あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~ 作:白紅葉 九
そこにいたのは、雪風だった。
「どうして……生きて……」
「台湾で深海化した艦娘が元に戻ったという話を聞いたことはありませんか?」
ある。
だからこそ、私は吹雪さんの深海化を解決しようと思ったのだから。
「赤城さん、雪風は赤城さんを連れて帰ります!」
「……どうして」
もう、あれから八年の時が経ったというのに、今更。
頑張って、思い出を全て忘れようとしたのに。
希望なんて、抱かないようにしたのに。
思い出してしまえば辛くなるから。
望んでも、叶わないとわかっていたから。
「……無理ですよ。
私はもう、こっちの世界の住人です。
いえ、私は元から、こっちの世界の住人だったんです」
それが、正常に戻っただけ。
端から、あちらの世界に私の居場所なんてものはなかったんです。
私のことなんか……。
「──そんなの、どうでもいいです」
だというのに、彼女はそれをバッサリと切ってしまった。
「雪風は赤城さんと一緒にいたいんです!!
赤城さんと一緒じゃない未来なんて考えられないんです!
だから、無理矢理にでも連れて帰ります!
赤城さんが嫌だって言っても、離しません!!」
「……強引、ですね」
それは、あまりにも強引だ。
だというのに。
どうして、こんなに喜んでしまっているんだろう。
嬉しくてたまらないんだろう。
「手を取ってください、赤城さん!!
赤城さんがいないバッドエンドなんて、雪風は見たくないんです!」
その強引さに、惹かれてしまうのはどうしてなんだろう。
その手を取りたいと。
帰りたいと、そんなわがままを言ってしまいそうになる。
──その時、何かに背中を押された。
「えっ?」
後ろを見てもそこには何もいない。
だというのに、笑っている誰かがいたように見えた。
そのまま、私は雪風に抱き締められる。
「っ……私は、帰ってもいいんでしょうか?
私なんかが、そちらの世界に……」
私の大好きな艦娘たちがいて。
みんなが幸せそうに笑っていて。
そんな輪の中に、自分もいて。
そんな、理想郷に。
私にとって世界で一番美しい、理想郷に。
「当たり前ですよ!!
赤城さん、ここがあなたの居場所です!
もう、一生離しませんから」
この、八年間。
楽しかったことも嬉しかったこともあった。
だけど、心のどこかで満足できていなかった。
誰にも相談できなかった。
だけど。
そんな嘘みたいな話が、現実だったのなら。
──行きなさい、赤城。
私は……。
──こちらの患者は私が治療を継続しますから、あなたはあなたを望んでくれる人たちのところへ。
「わたし、は……」
みんなが私を支えてくれた。
道を示してくれた。
あとは一歩、踏み出すだけだ。
その一歩が怖い。
だけど。
そのための勇気も、みんながくれたから。
「──帰りたい。
鎮守府に、みんなのいるところに……っ!」
もし、叶うのなら。
これからも、艦娘たちの笑顔を守っていきたいから。
「はい、赤城さん。
雪風と一緒に帰りましょう」
私は雪風が差し出した手を握った。
そして、今度は振り返ることなく、真っ直ぐに何もないその道を歩み始めた。
……目を、開ける。
体の至るところが痛くて怠い。
それでも、彼女の姿が視界に映って、私は気付けば口を開いていた。
「……ゆき、かぜ……おかえり。
それ、と……ただいま……」
「赤城さん、ただいま。
それと、おかえりなさい」
そうして、私はこの世界に帰ってきた。
あれから、たくさんの人に泣かれて、たくさんの人に無事を喜ばれて、たくさんの人と話した。
みんなの心に私がいるんだという実感と、嬉さ……そして、心配させてしまった申し訳なさが混じって何とも言えない感じだった。
それと、妖精さんたちとも話した。
すこし見ない間に成長していて、驚いてばかりだった。
そうして、本日。
そんな妖精さんたちの一人、生徒会長が持ってきた一つの案件に対して議論が行われていた。
「……ふむ、それの成功率はどれくらいかね?」
大将の地位にいる提督から質問が入り、東提督が立ち上がって返答する。
「未確定要素も含めて、成功率は30%ほどと予測結果が出されました」
「たった30%に賭けてもいいものか……」
「そうだ。
万が一、その作戦で深海棲艦の変異体が生まれようものなら、国民に顔向けできんぞ……」
反対意見が多いというより、あまりにもこれまでの通例や常識から外れた提案なために、慎重になっている感じだ。
そこで、これまで黙り込んでいた海軍のトップ、元帥の地位にいる提督が口を開いた。
「皆の懸念は最もだろう。
だが、これまで数%しかなかった終戦の可能性が、ここに来て大きく跳ね上がったのだ。
私は、挑戦する価値があると思う」
それは、議論の流れを決める一手となった。
そして、再び長い話し合いが行われ、結論が出された。
「──これより、『深海不活性薬』を深海棲艦に対して使用し敵の無力化を図る。
その先に終戦があると考え、各自誇りを持って職務を為すように」
「「「「「了解!!!」」」」」
その薬は、会長が見つけてきた薬だった。
正確には、彼が一緒にいた人間たちが生み出した薬だ。
私は妖精さんたちに夏休みの宿題を出していた。
それが、『好きだなって思える艦娘や人間を最低一人見つけて、その人の傍で過ごしてみて』というもの。
会長は艦娘や深海棲艦に関して研究している実験室に行ったそうだ。
たまたま、そこには怪我によって退役した元艦娘がいて、会長はその人物とよく話していたらしい。
そして、その人物が生み出した薬が、深海棲艦を不活性にする薬だ。
その薬を深海棲艦に投与した上で殺した結果、深海棲艦は光の粒子のように消えることなく、その場に死体が留まったらしい。
これまで、深海棲艦は無尽蔵に生まれてくるものだと思われていた。
その生まれるためのエネルギーが、光の粒子ではないかという仮説が学会には昔からあったらしい。
つまり、この薬を使えば、永遠だと思われていた深海棲艦との戦いが終わるかもしれないのだ。
「赤城さんの妖精さん、すごいね。
こんなにすごい薬を見つけてくるなんて」
「語彙力が終わってますよ、東提督」
「それくらい感動してるの……まったく。
これから大きなことを起こそうとしているはずなのに、気が抜けちゃった」
「それはよかったですね」
今回の会議は、吹雪さんではなく私が秘書艦としてついて来ていた
それでいいのかと吹雪さんに聞いたら、『そういうのは赤城さんの得意分野ですから。私は仕事のサポートよりも、心のサポートに回ります』と正妻の余裕を見せつけていた。
昔だったらそんなこと言えなかっただろうなぁと、彼女の成長を感じた。
その長い戦いは争いから始まった。
人々はもはや、争いの渦中にあるのが当たり前になっていた。
だが、そんな争いを終わらせるものが現れた。
科学。
それが、争いを終わらせたものの名前だ。
人々はこう思った。
これから、世を作るのは科学だと。
しかし、その薬を作った科学者はそれを否定した。
これまでの時代は、痛みでできていた。
だからこそ、私は痛みがなくなるようにと願った。
これからの時代は。
そんな『愛』が、世を作るだろう。
そこには、一軒の喫茶店があった。
作者の白紅葉九です。
次話で完結となります!
最後までよろしくお願いいたします!