あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~   作:白紅葉 九

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第二十六話 横十三対佐二演習 第一試合 ☆

――東未来side――

 

 本日私は、横須賀第十三鎮守府から、佐世保第二鎮守府に能力向上の演習をするために来ていた。

 この鎮守府に来るのは、何時ぶりだろうか。

 艦娘を引退してから提督養成学校に入り、その後横須賀第十三鎮守府に来たから、なんだかとても懐かしい気分になる。

 

 第一試合の前に、移動疲れを癒すために艦娘たちが休んでいる時に、私は武下提督に話しに行くことにした。

 武下提督は大淀さんと談笑していたようだが、私に気づくと大淀さんに指示を出し、私と二人っきりになった。

 

「よぉ、未来。

 元気そうで何よりだ」

 

「武下提督も、元気そうで何よりです」

 

「ははっ、相変わらず固いな。

 それに、もう俺はお前の提督じゃない」

 

「……そうですね。

 では、武下さんと」

 

佐世保第二鎮守府は、私が艦娘の頃所属していた鎮守府である。

 そこで武下提督にはお世話になった。

 

 といっても、武下提督の指揮下で動いていた時期はそう長くはない。

 私が彼に対して恩義を感じているのは、別のことである。

 

「もうあれから、三年か」

 

武下さんは黄昏るように遠くを見つめる。

 もう、そんなに経ったのか。

 

 あれとは、私が彼に恩義を感じていることと、同じ内容である。

 

「当時、武下提督は憲兵でしたね。

 そうして、気づいたら、佐世保第二鎮守府をブラック鎮守府から解放していました」

 

そう、佐世保第二鎮守府はもともと、ブラック鎮守府だった。

 その時代に、私は艦娘としてその鎮守府に所属していた。

 

 当時の佐世保第二鎮守府は、非合法な艦娘売買が行われていた。

 反抗した者は無理な海域攻略に投入され、命を落とすことになった。

 

 そんなとき、颯爽と現れたのが当時新米憲兵だった武下さんだった。

 当時の提督は金などで憲兵を従わせており、多くの艦娘が武下さんも他の憲兵と同じような存在だと思っていた。

 

 しかし、武下さんは、着任してから一か月も経たないうちに艦娘売買やその他汚職の証拠を集めて、佐世保第二鎮守府をブラック鎮守府から解放してくれた。

 

 だから、私にとって、彼は恩師なのだ。

 

 といっても、当時の私はもっと斜めから物事を見ており、『期待させてから裏切って、絶望した艦娘の反応を見ようとしているのだろう』とか思っていたが。

 

「あの頃は色々とご迷惑をおかけしました……」

 

「気にすんな、反発がある方が可愛げがあるっていうもんよ。

 しっかし……いやぁ、本当に丸くなっちまって。

 あの頃のお前は『私が関わるから、みんな不幸になるんです』とか、『この世界に希望はありませんが、その反対は私が振りまいています』とか、どこぞの不幸姉妹っぽいこと言っていたよなぁ」

 

「わ、忘れてくださいっ!

 あの時は本当に、大切な人が亡くなって落ち込んでいたんですから……!」

 

あの頃は本当にそういう風に思っていたが、当時の発言を繰り返されると恥ずかしいものがある。

 流石に、今はそんなこと思わないし。

 

 まぁ、こういう経験があったから、艦娘のトラウマと向き合える、っていうところもあるけど。

 

「悪い悪い、茶化しすぎたな。

 しかし、お前が今は提督か……。

 活躍はこっちにも届いているよ。

 深海棲艦の拠点の壊滅と、姫級の討伐だったか」

 

「そうですね……確かにそれは、私も頑張りましたが、一番は艦娘たちの頑張りだと思っています。 

 特に吹雪さんと、赤城さんは」

 

私の言葉に、武下さんは少し目を丸くした。

 なにかおかしなことを言っただろうか?

 

「変わったな、未来。

 昔のお前だったら、『私は何もしていません』と否定していたと思うが」

 

 なるほど、武下さんはそれに驚いていたのか。

 

 確かに、昔の私だったらそう答えていたかもしれない。

 しかし、それが提督として駄目なのは、艦娘たちが教えてくれた。

 

「はい、それも、艦娘が……赤城さんが気づかせてくれたと思っています。

 武下さんは、赤城さんのことを知っていますか?」

 

海軍の上層部及び一部提督には、赤城の艦娘同調率が101%ということが知らされている。

 そのため、その者たちに赤城という存在は有名である。

 

 一部には実験対象にすべきだという考えもあったが、それは私が絶対に駄目だと拒否しておいた。

 少なくとも、本人の了承がない限り人権侵害などと反論しておいた。

 

「ああ、艦娘同調率が101%の赤城改二戊だろう。

 未来にとって、赤城とはどういう存在なんだ?」

 

どういう存在か……。

 すこし悩んでから、私は答えを出した。

 

「……赤城さんは、とても艦娘として強いんです。

 勿論それは、艦娘同調率が関係しているのでしょうが、一番の理由はそれではないと思っています。

 あの人は、自身の才能を最大限生かす頭の良さを持っているんです。

 その場その場で最善の手を考え、それを実行する。

 それが、理論上ではなく、現実として行うことが出来る人なんです。

 ……――ただ、たまに怖く感じるんです」

 

「怖い?」

 

この感情を形容するなら、怖いと言う言葉が一番合っているのだと思う。

 艦娘の前では暴露できない感情を、今、武下さんに向けて放った。

 

「赤城さんは、その頭の良さに加えて、観察眼と分析力も優れています。

私は艦娘の闇の部分と向き合おうとして努力してきました。

 でも、たまに“それら全ても赤城さんの掌の上の物なのではないか”と感じる時があるんです」

 

「……なるほどな」

 

武下さんは無言で頷く。その表情はとても真剣だ。

 

 武下さんは、人の悩みに芯に寄り添おうとしている時、この表情をする。

 だから、この表情を知っている私も、艦娘に芯に寄り添おうと思えるのかもしれない。

 

「……おそらくだが、お前たち二人に足りないのは“向き合う時間”じゃないか?」

 

「“向き合う時間”?」

 

とは、どういうことだろうか?

 武下さんはその真剣な表情のまま、言葉を続ける。

 

「お前は今、赤城の思考力を褒めたな。

 じゃあ、その思考力を裏付ける物は何だと思う?」

 

「そ、れは……」

 

「どうして赤城はその思考力を有しているのか。

 どうして赤城はその思考力を戦場で使うほど確固たる自信を持っているのか。

 どうして赤城はその思考力を隠そうとしないのか。

 お前は知っているか?」

 

そうか。ずっと私は、赤城さんは“謎な人”や“不思議な人”と思っていた。

 でも、それは違ったんだ。

 私は赤城さんのことがわからないんじゃなくて、わかろうとしていなかったんだ。

 だから武下さんは、私と赤城さんは“向き合う時間”が足りないと言ったのだ。

 

「その様子なら、もう大丈夫そうだな」

 

「はい! ありがとうございます、武下さん!」

 

「いいさ。

 これも……俺がお前の提督として果たせなかった償いだ」

 

償い? 私は、武下さんに多くのものを与えられた。

 決して、償われるようなことはないはずだ。

 

「それは、どういう――」

 

「――お話のところ申し訳ありません。

 時間も時間ですので、そろそろ演習場への移動を開始したいのですが……」

 

そう話しかけてきたのは、大淀だった。

 しかし、今日はこちらの鎮守府の大淀は呼んできていない。

 つまり、この大淀は武下さんの鎮守府の大淀さんということだ。

 

 こう改めてみると、私の鎮守府の大淀と区別がつかないくらい、似たような見た目をしている。

 

「未来、最後に一ついいか。

 俺は、もしかしたら、未来と赤城は似た者同士なんじゃないかと思うんだ」

 

……何言ってるんだこの人?

 

 武下さんは尊敬できるところもあるが、それ以上にわからないところが多い。

 ただ武下さんの場合、理解しようとしてもできないような気がしてくるから不思議だ。

 

 私が無言で武下さんを見ていると、武下さんはそのまま言葉を続けることはなく、演習場に向かって歩いて行ってしまった。

 

 その後、私たちの鎮守府も移動を開始した。

 赤城さんが鎮守府の探索を行いたいとの事で、武下さんに許可を貰ったら、二つ返事で了承された。

 しかも、案内人までつけてくれるとのことだ。何から何まで有難い。

 

 

 

 

 

『これより、佐世保第二鎮守府対横須賀第十三鎮守府の演習の第一試合を執り行います。

 大破した艦娘は轟沈扱いとなるため、速やかに演習場から離脱してください。

 では、第一試合――開始!』

 

 

横須賀第十三鎮守府第一演習艦隊

旗艦 吹雪改二

随伴 金剛改二丙・山城改二・翔鶴改二甲・鳳翔改二・木曾改二

 

佐世保第二鎮守府第一演習艦隊

旗艦 睦月改二

随伴 榛名改二・霧島改二・蒼龍改二・飛龍改二・神通改二

 

 

こちらの艦隊に居る鳳翔さんは、あのうちの鎮守府で居酒屋鳳翔を経営している鳳翔さんである。

 実は、鳳翔さんから前線に復帰したいという要望を受け、今回実戦前の貴重な練習としてこの演習を使わせてもらうことにした。

 そうは言っても、鳳翔さんは元々改二であり、その実力も申し分ないものを持っているため、期待できる戦力だ。

 

 さて、艦隊編成だが、こちらは戦艦二、装甲空母一、軽空母一、雷巡一、駆逐一。

 向こうは戦艦二、空母二、軽巡一、駆逐一である。

 そして、それぞれ旗艦は駆逐艦であり、そこにはケッコンカッコカリの指輪がつけられている。

 

 武下さんはちょっとふざけた所のある人だが、艦隊編成については王道で堅実なものをよく選ぶ。

 つまりそれは、多くの提督から研究されてきたこの艦隊編成で、他の提督より上回る“なにか”を確立しているということだ。

 

 今まで演習で戦ってきたどの艦隊よりも、激戦になることだろう。

 私も、気を引き締めていかなければいけない。

 

 

 

 

 

 最初に航空機同士の空中戦が行われた。

 こちらは航空戦艦一、装甲空母一、軽空母一に対し、向こうは正規空母二である。

 しかし、航空機の搭載数で言えば同等くらいであるため、均等した戦いになることが予想される。

 

 奇襲に遭わないよう慎重に進んでいく。

 こういうのは後手に回った方が負けるのだ。

 

 その時、艦隊から敵艦を発見したという報告が入ったため、先制攻撃を仕掛けるように指示を出す。

 そして、両者の戦艦の砲撃による爆音が、スタートの合図となった。

 

 

 私は無線から聞こえる戦闘音や様々な報告を静かに聞きながら、次の作戦を考える。

 私は大まかな作戦指揮をするが、現場指揮は旗艦である吹雪に一任している。

 そのため、戦闘中は吹雪が指示を出すので、私は黙って聞いている役目になる。

 

 少し膠着状態になりかけていた時、相手の神通が中破になったという報告が入る。

 この演習のルールは大破で戦闘不能となる。

 あと一段階で戦闘不能まで持っていけるのだ。人数が六対五になるだけで、随分戦況が変わる。

 

 向こうは神通を庇うように陣形を展開し始めた。

 私は神通を狙うように指示を出した。

 

 上手くいっている。

 このままいけば、勝てる――

 

 

 

 

 

 その時私は、昔の武下さんとの会話を思い出した。

 

 

 

 

 

「で、ここがこうなった時、敵のここががら空きになってるだろ?

 だからここを狙うんだ」

 

「なるほど……」

 

私は艦娘を辞めて、提督になるために学校に通うまでの少しの間、武下さんに艦隊編成や作戦指揮など教わっていた。

 武下さんの教え方はわかりやすいため、武下さんの時間が空いている時はよく教わりに行っていた。

 

「……ちょっと疲れてきたし、休憩がてら()()、やるか?」

 

武下さんが手を止め尋ねてきた。

 私はそれに反射的に返す。

 

「やります。

 今日こそは絶対に勝ちますからね」

 

私は()()で一度も武下さんに勝ったことがない。

 それくらい武下さんは()()が上手いのだ。

 

 武下さんは、近くの引き出しに閉まってあった()()()を取り出した。

 それを机の上に置いたため、私は武下さんの対面に座った。

 

 

 

 

 

 最後のオセロの石を、武下さんが置く。盤上の石は武下さんが使っていた黒色が八割ほどを占めている。

 

「また負けたぁ~!!

 武下提督って、どうしてそんなに強いんですか?

 特別な技とかあるんですか?」

 

「ただの小手先のテクニックだよ。

 未来って、良さそうなところを見つけたら調子に乗ってすぐに打つだろう。

 もうちょっと、二手、三手先を見るようにしないと、俺には一生勝てないぜ?」

 

 

 

 

 

 ――罠だ。

 それに気づいた時にはもう、遅かった。

 

『横須賀鎮守府、山城、翔鶴、大破。

 速やかに戦闘から離脱してください』

 

佐世保の大淀の声が放送で流れる。

 それで、戦力差は四対六。

 こちらが圧倒的に劣勢になった。

 

 しかも、向こうは正規空母二人なのに対しこちらは軽空母一人。

 その力の差は大きい。

 

 軽空母は正規空母の半分程度の航空機しか使えない。

 つまり、現在の航空戦力は四倍の差がある。

 

 すぐさま陣形を唯一の航空戦力である鳳翔さんを守る形に切り替えたようとしたが……。

 その隙を狙われ金剛が大破、他の艦娘も次々と大破に持ち込まれ、私たちの艦隊は大敗した。

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