あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~   作:白紅葉 九

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第三十一話 『破滅』

 バカだろ。いや、マジで、バカだろ。

 語彙力が低下している。脳のリソースをほぼ航空戦と作戦指揮につぎ込んでいるせいだ。

 

 作戦はシンプル。

 私と翔鶴さんで対空戦闘。

 金剛さんは本体を。

 天龍さんと木曾さんと吹雪さんで水中の魚雷を排除しつつ、私たち大型艦の護衛。

 

 それでも、劣勢なのは私たちだった。

 六体一なんて数字は何の意味も持たない。遥かに強大な敵に対して、人数差なんてあってないようなものだ。

 

「タノシイネ!

 ソコノアカイノ、ツヨイナァ~!!」

 

『赤城、ヘイトを集めすぎデース!』

 

「いえ、問題ありません」

 

もし、私の作戦通りにするなら、誰か一人がヘイトを集めている方がいい。

 その誰かが私なら、もっと都合がいい。

 

「東提督、主力艦隊はどうなりました?」

 

『……未だ、姫級と交戦中。

 援軍を送ることはしばらく難しい』

 

「そうですか……」

 

どこの戦場も人手不足というわけだ。

 一応、武下提督が周囲の鎮守府に援軍を頼んでいるようだが、到着するのはまだ先になるだろう。

 

 そもそも、佐世保第二鎮守府が救助を必要な事態になることが想定されていなかった。

 そのため、まともに姫級と戦える戦力のある鎮守府が近くには存在していないのだ。

 

 だが、これ以上の時間稼ぎは難しい。

 決断を、する必要がある。

 

 覚悟を……いや、そんなものはとっくに決まっている。

 

「東提督、金剛さんと翔鶴さんを下がらせます。

 損傷が激しく、これ以上の戦闘は轟沈の危険があるので」

 

『……わかった』

 

六体一で何とか均衡を保っている戦況で、二人抜ける穴は大きい。

 無用に被害を出す可能性もある。それなら、最初から艦娘は少ない方がいい。

 

 戦艦レ級を少数かつ長時間、抑えられる人材。

 

「二人の護衛として天龍さん、木曾さん、吹雪さんを同行させます」

 

『待って。

 ──赤城さんは、どうするの?』

 

東提督は鋭い声色で聞いてきた。その声には怒りも含んでいる。

 殿を務めるなんて言えば激怒どころの話ではなさそうだ。

 

 東提督は艦娘が大好きなんだろう。

 そして、そのなかの一人として、当然のように私も含まれているのだ。

 

 東提督を信頼している艦娘()たちは、そういうところに惹かれているんだろうな。

 

「……少し、考えがあります。

 私が指示したタイミングで山城さんが航空機を発艦できるようにしておいてください」

 

『わかった。

 それなら、鳳翔さんたちも──』

 

「いえ、そこまで人手は割けられません。

 山城さんと共に天龍さん、木曾さん、吹雪さんの四人で艦隊を組んで戻って来てください」

 

周囲の艦娘から視線が集まる。

 それは心配の感情。そして、信頼の感情。

 

 それをこの赤城()が築けているということが、何よりも嬉しい。

 

 そして、何よりも。

 

『……本当に、大丈夫なんだよね?』

 

「はい、作戦通りにいけば問題ありません」

 

──それが、冥途の土産になる。

 

 ……口の中が、苦かった。

 嘘をつくというのは、こういう味がするのか。

 

 

 

 

 

 五人が艦隊から外れました。いや、この場合、艦隊から外れているのは私かもしれませんね。

 撤退中の五人に攻撃が当たらないよう私は応戦します。普段の余裕はありません。

 

 私の全力を持って当たらなければ、時間稼ぎさえもできないでしょうから。

 

「ソノメ、スキ!!」

 

ふと、戦艦レ級が攻撃を止めてそんなことを言いました。

 戦場においては稀有な静寂。敵航空機は微動だにせず、その場に漂っています。

 

 我々の航空機はその場に漂うなんて器用なことはできないので、そんな敵航空機の周りを旋回しています。

 

「この目……ですか?」

 

私も砲撃が止んだのでこれ幸いにと、立ち止まって体力を温存します。

 常に神経を使っていて疲れたため、一息入れられたのは僥倖でした。といっても、決して気は抜けませんが。

 

「ウン!

 ──シンデモコロス、ッテイウメ!」

 

「そうですか……」

 

その目を今まで、いくつ見て来たのでしょうか。

 その目と気持ちを結びつけるまでに、どれだけの艦娘を殺してきたのでしょうか。

 

 私は艦娘が好きです。

 

 だから、そんな(もの)は許容できません。

 目の前の敵を私は許容できません。

 

 

 

「私の、全てをかけて……」

 

 

 

最初から知っていました。

 私には、彼女を倒すだけの力がないということを。

 

 命をかけたところで命が奪えないなら。

 私は命と信頼を捨てて、最大限の成果を得ましょう。

 

 例え、それが口苦いものだったとしても。

 

 一秒でも、一分でも長く、仲間が延命するための時間を稼げるのなら。

 私はそれで、充分だから。

 

 そうです。

 東提督に語ったような、全てを覆せるステキな作戦なんて最初から存在しません。

 

 全ては、この場に私一人を残すための真っ赤な嘘です。

 

 

 

「──殿(しんがり)を、務めます」

 

 

 

私の命と仲間の命。それらを天秤に掛けたら。

 

 どちらが重いのかなんて、考えるまでもなくハッキリしています。

 

 命を燃やして。

 私は全てを懸けて、鎮守府の仲間を守りましょう。

 

 だから、どうか。

 

 私が死んだら、みんなのことを頼みますよ。

 

 ──転生したらブラック鎮守府で、艦娘を守るために今日まで頑張ってきました。

 

 だけど、大丈夫です。

 東提督になら、この役目を託せる(頼ってもいい)と思えますから。

 

 

 

 そうして私の、最後の戦いが始まりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ピッ……

 

 

 

 

 

 ……ピッ……ピッ……

 

 

 

 

 

 ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……

 

 

 

 

 

 ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……

 

 

 

 

 

 知らない、天井だ。

 

 口が、動かない。

 

 手や、体が。

 

 うまく、動かない。

 

「っ、目が覚めましたか……!?」

 

声が聞こえて、視界に看護師らしき人の姿が見えた。

 その顔に見覚えはない。艦娘じゃない、人間の看護師だ。

 

 反応しようとして、やはり口は動かずか細い息が漏れるだけだった。

 

「声が聞こえていたら、目を二回ぱちぱちっとまばたきしてください」

 

ぱちぱちっ。

 

「意識がハッキリしていたら、もう一度ぱちぱちっとまばたきしてください」

 

ぱちぱちっ。

 

 

 

 それから、何度か看護師とまばたきでやり取りをした。

 私の状態について確認が取れたのか、ようやく状況の説明をしてくれた。

 

「目覚められてよかったです。

 あなたは長い間、眠りについていたんですよ、西宮(にしみや)さん」

 

「……っ……?」

 

聞き間違い、かな。

 そうだ、きっとそうだ。

 

 聞き間違いだ。

 そうだ、それは、聞き間違いだ。絶対に。

 

 だって、そんな。嫌だ。

 私の居場所は。

 

「それと、身分を確認できるものが名刺以外になかったので、住所など色々とご確認したいのですか……。

 ご家族様の電話番号は覚えていらっしゃいますか?」

 

だって、私はさっきまで。

 

 あの記憶が、全て偽物? そんなわけがない。

 だって、私は。私が見てきたものは。

 

 偽りなんかじゃ。

 私は、たしかに。そこに。そこで。

 

 死、んで。

 

「……西宮さん?

 西宮、美幸(みゆき)さん?」

 

その、名前は。

 私は。だって、私の名前は。

 

 私は、今まで、なんて呼ばれていた?

 私の名前は。

 

 私の?

 

 私の、本当の名前は。

 

「どうされました?

 聞こえますか、もしもし」

 

わたしが、過ごしてきた時間は。

 

 この記憶も。

 

 思い出も。

 

 全部。

 

 ぜんぶ。

 

「西宮さん!

 大丈夫ですか、西宮さん!?」

 

 

 

──ぜんぶ、ゆめだった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、八年の時が経った。

 

 私はこの現実の世界で根を下ろし、普通の生活を送っていた。

 

 あの記憶は、きっと。

 

 あんな世界は……全部。

 

 一時の紛い物()だったんだ。

 

 

 

 そう、そんな都合のいい夢の世界(ゲンジツ)など、最初からありはしなかったのですよ。

 

 正常な世界(現実)へのご帰還、おめでとうございます。

 

 笑顔で安らかに過ごせる場所を得たあなたへ。

 

 そして、あの■娘()たちを見捨てたあなたへ。

 

 どうか。地獄よりも重い、罰を。

 

 

 

 私はここで、平和に、幸せに、暮らしていた。

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