方がいい。間違いなく才能があるよ。
「んな、な、なん、で……話せるの……?」
「……なんでと聞かれましても、艦娘だからと答えればいいのでしょうか」
「──ちがくてっ!!
だって……ここに来る子はみんな……!
今まで聞いた言葉は、『死にたい』とか……『殺してください』とか……なんで……」
『死にたい』? 『殺してください』?
あー、たしかに、こんなブラックな場所にいたらそれが普通なのかな?
人は誰とも話さないっていう状況自体が結構なストレスになるらしいからね。艦娘もそう変わらないはず。
私は何年も上司という名前のモンスターとしか関わってこなかったから、もう慣れちゃったんだけどね。
そういえば、私の会社の新入社員もよく『死にたい』って言っていたな。『殺してください』とは言われたことがないけど。
「私は死にたいとは思っていませんので」
「……ぁ……ぇ……」
「……ひとまず、本日は改装を受けに来たのですが、どうすればいいのでしょうか」
「……えっと……はい、まず──」
そこからは仕事のスイッチが入ったのか、テキパキと指示を与えられた。
私は基本受動的にいるだけだったので簡単だった。
そして、なんだかわけもわからず色々と受けていると、粗方が終わったのか別室に案内された。
そこで艤装という名の服を剥ぎ取られ、つまり全裸の状態になり、ベッドで横になった。
その上から布団を被せられる。
「三時間程度で改装は完了しますので、それまではその状態で待機していてください」
「わかりました」
私のその言葉を聞くと、明石さんは部屋から出ていった。なにか仕事があるのだろうか。
私が天井を見上げてぼーっとしていると、視界の端に小人が見えた。
「妖精さん」
【先生! あの男に変なことされなかった!?】
【大丈夫?】
「大丈夫だよ。
ところで、改装をすることになったんだけど……」
改装とはどうものなのか。
私が前世から持つ認識と差異がないのか、妖精さんに聞こうとした。
【おめでとう!】
【わー、今日はお赤飯だー!】
【改装をすると、なんと……つよくなる!】
「やっぱりその程度の認識か……。
それと、第二艦隊に移動することになったんだけど、なにか知ってる?」
【第二艦隊?】
【ちょっと前の第二艦隊なら知ってるぞ!】
【えっとー、戦艦とー、重巡とー、空母とー、軽巡とー、駆逐艦がいたー】
【そうそう】
【みんな改だった!】
全員が改装済みか。となると、敵もこれまでより強くなるかもしれない。
少なくとも、私を改装させたのだから、戦力の一つとして数えることに決めたのだろう。
となれば……。
「武器が支給されるかもしれない……!」
【楽しみですなー】
【楽しみだね!】
「だねー」
私たちがそうやってほのぼのと会話をしていると、外からどんがらがっしゃんと音が響いた。
とても無事そうな音には聞こえなかったが、大丈夫なのだろうか。
その少し後に扉が開き、明石さんが入ってきた。
その右手には謎の機械がある。この鎮守府、謎の機械が多すぎじゃないだろうか。
「赤城さん……ひとつ検査をしたいので、これを手に付けてもらってもいいですか。
その状態のまま動かないでくださいね!」
「わかりました」
明石さんはすごい勢いで機械を操作していく。
こちらとしては何をやっているのかさっぱりなのだが、表情を見る限りとても繊細で重要な作業をしていそうだ。
数分ほど黙って待っていると、明石さんの手が止まった。
その目は驚きで見開かれている。それに絶望を足せば先程見た顔と同じ顔になりそうだ。
「どうかされましたか?」
「……過去にもないことはなかったはずだけど……。
材料的には大丈夫……そもそも、弓は……?」
「あの、明石さん?」
「ハッ! ……し、失礼しました。
えっとですね、どうやら、赤城さんを改装するために必要な装備がありまして……。
他の赤城さんには必要ないのですが……別のものが必要になるという事例は過去にもありますので、大丈夫です!」
つまり、どういうことだ?
私が疑問符を浮かべていることに気付いたのか、明石さんはわかりやすく説明してくれた。
「あー、えーっと……簡単に言うと、赤城さんの装備が一つ増えます!」
なるほど。元が0だったとは言えない雰囲気だ。
いや、案外物理もバカにならないんだけどね。
パンチにキック、タックル。……うん、空母の戦闘方法じゃないという指摘は受け入れる。
「その装備なんですが、軍刀です」
「刀、ですか?」
「はい。
どうして軍刀なのかはわかりませんが、どうやら赤城さんの装備としては適しているようです」
なんだか心当たりがあるぞ。
というか、困ったことに心当たりしかないぞ。
だって、ずっと空母なのに航空機なしの接近戦縛りをしていたわけだからなぁ。それっぽい装備が必要になってもおかしくない。
しかし、あの訓練室でやっていた架空剣素振りは無意味なものではなかったのだな!
一見無駄に思えても、そこには意味がある。今回に関しては結果論だけど、そういうツッコミはなしで。
「とにかく、不具合の原因はわかったので修正してきます。
ただ、先程三時間と言いましたが、更にかかりそうです。
それと、検査もたくさん受ける必要がありますが、機密事項も多くありますので……」
目の前に白く濁った水の入ったコップが置かれる。なんとなく察して、それを飲んだ。
案の定、睡眠薬入りの水を取り入れた私の体は、いとも容易く意識を落とした。