あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~ 作:白紅葉 九
あなたの幸せとは、随分と高尚なものですね。
あなたがどうなろうと私は微塵も興味がありません。
ですが、あの
それらを、あなただけには許容できません。
さっさと決着をつけなさい、西宮美幸。
いいえ、赤城。
目を開ける。
なぜか、私はお墓の前にいた。
いつ、どうやってここまで来たのか、覚えていない。
夢遊病? まさか、そんなはず。
眠りながらここまでハッキリと行動できるわけがない。
しかし、事実として、私はそこにいた。
「西宮家の、墓……」
私の両親は、私が昏睡していた間に亡くなったらしい。
正直、そんなことはどうでもいい。だって、私には両親への愛着なんてものはない。
なぜなら、ずっと幼い頃から虐待されてきたから。
未だに耳に残る、あの怒声。荒い足音。視線。瞳。
それら一つ一つに怯えていた日々。
「……勝手に、消えやがって。
私が直接、復讐してやりたかったのに」
そう言って、私は墓を蹴飛ばした。
墓石は硬く、無駄に足を痛めただけだった。
私は墓を眺める。
どうして、私はここにいるんだろう。
一つ、仮定はある。
しかし、それを私は認めない。認められない。
それは、幼少期に心的外傷を負った者がなりやすい病気です。
耳鳴りがする。
私は顔をしかめた。しかし、耳鳴りは止まない。
それは、本人でさえ発症に気付かないことも多い病気です。
耳鳴りがうるさい。
普段ならすぐに収まるのに、今日はなかなか収まりそうになかった。
それは、記憶の欠如や周囲からの指摘で症状に気付くことが多い病気です。
うるさい。
静かに、してくれ。
自分がその病気を発症していると、認められない者もいます。
だまれ。
ようやく、私を幻聴ではないと認める気になりましたか?
声が、聞こえた。
外からじゃない。私の、内側から。
「……みとめ、ない」
認めたくないだけでしょう。
「そうだよ。悪い?
認めたくない、認めない。
私はッ……正常だ」
おかしな話ですね。
これが正常である未来もあり得たと話していたのはどこの誰だったでしょうか。
「人間の進化論……それは、現代では人間と呼ばれない」
私を否定するためだけに論理的ぶるのは辞めてもらえます?
「うるさい、黙れ」
そうやって、都合が悪くなれば感情的になる。
まさに、あなたは両親の鏡のような存在ですね。
「……ふぅ~。
それで、私じゃない私は、私を煽って何がしたいの?」
その答えは、あなたが一番よく知っていると思いますが。
そもそも、どうして私は生まれたのだと思いますか?
いえ、この場合はどうして表に発露し始めたのかを問うべきでしょうか。
「勿体ぶった話し方しかできないんだね。
友達少なそう」
友人を数でしか評価できないなんて、生きるのがつまらなさそうですね。
いえ、あなたの人生はよく知っているので、つまらなそうではなくつまらない人生だと断じるべきでしょうか。
話が逸れました。
幸い、私はあなたと違い、望まれて生まれてきました。
「いったい誰に?
私以外に、あなたを知る者なんて……」
えぇ、その通りです。
頭の鈍いあなたでもようやく理解しましたか。
そう、私はあなたに望まれて、生まれてきました。
「意味が、わからない。
私が……何を、望んだっていうの?」
罰です。
心当たりが……そのアホ面ではなさそうですね。
「……うるさいな。
それで、罰ってどういう意味?」
幼いあなたは愚かでした。
なぜなら、アレに愛を求めていたのですから。
ですが、その望みが叶うことはありませんでした。
「コレ……ね」
なぜ、望みが叶わないのか。
あなたは考えましたが、結局出せる答えは一つしかなかったのです。
自分が悪い、と。
全て自分が悪いから罰を与えてほしい、と。
それによって現れたのが、私です。
私は、あなたを責め立ててあげます。
あなたが望んだように。
「……おも、い、だした」
……。
「……自分を責め立てる言葉は、都合がよかった。
全部、自分の性にしていれば……それ以上を考えなくて済むから」
……仕方ないことでしょう。
子供の生活は両親に依存しています。
相手が悪くて自分が虐げられていると思うより、自分が悪くて虐げられていると思う方が……。
「まだ、救いがあった。
自分が悪いところを直せば、この関係も直ると……そんな幻想を抱けたから。
……あなたは、優しいんだね」
はい? どうしてそうなるんです?
「あなたを忘れて、無視して、傷付けた私を……そんな私の望みを、ずっと叶えようとしてくれたのだから」
いいえ、違います。
あなたは言ったでしょう。
人間の思考は複数の意思決定機関による多数決で決まる、と。
私はその一人に過ぎません。
私はそんな自罰的感情や自己嫌悪の性質を持った存在に過ぎません。
「──いや、それは嘘だ」
……。
「あれはただの仮説にすぎない。
あなたは、私のそんな仮説を聞いて、その通りに振る舞ってくれている優しい人だよ。
私とあなたは、尊重し合うべき別人だ」
……なぜ。
なぜ、今更になって……。
どうでもいいのです。今更、私のことなど。
あなたが私をどう思うかなど。
私はあなたに嫌われて然るべきです。
いや、嫌われていなければなりません。
それが私の存在理由で、
「気付いてあげられなくて、ごめんね。
独りぼっちにさせて、ごめんね。
認めてあげられなくて、ごめんね。
それと……ずっと見守っていてくれて、ありがとう」
……や、めて……。
私は、そんなことを言われるべき人ではないのです。
私は、いいのです。
認められなくていいのです。
独りでいいのです。
気付かれなくて、よかったのです。
「それでも、私には話しかけてくれたんだね。
私が……大切なものを、忘れようとしていたから」
……思い、出しましたか。
「忘れたことなんて一度もないよ。
だけど……希望を抱くのは、怖いから」
あなたは……歪です。
「知ってる」
たくさんのヒビが入っています。
「知ってる」
でも、あなたには……あなたを大切に思ってくれる人がいます。
「……しってる」
うそつき。
「嘘じゃ、ないもん……。
私を、私なんかを……大切に思ってくれる人も、いるんだよね」
具体的には?
「………………………………時雨、とか?
いや、希望的観測かもしれないし、これで何も思われてなかったらわりとガチでヘコみそうだし、いや、でも」
面倒くさい人ですね、本当に。
あなたが対話するべきは私ではありませんよ。
「えっ?
……それって、どういう」
あなたは気付いていなかったようですが。
──本当に、これまでの問題を全て、東提督が一人で解決できたと思いますか?
「……えっ……?」
いいえ、そんなはずがありません。
東提督の本質は、他人に頼ることができるという
「それは……」
疑惑や懸念はあなたのなかにあったはずです。
でも、信じないようにしていた。
いえ、希望を抱かないようにしていた。
全てが幸運に進む、まるで幸運の女神に愛されたような子。
あなたには、心当たりがあるでしょう?
「あの子は……ッ」
真実は、自分の目で確かめなさい。
だから、さっさと目覚めなさい!!
「……怖いんだ。
現実のような世界を夢だと断じてしまったら、夢のような世界で目覚めた時、私はそこを現実だと断じれるかわからないから」
「そんなちっぽけなことで悩んでたんですか」
声が響いた。
「昔から、何も感じていないみたいな顔で全てを抱え込んで……本当に、変わっていないですね。
私が深海化してからも、ずっと一人で抱え込んでいたんじゃないですか?」
顔を上げれば、そこには一人の少女がいた。
思わず、私は彼女の名前を呼んでいた。
「雪風……っ!!」
「赤城さん……──あれからの話と、これからの話をしましょう?」
そうして、私たちの対話が始まった。