あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~   作:白紅葉 九

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第四話 そして、一年後

 ハロー。ハロー。聞こえるかい。

 鎮守府に来て早一年が経ったよ。

 

 端的に言って、つらい。

 

 いやまぁ、つらい現状はブラック企業勤めの時となんら変わりはないけど。

 働いたら給料がもらえて、それを艦これに課金していた前世と違って……どうして深海棲艦と戦っているのかもわからず、働いても燃料と弾薬しか貰えないので、精神的疲労が半端ない。

 あと、ゲームじゃ考えられないくらい、死んだ表情をしている艦娘を見るのも結構精神に来ている。

 もしかしたら、一番それが堪えているかも。

 

 なんやかんや、気づいたら第二艦隊の旗艦になっていた。

 いやぁ、この立場も面倒くさいったらありゃしないね。

 何故なら、毎度出撃が終わったらあの変態男に成果報告をしないといけない。

 あまり言いたくないんだけど、こいつ艦娘を性的に見るタイプなので。

 私に被害はなかったけど、被害にあっただろう艦娘を見るのはとても心が痛んだ。

 

 ちなみに、未だに一度も入渠することなく、ずっと中破状態を維持していた。

 わりと艦娘本来の自然治癒力で、三ヶ月くらい放置すると中破から小破に戻る程度には回復するのだ。

 それを遅いと感じるか早いと感じるかは人それぞれだ。

 そもそも艦娘の体は普通の人間よりだいぶ強固なので、それを踏まえて考えれば早い方なんだと思う。

 

 まぁ、私の話はいいんだ。

 だって、装甲科の妖精さんとか、回避科の妖精さんとかのおかげで、被害は割と最小限に抑えられるから。

 

 

 問題は他の艦娘だ。

 彼女たちは、それこそ一回の出撃で小破から中破になるような攻撃を受ける。

 入渠は多くて週一、少なくて月一程度にしか行われない。なので、大破で出撃が日常となりつつある。

 

 私もなるべく被害を最小限に抑えるよう努力はしているけど、それでもある程度の被害は出るもの。

 回避科の妖精さんのおかげでほとんど攻撃が当たっていない私と比べるのは、ちょっと可哀そうだ。

 

 つまり、最低限の目標というか、わりかし義務に近いくらいのところにある“艦娘を轟沈させない”を達成するのも結構難しかった。

 

 ──だから、実行するのに時間がかかってしまった。

 

 

 

 

 

 今日まで長かった。

 そもそも、鎮守府の外がどうなっているのか、というところからわからなかったのだから。

 それは、委員長主導の下、出撃に参加しない待機中の妖精さんたちに頼んで情報を調べてもらっていた。

 

 結果、この世界は前世と同じような地球に深海棲艦と艦娘が加えられた世界であることがわかった。

 そして、鎮守府というのは、深海棲艦と対抗するために存在する艦娘と、それを指揮する司令官という妖精を認知できる人間が過ごす仕事場であるとのことだった。

 

「ずっと、心配でした。

 私は、普通の人間が持っている簡単な常識さえも知りませんから」

 

そもそも、艦娘には大きく分けて二種類ある。

 建造されて生まれたか、それ以外で生まれたかだ。

 

 しかし、建造して生まれるというのは語弊がある。

 どうやら建造とは、艦娘の装備しか現れないらしい。

 その装備を付喪妖精さんを見ることのできる、つまり艦娘適性のある人間が装備することで艦娘となれる。

 

 ここで初めて分かったのだが、私は建造で生まれたのではなく、前世で言うドロップ艦というもののようだ。

 ドロップ艦というのはまだあまり解明が進んでおらず、詳細は不明。

 海の上にぽつんと浮かんでいることが多いらしい。

 

「もし、この現状が海軍、及び政府において容認されているのならば……。

 その時、私の行いは国への反乱となってしまいますから」

 

建造艦とドロップ艦の違いとしては……。

 

 建造艦の強さは多少の個人差はあれども、装備が同じ以上わりと似通った強さになる。

 対して、ドロップ艦は稀に変な進化を遂げることがある。

 例でいえば、私のように特殊な艤装(軍刀)を装備していたり、口調が普通の艦娘と違ったり。

 ……と、変化は様々で、それがプラスに働くことも、マイナスに働くこともあるわけだ。

 

 最初は、どうやって生まれたのかわからないドロップ艦に対して、差別的な意見も多かったようだ。

 しかし、かつての大戦でドロップ艦が大きな戦績を上げたことで、現在では建造艦と同等の扱いになったらしい。

 

「私たちはこのまま……出自もわからぬ奇形の怪物と戦い、そして、戦う理由すらわからずに死んでいくのかと……。

 ずっと、不安でした」

 

深海棲艦と艦娘の出現に伴い、新たに改正された法律では『建造艦もドロップ艦も、普通の人間より多少制限があれども基本的な人権が認められている。そのため、その労働も非常時以外は常識的な範疇でなければ違法となる。もし違法が発覚した場合、その労働を指示した責任者、つまり提督の地位にある者に処罰が下る』とのことである。

 

 まとめると、『ブラック鎮守府は違法!』というわけだ。

 

「しかし、もう安心ですね。

 ──大本営の方々が対応してくださるのですから」

 

「ほんとうに……!!!

 本当に、馬鹿な人間が迷惑をかけたッッ……!!

 一提督として謝罪するッ!!!!」

 

周りから『元帥、頭をお上げください』と声が上がった。

 しかし、目の前の男性はそれを無視して、私に対して頭を下げ続けた。

 いや、私を見ながら、私と同じ境遇にある艦娘に対して、真摯に頭を下げたのだろう。

 

 

 

 

 

 一週間前、私の鎮守府に大量の憲兵がアポも無しに突撃してきた。

 というのも、私と、密かに交流を深めていた明石さんの二人で協力し、鎮守府には気づかれない特殊な無線機で大本営へ通信をかけたのだ。

 

 そして、現状を伝えれば、すぐさま向こうは対応してくれた。その数日後、こうして憲兵が来た。

 すぐに提督は確保され、私たち艦娘は大本営から取り調べを受けた。

 その時に私が妖精さんと協力して集めていた違法労働(ブラック鎮守府)の証拠を提出し、提督はお縄に付くこととなった。

 

 そして、現在はブラック鎮守府撲滅に動いていたらしい、全提督のトップである元帥と会っていた。

 元帥が謝罪するべき案件ではない気もするのだが、彼自身がブラック鎮守府撲滅に動いていたのもあり、責任感から謝罪をしたのだと思う。

 こちらとしてはあの提督が捕まった時点で満足だから、謝罪に関してはどうでもいい。しかし、そうとは行かないのが政治なのだろう。

 

 元帥はそのまま顔を上げる気配がなく、私の隣にいる明石さんがあたふたとした様子でいる。

 そろそろ相手側としても体面は充分だろうし、いいか。

 

「横須賀第十三鎮守府の艦娘代表として、その謝罪は受け取らせていただきます。

 顔をお上げください」

 

最近判明したのだが、私の鎮守府は横須賀第十三鎮守府というらしい。

 

 私の言葉を聞くと元帥は顔を上げた。

 その目を見て、少し驚く。

 

 その目には、もちろん政治的な意味合いの視線も含まれていたが、純粋な謝罪の気持ちも含まれていたからだ。

 なんだか、それが前世の自分が艦娘を見ていた視線と重なるようで嬉しくなる。

 同じものを好きな同士に出会えたような、そんな気持ち。

 

「ありがたい。

 忙しいだろう時期に呼び出してしまって悪かったね」

 

「いえ、元帥が私たちの味方に付いてくれたことで心付けられた艦娘は多いと思います。

 有意義な会談をありがとうございました」

 

「あぁ、また結果でも示そう」

 

そして、多少の社交辞令やら儀礼やらを交えた後、私たちは部屋を退室した。

 大本営の人に案内されるまま移動して、そのまま車に乗り込む。

 向かう先は鎮守府……ではなく、横須賀第十三鎮守府の艦娘が一時的に居住している場所だ。

 

 その車内で明石さんと話す。

 

「はぁ~! 緊張しましたぁ~!

 会話、全部任せっきりですみません……」

 

「いえ、人間も艦娘も得意不得意はありますから」

 

「……でも、なんだか懐かしいですね」

 

「懐かしい、ですか?」

 

「最初に赤城さんと会った時、他の艦娘と変わらない無表情だったから、『この子もそうなっちゃったんだ』って絶望したんですよー!

 まさか、無表情が素だとは思いませんよ」

 

初対面の時に明石さんがした顔芸。

 あれは、私が『死にたい』と言っていた他の艦娘と同じ表情だったために起こった現象らしい。

 

 先程の対談ではさすがに表情を付けて喋っていたが、それ以外では無表情のまま話している。

 なので、明石さんは懐かしさを覚えたのかもしれない。

 

 これは前世からそうなのだが……。

 そもそも、私にとって笑顔はビジネスライク(対外的)な関係を作るための道具だ。

 なので、ある意味で身内な明石さんや同鎮守府の艦娘たちには無表情で接している。

 

「……これから、どうなるんですかね~」

 

「どこかの鎮守府に異動になるか、横須賀第十三鎮守府に新しく提督が着任して再稼働するかのどちらかですよ」

 

「あの鎮守府にはいい思い出ないんですけど……。

 でも、うちの鎮守府の子たちが他の鎮守府でまともに暮らしている未来も見えない……」

 

これも最近知ったのだが、うちの鎮守府は半分近くがドロップ艦だったようだ。

 どうやら、あの変態男の近くにドロップ艦が出やすくなる特殊能力を持った野良妖精さんがいたらしい。

 

 前に話したが、ドロップ艦というのは、変な進化を遂げる者がいる。それは、武器や口調、更には性格までも。

 どういう原理なのか知らないが、同じ艦娘というのは、似たような性格であることが多いらしい。

 艦娘になる際に船の記憶を見るからだと噂されているが、真実のほどは定かではない。

 

 

 しかし、ドロップ艦はそういうのお構いなしとでもいうように……有体で言えば、変な奴らが多い。

 

 私の鎮守府も、常識の範疇は越えていなくても、どこかまともじゃない奴が多い。

 明石さんに関しては、素で研究バカのイメージが強いのであまり違和感はなかったのだが、他と比べたら知識欲が強いらしい。

 まぁ、個性の範疇くらいの違いだろう。たぶん。

 

「その中でも、赤城さんはトップクラスでおかしい人ですからね~……」

 

ジト目で見つめてくる明石さん。

 本当に表情豊かだなー。

 

「そうですか?」

 

「普通の艦娘は提督適性なんて持っていないんですよ~。

 それに、妖精さんと話せるのも極少数なんですから」

 

そう。どうやら、妖精さんと話せる提督というのは少ないらしい。

 大半が妖精さんを見ることがやっとで、それも薄っすらそこに何かがいる程度にしか感じられないらしい。

 

 しかし、それも訓練次第で成長するらしく、最低限提督になるには妖精さんを輪郭までちゃんと見えるようにならないといけないとか。

 それでも見えない者は憲兵になるか、提督を諦めて別の仕事につくらしい。

 

「他言無用ですよ?」

 

「わかってますよ」

 

私が提督適性を持っていることは明石さんと二人だけの秘密だ。

 たまたま妖精さんと話しているのを見られてしまい、透明人間と話せるのかと謎に研究スイッチが入ってしまったので正直に話した。

 

 私としては、今はまだ艦娘として生きていたいので、他言無用をお願いしている。

 加えて言うなら、もし今言ったら厄介払い的な感じでうちの鎮守府の提督に任命されそうだから、それが嫌というのもある。

 

 昔から人の上に立つ役職が嫌いなのだ。

 なぜなら、いちいち他人を気にしなければいけないから。

 他人に注意する時間を自分が成果を上げるための時間に使えば、その分効率よく仕事ができる。その分、仕事が達成できる。

 それが私の持論という名の建前。本音は、責任とか人間関係とかいろいろ面倒臭い。

 

「赤城さんは、どんな提督に来てほしいですか?」

 

「欲を言えば……頑張る理由がないと頑張れない人に、頑張る理由を与えられるような人でしょうか」

 

「赤城さんが絶対にできない分野ですね!」

 

うるさい。

 

 

 

 

 

 明石さんと雑談していたら、いつの間にか臨時居住地についていた。

 

 ブラック鎮守府解放から一週間。

 まだみんなの目に光は戻らない。

 

 この鎮守府にはいないが、某取材ばっかりしている重巡の目を思い出す。

 いや、第三艦隊にいた時期があるみたいな話を妖精さんから聞いたことがあるような……。

 うん、あんまり深く探らないでおこう。闇深案件だ。

 

 とはいっても、時間の問題という気がしなくもない。

 駆逐艦たちは間宮さんと鳳翔さんから貰える温かい食事と母性ある微笑みで笑顔を取り戻しつつある。

 軽巡はそれを見て、駆逐艦に対してはなるべく笑顔を見せるようにしている。

 

 それは決して本心からの笑顔ではないが、自然でなくても笑顔を続ければ、それはいつか自然な笑顔となる。

 戦艦や重巡は、実際にホワイトな環境で働いていれば、おのずと笑顔を取り戻せるだろう。

 

 問題はどちらかというと、変態男から性的な関わりを強要されていた者たちだが……。

 

「みなさんっ!

 大本営からの報告で、横須賀第十三鎮守府に女性提督が所属することとなりました!」

 

──ひとまず、第一関門は突破という感じだろうか。

 

 もし男性提督が所属したら、私は有無を言わずその艦娘たちの異動願いを大本営に提出していただろう。

 それくらい、彼女たちが負った傷は大きい。

 

 次の提督が不安で解体願いを提出しようとした艦娘もいたくらいだ。

 そういう艦娘に対しては、私が一応この反乱の代表として個人的に話している。

 そのため、最近はカウンセリング感覚で毎日いろんなところへ通っている。

 苦労の甲斐もあって、全員から『女性提督ならおっけー』という返事を貰っている。

 

 ドロップ艦と違って、建造艦はわりかし簡単に解体、つまり普通の女性に戻ることができる。

 しかし、人間になったからと言って男性恐怖症が癒えるわけではない。それを伝えて、何とか鎮守府に引き留まってもらった。

 どうしてそこまでするのかと聞かれれば、答えは一つ。

 

 艦娘が大好きだから!

 艦娘の悲しそうな表情は見たくないから!

 

 

 

 

 

 だから私は、死ぬまで艦娘を守るよ。

 

 

 

 

 

 だって、あなたと約束したから。

 

 

 

 

 

 ──ね、雪風。

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