あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~ 作:白紅葉 九
警報が、鳴り響いた。
第二試合が終わり、全員が気を抜いたその時だった。
まるで心臓を不快に撫で上げるような、本能を刺激する不愉快な音。
警報の音は大抵そう作られていると聞くが、実際に聞くと心拍が嫌に高鳴るのを感じた。
その時、キラリと空が光った。
「「──全員、頭を屈めてッ!!」」
私と東提督の声が同時に響いた。
周囲にいた艦娘たちはすぐに反応して、全員両腕で頭を隠し背を低くした。
こういう反射神経の良さは、日頃から戦場で鍛えられている証だろう。
戦場において、規律の乱れは即ち死だ。指示を聞き逃した者や状況判断に遅れた者から死んでいく。
私は傍にいた東提督を庇うように上から全身を抑え込んだ。人間である彼女が攻撃を食らったらひとたまりもない。
そして、爆音と共に演習場の水面が盛り上がった。
「ッ……天龍さん、提督をお願いします!!」
爆撃が止んだタイミングで私はそう叫び、立ち上がって空を見た。
雨のように空気に散った水が邪魔だったが、それは問題なく見つけられた。
そこにはぷかぷかと丸い航空機が浮かんでいた。
我々艦娘が使う航空機とは全く違う、それは敵である深海棲艦の航空機だった。
「発艦!」
私が生み出した航空機たちは一直線に敵航空機に向かった。
声に出す必要はなかったのだが、普段の癖で反射的に宣言していた。
敵航空機は航空機を生み出した本体である私に対して攻撃してくる。
飛んできた弾は、避けられるものは最低限の動きで避け、避けられないものは腰に携えていた刀を抜刀することで斬った。
「ひゃわぁっ!!?」
あっ、ごめん。
深く考えずに斬ったら、二つに割れた銃弾の片方が吹雪の足元に着弾してしまった。
一発でも銃弾を食らったらヤバい東提督と武下提督が射線上にいないことは確認していたから、油断してしまった。
と、そんなことを考えている間に私の優秀な妖精さんたちが動かす航空機は敵航空機を撃破し、鎮守府上空の安全を確保していた。
「お前たち、建物内に全員避難するぞ!!」
武下提督の言葉で、私たちは背後を警戒しながら建物内に逃げ込んだ。
被害、小破数名。中破以上はなし。
他、建物の一部が破損。なお、作戦行動に支障なし。
本来、鎮守府にこれほど深海棲艦が接近するなんてことは起こり得ない。
しかし、そのあり得ないことが起きた。
その原因は……。
「クソッ、また上層部のやつらか……!!
ふざけんな、俺たちは使い勝手のいい道具じゃねぇんだぞッッ!!!」
武下提督は通信室で怒鳴り声を上げた。
作戦会議室ではないのは、未だ情報が錯綜しているため、最も情報を得られる場所に指揮官がいるべきだと判断されたからだ。
この場には他に、我々横須賀第十三鎮守府から私と吹雪さんが、佐世保第二鎮守府からは大淀さん、長門さん、睦月さんが集まっていた。
無論、緊急事態のため演習は一時中断である。
「また?」
「大本営も一枚岩ではないということです」
私は調査済みなため知っている。
武下提督はブラック鎮守府だった佐世保第二鎮守府を、憲兵の身で助け出し、その後に提督として就任した人物だ。
だが、光があれば影もまたある。
ブラック鎮守府があることで助かっていた人物や利益を受けていた人物もいるというわけだ。
そういう人物たちは武下提督を妨害し、出世を阻もうとしている。
しかし、多少の理性を持っている者なら、今回のような艦娘の身に危険が及ぶ真似はしない。
なぜなら、文字通り艦娘の存在が日本における生命線の要だからだ。
それでもなお、武下提督を引きずり落とすために、深海棲艦の接近を告げず、いや、手引きした存在がいたのだろう。
「未来……──いや、未来提督。
非常事態だ、お前の力を借りたい」
武下提督はそう言って、真剣な表情で東提督を見た。
今回の件、我々はあくまで演習として佐世保第二鎮守府にやってきた身。例え、傍観していたとしても何も言われないだろう。
しかし、東提督は即答した。
「勿論です。
私は艦娘たちが傷付いている姿を黙って傍観していることなんてできませんから」
「ハッ……優しいお前らしいな」
武下提督は何かを思い出すようにそう笑って、すぐに顔を引き締めた。
「敵の総数はざっと数十。
だが、姫級が二体も確認されている。
俺たちの主力艦隊が姫級の撃破に専念できるように、未来たちの艦隊には周囲のハエ叩きをお願いしたい」
「わかりました。
弾薬等はいただいても?」
「あぁ、勿論だ」
ふと、机に広げられた敵の現在地に違和感を覚えた。
いや、それだけじゃない。
敵は佐世保第二鎮守府を襲おうと考えている。
だとしたら、敵の数がこれではおかしい……。
「……赤城さん、どうかした?」
「なんだ、何かあるなら言ってくれ」
東提督の言葉を初めに、全員の視線が私に集まった。
これはただの違和感。明確な根拠のない、ただの勘だ。
それを発言するのは少しはばかられた。無用な心労を生むことになるかもしれない。
「……具体的な根拠はありません。
ただ、姫級が二体というのは……──この鎮守府を襲うにはあまりにも少なすぎます。
最低でも、三体。
もしくは、別に何かしらの伏兵がいると考えるべきではないかと進言します」
二人の提督は考え込んだ。
しかし、実際問題、姫級が二体という時点で普通なら少ないと言われることはないほどの過剰戦力だ。
だが、この佐世保第二鎮守府は国内でも有数の鎮守府だ。
過去に姫級の討伐経験が幾度となく鎮守府を相手に、たった二体? 少なすぎる。
「確かに、警戒するに値する言葉だな。
だが、それを実行する根拠……保証できるものが何もない」
武下提督はそう言うと、未だ考え込んでいる東提督を鋭い目で見た。
いや、それは鋭いというより、何かを見定めるような目。
「だから、未来。
赤城の言葉をお前が保証するというのなら、俺は信じてやる。
海軍少佐の保証を受けた進言として、海軍中将の権限を使い作戦に組み入れよう」
東提督は顔を上げた。
武下提督の言うことはこうだ。私の発言を保証する、つまり責任を持つのなら作戦に組み入れると。
それは、逆を言えば、失敗した責任も全て東提督に行くということ。
万が一、作戦に失敗して他鎮守府に損害を加えたとなれば、東提督は……。
私の提案はただの勘だ。決して、東提督の提督生命を課すほどのものではない。
「撤か──」
「──保証します」
私は『撤回します』と言いかけた口のまま止まった。
私が口を挟むまでもない速さの即答。
どうして。根拠なんて一切ない私の言葉を。
もし間違っていたら。どんな処罰が下されるかなんて、提督であるあなたが一番よくわかっているはずなのに。
だと言うのに、東提督は変わらない表情で。
そう。あたたかく、微笑んだ。
「最初から、赤城さんの言葉を疑ってはいないよ。
私が悩んでいたのは、いかにして武下さんを説得するかの一点だけです」
それはまるで、陽だまりのようにあったかくて。
あぁ、だから。
だから私は、息苦しくなる。
私はまだ、あなたのことを信じ切れていないのに。
あなたはまるで、私のことを信じ切っているかのように笑うのだから。
作者の白紅葉九です。
当初のプロットでは、普通に第三試合をやる予定でした。
ですが、四年前に考えていた設定や試合展開をまともに覚えているわけもなく!!!!
仕方ないので、プロットくんには深海棲艦の餌になってもらいました。