あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~   作:白紅葉 九

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第二十二話 スパイを見つけよう! ☆

――東未来side――

 

 “聞いてはいけないもの”を聞いてしまったことだけはわかった。

 

 慌てて、しかし音を立てないように慎重に赤城さんの部屋の前から立ち去った。

 部屋の外から聞いていたということで、声がよく聞こえたわけではないので、赤城さんじゃないもう一人の艦娘が誰なのかは残念ながらわからなかった。

 

 しかし、いま私は二種類の情報を得た。

 スパイには妹がいるということ。

 そしてもう一つは、赤城さんがスパイの正体を知っていながら隠していると言うこと。

 

 “よくわからない人”というのが、私の赤城さんへのイメージだったが、今回の件で余計に赤城さんのことがわからなくなった。

 赤城さんの行動が前の提督や私への悪意から来るものなのか、もしくは艦娘に対する善意から来る行動なのか。

 いまいち私には掴めなかった。

 

 協力を頼もうとは思っていなかったが、改めて、今回の件で赤城さんに関わることはしない方が良さそうだ。

 

 ……赤城さんとスパイが協力、か。

 今回の問題は解決が難しそうだ。

 

 

 ただ、一つ朗報なのが、スパイに妹がいるとわかったこと。

 

 私がスパイだと疑っていたのは龍驤さん、古鷹さん、北上さん、木曾さんの四人。

 その内、龍驤さんは姉妹艦がおらず、木曾さんは同型艦において末妹だ。

 必然的に、スパイの正体は古鷹さんか北上さんのどちらかとなる。

 

 古鷹さんの場合、加古さん……または、一部では青葉型も姉妹艦として含まれていることもあるため、その誰かが人質になっているのだろう。

 北上さんの場合、妹は大井さんか木曾さんになる。

 加古も木曾さんも鎮守府内にいるから、それ以外と考えるのが自然だろうか……。

 

 とにかく今は、赤城さんの部屋の盗み聞きをしたことが、赤城さんやスパイにバレない様にする必要がある。

 となると、面談は四人全員とすることになるかな。

 その過程で、古鷹さんと北上さんのことを調べればいい。

 

 ただ、ひとつ引っかかっているのは、赤城さんが言っていた『現状では、妹さんにとっての救いが東提督に助けられることだとも限りません』というセリフだ。

 このセリフの意味を考えるに、妹は人質ではあるが、現状では妹が人質らしく乱暴に扱われているわけではないのではないだろうか。

 犯人が人質を取られていると言うのは、その妹の平和な日常を壊すと脅されているのではないだろうか。

 

 その人質と犯人は身近な関係なのだろうか。

 だとすると、同じ鎮守府にいる艦娘と可能性が高くなってくる。

 妹に人質のことを聞いても、本人は自身が人質だと認識していないだろうから意味がないだろう。

 なら、妹が絶対に外部から影響を与えられないようにするのが一番だが、現実的に考えて不可能だろう。

 というか、そんなことをすればパワハラなどで訴えられかねない。

 

 ……ひとまず、妹がどういう形で人質に取られているのか、調べてみよう。

 簡単な問題だとは思っていなかったが、予想以上に色々なしがらみが絡まっていそうな問題だ。

 

 

 

 

 

 その次の日、早速四人との面談が行われた。

 名目上は、鎮守府の実情調査として、鎮守府に不満がないかとか、仲間と上手くやれているかとかのアンケートになっている。

 四人を選んだのはランダムと言い、カモフラージュの為に長門などの事情を知っている者たちとの面談も組んだ。

 

 一人目の面談は、龍驤さんだ。

 龍驤さんは、最初に赤城さんと同じ艦隊にいたということで、個人的に警戒している。

 

 しかし、三か月経ったが特にトラウマが爆発するような気配は見せていない。

 そして、スパイでもなさそうだから、今回は気を負って喋る必要はない。

 今回の面談の建前を説明した後、面談に入った。

 

「新しく艦隊が再編成されたわけだけど、新しい艦隊の子たちとはうまくやっていけている?」

 

「問題ないで!

 うちの場合は前も同じ艦隊やった金剛と暁が居るのも大きいのかもしれへんけど。

 艦隊のメンバーで思い出したけど、扶桑、暗い雰囲気をまとっていたのがあんなに変わっちゃって、アンタほんますごいなぁ!」

 

そう龍驤に褒められて、すこし照れる。

 いままで、こうやって面と向かって艦娘のトラウマ解決に動いていることを褒められたことはなかった。

 そのため、嬉しさと恥ずかしさが混ざった感情になる。

 

 それから、龍驤と十分近く会話をしたが、当然スパイに関する情報が出てくることはなかった。

 龍驤を面談室から退室させ、二人目を待った。

 

 

 

 

 

 少し経って、面談室に二人目が来た。

 二人目は北上さんである。

 

 本来なら次は古鷹さんの予定だったのだが、どうやら出撃が長引いているようなので、先に北上さんと話すことになった。

 龍驤さんと同じく面談の建前の説明と、それっぽいことを質問していく。

 それから、本題へと入っていった。

 

「そういえば、北上さんと木曾さんって姉妹艦だよね?」

 

よく話すのかと聞こうとしたその瞬間、北上さんと目線が合った。

 その目には明確に怒りの感情が浮かんでいた。

 一瞬で、今の言葉が北上さんにとって地雷だったことを覚る。

 

 北上さんは大きくため息を吐いた。

 

「知らなかっただけだろうし、仕方ないのかもしれないけどさ。

 私の前で、姉妹艦の話をしないでくれない」

 

北上さんは怒ったようにそう言って、席を立った。

 そして、部屋の扉に向かって歩いていき、扉に手をかけた。

 

「ちなみに、私は木曾のこと大っ嫌いだから」

 

そう吐き捨てるように言って、北上さんは面談室から出て言った。

 

 ああ、どうやら失敗してしまったようだ。

 『知らなかっただけだろうし、仕方ないのかもしれないけどさ』と言っていたし、おそらく艦娘内では有名なことだったのだろう。

 

 改めて、自分の艦娘への不勉強を悔いた。

 

 

 

 

 

 古鷹さんと木曾さんの所属する第一艦隊が帰投したという報告を受け、古鷹さんを面談室に呼んだ。

 というのも、古鷹さんは幸い損傷がなく、木曾さんは小破を受け入渠中だからだ。

 

「古鷹さんが鎮守府で一番仲がいい艦娘って、誰かな?」

 

三人目である古鷹さんは、北上さんと同じく鎮守府に姉妹艦がいる。

 しかし、先程の反省を生かし、最初から姉妹艦について聞くことはしなかった。

 

 私の質問に、古鷹さんは少し悩んだ素振りを見せた後答えた。

 

「最近は、同じ艦隊の翔鶴さんや島風ちゃんとよく話しますね。

 ただ、お二人とも刀術だったり弓術だったりの訓練が忙しそうですので……一番ってなると、加古かもしれません」

 

古鷹さんから加古の名前が出た!

 これなら、北上さんと同じく仲が悪いということはないだろうし、色々と質問してもいいだろう。

 

「違う艦隊だけど、仲は悪くなさそうでよかったよ」

 

「まぁ、違う艦隊とは言っても、鎮守府で他に重巡はいないので一緒に訓練したりもしますし、普通に気が合うので……。

 あと、一緒に部屋で暮らしているので、合う時間も話す時間も、他の艦娘よりは多いです」

 

ん? なんだか、少し今の文章に違和感を覚えた。

 しかし、具体的にその違和感が何なのかわからなかった。

 

 とりあえず、姉妹艦同士仲が悪くなさそうで安心した。

 あんまり姉妹艦のことを質問しても不審に思われる可能性があるので、別の話題に変えよう。

 

「……じゃあ、今の鎮守府に、なにか不満とか、こうしてほしいって要望はあったりする?」

 

「……あの、えっと」

 

「何でも言ってくれていいよ。

 できる限り艦娘の意思を尊重するから」

 

古鷹さんが言いづらそうにしていたので、そう言って発言を促す。

 すると、古鷹さんは少し躊躇うようにしながらも、口を開いた。

 

「……いま、加古と同室で過ごしているのですが」

 

「うん」

 

話題を変えたつもりだったが、戻ってしまった。

 確かに、今さっきよく話すって言っていた人について言うのは、ちょっと気まずいか。

 

 しかし、古鷹さんは加古に何か不満とかがあるのだろうか。

 しかし、もし個人的なことだったら、こちらも対応に困るが……。

 そんなことを考えていた私は、古鷹さんの発言に戸惑わずにはいられなかった。

 

「一人部屋で生活することは……できないでしょうか?」

 

その発言を理解するのに、数秒かかった。

 一人部屋、つまり、加古と違う部屋になりたいということか。

 

 先程の話を聞いた感じ、特に仲が悪いという感じではなかったはず。

 そうなると、喧嘩とかだろうか。

 

 私がそんなことを考えていると、古鷹さんは慌てて言葉を付け足した。

 

「喧嘩とかでは全然なくって!

 鎮守府の中で一番仲が良いのも本当ですし!

 ただ、部屋を二人で共同して利用するのってどうしても落ち着かないと言うか……一人になれる時間と空間が欲しいって、どうしても思ってしまうんです」

 

なるほど。

 あまり聞かないが、艦娘だって感情を持っているし、人間と同じようにそう考える艦娘がいてもおかしくはないか。

 

 いまこの鎮守府では、色々な事情により、一人部屋の者と二人部屋の者がいる。

 古鷹さんは二人部屋で生活しているが、まだ部屋の余裕はあるため一人部屋にすることはできる。

 

 ただ、いまの部屋割りに関しては、加古を一人部屋から姉妹艦と同室にする時に古鷹さんから許可を貰ったものだ。

 そのため、過ごしていくうちに苦痛になったのか、もしくは最初から言い出しづらかっただけでずっとそう思っていたのかだろう。

 

「わかった、なるべく早く対応するよ。

 移動する部屋が決まったら、また連絡するね」

 

「ありがとうございます、提督」

 

 古鷹さんはそう言ってお辞儀をした。

 

 

 

 

 

 古鷹さんが出ていった扉をぼーっと眺める。

 スパイの有力候補である北上さんと古鷹さんに会ったわけだが……。

 

 北上さんに関しては、明らかに妹である木曾さんを嫌っていた。

 古鷹さんに関しては、仲は悪くなさそうだったが……あの発言を正直に受け取るべきかどうかもわからない。

 

 まぁ、嘘をついているようには見えなかったのだが、そうなると、妹に好意的な古鷹さんがスパイっていうことになる。

 

 私が思考の悪循環に入っていると、扉がコンコンッとノックされた。

 そういえば、入渠が終わり次第面談室に来るように言っていたことを、すっかり忘れていた。

 

「どうぞ」

 

「失礼する……」

 

四人目の艦娘、木曾さんは緊張した面持ちで入室してくる。

 まるで、今から悪いことを罰せられる子供のようである。

 このままじゃ普通に話すことも出来なさそうなので、ひとまずその緊張を解すことにした。

 

「木曾さんに叱りたいことがあるっていうわけじゃないから、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ!

 今回は鎮守府の内情調査とか、今の艦隊でうまくやれているかっていう面談だから」

 

「あ、そ、そうなのか!?

 なんだ、よかったぁ……叱られるのかと思ったよ……」

 

「何か叱られることに心当たりでもあるの?」

 

「いや、ないけどさ!

 一対一で呼び出されたら、誰でもなにかしたんじゃないかって思うだろ!?」

 

「それはごめんね」

 

そうやって、会話をしていると木曾さんも落ち着きを取り戻してきて、普段通りの木曾さんになった。

 そうして、色々と聞いていく。

 

 といっても、木曾さんはスパイではないだろうし、特別聞くこともないので、最近刀術教室はどうだとか、そんなことを聞いた。

 刀術教室は赤城さんが師範代をやっている。本当に、あの人何でもできるなぁ……。

 

 木曾さんに、あえて聞く必要があるのは、北上さんとの関係だけかな。

 

「それじゃあ次の質問……これは答えづらかったら答えなくていいんだけど、姉妹艦である北上さんとの仲はどう?」

 

「……あー」

 

木曾さんは少し答えづらそうにする。

 やはり、あまり聞くべきではなかっただろうか。

 

 質問を撤回しようと思った時、木曾さんは口を開いた。

 

「まぁ、あんまり仲は良くないよ。

 というか、何でか知らないけど、向こうから一方的に避けられている。

 だから、こっちも関わらないようにしている。

 部屋は、向こうが赤城さんに頼んで別室にしてもらったらしいし、詳しいことはよくわからないけど」

 

「そっか……ちなみに、木曾さんは北上さんが嫌い?」

 

「特に何とも……。

 話したこと自体ほとんどないからな。

 これは俺の予想だけど、俺以外の姉妹艦と何かがあって、それで姉妹艦である俺のことも避けているんじゃないかなぁ」

 

今の鎮守府には、北上さんの姉妹艦は木曾さんしかいない。

 

 つまり、北上さんはこの鎮守府がブラック鎮守府だった頃に姉妹艦と何かがあった。

 しかし、その姉妹艦が轟沈したのか、もしくは他の鎮守府に移籍したのか。

 何かしらがあり今の鎮守府にその姉妹艦は居ない。

 

 先程まで、スパイは古鷹さんの可能性が高いと思っていたが、もう一つの可能性が浮上してきた。

 北上さんの姉妹艦であり、木曾さんじゃない方の妹、大井さんが他鎮守府に人質とされている可能性。

 それなら、北上さんがスパイでもおかしくない。

 

「おーい、提督ー?

 考え込んでどうしたー?」

 

「あっ……ごめん、何でもないよ」

 

「そうか?

 それならいいんだが。

 ところで提督、少佐に昇進おめでとう。

 そういえば、まだ祝ってなかったなって」

 

「ああ、ありがとう。

 これも、大規模侵攻や姫級討伐で成果を上げてくれたみんなのおかげだよ」

 

深海棲艦による大規模侵攻が起こった時、この鎮守府の艦娘たちが多くの深海棲艦を倒した。

 そのことに加え、姫級討伐とやその姫級が作っていた敵拠点の壊滅が評され、佐官へと昇進した。

 

 そういえば、まだ木曾さんには面と向かって祝われたことはなかったかもしれない。

 といっても、探せば他にもそういう艦娘はいるだろうし、あんまり気にしていなかった。

 

「昇進する時って、大本営に行くんだろ?

 俺は大本営に言ったことがないからよくわからないが、提督の知り合いもいたりするのか?」

 

「もともと人間関係は広い方じゃないし、大本営で働いている知り合いはいないかな。

 ただ、大本営に行った日に、恩師が昇進のお祝い品を持って来てくれたよ。

 あの人は将官だから忙しいはずなのにね」

 

「へぇ、いい人だな!

 また、その人のこと聞かせてくれよ!」

 

私はそれに、肯定も否定もしなかった。

 あの人は、私の最大の恩師である。そのことを話すときが来るのかはわからないが、そのことを話せる時がくればいいな、と思った。

 

 

 

 

 

 四人の面談が終了した。

 

 スパイの正体は――




作者より

嘘を吐く者と、真実を知らぬ者と、真実を語らぬ者。
暴け、その謎を――

「そこで提案なのですが、あなたの妹さんを助けるために、私と組みませんか?」

「問題ないで!」

「私は木曾のこと大っ嫌いだから」

「一人部屋で生活することは……できないでしょうか」

「俺以外の姉妹艦と何かがあって、それで姉妹艦である俺のことも避けているんじゃないかなぁ」

次回、『第二十三話 スパイの正体』
2021年7月12日6時、投稿予定



(……謎に次回予告風にしてしまった)

誰がスパイだと思いますか?(ファイナルアンサー)

  • 関西弁の龍驤
  • 一人部屋希望の古鷹
  • 妹嫌いの北上
  • 俺っ娘の木曾
  • まさかの赤城
  • まさかまさかの東提督
  • スパイはいない
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