あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~   作:白紅葉 九

23 / 36
第二十三話 スパイの正体

 妹さんを救う同盟成立である。

 ……とまぁ、妹さんの名前を隠して話していたわけだが。

 

 “東提督の気配が扉の前から消えたこと”を確認し、私は机に置いていた『小さな声で話して』という紙を退けた。

 

「ありがとうございました。

 もう普通に話してもらって大丈夫です」

 

「……で、いまのは何だったの?

 その紙のせいで、いまいち赤城さんのこと信用しきれてないんだけど」

 

「すみません。

 東提督が扉の前で盗み聞きをしていたので、応急の処置として紙を出させていただきました。

 ――改めて、妹さんを救う同盟を組みましょう、()()()()

 

目の前に座る艦娘、北上さんにそう言った。

 

 私が川内さんにした伝言は、二十二時に北上さんを私の部屋に来るように伝言してもらうこと。

 東提督が部屋の前を通るのは予想していなかったが……。

 これから東提督を失敗させるうえで良い作戦が思いついたので、その状態のまま北上さんと話した。

 

 盗み聞きをすぐに聞き終わらなかったということは、北上さんの姿は見なかったということだろうし。

 

「……それで、さっきは何かあるんだろうって察して聞かなかったけどさ。

 実際、どこまでわかっているわけ?

 それとも、木曾から聞いたの?」

 

「いえ、木曾さんは私に言ってくれませんでしたよ。

 ――自分がスパイだ、ということは」

 

私が消去法でスパイだと思ったのは、龍驤さんと木曾さんだった。

 そして、盗聴器を付けられているとかでない限り、龍驤さんは私に相談してくるだろうという結論に至った。

 逆に、木曾さんは全部の悩みを抱え込むタイプだから言わないだろうと、スパイを見分けることができた。

 

 木曾さんがスパイである前提で見てからは、なんで気づかなかったのかって思うくらい、スパイらしい行動をよくしていた。

 例えば、東提督から色々情報を聞き出していたのは、いざという時に東提督の弱味を握るためとか。

 

「資料室で木曾さんのことを調べれば、木曾さんが別の鎮守府から移籍してきたのがわかりました。

 そして調べていくうちに、憲兵隊との繋がりが見えてきました。

 おそらく、最初は正義のためとしてスパイをしていたのでしょうが、憲兵隊から憲兵隊とこの鎮守府との繋がりを消してほしいと言われ、本当に自身のやっていることが正しいのかわからなくなった。

 そうしたら、憲兵隊から従わないと、天龍さん辺りを任務が過酷なところへ連れていくと言われ、今も従っているのでしょう」

 

「良く調べたねぇ。

 ……私も、同じ意見だよ。

 私はこの鎮守府からブラックに解放された時から、姉妹艦が嫌いだった。

 そうやって、姉妹艦である木曾を否定的に見ていた私だから、木曾がスパイをやっていることにも気づけた」

 

北上さんはそう独白をする。

 きっと、ずっと誰かに言いたくて仕方がなかったのだろう。

 

 しかし、言える相手が居なかった。

 だから、今溢れ出てしょうがないのだ。

 

 その気持ちを察した私は、北上さんの言葉に口を挟まず、聞いた。

 

「……それで、妹を救う同盟、だっけ?」

 

「はい。

 正確に言えば、木曾さんをスパイから解放しよう作戦ですね」

 

「というかさ、私木曾が嫌いって言ってたはずなのに、なんで私が木曾のことをスパイから解放したいって気づいたわけ?」

 

「北上さんが木曾さんのことを気にしている様子だったので、あとは資料を漁れば察しました」

 

「……全くどうしてその結論に達したのかはわからないけど、赤城だしねぇ」

 

私だから、という理由で納得されるのに私の評価がうかがい知ることができるが、今は置いておこう。

 

 推理内容は簡単で、まず北上さんと木曾さんは直接話したことがないと木曾さんに聞いたので、北上さんは姉妹艦ということに引け目を感じる何かがあると考えた。

 そうして調べたら、過去に北上さんは目の前で大井さんを無くしていたことがわかった。

 

 トラウマとか、そういう精神的な傷は時間の経過によって消えることが多い。

 北上さんの場合、大井さんを目の前で亡くしたのはだいぶ前だったし、普段の様子から木曾さんのことを気にしているのは見て取れた。

 そのため、北上さんは木曾さんがスパイをしている現状を良いものだとは受け取っていないことがわかった。

 

 後は、仲間に引き入れるために説得するだけだった。

 

「それで……よくわからなかったんだけど、赤城の協力する理由って何なの?」

 

「鎮守府の艦娘を守るためですよ」

 

これが建前なことは、北上さんにはすぐにわかっただろう。

 

 この協力は、雪風との約束ではなく、もう一人の私と約束した目的だ。

 ただ、いまそれを周りに言うことはできない。

 

 そもそも、私以外にあの適性検査でもう一人の自分とあった人はいないようだし、ついにおかしくなったかと言われてしまう。

 常に無表情な時点でまともではないとか、それは言わないお約束。

 

「まぁ、言う気がないならそれでいいよ。

 赤城は元からよくわからない行動が多いし……。

 ――で、()()()の目的は何なの?」

 

そう言った北上さんの目線の先。

 そこには、北上さんでも私でもない、もう一人の艦娘が居た。

 

 そう、実は川内さんに伝言を頼んだ北上さんとは別に、もう一人部屋に呼んでいた艦娘が居たのだ。

 先程東提督に私と北上さんの話を聞かせたのは、東提督にスパイが一人だと誤認させるため。

 実際は、この部屋にはスパイなどおらず、私の協力者が二人いたという訳である。

 

「――ねぇ、()()

 

協力者二人目は、なんと古鷹さんである。

 そう、東提督がスパイ候補として予想していた四人のうち、一人はスパイで、二人は私の協力者というわけである。

 

 ちなみに、龍驤さんは本当に何も知らない一般通過関西人(関西弁を使っているだけで関西出身ではない)である。

 まぁ、龍驤さんの場合はスパイなんかより闇深案件なのだが……それは、今はいいだろう。

 

「私は、赤城さんに恩義を感じて、それを返すために協力をしているだけです」

 

「へぇ……ま、それに疑うようなことはしないよ」

 

古鷹さんは、木曾さんとも北上さんとも特に関係はないが、別に目的があって協力してもらう事にした。

 

 古鷹さんは、艦娘において当然ある意識が欠けている。

 古鷹さんは、姉妹艦を姉妹として見ることができない。

 前例がないわけではないが少なく、いまいち海軍において浸透していない、建造艦に多い症状だ。

 

 海軍における鎮守府は、基本的に姉妹艦同士の同部屋だ。

 それは、姉妹同士同じ空間の方が過ごしやすいだろうという配慮なのだが、古鷹さんみたいなケースだと、それを苦痛にしか感じないのである。

 それは、姉妹艦を姉妹という感覚ではなく、あくまでその他と同じような艦娘というくくりでしか見られないためである。

 

 それを知っているのは、この鎮守府において私と古鷹さんに加え、二週間前に事情を話した加古さんだけだ。

 古鷹さんも、最初は隠していたのだが、やはり二人同部屋生活をしていくうちに苦痛になり、私に相談してきた。

 

 そして、私が解決に動いたら恩を感じたようで、返したいから何かすることはないかと聞かれたのだ。

 その時は特に思いつかなかったので貸一にしておいた。

 

 それが今日、東提督からスパイ候補に古鷹さんが入っているのを聞いて、これは使えると思い協力してもらうことにしたのだ。

 

「理由も納得していただいたようですし、本題に入りましょうか。

 まず、先程言った“東提督を失敗させたい”というのは本心です。

 というのも、今の東提督だと龍驤さんレベル(もっと大きい)トラウマを解決することは不可能です。

 東提督に失敗に慣れさせることと、東提督をトラウマが解決できるように改良することが、私の目的です」

 

そうして、私は話をつづけた。

 

 まず、実行内容はこうだ。

 

 この部屋の会話を利かせることで、東提督に古鷹さんか北上さんをスパイだと思わせる。

 そして、明日くらいに東提督がやるであろう面談で、古鷹さんは加古と別室になりたいこと、北上さんは木曾さんが嫌いなことを言う。

 実際、北上さんは木曾さんが嫌いという理由で木曾さんと関わりと断っているため、そこを不審に思うことはないはずだ。

 

 そうして、東提督は古鷹さんか北上さんのうち、スパイだと思った方を徹底的に調べるだろう。

 

 そういう不審な行動を見れば、木曾さんはすぐ、スパイについて嗅ぎまわっていることに気づくだろう。

 実際、東提督の行動は作戦が臨機応変の、ほとんど作戦がない状態での行動が多いから、意識すれば内容は察しやすい。

 

 木曾さんがそのことを、無線を使って憲兵隊に伝えれば、木曾さんは一夜でこの鎮守府から夜逃げするだろう。

 そうなれば、流石の東提督も木曾さんがスパイだったことに気づき、自分が全く違う相手を探っていたことも知る。

 そして、木曾さんを取り戻すために動くはずだ。

 

 そこからは、私たちは成り行きを見守る。

 高確率で東提督が木曾さんを助け出すだろうが、もし失敗した場合でも動けるように手は打ってある。

 

「それ、本当に大丈夫なの?」

 

「人質の名前から、木曾さんをスパイにしている憲兵の名前、その上司の名前、更にそれを操る上司の名前から、その人の部屋を掃除する清掃員の名前と、その方の奥さんの携帯のパスワードまでは調査済みです」

 

「……いま、心の底から赤城が味方でよかったって思ったよ」

 

ちなみに、絶対記憶とまではいかないが、一年前の夕飯を覚えているくらいには記憶力が良い方なので、それらの情報も全て頭の中に残っている。

 まぁ、今調べた内容は、普通に犯罪に当たるので、調べる時はちゃんと痕跡が残らないように気を付けよう。

 

 っと、言っていることもやっていることも犯罪者みたいになってきたので、方向転換しよう。

 

「改めまして、北上さん、古鷹さん。

 ――木曾さんを救う大作戦、協力していただけますか?」

 

暗に覚悟を決めろという意味を込めて言う。

 北上さんと古鷹さんは、私の目を見て答えた。

 

「赤城を信用して、作戦に従うよ」

 

「はい、赤城さんの命令であれば、最大限従います」

 

こうして、ここに協力関係が結ばれたのであった。




作者から

という訳で、スパイの正体は木曾さんでした!!

赤城さんの発言にて、「妹」と「人質に取られている」という言葉は出てきましたが、「妹が人質に取られている」という発言がないことには気づけたでしょうか?
「妹が人質に取られている」というのは、赤城さんの発言を聞いた東提督の“勘違い”によるものですね!

木曾さんに投票した14%の皆さん、正解おめでとうございます!!!!

なお、次回の第二十四話は、スパイに関する出来事が全て解決した後の話となります!!
皆様、投票ありがとうございました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。