あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~   作:白紅葉 九

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第二章 続き
第二十一話 鎮守府に潜む“闇”


 東提督が着任してから、早くも三か月が経とうとしていた。

 今日まで何だかあっという間だった気もするが、濃密な毎日を過ごしていた。

 

 

 あれから、鎮守府は多少変革を迎えようとしていた。

 というのも、以前に比べ、艦娘たちが人間に対して過剰に怯えることがなくなったからだ。

 

 それは、ここ三か月で東提督が艦娘を無理に働かせることがなかったのが大きいように感じる。

 それに加えて、毎日温かい食事を人間が用意してくれているのも、人間という存在への心の障壁を取っ払ってくれた要因だろう。

 

 海軍の中でも、艦娘の食事を人間が用意すると言うのは新しい取り組みで、開始当初は先行きが不透明だった。

 それは企画当初から想定された問題だったので、入念な準備をすることで、その不安を最小限に抑えた。

 東提督に話す前から準備は開始していたので、万全の状態で開始することができたのだ。

 

 海軍は機密情報が多いので、提督以外の人間が居られるのは食堂と食堂へ行くための道のみではあるが、確実に人間の存在は我が鎮守府に馴染みつつあった。

 

 最も懸念されていた艦娘の反応は、東提督が艦娘のトラウマと真摯に向き合い、解決することで、特に問題は起こらなかった。

 

 

 現在、鎮守府には二通りの艦娘がいる。

 一つ目は、東提督によりトラウマが解決され、人間との接触に問題がないと判断されたものたち。

 二つ目は、もともと人間との接触に問題がなかったものたち。

 

 一つ目は金剛さん、加古さん、大淀さん、川内さん、天龍さんに加えて、長門さん、陸奥さん、扶桑さん、山城さん、翔鶴さん、暁さん、響さん、陽炎さん、不知火さんの計十四名だ。

 二つ目は、まず外部から来た吹雪さん、鳳翔さんと、元々この鎮守府にいた龍驤さん、古鷹さん、北上さん、木曾さん、島風さん、夕立さん、時雨さん、明石さん、そして私の計十一名だ。

 

「このなかで、私が目星をつけたのは龍驤さん、古鷹さん、北上さん、木曾さんの四人。

 この四人と接触することを、赤城さんには許してほしい」

 

私の対面に座るのは、東提督。本名、東未来。

 三か月前にこの鎮守府に着任し、姫級を撃破したことで階級の上がった海軍少佐である。

 

 東提督は、吹雪さんとの一件が終わった後、艦娘について、艦娘同士の関係性という面を重視して見るようになった。

 結果的に、艦娘のトラウマの深度や、地雷をよく知っている私に、トラウマに接触する可能性がある関わり合いをする時、事前に許可を求めるようになった。

 

 無鉄砲に当て逃げみたくトラウマを探られる可能性が低くなったので、良い決断だと思う。

 トラウマに対して変な干渉すれば、余計拗れたりする可能性もあるのは事実だ。

 それに加え、これは私個人としても利のあることだし。

 

「……最後に聞きますが、あなたは本当に、“艦娘の中にスパイがいる”と思いますか」

 

「あり得ない可能性ではないし、私もまだ全員の艦娘のことを把握できているわけじゃない。

 でも、疑う覚悟も、疑われる覚悟もできているよ」

 

階級が上がったことを表彰されるために出向いた大本営で、東提督は恩師から艦娘の中に憲兵隊のスパイがいる可能性を示唆されたようだ。

 というのも、前の提督はどうやら憲兵隊の上層部と癒着していたようで、その証拠が鎮守府に残っている可能性があり、それを隠すためにスパイを送っているというのだ。

 

 結論として、東提督はそのスパイを探すと言う選択をした。

 それはつまり、鎮守府にいる艦娘を疑うと言うことだ。

 

 それに対して、信用を裏切られたという反応をする艦娘もいるだろうし、逆にそういう名目で艦娘のことを調べようとしているのではないかと深読みする艦娘もいるだろう。

 事実がどうであれ、疑われたということを良い感情で迎え入れられる者はいないのだ。

 

 しかし、東提督はそういう悪感情を向けられるだろうと覚悟した上で、スパイを探す選択を選んだ。

 それを私が拒むことはできない。

 

「わかりました。

 ……今回の件、私が東提督の手助けをすることはないことは、ご了承ください」

 

「うん、わかっているよ。

 辛い選択をさせてごめんね」

 

東提督は、私に東提督が艦娘を疑うことを許可させたことを謝ってくる。

 私はそれに何も言わず、執務室から退室した。

 

 ……ところで、提督の周りに妖精さん居すぎじゃないだろうか。

 まだ増えるの?

 

 執務室の扉を閉め、私は歩いて自室に戻る。

 執務室からそれなりに歩いたところで、上を見た。

 

 一見、そこには何もないように見える。

 だが、一時期四六時中天龍さんから身を狙われていた私にはわかった。

 

「川内さん」

 

私が天井にそう呼びかけると、天井がからくり屋敷のように開き、そこから川内さんが降りてきた。

 どうやら、天井裏の徘徊は、彼女の趣味の一つになってしまったようで、よくこうやって天井裏で艦娘の様子を見ていることがある。

 何か問題が起きると天井裏を通って提督や私に伝えてくれるので、プライバシーとか色々は黙認している形になっている。

 

「伝言を頼んでもよろしいですか。

 東提督には内密にお願いしたいのですが」

 

「わかった!

 赤城の頼みなら従うよ」

 

そう言った川内さんに内容を伝えてから、私は最近朝晩やっている刀術教室に向かった。

 艦娘は艦隊によって活動時間や出撃時間が異なるので、朝晩の二回やることになったのだ。

 加えて、資格を教えるために教室を新たに開いた。

 まだ鎮守府には資格を持っている者が私以外に居ないので、しばらくは忙しくなるだろう。

 刀術に関する資格も新たに取ったため、お金ががっぽりと入ってくる。これで老後は安泰だろう。艦娘に老後はないけど。

 

 現在、新たに艦隊が組み直されたことで、私は鎮守府に常勤する艦娘に分類された。

 

 普通の艦娘は出撃をするため常に鎮守府にいるわけではない。

 しかし、事情があって鎮守府に常にいる必要のある艦娘は、出撃をせずに鎮守府に居られる制度があるのだ。

 この鎮守府では主に大淀さん、明石さん、鳳翔さんなどが使っている制度だ。

 他の鎮守府では、大和型の艦娘が資源に余裕がないという理由で使われていたりする。

 

 その制度を使い、私は朝晩の刀術教室に加え、資格教室を開くことができている。

 たまに、その時間に東提督や大淀さんに頼まれて書類整理をすることもある。

 

 更新された現在の艦隊編成は、こうなっている。

 

第一艦隊 旗艦吹雪 随伴金剛・翔鶴・古鷹・木曾・島風

第二艦隊 旗艦長門 随伴扶桑・龍驤・加古・暁・響

第三艦隊 旗艦川内 随伴陸奥・山城・北上・夕立・時雨

第四艦隊 旗艦天龍 随伴陽炎・不知火

 

 こんな感じで一新された艦隊となっている。

 やはり、艦娘の人数が他鎮守府に比べて少ないのもあり、艦隊を組むのも大変そうだ。

 第四艦隊は完全に遠征用の艦隊で、天龍さんは出撃がしたいと愚痴っていた。

 

 

 

 

 

 そんな感じで、夜の二十二時になった。

 ほとんどの艦娘が寝入っているだろう時間帯に、私の部屋の扉がノックされた。

 

 私はそれに驚かなかった。

 何故なら、その来客は私が川内さんに頼んで呼んだ艦娘だからだ。

 

 その艦娘を部屋に招き入れ、扉が閉まったことをしっかりと確認する。

 川内さんには、今日は二十三時まで私の部屋の話を盗み聞きしないように言っている。

 その艦娘をソファに座らせ、早速本題に入る。

 

「実は、東提督が、艦娘の中に憲兵隊のスパイがいるんじゃないかと調査しようとしています。

 その候補者は龍驤さん、古鷹さん、北上さん、木曾さんの四人です」

 

候補者に含まれているその艦娘は、少し驚いたような表情をするが、すぐに納得した表情をした。

 心当たりがあったのだろう。

 

 そして、『なぜそれを言ったのか』と私に聞いてきた。

 

「じゃないと、あなたが罪悪感に押し潰されそうだったので」

 

私がそういうと、その艦娘は驚いた表情をし、『事情を知っているのか』と尋ねてきた。

 

「詳しくは知りませんよ。

 ただ、犯行理由が“人質を取られているから”だろうというのは予想がつきましたので」

 

スパイがいる前提で考えた時、消去法でスパイである可能性がある者が二人残った。

 そのどちらかの犯行理由を考えた時、片方には犯行理由がないことがわかった。

 正確には、片方は犯行する前に私に相談するだろうから、相談されてない時点でそちらではないということがわかったのだ。

 

 艦娘は考え込むように腕を組み、視線を落とす。

 これからどうするか、どうするべきなのか、考えているのかもしれない。

 だが少なくとも、私は犯人の存在を東提督に言おうとは思っていない。

 それは先程、東提督に『今回の件、私が東提督の手助けをすることはないことは、ご了承ください』と宣言した通りだ。

 

「そこで提案なのですが、あなたの妹さんを助けるために、私と組みませんか?」

 

そう私が言うと、その艦娘は戸惑った。

 まぁ、いきなりこんな話をされても、胡散臭さとか得体の知れなさとかの方が混じるかもしれない。

 だから、手っ取り早く目的を話すことにしよう。

 

「実はちょっと、物語に干渉……いや、主人公の成長……いえ、何といえばいいんでしょうか。

 ちょっと個人的な願望で、順調すぎる東提督を失敗させたいんです。

 当然、最終的には妹さんを助け出します。

 ですが、現状では、妹さんにとっての救いが東提督に助けられることだとも限りません」

 

艦娘は黙り込む。

 彼女は頭が悪いわけでは無しい、いま私が言ったこともよく理解できているだろう。

 だからこそ、協力相手にふさわしい。

 

「なので、手を組みませんか。

 全員がハッピーエンドになれる道を行くために。

 今のままでは、良くてトゥルーエンドですから」

 

私はそう言い、その艦娘に手を差し出す。

 その艦娘は数秒間迷った後、覚悟を決めた表情で私の手を握り返してきた。

 

 一時的ではあるが、妹さんを救う同盟成立である。




誤字修正
誤 私の対面に座るのは~~海軍中佐である。
正 私の対面に座るのは~~海軍少佐である。

誤字報告ありがとうございました!

誰がスパイだと思いますか?(第一話現在で)

  • 龍驤
  • 古鷹
  • 北上
  • 木曾
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