あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~   作:白紅葉 九

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第二十四話 自棄酒

 その後、東提督はスパイに関する問題を完全に解決した。

 その過程で、誰かが大きな怪我を負うこともなく、これ以上ないほどの結末になった。

 

 だからこそ、東提督に失敗を経験させて成長を促す作戦に関しては、微妙な結果に終わった。

 

「それで、不貞腐れているんですか?」

 

「まぁ……いえ、ちょっと違うのですが。

 実は、古鷹さんと北上さんには隠していたのですが、東提督が失敗するレベルの妨害を色々としていたのです」

 

「えぇー!? それなのに提督、皆を救えたんですか!?

 赤城さんの一歩上を行くなんてすごいですねぇ……」

 

東提督が木曾さんのことを調べようとしたから、その資料を隠した。

 そうしたら、東提督はその情報を本人から信用を勝ち取ることで得た。

 

 東提督が木曾さんの所へ乗り込もうとしたから、憲兵隊に侵入者が乗り込もうとしている情報を流した。

 そうしたら、東提督は正々堂々横須賀第十三鎮守府から来たと言い、憲兵隊に乗り込んだ。

 

 東提督が木曾さんを連れて船で鎮守府まで帰ろうとしたから、その方面のチケットを全部買って帰れないようにした。

 そうしたら、昔艦娘に助けられたから助け返したいという親切な船乗りに乗せてもらい、鎮守府に帰ってきた。

 

「結果的に、木曾さんも古鷹さんも北上さんも、そして人質だった大井さんも、みんな鎮守府の一員となりました。

 めでたし、めでたし……」

 

東提督を主人公とした物語としては、王道で良い作品だ。

 しかし、それを俯瞰者ではなく妨害者として見ていた私にとっては、そうは思えなかった。

 

 私が思考を重ね実行した作戦を、運だけでことごとく粉砕されたのだから。

 

「あぁ、そうですね……この感情を一言で言うなら、“恐怖”です」

 

「赤城さんに恐怖を感じる心があったなんて驚きです」

 

「私も、自分にそんな感情を感じる心があったなんて、今日まで知りませんでした」

 

前世も含めて、初めて悪寒の走る恐怖に出会った。

 

「東提督にとっては、アドバイスも妨害も、等しく物語を盛り上げるためのスパイスなんじゃないかと……。

 まるで自分が生きている存在じゃないみたいに感じて、怖くなるんですよ。

 私はまだ、この世界で生きていたいのに……」

 

どちらかというと、今回の作戦で失敗を感じたのは私の方だった。

 そして、その失敗に心を揺さぶられ、その感情を意味もなく吐き出しているのも私だ。

 

 私にとって、この世界は天国だ。

 戦時中でそんなことを言うのは不謹慎かもしれないが。

 でも、艦娘が笑い合っているこの空間のなかに、自分が居られると言うのが、間違いなく私にとって幸福な時間なのだ。

 

 私にとって、前世の世界は地獄だ。

 小さい頃からいじめを受け、職場では孤立し、唯一の楽しみは艦これだけだった。

 そんな私が死んで、この世界に転生した……はずなのだ。

 

 しかし、まるで物語の主人公のような東提督を見て、“この世界は夢の中の世界なのではないか”という一つの疑問が浮かんだ。

 それこそ、水槽の脳と同じく、杞憂としか言えない問題だ。

 ただ、一度そう思ってしまったら、拭いきれない疑惑として、ずっと頭の中に残るのだ。

 

 私はトラックに撥ねられて、植物状態になっただけで実は生きているんじゃないのか……とか。

 布団の中に入った次の瞬間に、職場の机の上で目覚めるんじゃないか……とか。

 

「初めて、寂しさで自分の身を売る方々の気持ちがわかりました。

 心にぽっかりと、どうしても埋まらない穴が空いている……」

 

「あー、これは重症ですねー」

 

そう、明石さんは語尾を伸ばしながら言う。

 ここは工房横にある明石さんの自室で、私の明石さんの間にある机の上には、おつまみと酒の空き缶がいくつも転がっている。

 

 所謂、自棄酒というやつである。

 自棄酒というのも人生で初めてで、最近は初めて尽くしである。

 

 本当に、こういう時愚痴に付き合ってくれる存在というのは、貴重なものだと感じる。

 前世ではいなかったし、今世でもまともに愚痴をしたのは、明石さんが初めてなのだが。

 

「明石さん、もう一杯ください」

 

「はーい。

 ……程ほどにしておいてくださいよー?」

 

「大丈夫です。

 明日、休みなので」

 

そう言って、明石さんに貰った酒をコップに注ぎ、音を立てて飲む。

 喉を炭酸が通りパチパチする。

 どれだけ酒を飲んでも、この空っぽな心が満たされることはない。

 でも今日は、意味とか効率とか何も考えずに、お酒を飲みたかった。

 

「うわー……絶対これ、二日酔いコースだ……。

 吐くときはトイレで吐いてくださいね!!」

 

明石さんが、私の飲んだ空き缶の数を見てそう言った。

 

 今日は酔いたかったから、強めのお酒を鳳翔さんから貰った。

 鳳翔さんは何も聞かずに、『ほどほどにしてくださいね』と言って渡してくれた。

 

「やっぱり鳳翔さんは良いお母さんになる……」

 

「赤城さん、心の声が漏れていますよ」

 

明石さんにそう注意された。

 私は何も返さず、お酒をもう一口飲んだ。

 

 

 

 

 

 次の日。

 頭が割れるような頭痛と、気持ち悪さに苛まれたが、十日連続徹夜した時よりはマシだと思い普通に行動したら、ぶっ倒れた。

 

 鳳翔さんにめちゃめちゃ怒られた……ほうしょうさんこわい……。

 二度とこんなことが起こらないようにしようと、私は自分に誓うのであった。

 

 

 そうして、頭痛も無くなりまともな思考力が戻ってきたことで、私は酷い羞恥を感じるのであった。

 いくら落ち込んでいたと言っても、他人の部屋で泥酔するとか最悪だ。

 しかも、変なこともたくさん言っていた。

 

 一つ自分の予想外のことがあっただけでこうなってしまうとは、本当に申し訳ない。

 すぐに明石さんには菓子折りを持って謝りに行った。

 

 本当に恥ずかしい限りである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当に、人間みたいですね。

 

「ふと、声が聞こえた。

 周囲を見渡しても、そこには誰もいない。

 いや、そこは人が存在していい場所でもなかった。

 そこには、何もない、暗黒が広がっていたのだから」

 

人の感情を理解した、みたいな風を装っていますが、あなたはどこまでも“―――――”のまま。

 どうして、変われたと思っているのでしょうか。

 

「ノイズが走り、肝心なところは聞き取れなかった。

 いったい、この声は誰の声なのだろう。

 いや、これは誰かの感情なのだろうか」

 

あははっ。

 臭いものには蓋、聞きたくないものは聞かなくていい。

 

 私、あなたの見ている世界が羨ましいです。

 きっと、そこは宝石のように綺麗で、輝いているのでしょうね。

 だって、汚いものがあれば、それをないものとして扱っているのだから。

 

「そう、彼女は嘘を……吐いた」

 

そう、あなたは“私が嘘を吐いた”と認めることを拒むでしょう。

 だって、あなたは私が私であると理解しているから。

 でもあなたは、私が私であると認めたくないから。

 

 でも、それって消極的肯定であると理解していますか? 

 ぬるま湯みたいな環境に浸かって、考える脳まで低下してしまったんですか?

 

 私、あなたのことが──

 

「再びノイズが走った。

 耳を凝らすが、もうそこには静寂が訪れているだけだった」

 

脳梁離断術(のうしょうりだんじゅつ)という手術を知っていますか?

 難治性てんかんを治療するためのもので、右脳と左脳の間にある脳梁を切断するものです。

 切断した後の脳は分離脳と呼ばれますが、これがまた不思議な状態になるのですよ。

 

 分離脳の方に視界の右側でスプーンの写真を見せてから、これと同じものを持ってくださいと言うと、右脳がそれを判断して、正しくスプーンを取ることが出来るんです。

 でも、「あなたは今、何を取りましたか」と聞くと、左脳がそれを判断して、「何も見えなかったし、何を取ったのかもわからない」と答えるのです。

 これは言葉や会話を左脳が司っているからです。

 

 逆に、視界の左側でスプーンの写真を見せてから、これと同じものを持ってくださいと言うと、右脳がそれを判断できず、正しくスプーンを取ることが出来ないんです。

 でも、「あなたは今何を取るべきかわかりますか」と聞くと、左脳がそれを判断して、「スプーンです」と答えるのです。

 これは、図形の認識などは右脳が司っているからです。

 

 言葉を聞いたということはわかっても、その言葉を理解できないというのは、今のあなたと近い状況にありますよね。

 私は話しているのに、あなたは言葉を理解せず、そこに言葉がないと認識する。そしてそれを本人は自覚できない。

 

 わかっていますよ。

 あなたが目を開けた時、私と会ったことを覚えていないということも。

 だから、私は何度でも言います。

 

 あなたは、自分のことを“感情を持っている人間”だと錯覚している機械であると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「赤城さん、どうかしましたか?」

 

「え?」

 

「さっきからぼーっとしていますが……」

 

「すみません、少し考え事をしていて……」

 

そうだ、私はいま、みんなでご飯を食べていたのだ。

 少しぼーっとしてしまっていた。

 

 あれ?

 私、みんなでご飯なんて食べていたっけ?

 

 いや、何言ってるんだ。

 食べていたじゃないか。

 

 ちょっと疲れているのかな……?

 

【先生、大丈夫ー?】

【先生……―――――】

 

ん?

 ごめん、よく聞こえなかった。

 

【……いや、何でもないよ!】

【……誰か、はやく先生を助けて

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